心を探し求める水瓶座   作:リコレクションでも嬉しい

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第30話

 

 地球を守るべく立ち上がったロックマン達と、地球滅亡を目論むFM星人達の戦いは、激闘の末にロックマンとハープ・ノートの勝利に終わった。圧倒的な数の優位を覆されたFM星人達は揃って撤退済みだ。

 

「はぁ……はぁ……なんとか、なった」

 

「ロックマン、大丈夫?」

 

「うん、ちょっと疲れただけだよ」

 

 心配そうに寄り添うハープ・ノートにロックマンは問題ないと微笑みを返した。しかしその様子は見るからに疲弊しており、とてもではないが大丈夫には見えない。

 

 数的を不利を覆して勝利をもぎ取ったロックマンとハープ・ノートだが、消耗はかなり大きい。特にロックマンの消耗が酷い。

 

 数の暴力で攻めてくるFM星人達に対して、ロックマンはスターフォースを目紛しく切り替えて戦い抜いた。しかし強大な力であるスターフォースは消耗も激しい。ぶっつけ本番も相まって、心身共に疲労が蓄積してしまっていた。

 

 そんなロックマンを援護して戦っていたハープ・ノートも、ロックマンと比べればマシだが少なからず消耗している。果たしてこのままアンドロメダなる兵器と対峙して勝負になるかどうか。

 

 大なり小なり不安はあれど休んでいる暇もない。既にアンドロメダは顕現し、街や市民への攻撃が始まってしまっている。戦って止めるか、破壊しない限り地球に未来はない。

 

 なんとか息を整えたロックマンは隣に並ぶハープ・ノートと視線を交わした。

 

「もう大丈夫。先を急ごう、ハープ・ノート」

 

「うん……でも、アンドロメダなんだけど、さっきから妙に静かなんだよね。私達が戦ってる時は隕石やらミサイルやら落としてたのに、今はなんにも聞こえてこない。どうしたんだろ?」

 

 耳に手を当てて音を拾いながらハープ・ノートは疑問符を浮かべる。音を聞くという分野はハープ・ノートの得意分野だ。だからこそ、つい先ほどまで暴れ散らしていたはずのアンドロメダが沈黙していることにいち早く気付いたのだ。

 

「あれ、何か……」

 

 アンドロメダの音を探っていたハープ・ノートが何かに気付き、ピクリと反応する。直後、声を上げたのはウォーロックだった。

 

『上だ! 何か落ちてきやがる!』

 

 ウォーロックの警告の声にロックマンとハープ・ノートが身構えた直後、二人の前方に上空から何かが墜落する。凄まじい勢いで落下したそれは、二人の見間違いでなければ全体的に黒く、人の形をしていたように見えた。

 

 落下してきた人影が膝に手を突きながら立ち上がる。その容姿はロックマンとハープ・ノートもよく知る二人組の片割れ、ジェミニ・ブラックだった。

 

『がはっ……くそが、あの女。いつから実力を隠していた……!?』

 

「ジェミニ・スパーク! どうしてここに!?」

 

 突然の遭遇にロックマンが声を上げる。空から降ってきたブラックは誰と戦っていたのか随分と消耗した様子で、敵意を向けてくるロックマンとハープ・ノートに気付いても鬱陶しげに顔を顰めるだけだ。

 

『お前達は……ちっ、他の連中はもう逃げたのか。役立たずどもが……!』

 

 ブラックとしてはロックマン達と他のFM星人達にアクア・レディを擦り付け、隙を見てアンドロメダの鍵を奪い返す算段だった。しかしFM星人達が既に撤退してしまっているとなると話が変わってくる。最悪、アクア・レディに加えてロックマン達も相手取る展開になりかねないのだ。

 

 忌々しげにブラックが舌打ちするのと、その隣にホワイトが降り立ったのは同時だった。ホワイトもブラックに負けず劣らずボロボロの様子だったが、ロックマンを見やるや目論見通りと言わんばかりに笑みを浮かべる。

