心を探し求める水瓶座   作:リコレクションでも嬉しい

32 / 38
筆者はエグゼ6が好きでした。


第32話

 

 アクエリアスが操るアンドロメダとジェミニ・スパークの戦い。それは星を容易く滅ぼす兵器を相手にしたジリ貧の耐久戦だった。

 

 アンドロメダが繰り出す攻撃はミサイルに隕石、地上を蹂躙する衝撃波。おまけにその巨大な質量を活かした突進攻撃。どれか一つでもまともに受けようものなら一撃でノックアウトだ。

 

『クソがっ! こんな無茶苦茶、いつまでも耐えられないぞ!?』

 

 降り注ぐミサイルと隕石を電撃で迎撃しながらブラックが悪態を吐く。戦闘が始まるや否や、アクエリアス指示のもとに苛烈な攻撃を仕掛けられ続けているのだ。文句の十や二十は出てくる。

 

『よく凌ぐものですね。ですがご安心を。塵の一つも残らないよう、念入りに、丁寧に、擦り潰してあげましょう』

 

 降って湧いた復讐の機会にいつになくご機嫌な調子でジェミニを葬ろうとするアクエリアス。今日この日までひた隠してきた憎悪を剥き出しに、一個人に向けるには到底過剰火力(オーバーキル)な攻撃を命令する。

 

 際限なく切れ目のない暴力の嵐にブラックは罵詈雑言を吐いて絶叫した。

 

 ブラックが命の危機に見舞われている一方、ホワイトの方は比較的余裕があった。余裕があると言ってもうっかりブラックが消し飛ばされてしまわないようフォローに回っているため、ロックマン達に加勢するような余裕はないが。

 

「もたもたしていると手遅れになるよ、ロックマン」

 

 降り注ぐミサイルと隕石を電撃で破壊しつつ、ホワイトはロックマン達の戦況を横目に窺いつつ呟く。

 

 水球に囚われた時はどうなるかと思われたが、ルナ達の介入以降はロックマンとハープ・ノートが優勢に戦っている。ロックマンが切り札たるスターフォースを切ったのが大きいだろう。

 

 それだけではない。遠目に見る限りでも分かる程にアクア・レディの動きは精彩が欠けていた。肉体的か精神的かは知れないが、何かしらの不調を抱えているのは明らかだ。

 

 嫌な予感がする。明確な根拠はないが、ホワイトことツカサは漠然とした危機感を抱いていた。徐々に追い詰められていくアクア・レディの姿に、声なき悲鳴を上げているシオナの姿に、湧き上がる不安が止まらない。

 

 その胸騒ぎは最悪なことに的中してしまう。

 

『──これは?』

 

 景気良くブラックを消し飛ばそうとしていたアクエリアスが怪訝な声を上げる。制御下にあるはずのアンドロメダが唐突に攻撃を停止したのだ。

 

 突然の停止と不気味な沈黙にこの場に居る面々は警戒する。まるで嵐の前のような静けさに空気が張り詰め、緊張が高まった。

 

 誰もが無意識に身構える中、注目の的となっていたアンドロメダが双眸を不気味に光らせた。そして目の前の標的を無視し、アクエリアスの制御を振り切り一目散に飛び始める。その行先に居るのは激しく心を掻き乱した海鳴シオナだ。

 

『まさか──シオナ!?』

 

 悲鳴染みた声を上げてアクエリアスの気配が消える。一方置いてけぼりを食らったブラックは訳も分からず首を傾げ、ホワイトは脳裏でひっきりなしに鳴り続けている警鐘に顔を顰めた。

 

『なんだ、アンドロメダはどうした?』

 

「……ジェミニ。アンドロメダにはあんな能力もあるのかい?」

 

『あんな能力?』

 

 ホワイトの疑問にブラックが怪訝な声を零して──電波世界に激震が走った。

 

 電波体であるが故に衝撃波をもろに感じ取った二人は反射的に震源地に目を向け、目に映った光景に絶句してしまう。

 

 ロックマンとハープ・ノートを相手に激しい戦闘を繰り広げていたはずのアクア・レディ。その姿が一変していた。

 

