心を探し求める水瓶座   作:リコレクションでも嬉しい

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第35話

 

 

 氷炎の砲撃によってアンドロメダが引き剥がされる。翼のみ顕現させていたアンドロメダが、積み重なったダメージの影響でその本体を現実世界へと引き摺り出された。

 

『アンドロメダよ、在るべき場所へと還りなさい!』

 

 すかさずアクエリアスが鍵の制御を取り戻して送還する。取り憑いていたシオナとの繋がりを断たれたアンドロメダに逆らう術はなく、重く低い獣の唸り声のような音を轟かせながら光となって消えた。

 

「やった……?」

 

 余りにも呆気ない消え方に戸惑うロックマン。しかしすぐに意識を引き戻し、アンドロメダに心を囚われていたシオナへと目を向けた。

 

 アンドロメダの呪縛から解放されたシオナはアクア・レディの姿のまま水牢に浮かんでいた。シオナの身体に傷一つ付けさせないため、アクエリアスが最後まで気を抜くことなく拘束を維持していたのだ。

 

 しかしその拘束ももはや不要。シオナを苦しめていた諸悪の根源は消え去ったのだ。故にその身を守る水牢も役目を終えたように崩れ落ちた。

 

 水牢が崩れ落ちると同時、アクア・レディの電波変換が解除される。アクエリアスも相当な無茶をしていたのだろう。電波変換を維持する余力すら既に残っていないのかもしれない。

 

「シオナ!」

 

 ゆっくりと傾いていくシオナの身体を慌てて抱き留める。アンドロメダに取り込まれ操られた消耗は相当なものだったようで、スバルの腕に収まったシオナは完全に意識を失っていた。

 

 ただ意識は戻らないものの呼吸に問題はなく、出血の類もない。かなりの無茶を重ねたにも拘わらず傷口が開いていないのは、胸元だけ辛うじて維持されている電波化のおかげだろう。

 

『すみません、星河スバル。後のことをお願いします。傷口の電波化を維持するだけで限界でして……』

 

 アクエリアスも相応の無茶を重ねていたのだろう。頭に響く声は今にも消え入りそうなほどに弱々しいものだった。

 

「うん、分かった。最後まで気を抜かないよ」

 

『ありがとうございます。では、これを──』

 

 シオナの胸元からふわりと浮かび上がったのはアンドロメダの鍵だ。禍々しいエネルギーに満ちた歪な鍵が、ロックマンの目の前で浮遊して止まった。

 

 今回の騒動における諸悪の根源、全ての元凶である鍵だ。それが再びロックマンの手に戻ってきた。

 

 鍵を回収した後、その後の処遇をどうするかは予め決めていた。誰の手に渡ったとしても争いの火種にしかならないような代物だ。今回のように奪われる危険性も否定できない以上、誰かが保持するというのも賢い選択ではない。

 

 故にスバルとウォーロックが選んだのは破壊・破棄する道だった。

 

『使ってもロクなことにならないのはよく分かったからな、こんな危険なモンは壊すに限るぜ──』

 

「──そういう訳にはいかないね」

 

 頭上から聞こえてきた声にロックマンは反射的に左手を振り上げた。

 

「──バトルカード、タイボクザン!」

 

 予め読み込んでいつでも起動できるようにしていたバトルカードを発動し、木属性のソードで雷属性のソードを迎え撃つ。相当な量の電撃を溜め込んでいたのか、不利属性のタイボクザンと接触しながらもエレキソードは見境なく周囲一帯に電撃を撒き散らす。

 

 間違ってもシオナに電撃が届いてしまわないように右腕でぐっと抱き寄せながら、ロックマンは鍔迫り合うソードの向こうで笑っているホワイトを睨み付ける。そして叫んだ。

 

「これ以上、君の思い通りにはさせない──ツカサ君!」

 

「──へぇ、よく気付いたねスバル君。いや、ハープ・ノートから教えてもらったのかな。まあ、今更遅いけどね」

 

 酷薄な笑みを深めながらホワイト──ツカサはソードに力を込めて押し込む。負けじとロックマンもダブルクロスの力で押し返す。

 

「──っ、やるね。あの怪物を倒すだけはある。でもいいのかな。ボク一人に気を取られても?」

 

 わざとらしい台詞の直後、横合いから黒い影が突っ込んでくる。同じくエレキソードを携えたブラックことジェミニだ。その狙いは鍵と位置関係的に近いシオナだ。

 

 迎撃は不可能だ。回避であれば間に合う。ただその場合、鍵かシオナのどちらかを手放さなければならない。

 

 迫るジェミニのエレキソードの切先。笑みを深めて力の限り刃を押し込んでくるツカサ。迷っている時間は残されていなかった。

 

 決断は一瞬。決して取り零してしまわないようにシオナの華奢な肩を抱き寄せ、ロックマンは左手のソードに力を込めた。

 

「やああああっ──!!」

 

「──っ!?」

 

 気合一閃。渾身の力を込めてツカサを押し返し、返す刀を突撃してくるジェミニ目掛けて振るいつつ飛び退る。一瞬後、ロックマンが居た空間を容赦ないエレキソードの振り下ろしが引き裂き、取り残されたアンドロメダの鍵がジェミニの手中に収まった。

 

『残念だったな、ロックマン。鍵は返してもらったぞ』

 

「…………」

 

 勝ち誇ったように手にした鍵を見せつけるジェミニに、ロックマンは険しい顔付きで沈黙する。左手のソードは消さないまま警戒を続ける様子は、鍵を奪われたにしては妙に落ち着いているようにみえた。

 

 妙な引っ掛かりを覚えたツカサはジェミニが手にした鍵をじっと見やり、その異変に気が付いた。

 

「ジェミニ。一杯食わされたのはボク達の方みたいだよ」

 

『は? なんの話──』

 

 

 ──ピシィ! 