 

「やあ、ロックマン。お取り込み中のところ悪いけど、手を貸してくれないかな。君の大切なお仲間が暴走気味でね」

 

「なんの話──」

 

 この場に現れるや否や意味の分からない発言をするホワイトにロックマンが怪訝な顔をした直後、激烈な勢いの水流がジェミニ・スパークを襲った。

 

 押し寄せる激流に対してジェミニ・スパークは電撃で迎撃。相殺しようとするが、溜めもなしの電撃で受け止め切れるほど甘くはない。荒れ狂う激流に呑み込まれ、ジェミニ・スパークは近くの建物の外壁に叩き付けられた。

 

「今のは、誰が……?」

 

「すごい……」

 

 あのジェミニ・スパークを二人纏めて吹き飛ばした激流に唖然とするロックマン。その隣でハープ・ノートも驚きに目を丸くしていた。

 

 いったい誰がジェミニ・スパークを襲ったのか。驚くロックマンとハープ・ノートの目の前にゆっくりと瑠璃色の影が降り立つ。渦巻く流水を羽衣のように纏ったその人物は、二人もよく知る相手で──

 

「アクア・レディ!?」

 

「まだ病院にいるはずじゃ……!?」

 

 キグナス・ウィングの凶刃を受けて倒れていたはずのシオナことアクア・レディがジェミニ・スパークを襲った下手人だった。

 

 手術を受けて病院のベッドで眠っているはずのアクア・レディの登場にロックマンとハープ・ノートは言葉を失う。そんな二人が並び立つ様子をアクア・レディはちらと見て、すぐに目を逸らした。

 

 アクア・レディの意識はジェミニ・スパークへと注がれている。警戒を怠れば何を仕出かすか分かったものではないからだ。だが、ロックマンとハープ・ノートから視線を逸らしたのは純粋にバツが悪かったのもある。

 

 代わりに反応を示したのはアクエリアスだった。

 

『ああ、ウォーロックとハープさん。ご無事で何よりです』

 

『それはこっちの台詞だ』

 

『大丈夫なの? あなたもだけど、シオナも』

 

 シオナもアクエリアスも致命傷一歩手前といっても過言ではない大怪我を負ったのだ。一日二日で元通りに動くことなど常識的に考えてできるはずがない。

 

 しかしアクエリアスは普段と大して変わりない調子の声音で答える。

 

『ご心配には及びませんよ。そうでしょう、シオナ?』

 

「…………」

 

 アクエリアスの問い掛けにシオナは小さく頷きだけ返す。しかしスバルはその返答を鵜呑みにはできなかった。

 

「本当に、本当に大丈夫なの、シオナ?」

 

「……大丈夫」

 

 スバルの問い掛けにシオナは目を伏せたまま答える。幼馴染として付き合いの長いスバルはその反応からシオナが嘘をついていることを即座に察した。

 

 無表情で口数の少ないシオナだが、その実物怖じはしないし人と話す時もしっかり相手の目を見て話す。ただ、後ろめたいことがあったり、嘘をつく時は目を合わせず伏せてしまう癖があった。

 

 今の言葉に嘘があるとすれば、シオナは相当な無理をしていることになる。手術から間も無く無理をすればどうなるか、スバルの脳裏に胸から血を流して倒れる幼馴染の姿が過った。

 

 止めなければならない。だが、キグナスの時と同じように邪魔をすれば、それこそジェミニ・スパークの思う壺だ。故にスバルがこの場で選ぶ選択は一つ。

 

 ロックマンはロックバスターをジェミニ・スパークへと向ける。蹌踉めきながらも体勢を立て直したホワイトはロックマンから向けられる敵意に愉快そうな笑みを浮かべた。

 

「へぇ、驚いた。前みたいにアクア・レディを止めないんだね」

 