 深い海のような瑠璃色はより濃く暗い色に変わり、水瓶は砲門のように左右の肩に一つずつ。最大の変化は華奢な背中から突き出すように生えた巨大な翼だろう。

 

 機械的でありながら獣の凶悪な顎のように歪な翼。実態はアンドロメダの第二形態が保有する手が、色を変えて翼のように浮遊しているだけだ。だがそれを理解できるのはゲーム知識を持つシオナだけである。

 

 姿形が変化したアクア・レディが徐に顔を上げる。ヴェールに隠された顔は感情が根刮ぎ抜け落ちたかのような無表情。瞳は虚で底無しの絶望が終わりのない深海のように広がっていた。

 

 そして──

 

 

『ア──アアアァァァァアアア!!!』

 

 

 

 胸を掻き毟るような少女の絶叫、或いは獣の甲高い咆哮が電波世界を揺るがした。

 

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 

 決着は順当に訪れた。

 

「はぁ……はぁ、うぐ……」

 

 荒い呼吸を繰り返し膝を突くアクア・レディ。スターフォースを切ったロックマンと的確なフォローをするハープ・ノートを相手に追い詰められ、遂に心身共に限界を迎えたのだ。

 

 元よりシオナはキグナスによって手負いの身。アクエリアスの力で肉体を電波化させて強引に動いているが、傷口は未だ完全に塞がっていない。無理を重ねれば、その分だけ負担が返ってくるのは当然だ。

 

「もうやめようよ、シオナ!」

 

「いや……邪魔、しないで……!」

 

 ミソラの悲痛な訴えにも耳を貸さず、シオナは青い顔色のままふらふらと無理やり立ち上がろうとする。しかし、身体は既に限界を迎えて言うことを聞かず、ただ弱々しく震えるだけで終わった。

 

 戦うことはおろか、まともに立ち上がることもままならない。ロックマンとハープ・ノートを倒してFM星を滅ぼすなんてことはもはや不可能だ。

 

「なんで……どうして、邪魔するの? 私なんか、居ない方がいいのに!」

 

 何もできなかった、救えなかった、変えられなかった。だから最初から居なければよかったのだと、泣きながらシオナは叫ぶ。

 

 余りにも痛ましい悲痛な叫びにミソラはつられて涙を溢しそうになり、誰よりも幼馴染を側で見てきたスバルは徐にシオナに歩み寄った。

 

「居ない方がいいなんて、一度だって思ったことないよ」

 

 はっきりと否定の言葉を口にし、スバルは蹲るシオナの側に膝を突いた。そして震えるシオナの手に自分の手を重ねる。

 

「父さんが居なくなった時、何もかもどうでもいいと思った。でもシオナがくれた言葉が、ボクを立ち直らせてくれたんだ」

 

 大吾が宇宙ステーションの事故で生死不明に陥った時、スバルは心の底から絶望していた。ともすれば何もかも投げやりになって、無気力なまま日々を無為に過ごそうとしていた。

 

 しかしそうはならなかった。学校に行かなくてもいいと言ってくれたあかねと、進むべき道を示してくれたシオナが居てくれたからだ。

 

「シオナがボクに言ったんだ。父さんが居なくなったのなら、探しにいけばいいって。ボクにならできるって、いつまでだって信じてるって、背中を押してくれた。だから立ち上がれたんだよ」

 

 大吾を失った絶望に塞ぎ込み、部屋にこもっていたスバル。そんなスバルの元を訪ねたシオナは、部屋の扉越しに声を掛けたのだ。

 

 辿々しくも幼馴染の少年を心の底から信頼した上での励ましの言葉。無理やりに部屋から連れ出すことはなく、投げ掛けたのはただ言葉だけ。それでも、幼稚園の頃からの付き合いである幼馴染の言葉はしっかりと胸の奥にまで届いていた。

 

 立ち直るのに数日、学校には登校しないけれどスバルは自宅学習を再開して、時に天地研究所に足を運んだ。シオナが示した道である、大吾を自らの手で探すために歩み出したのだ。