 

 

 ジェミニの手元からガラスが罅割れるような音が響く。音の発生源はアンドロメダの鍵。アンドロメダを喚び出し操るために必要となる莫大な負のエネルギー。それを蓄えるガラス球部分に亀裂が生じていた。

 

『なっ……!?』

 

 驚愕するジェミニの目の前で亀裂箇所から負のエネルギーが漏れ出る。

 

 孤独、絶望、憎悪、悲哀──あらゆる負の感情を押し込めたような悍ましいエネルギーが煙のように立ち昇り、見る間に霞の如く霧散していく。あっという間にエネルギーは消えてしまい、鍵はその役目を果たすことができなくなった。

 

 ツカサを押し返して飛び退る一瞬、牽制のように振るった返す刀の狙いはジェミニではなくアンドロメダの鍵だった。あの土壇場でロックマンはシオナを脅威から守りつつ鍵を破壊するという芸当をやってのけたのだ。

 

 無用の長物となってしまった鍵を呆然と見下ろすジェミニ。その瞳に今にも爆発しそうな憤怒が宿り、ロックマンへと向けられた。

 

『やってくれたなロックマン……! ただで済むと思うなよ!』

 

『ケッ、残念だったなジェミニ。お前の思惑通りにはさせねぇよ』

 

 意趣返しとばかりにウォーロックは煽る。その挑発がただでさえ激怒していたジェミニの神経を逆撫でた。

 

 己の野望を果たすために必要な鍵を破壊され、ジェミニは怒りのままに電撃を解放しようとする。しかしその凶行をツカサが止めた。

 

「自棄になるのはまだ早いんじゃないかな。壊れたといっても一部分だけ。十分修復できる範囲に見えるよ。失ったエネルギーも集める場所には事欠かない。違うかい?」

 

 罅割れたのは所謂エネルギータンクのような部位のみ。亀裂そのものもそこまで大きくない。修復は十分可能だろう。

 

 そして失われたエネルギーに関しても、この地球上に生きる人間から負の感情エネルギーを徴収すれば済む話。適当に電波災害でも引き起こせば多少時間は要するだろうが再び鍵として利用できるようにはなるだろう。

 

『……チッ。だがこいつらを見逃す理由にはならないな』

 

「見逃す理由はないけど、手負いの獣を追い詰め過ぎて()()()()()()()()()()()手に負えなくなる。ボクも君もそれなりに消耗している以上、やめておいた方がいいんじゃないかな?」

 

 至極真っ当な推測にジェミニは低く唸る。

 

 サテライトの管理者はペガサス・レオ・ドラゴンの三体。現時点でペガサスとレオのダブルクロスをやってのけている以上、更にもう一段階上の領域に踏み込む可能性は十二分にある。

 

 二つのスターフォースの時点でシオナを取り込んだアンドロメダを封殺するほどの力だ。消耗した状態で太刀打ちできるとは到底思えなかった。

 

 ただしそれらの理屈はロックマンに戦う余力が残っているという前提ありきの話ではあるが。

 

 感情論ではない筋の通った理屈をもって諭され、ジェミニは不満を前面に出しながらも矛を納める。これで鍵が修復も不可能な程に破壊されていればその限りではなかっただろうが、修復する目処がある以上は無駄なリスクを取る必要性はなかった。

 

『命拾いしたな、ロックマン。だが次に会った時は確実に抹殺(デリート)してやる。覚えておけよ……!』

 

 殺意を滲ませた捨て台詞を残してジェミニは一足先にこの場を去る。ツカサもその後に続こうとして、ふと忘れ物に気付いたとばかりにロックマンを振り返った。

 

「ああ、そうだった。海鳴さんが目を覚ましたら伝えておいてよ。助けてもらえてよかったね、って」

 

 皮肉と嘲笑、そして誰にも気付かれないほどに僅かな嫉妬の感情を滲ませて、ツカサは伝言を残して消え去った。

 

 後に残されたのはシオナを抱えたロックマンのみ。そのロックマンも、ジェミニ・スパークの気配が完全になくなったと見るや膝から崩れ落ちる。腕に抱えるシオナを放り出すことはしなかったが、もはや両足で立っていることすら限界だったのだ。

 

『クソッ……あの野郎、オレ達を見逃しやがったな……』

 

「うん……でも、流石にもう……限界だよ」

 

 シオナを傷付けないように地面に下ろしたところで限界だった。スターフォースごと電波変換が解除され、スバルはシオナの隣に身を投げ出した。

 

 FM星人達を相手にスターフォースを目紛しく切り替えつつの戦闘。その時点で限界は近かったが、休んでいる暇もなくアクア・レディとの戦闘に突入。挙げ句の果てにはアンドロメダに取り込まれたシオナとの死闘だ。限界を何度乗り越えたことか。

 

 文字通り指先一つ動かすことすらできない消耗。積み重なったダメージと疲労が重く伸し掛かり、意識が徐々に遠ざかっていく。襲いくる睡魔に抗うことなく身を任せ、スバルはそのまま意識を手放した。

 

 

 




これにて一応のエンド。あとは事後処理がちょっとって感じですね。
まあ、あからさまな不穏フラグが残っていますが……
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