「君を倒して、アクア・レディを病院に連れ戻すのが最速だから」

 

「正しい選択だよ。アクア・レディの目的が、ボク達を倒すだけだったらね」

 

「……どういう意味?」

 

 意味深に笑いながら宣うホワイトにロックマンは妙な胸騒ぎを覚える。アクア・レディは地球を守るため、怪我を押して戦場に立っているのではないのか。それとも何か、他に目的でもあるというのか。

 

 困惑するロックマンにホワイトはアクア・レディの目的を明かす。

 

「アクア・レディはボク達を抹殺して、アンドロメダを利用してFM星を滅ぼすそうだよ」

 

「……え?」

 

「うそ……?」

 

『……ちっ、そういうことかよ』

 

『アクエリアス、あなた……』

 

 ロックマンとハープ・ノート、二人の視線がアクア・レディに向けられる。その眼差しには、今の発言が到底信じられないという思いが強く滲んでいた。

 

 突き刺さる二人分の視線に対して、しかしアクア・レディは何も答えない。ただ、目を合わせようとせず否定もしない態度が、ホワイトの言葉に信憑性を持たせた。

 

 問い掛ける言葉すら失ってしまったスバルとミソラに代わり、話を進めたウォーロックだった。

 

『おい、アクエリアス。一応聞いておいてやる。FM星を滅ぼす理由はなんだ?』

 

『ふふっ、それを貴方が聞くのですね、ウォーロック。私の愛しい、愛しい()()たる貴方が』

 

『ああ、くそっ。もういい、全部分かった……』

 

「ウォーロック? いったい何が分かったの?」

 

 遣る瀬無いような、何処か投げやりなウォーロックの態度にスバルが疑問を呈する。ほんの僅かなやり取りで、アクエリアスの何が分かったというのか。

 

 スバル、そしてミソラとハープの疑問に答えたのはウォーロックではなく、他ならぬアクエリアス当人だった。

 

『単純なことです。私とウォーロックは故郷を同じとする同胞。FM星の一方的な侵略によって滅ぼされた、A()M()()()()()()()なのですよ』

 

「AM星の生き残りって、でもウォーロックはそんなこと……」

 

 明かされた衝撃の事実に驚愕してスバルは思わず左手のウォーロックを見下ろす。しかし内心ではアクエリアスの言葉に納得している自分がいた。

 

 FM星を裏切ってアンドロメダの鍵を奪った理由、ハープ・ノートには不可能なスターフォースの力を扱える理由。ウォーロックがFM星人ではなくAM星人であるのならば、それら全てに説明が付いてしまうのだ。

 

 険しい顔付きで黙り込むウォーロックに構わず、アクエリアスは今まで溜め込んできた感情を吐き出すように言葉を続ける。

 

『美しく平和な星だった私達の故郷は、ある日突然に滅ぼされた。親しい隣人も、大切な友人も、愛しい家族さえも全て根刮ぎ奪われた』

 

 穏やかな語調で滅んだ故郷を懐古したアクエリアスの声音には、しかし色濃い絶望と憎悪が秘められていた。その秘めたる激情が徐々に露わになっていく。

 

『許せるはずもない。一方的に滅ぼされた同胞達の無念は必ずや果たす。そのために私は己の身分を偽り、FM星にこの身一つで潜入したのです。貴方もそうでしょう、ウォーロック?』

 

『…………』

 

 アクエリアスの問い掛けにウォーロックは無言。ただ、痛ましげに目を伏せるウォーロックらしからぬ仕草が、アクエリアスの言葉を無言で肯定していた。

 

『貴方と出会った時、運命だと思ったのです。憎きFM星人とは違う、今はなき懐かしい故郷の波長。私と同じ境遇、同じ憎悪(想い)を抱く仲間。独りではないのだと思えた。私の愛しい、愛しい──同志(恋人)

 