 

「だから、居ない方がいいなんて言わないでよ。今のボクがあるのは、シオナのおかげなんだから」

 

「…………」

 

 スバルの本音を聞いてシオナは力なく顔を上げる。孤独と絶望に塗れた表情は、しかし未だに晴れていない。幼馴染の心からの言葉を受けてなお、シオナの心が晴れることはない。

 

 

 ──否、むしろその言葉を受けたからこそシオナの絶望はより深く深まってしまった。

 

 

「……見捨てた、のに」

 

「え?」

 

「私は、スバルのお父さんを、見捨てた……側にいる資格なんて、ない……」

 

「なんの、話……──」

 

 唐突に明かされた新たな情報にスバルは返す言葉を失う。シオナが何を言っているのか、まるで理解が追い付かなかった。

 

 重ねた手はそのままに、スバルはどうすればいいのか分からなくなってしまう。思考が吹き飛び真っ白になりかけた時、その意識を引き戻したのは切迫した叫び声だった。

 

『下がれ、スバル!!』

 

「二人とも、逃げてぇ!!」

 

「──え?」

 

 ウォーロックとミソラの切羽詰まった叫びに顔を上げたスバルは、凄まじ勢いで迫るアンドロメダの姿に愕然と目を見開いた。

 

 アクエリアスが制御してジェミニ・スパークへと差し向けられていたはずのアンドロメダ。容易く星を滅ぼす災厄の電波兵器が、あらゆる障害物を粉砕しながら目前まで迫っていた。

 

 ロックマンは動けない。直前にシオナから浴びせられた言葉の衝撃が抜け切っていなかったからだ。故に勢いを殺すどころか増して突っ込んでくるアンドロメダにどうすることもできない。

 

 呆然と立ち尽くしていたロックマン。その身体が鉄砲水の如き激流に吹き飛ばされた。

 

「シオナ──!?」

 

 激流に吹き飛ばされた刹那、反射的に伸ばした手の先。ヴェールの下で泣きながら笑うシオナが、安堵したような表情で小さく呟いた。

 

「──これで、いい」

 

 スバルの目の前で、悍ましく開かれたアンドロメダの顎にシオナが喰われた。

 

「────ぁ」

 

 大切な幼馴染が目の前で電波兵器に喰われた。受けた衝撃は見捨てた発言を軽く上回り、激流に吹き飛ばされて受け身も取れずにアスファルトの上を転がる羽目になる。

 

「うっ、ぐ……シオナ!」

 

 転がりながらもどうにか身を起こすロックマン。ハープ・ノートが慌てて駆け寄り、激しく動揺しながらもギターを構える。二人の視線の先にはシオナことアクア・レディを喰らって不気味な沈黙を保つアンドロメダがいる。

 

「ウォーロック! シオナが……どうすればいいの!?」

 

「ハープ! 何か分からない!?」

 

 その場に存在するだけで凄まじい重圧を放つアンドロメダを前に、スバルとミソラは互いのパートナーに助けを求める。電波生命体であるウォーロックとハープならば、何か打開策を閃くのではないかと考えたのだ。

 

 しかし二人の返答は沈黙。助ける術がなくて答えられないのではない。単純に分からないのだ。

 

 星を滅ぼす災厄の電波兵器に人間が喰われたことなど未だかつて一度もない。アンドロメダに喰われた、あるいは取り込まれたシオナがどうなっているのか。無事なのかどうかすらも分からないのだ。

 

 手を拱き立ち尽くすロックマンとハープ・ノート。その二人の目の前で、沈黙していたアンドロメダが動きを見せた。

 

 アンドロメダの双眸が怪しく輝き、その機体が眩い光を放ち始める。強まる光に伴い電波世界に激震が走り、尋常ならざる力が収束し始めた。

 

 時間にして数秒。眩しすぎる閃光によって真っ白になった視界が戻った時、そこに異形の兵器は影も形もなくなっていた。

 

 代わりに姿を現したのは大きく姿を変えたアクア・レディ──否、そこ居たのはもはやアクア・レディとは呼べない謎の電波体だった。

 