 恋焦がれる乙女のような、或いは憎悪に身を焦がす復讐鬼のような激情。狂気的なまでの感情の発露を目の当たりにしたスバルとミソラは思わず後退り、ハープは言葉を失う。その激情を一身に注がれたウォーロックは目を伏せたまま否定することも突っ撥ねることもなかった。

 

『故郷を奪われた怒りを、同胞達の無念を晴らさんがために、憎き怨敵の輪に溶け込む同志がいた。ああ、貴方とならば必ずや復讐を成し遂げられると信じてきたのです。そして遂に、貴方はFM王からアンドロメダの鍵を奪取し、復讐への大きな一歩を踏み出した。待ち焦がれたその時が訪れたのです』

 

 アクア・レディが掌中に収めたアンドロメダの鍵を見せつけるように掲げる。背筋が震えそうな程の負のエネルギーを発する鍵が、己が破壊の本分を果たす時を今か今かと待ち焦がれているかのように胎動していた。

 

『少しばかり寄り道はありましたが、やっとこの手に鍵を収めることができました。今こそ、私達の悲願を果たす時。さあ、共に手を取り憎きFM星を滅ぼしましょう、ウォーロック』

 

『…………』

 

 呼び掛ける声にウォーロックの反応は鈍い。同じ境遇で復讐に身を焦がすアクエリアスを見る目は何処か遣る瀬無く、憐憫の色が滲んでいた。

 

 何かしら言葉か反応を返さなければ始まることも終わることもない。重苦しい空気が支配する中、ウォーロックが口を開こうとして──スバルが常にない毅然とした態度で遮った。

 

「──違う。ウォーロックは復讐のためにアンドロメダの鍵を奪ったんじゃないよ」

 

 今の今までアクエリアスが発する煮え滾るような憎悪に圧倒され沈黙していたスバルが、臆することなく口を挟む。断言するスバルの瞳にはウォーロックに対する揺るぎない信頼の光が灯っていた。

 

『……なぜ、そう断言するのです? 高々数ヶ月程度の関係性で何が分かるのですか?』

 

 声音に不愉快そうな色を滲ませながらもアクエリアスが問う。ウォーロックが地球に来訪してからおよそ数ヶ月。たったそれだけの期間の付き合いしかない相手のことを、自分よりも理解しているような口を叩くスバルが面白くなかった。

 

「分かるよ。たった数ヶ月でも、一緒に肩を並べて戦ってきたんだ。ウォーロックが復讐なんて考えてないことくらい分かる」

 

 数ヶ月は時間としては短いのかもしれない。しかしスバルはウォーロックと共に襲いくるFM星人達と戦いを繰り広げ、誰よりも濃密な時間を過ごしてきたのだ。ともすれば母親であるあかねよりも近い、まるで兄弟のような距離感で。

 

「ウォーロックはがさつで乱暴なところもあるけど無意味に人を傷付けたりはしないし、不器用だけど優しいところだってあることを知ってる。だから、ボクは何度でも断言するよ。ウォーロックは復讐のためにアンドロメダの鍵を奪ったんじゃない、地球を守るために鍵を奪ったんだって」

 

『スバル、おまえ……』

 

 微塵の迷いもなく断言するスバルにウォーロックは呆気を取られたように言葉を失う。同時にここまでの信頼を寄せられていたことに、小っ恥ずかしいやら何やらで酷くむず痒い思いを抱いていた。

 

「それに、ウォーロックに復讐の意思があったのなら、鍵を奪い取った時点で使ってるよ。堪え性のないウォーロックなら尚更ね」

 

『オイこら、誰が堪え性がないだって?』

 

 折角の良い雰囲気をぶち壊すスバルの発言にウォーロックが文句を言う。しかし文句を言われたスバルは呆れ混じりのジト目を返した。

 

「だってウォーロックってば気になることがあったらすぐに無茶振りしてくるし、ボクの予定なんてお構いなしじゃないか」

 

『なんだと? そういうスバルだってな、いつもいつも長ったらしい蘊蓄を延々と語りやがって。いい加減耳にタコができちまうぞ』

 

「あ、そんなこと言うんだ。だったらボクだって──」

 

『それはこっちの台詞だ、この──』

 

 緊迫した空気感が一気に霧散し、何故か口喧嘩を始めるスバルとウォーロック。この際だからと互いの不満をぶつけ合う姿は、しかし険悪なものではなく仲睦まじい兄弟喧嘩のようにしか見えなかった。

 

 この場にそぐわない言い合いを繰り広げるスバルとウォーロックによって何処となく白けた空気が漂い始めたところで、アクエリアスのこれみよがしな嘆息が響いた。

 

『やはり、そうなのですね。貴方もまた、星河大吾と同じ。その絆の力が、ウォーロックを復讐の道から遠ざけてしまった』

 

「父さんが?」

 

 父の名前に思わず反応してしまうスバル。ウォーロックから父である大吾との繋がりについては、かなりざっくばらんではあったが聞き及んでいた。しかしアクエリアスの物言いからして、大吾とウォーロックの関係性はスバルが思っていたよりも深いものだったらしい。

 

『ウォーロックは間違いなく私と同じ道を歩んでいました。ですが星河大吾との出会いが、交流が、絆が。私の愛しい人を変えてしまった』

 

『否定はしねぇよ。大吾と出会って復讐なんて馬鹿馬鹿しいと思うようになったのは事実だからな。だがその気色悪い言い回しはヤメロォ!』

 

 まるで恋人が略奪されたかのような物言いにウォーロックは背筋を震わせた。アクエリアス以外の全員から向けられる同情的な眼差しが尚のこと痛い。

 

 別にウォーロックと大吾の間に怪しい繋がりはない。ただの看守と囚人。ただ交流を深め地球での暮らしや絆の繋がりを聞くにつれて、大吾との友情を深めるにつれてウォーロックの中にあった憎しみや怒りが薄れていっただけだ。

 

『残念極まりないですが、仕方ありません』

 

『人を銀河の果てまで追い回す割に、思ったよりあっさり引くじゃねぇか』

 

『愛しい人に袖にされたことは堪えましたが、私にはまだ、この子がいる──』

 

 宙を漂う水流がアクア・レディを中心に渦巻く。側から見るとそれは、水流と化したアクエリアスがシオナを抱きしめているようにも見えた。

 

『シオナ。私の可愛い共犯者。私の身の上も、悲願も。全てを理解した上で互いの願いを為すために私達は共に歩んできた。もはや誰にも止められはしない』

 

「…………」

 

「シオナ……」

 

 無言のまま佇むシオナの名をスバルが呼ぶ。しかしシオナは応じることなく、逃げるように目を逸らした。

 

 しかし黙っていては何も分からない。シオナの真意を問うため、ミソラが感情のままに声を上げた。

 

「シオナ! FM星を滅ぼすなんて本気なの? どうしてシオナが、そんなことしなくちゃいけないの?」

 

 ミソラにとって初めてできた気の置けない友人が、敵対しているとはいえ星を一つ滅ぼそうとする復讐に加担している。とてもではないが正気の沙汰とは思えないし、看過できることではなかった。

 

 ミソラの疑問に対して、ここまで目を逸らし続けていたシオナが顔を上げる。

 

「……どうして? そんなの、決まってる」

 

 ヴェールに隠された瞳に明確な感情が宿る。それは怒りだった。

 

「FM星人のせいで、大切な人達が傷付けられた……私達の生まれた星が、訳も分からないまま壊され続けた……許せるはずがない」

 

 常の辿々しい口調ながらも、紡ぐ言葉には隠しきれない怒りが滲んでいた。普段から変わることのない無表情も、今はFM星人への怒りによって険しいものへと変わっている。

 