 海の色を落とし込んだような瑠璃色は光の届かない深海の闇色を切り取ったかのような紺色に。右肩に担いでいた水瓶は二つ増え、両肩に砲塔のように載せられている。

 

 そして最大の変化は背中から生えるように浮遊する巨大な翼。機械的なそれは機械の翼のようにも、獣の凶悪な顎のようにも見える。どちらにせよ、小柄で華奢な少女の身体には不恰好で似つかわしくなかった。

 

「し、シオナ? シオナだよね……?」

 

 もはやアクア・レディとは呼べない姿へと変貌したシオナに、スバルは恐る恐る声を掛ける。

 

 変貌したシオナに困惑しているのもあるが、それ以上に目の前の存在に対して言い知れない恐怖を感じてしまっていた。どうしようもなく身体の震えが止まらないのだ。

 

 スバルの呼び掛けにシオナらしき電波体は答えない。ただ不気味な沈黙を保ったままに顔を持ち上げ、孤独と絶望が渦巻く虚ろな瞳でロックマンとハープ・ノートを睥睨した。

 

 そして──

 

 

『ア──アアアァァァァアアア!!!』

 

 

 ──電波世界を揺るがす怪物が産声を上げた。

 

 

 怪物の絶叫は地震のように地球を巡り、電波世界を蹂躙する。

 

 FM星人の破壊工作によって不安定となっていた電波環境は激烈な衝撃により揺らぎ、断裂し、砕けた。混乱し右往左往していた電波生命体達にも打撃を与え、地球上の電波テクノロジーに壊滅的な被害を齎した。

 

 ただ叫んだだけ。それだけのことで尋常ならざる被害が巻き起こった。星を滅ぼす災厄の兵器に相応しい破壊規模だ。

 

「う、ぐ……無茶苦茶だ」

 

「い、つつ……」

 

 シオナを中心に発せられた衝撃波に吹き飛ばされたロックマンとハープ・ノート。意識こそ繋ぎ留めたものの、衝撃波のダメージは甚大。立ち上がるのもやっとな状態に陥っていた。

 

 そんな二人の前に異様なほど静かに怪物が立つ。ロックマンとハープ・ノートを睥睨する瞳はいっそ機械的なほどに無機質で、生物にあって然るべき温度というものが欠如していた。

 

 怪物が徐に身構える。両肩の砲塔と翼の中央に備え付けられた砲口を正面に向け、砲撃を放つべくチャージを開始した。

 

『やべぇ、逃げろスバル! あんなもん喰らったら一溜まりもねぇぞ!?』

 

『逃げなさい、ミソラ! とにかく回避して!』

 

 今までに聞いたことがないほどに焦燥した声で叫ぶウォーロックとハープ。その焦り具合から怪物が放とうとしている攻撃の危険度を察し、スバルとミソラは形振り構わず回避しようとする。

 

 回避行動に移ろうとしたロックマンは、しかし怪物の射線上に動く人影を見つけて足を止めた。戦場から離れた建物の陰に身を隠していたルナ達が、運の悪いことに射線上に残っていたのだ。

 

 逡巡は一瞬。震える足を叱咤し、ロックマンは怪物の真正面に立ち塞がった。

 

『スバル!? おまっ、何を──』

 

「全力で攻撃を止める! 力を貸して、ウォーロック!!」

 

 有無を言わさないスバルの剣幕にウォーロックは衝撃を受けるも、迷っている暇はないと要求に応える。

 

 身体の負担を度外視して即座にスターフォースを切り替え、ファイアレオへと変身する。そして怪物に向けて砲口たるウォーロックを構え、負けじとチャージを始めた。

 

 怪物の砲撃に真っ向勝負を仕掛けようとするロックマンの行動に驚いたハープ・ノート。しかし射線上に取り残されたルナ達の姿を見つけて即座にその意図を察し、強引に踵を返してルナ達の元へと走った。ルナ達を射線上から逃すか、無理なら砲撃から庇うためだ。

 