「これ以上、好き勝手はさせない……地球の侵略なんて、二度とできないようにする」

 

「だからFM星を滅ぼすの?」

 

「……そう」

 

 スバルの問い掛けにシオナは小さく頷いた。地球滅亡を敢行しようとするなら、逆に滅ぼしてしまえばいい。単純で余りにも短絡的だが、しかし一つの解決策としては有効だ。人道と倫理を無視すれば、という前提があるが。

 

「そんな、だからっていくらなんでも……」

 

 撃たれたから撃ち返すといえばその通りだが、規模が余りにも違い過ぎる。個人レベルの話ならまだしも、星一つのスケールだ。所詮は小学生の子供に過ぎないミソラには、シオナの選択を肯定するような真似はできない。

 

『やり過ぎだと思いますか? ですがFM星はこれまでに幾つもの星々を滅ぼしてきました。その報いを受けるだけのこと。気に病むことなどありません。むしろ、地球を守る最善の選択でしょう』

 

『ケッ、自分の復讐もできて地球も守れる、一石二鳥だなんだと唆してシオナを抱き込みやがったな、アクエリアス?』

 

『抱き込むだなんて人聞きの悪い。ですが……ふふっ、シオナは優しい子ですからね』

 

 声音に隠し切れない愛おしさを滲ませながら、しかし自らの復讐に巻き込む選択に変わりはない。アクエリアスもシオナも、互いにもう歩みを止められる段階は通り過ぎてしまっているのだ。

 

『さあ、どうしますかロックマン。キグナスの時のように止めますか?』

 

「……っ」

 

『アクエリアス、てめぇ……!』

 

 スバルにとってはトラウマに等しい出来事を引き合いに出すアクエリアス。己の迂闊な行動によって大切な幼馴染を失いかけたことは、スバルの心に今も重く伸し掛かっていのだ。

 

『どうする、スバル? オレは正直、FM星が滅ぼうとどっちでもいいけどな……』

 

 歯切れ悪くもウォーロックは意思表示をする。復讐への興味関心はほぼないに等しいが、だからといって守る義理はこれっぽっちもない。ただ立場を明確にしなかったのはスバルの意思を尊重するためだ。

 

 ウォーロックの問い掛けにスバルは答えに窮する。シオナに命を奪うような、星一つを滅ぼすような重荷を背負ってほしくない。けれどシオナが抱く怒りも理解できるし、何ならスバルだって地球を滅ぼそうと目論むFM星には思うところがある。

 

 散々っぱら迷惑を掛けられ、多くのものを壊され傷付けられてきたのだ。報復の末に滅ぼされたとしても、それは因果応報だろうと納得してしまう。

 

 ただ、その報復を為そうとしているのが幼馴染であるシオナだから問題であって、受け入れられないのだ。

 

 しかしキグナスの時とは状況が違う。あの時は命を奪うかもしれない恐怖に足を止めてしまったスバルのために、シオナが代わりに背負おうとした。だからスバルは止めた。自分が背負わなければならない重荷を大切な幼馴染に押し付けたくなかったからだ。

 

 しばらく迷うように懊悩していたスバルは、やがて何か決心したように大きく息を吐いた。持ち上げた顔には、しかしまだ何処か踏み切れていない色が滲んでいる。

 

「ボクは……FM星への復讐を止められない。シオナとアクエリアスが心の底から復讐を望んでいるのなら、ボクにそれを邪魔する資格も権利もない」

 

「スバル君……」

 

 ショックを受けたようにミソラが震える声を零す。シオナを大切にしているだろうスバルなら復讐なんて止めるだろうと思っていたのだ。それは言葉なく事態を見守っていたウォーロックとハープ、そしてジェミニ・スパークも同じ思いだった。

 

 そして驚くことに、それはアクエリアスも同じだった。まさかスバルがここで復讐を否定しないとは思わなかったのだ。

 

 唯一、この場においてスバルの言葉に微塵も驚くこともなかったのはシオナのみ。シオナだけが、スバルが続けようとする言の葉の先を待っていた。

 

「でも一つだけ、確かめたいことがあるんだ、シオナ」

 

「……なに?」

 

「このままアクエリアスと一緒にFM星を滅ぼしたとして。その後、二人はちゃんと地球に戻ってくるのかどうか。正直に答えてほしい」

 

「…………」

 

「シオナ?」

 

 スバルの問い掛けにシオナは答えない。無言のまま、俯いて立ち尽くしている。その態度こそが既に答えそのものだった。

 

 スバルはシオナの返事を半ば予想していた。だから答えることのできないシオナに驚きはしないし、問い詰めもしない。

 

 しかし隣で話の流れを見守っていたミソラはそうではない。大切な友人が星を滅ぼすどころか、その後は帰ってくるつもりさえないと知って黙ってはいられなかった。

 

「どうして、どうして帰ってこないの? ねえ、シオナ!?」

 

 復讐、報復のためにFM星を滅ぼすことにだってまだ納得し切れていないというのに、地球に帰ってくる気すらない。到底受け入れられる話ではなかった。

 

「……ない」

 

「シオナ?」

 

 

「──帰る場所なんて、もうない!」

 

 

 耳を劈く、心が軋む絶叫が響き渡った。

 

「帰る場所は、私が捨てた……この世界の何処にも、私の居場所なんてない……最初から、私は独りぼっちの異物(イレギュラー)

 

 普段の無表情を絶望に歪め、涙を零しながら吐露するのはシオナが一人孤独に抱え続けた心の闇。張りぼての帰る場所(家族)を捨てたシオナに、歩みを止める理由はもはやない。

 

「私なんか、居なくていい……私なんか、居ない方がよかった……何も変えられない、救えない役立たず……」

 

 流星のロックマンの世界に生まれ落ちて、主人公たるスバルのお隣さんで幼馴染として生きてきた。ゲームの経験と未来の知識を持って生まれたからには当然、より良い未来を掴み取りたいと思うのは必然。

 

 だから変えようとした。でも原作知識は大して役に立たず、現実は知っている未来よりも酷い有様。地球でのアンドロメダ顕現がその最たるだ。

 

 ──否、それよりも前から。ウォーロックが、アクエリアスが地球に訪れるよりも前から、シオナは未来を変えようとしていた。

 

 だが、何も成果を結ぶことはなかった。何の罪もない両親の当たり前の幸福を壊した、無力で非力な薄気味悪い子供。

 

 故に──

 

「だから──私が、終わらせる……!」

 

 居なくなっても、消えてしまっても問題ない自分(異物)が幕を引く。そんな単純で短絡的な思考に至ってしまった。

 

 アクエリアスが操る水流が激しく渦巻く。それはシオナと外界を遮る壁のように、歪な少女の心を優しく包み込む。交渉の余地はなくなった。

 

 荒れ狂う激流を纏うアクア・レディを前にして、ロックマンとハープ・ノートは選択を迫られる。アクア・レディを止めるか否か──

 

 シオナの抱える剥き出しの心の闇に対面したミソラは迷っている。本音は行ってほしくない。でもそれは我儘で、何もかもを捨てて突き進もうとするシオナの覚悟を阻むに値するのかどうか。

 

 迷い立ち尽くすミソラ。その傍らでスバルが力強い一歩を踏み出した。

 

「──止めるよ。復讐がダメだとか、そんな難しい理由じゃない。絶対に止めなきゃいけない理由が、たった今できたから」

 

 バイザーに隠された瞳には幼馴染であるシオナですら未だかつて見たことのない、揺るぎない覚悟の光が灯っていた。

 

「……私は」

 

 一歩前に出たロックマンの背中を見つめて、やがてミソラもその隣に並び立った。

 