 ロックマンとハープ・ノートがルナ達を守るために動く中、そんな動きを微塵も意に介さず怪物はチャージを続けている。二つの水瓶には無尽蔵に水流が吸い込まれ、翼の砲口には空間が歪むほどの光が収束していた。

 

 チャージ開始から数秒。十分なエネルギーを収束し終えた怪物が、砲撃の方向を指し示すように手を翳す。相対するロックマンも十分な炎熱を蓄え、SFB(スターフォースビッグバン)を全力で解き放つ。

 

 

『──ディザスターノヴァ』

 

 

「──アトミックブレイザー!!」

 

 

 ──瞬間、破滅の奔流と灼熱の砲撃が激突した。

 

 

 限界まで圧縮された超高圧の激流が二本、重なるように視界が歪むほどの光線が二条。束ねられた四つの破壊の奔流は大気を抉り、あらゆる障害を一瞬で塵に還す。その威力はもはや衛星砲などに分類される超兵器に匹敵するだろう。

 

 そんな砲撃と真っ向勝負するのは灼熱の砲撃。スターフォース時に扱える最大火力の必殺技、アトミックブレイザー。その破壊力はFM星人を纏めて戦闘不能に追いやるほどの威力を秘めている。現状のロックマンが放つことができる最大火力の大技だ。

 

 破滅の奔流と灼熱の砲撃の激突、その軍配は──前者に上がった。

 

 アトミックブレイザーの火力は凄まじいものではある。しかし怪物が放ったディザスターノヴァなる奔流は文字通り次元が違う。何せ星を滅ぼすような兵器の砲撃だ。サテライトの力を宿していたとしても、一個人が真正面から太刀打ちできるような代物ではない。

 

 限界までチャージした最大火力の砲撃がじりじりと押され、ロックマンの身体も圧力に押されていく。必死の形相でその場に留まろうと踏ん張るが、限界が訪れるのは時間の問題だ。

 

「ぐ、う……!!」

 

『無理だ、スバル! なんでもいいから逃げろ!』

 

「いやだっ! シオナに、友達を傷付けさせるわけにはいかない! 絶対に止めてみせる!!」

 

 心に孤独と絶望を抱えていたとしても、シオナが友達を大切に想っているのは間違いない。だからこそ、意識がなかろうと暴走していようと、自らの手で友達を傷付けたとなればシオナはもう二度と立ち直れなくなる。幼馴染として長く付き合ってきたからこそ確信があった。

 

「うぐ、ああああああああああああああ!!!」

 

『ぐ、こんのぉ、ウオオオオォォォォオオ!!』

 

 喉が張り裂けんばかりの雄叫びを上げ、ロックマンは有らん限りの力を振り絞る。命を削りかねない無茶であろうと構わず、スバルとウォーロックはその場に留まり続けた。

 

 圧倒的な破壊力で押し続けていた破滅の奔流、その進撃が緩やかに止まる。スバルとウォーロックの命懸けの反攻によって灼熱の砲撃が威力を増し、辛うじて拮抗まで押し戻したのだ。

 

 後は砲撃のエネルギーが切れるまで耐えればいい。微かに見えた光明に二人が笑みを浮かべて──直後、二人の抵抗を嘲笑うように破滅の奔流が圧力を増した。

 

 スバルとウォーロックのように力を振り絞った訳ではない。ただほんの少し、路傍の石に目を向ける程度の意識を割いた。それだけで破滅の奔流は勢いを増大させ、僅かな拮抗を一瞬で粉砕した。

 

 灼熱の砲撃が一瞬で押し返され、ロックマンへと破滅の奔流が容赦なく迫る。限界まで力を絞り尽くしたロックマンに回避する力は残っておらず、悲鳴すら上げる間も無くその身体は光に飲み込まれて消えた。

 

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 

 血相を変えてルナ達の元へと急いだハープ・ノートは、突如として駆け寄ってきた自分に困惑するルナ達を少しでも砲撃の射線から逃そうとしていた。

 

 ルナ達はロックマンと違ってハープ・ノートのことをよく知らない。何となく味方なのだろうなとは思っていたが、逆に言えばその程度の関係。そんな相手にいきなり逃げるように指示されても戸惑いが先に出るのは当然だ。