「私も、止めるよ。シオナと会えなくなるなんて嫌だし、何より泣いてる友達を放ってなんておけないから」

 

 迷いはある。それでもミソラは己のエゴを貫き、友達の涙を拭う道を選び取った。

 

 アクア・レディと対峙するロックマンとハープ・ノート。その戦列に断りもなくジェミニ・スパークが並ぶ。

 

「ボク達としてもFM星を滅ぼされると困るからね。利害も一致したことだし、共闘といこうか。ロックマン?」

 

 白々しくも共闘を持ち掛けてくるホワイトにロックマンは白い目を向けるも、断ったところで勝手に参戦してくるだろうと判断して黙認を決めた。ただし、いつ裏切られても対応できるよう警戒だけは怠らない。

 

『ふふっ、たった二人を相手に錚々たる顔触れですね』

 

『……アクエリアス』

 

『おや、どうかされましたかハープさん?』

 

 この場にいる面々の中で明確な意思表示をしていなかったハープが声を発すると、アクエリアスが常と変わらない調子で問い掛ける。その声音は故郷を滅ぼした怨敵に対するものとは思えないほど穏やかなものだった。

 

『私はあなたのことを友人だと思っていたけれど、それは私の痛々しい勘違いだったのかしら?』

 

『……さて、どうでしょう。少なくとも、私はハープさんのことを気に入っていましたよ』

 

 僅かな間を置いて返ってきたのは好意的に取れる言葉。声音も穏やかなものだった。少なくとも、ジェミニに向けるような剥き出しの憎悪と殺意の気配はない。

 

 しかし本心でどう思っているかまでは汲み取れなかった。

 

『そう……』

 

 ふぅ、と小さく寂寥を滲ませた嘆息を零すハープ。ハープにとってアクエリアスは血の気の多い同胞達の中で、ウォーロックさえ絡まなければ話の合う数少ない友人だった。それこそ、諸々の要因や事情はあれど母星を裏切る勧めに乗る程度には。

 

 だからこそ、友人を引き留めたいと願うミソラの想いに最初から否はなかった。ただ確かめたかっただけだ。アクエリアスが自分を心の底から憎んでいるのかどうかを。

 

『やっちゃいましょう、ミソラ。私も全面的に協力するわ』

 

「──うんっ」

 

 ミソラとハープ、ハープ・ノートの意志もここに統一された。

 

 確固たる意志のもと、立ちはだかる面々。歩みを阻む顔触れを見てアクア・レディは苦し気に口元を歪める。しかしそれも一瞬のこと。次の瞬間には覚悟を固め、押し通るがために構えた。

 

「いくよ、アクエリアス……」

 

『ええ、私達の願いを果たすために』

 

「止めるよ、ウォーロック」

 

『仕方ねぇな、付き合ってやるぜ』

 

「一人でなんて、背負わせないから!」

 

『私も色々と言いたいことがあるからねぇ』

 

「さてと、仲良く共同戦線といこうか」

 

『ちっ、業腹だが仕方ない』

 

 それぞれ抱えるものに違いはあれど、譲れないものを守るために対峙する。

 

 

「「「「ウェーブバトル、ライド・オン!」」」」

 

 

 今ここに、地球とFM星の行く末を左右する決戦の火蓋が切られた。

 

 

 

 




はい、まあAM星でした。ゲームでも他の生き残りは示唆されていましたし、復讐に取り憑かれた生き残りがいてもおかしくはないというか、むしろ居て当然かなと。
ウォーロックに対する感情は恋慕ではなく同族に対する依存が近かった。それをなんとなく察していたから、ウォーロックも避けていた感じですね。もちろん、アクエリアスの度が過ぎていたのが大部分ですが。

と言う訳で、シオナとアクエリアスの大暴走が始まりました。結構批判来そうで怖いですが、やっぱりヒロインは一度敵対しないとね……(震え
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