 

 しかしハープ・ノートの必死な様子とロックマンが身を挺して守ろうとしてくれているという言葉を信じ、ルナ達は砲撃の射線から逃れるべく移動を始めた。

 

「うん、ここなら大丈夫。危ないからじっとしていてね?」

 

 出来ることならこのあたりからもっと離れてほしいのが本音だが、シオナを心から心配するルナ達の目を見て言葉を飲み込んだ。自分が逆の立場だったら、同じように残るだろうという確信があったのも理由の一つである。

 

 お礼の言葉を口にするルナ達に背を向け、ハープ・ノートはロックマンに加勢してようと一歩踏み出して──眼前を破滅の奔流が地面と建物を根刮ぎ吹き飛ばしていった。

 

 怪物が放った極大の砲撃は、つい先程までルナ達が隠れていた建物の一階部分を跡形もなく消し飛ばし、それだけに飽き足らず直線上の建物と地面を容赦なく抉り飛ばした。あんまりにも凄まじい破壊力に、ハープ・ノートの後ろでルナ達は顔を真っ青にしている。

 

 ハープ・ノートもルナ達に負けず劣らず青い顔をしている。しかしその理由は砲撃の凄まじさに対する恐怖ではなく、あんなものを真正面から受け止めようとしたロックマンの身を案じてのことだ。

 

「ロックマンは何処? 無事なの!?」

 

 焦燥混じりにハープ・ノートが周囲を見渡した直後、ルナ達が身を潜めていた建物の壁に砲弾のような勢いで何かが激突し、コンクリートの壁に大きな穴が開いた。

 

「きゃあ!? いったいなんなの!?」

 

 隠れていたすぐそばの壁に穴が開き、驚きと恐怖の声を上げるルナ。いったい何が飛んできたのかと恐る恐る崩れた壁の中を覗き込んで、瓦礫の上に力なく横たわるロックマンを見つけて恐怖とは別の悲鳴を上げた。

 

「ロックマン様!?」

 

「うそ!? 大丈夫、ロックマン!?」

 

 完全に意識を失っているロックマンにルナとハープ・ノートが駆け寄る。ゴン太とキザマロも後に続いて倒れ伏したロックマンの身を案じる。

 

 瓦礫の上に横たわるロックマンの姿は酷いものだった。四肢の欠損はないが全身ズタボロで、スターフォースの変身も解除されている。それどころか、電波変換すら覚束ないのか青いフォルムが不安定に揺らいでいた。

 

「ロックマン様! しっかりしてくださいませ、ロックマン様!?」

 

「あ、待って! そのままだと電波変換が──」

 

 半泣きになりながらロックマンの身体を抱き起こすルナをハープ・ノートが止めようとしたが遅かった。度重なるスターフォースの負担と砲撃をもろに受けたダメージが積み重なり、ルナ達の目の前でロックマンの電波変換が解除されてしまう。

 

 ロックマンの身体が弱々しい光に包まれ、生身のスバルがルナの腕の中に現れる。ロックマンと入れ替わりに突如として腕の中に現れたスバルに、ルナは口と目をあんぐりと開けて石像と化した。

 

「……え、星河君? 星河君が、ロックマン様? え、え?」

 

 愛しのロックマン様がまさかの身近な友人であるスバルだった。衝撃の真実にルナの脳内は大パニックに陥っていた。

 

 ルナは同じく目を見開いて愕然としているゴン太とキザマロと交互に顔を見合わせ、気不味そうに目を逸らすハープ・ノートを見て、最後にもう一度腕の中のスバルを見下ろす。

 

 そして──

 

「う、うそでしょおおおお!?」

 

 恋する乙女の悲鳴が響き渡るのだった。

 

 

 




と言う訳で、ヒロイン大暴走です。
獣化、いいですよねぇ。設定とか見た目とか、とても良かったです……ちなみに筆者はグレイガ勢です。シオナに関しては、ファルザーに寄せてますがね。






  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。