心を探し求める水瓶座   作:リコレクションでも嬉しい

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第36話

 

 FM星人による地球侵略から数日が経過した──

 

 サテライト管理局襲撃から始まった破壊工作は電波テクノロジーに依存していた地球に大きな爪痕を残した。

 

 FM星人と実体化したウイルスによって齎された現実世界への物理的・人的被害は勿論のこと、電波世界が受けた被害が凄まじかった。

 

 電波テクノロジーによって制御されていた電子機器は軒並みダウン。各地で停電や断水は当然のこと、交通網の麻痺や大規模通信障害が世界規模で発生してしまった。

 

 人々の生活を支えるインフラが根本から寸断されてしまったような状況だ。まさしく電波災害といっても過言ではない被害規模だろう。

 

 サテラポリスと解放されたサテライト管理局を中心として現実世界、電波世界の復興が急速に進められていることが不幸中の幸いといえるだろう。電波テクノロジーに依存していたが故に甚大な被害を受けたが、同時に発展した電波テクノロジーのおかげで復興も凄まじい速度で進んでいるのだ。

 

 復興が進められる一方、地球を救った英雄(ヒーロー)はどうしているかといえば──

 

 

 

 

 

 

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 某病院の一室にて、スバルは未だベッドの住人であることを余儀なくされていた。

 

 街中で暴れ散らす電波ウイルスとFM星人を蹴散らし、済し崩し的にアクア・レディとの戦闘に突入。挙げ句の果てにはアンドロメダに取り込まれたシオナとの死闘、おまけでジェミニ・スパークと一触即発の駆け引きだ。

 

 連戦に次ぐ連戦、加えてただでさえ負担の大きいスターフォースの連続行使と掟破りのダブルクロス。気概一つ、幼馴染を救うという想いだけで限界を踏み越え続けたツケが回ってきた結果、医者から回復するまで絶対安静を言い渡されてしまったのだ。

 

 丸一日昏睡状態に陥っていたのだから絶対安静も当然で、あかねやルナ達にも大層心配を掛けてしまったので文句は言えないが、それでも日がな一日何をするでもなくベッドの上で安静にしているというのは退屈以外のなにものでもなかった。

 

 相棒のウォーロックがいれば話し相手にも困らなかったのだが、精密機器が多い病院内をうろちょろする訳にもいかず病院外に出ている。トランサーにメッセージこそ残してくれはするものの、暇を潰すには物足りなかった。

 

 ちなみにスバルと同じく運び込まれたミソラは既に回復して退院し、復興支援として日本各地を回るライブツアーの企画を始動している。退院直後に送られてきたメッセージでそれを知り、スバルは純粋にそのバイタリティに感心する他なかった。

 

 そしてもう一人、シオナは──

 

 こんこんとドアをノックする音が響いた。スバルが返事をすると、がらっと音を立てて病室のドアが開く。病室を訪れたのは茶封筒を携えた天地だった。

 

「やあ、スバル君。意識が戻ったと聞いたんだが、体調は大丈夫かい?」

 

「天地さん。うん、もう大丈夫だよ。むしろ退屈で暇していたくらい」

 

「ははっ、そんなことだろうと思ってね。こんなものでよければ読むといい」

 

 朗らかに笑いながら天地は手にしていた茶封筒を差し出す。首を傾げながら封筒を受け取ったスバルは、視線で促されるまま開封して中身を覗く。そしてぱあっと顔を輝かせた。

 

 封筒の中身はスバルが愛読している月間雑誌だった。宇宙をテーマとした科学雑誌で、スバルが欠かさず購読している代物だ。

 

「ボクらの宇宙最新刊だ! 下の購買になくて諦めてたのに……いいの?」

 

「勿論。入院中のお供に読むといい。ただし、夜更かしはダメだぞ?」

 

「分かったよ!」

 

 茶目っ気混じりの注意にスバルは元気よく返事をして、すぐにでも読みたい気持ちを抑えて雑誌をサイドテーブルに置いた。そして改めて天地と向き合う。

 

「ごめんなさい、天地さん。無事に帰ってくるって約束守れなくて」

 

「……いや、地球のために戦ってくれた君達を責めることなんてできないよ。むしろ大人である僕達が不甲斐ないばかりに、スバル君達に苦しい思いをさせた。すまなかったな」

 

「そんなことないよ。天地さんのおかげでサテラポリスに追われることもなかったし、戦いに集中することができたんだから」

 

「そうか……」

 

 それくらいのことで感謝されても、という思いで天地は微妙な表情になる。本来であればそれはスタート地点、当たり前のことなのだ。天地としてはもっと直接的な支援、或いは子供であるスバル達ではなく大人が矢面に立つことができればと忸怩たる思いを抱えていた。

 

「えっと、それよりも天地さんに訊きたいことがあって。シオナのことなんだけど……」

 

「シオナ君か……」

 

 スバルの問いに天地は難しい顔付きになる。

 

「母さんから、シオナは他の病院に移ったって聞いて……」

 

「ああ。君が目を覚ます前に、サテラポリス直轄の病院に転院したんだ」

 

 スバルが目を覚ました時には既に、シオナは転院手続きを終えてこの病院からいなくなっていた。あかねが医者に訊ねたところ、より高度な医療設備が整った病院で治療を受けるためという説明をされたらしい。

 

 胸に空いた傷がろくに塞がらない内に無茶を重ね、アンドロメダに取り込まれてその身を蝕まれた。命に関わるレベルで心身を消耗したシオナを治療するため、より高度な医療設備が整った病院へ移るというのは筋が通っているだろう。

 

 しかしサテラポリス直轄の病院となると話が変わってくる。

 

 今回の騒動の主犯は論ずるまでもなく地球侵略を目論んだFM星人だ。キグナスが放送電波を乗っ取って宣戦布告までしている以上、そこが揺らぐことはない。

 

 だが地球に対して齎した被害の度合いで言うと、シオナが圧倒的に突出してしまっている。アンドロメダに取り憑かれ暴走していたとはいえ、怪物の咆哮が齎した電波障害による被害は地球全土に及ぶ。スバルが二度目の咆哮を死に物狂いで止めようとしていなければ、被害規模は天文学的なものになっていただろう。

 

 その責任をサテラポリスに追及されているのではないかと、スバルは心配していたのだ。

 

 天地もサテラポリスの関係者から幾らか話を聞いており、スバルが何を懸念しているのかは理解できた。その上で、心配は要らないとスバルの肩を優しく叩いた。

 

「大丈夫。スバル君が心配するようなことは何もない。お互い元気になったらすぐに会えるさ」

 

「ほんとに?」

 

「勿論だ。だからスバル君。君も一日でも早く退院できるよう、しっかり休むんだ。あかねさんを安心させるためにもね?」

 

「うん、分かったよ」

 

 心から信頼している天地の言葉だからこそ、スバルは疑うことなく素直に受け入れた。

 

 シオナに対する心配を一先ず飲み込んだスバルに、天地は内心で後ろめたい思いを抱く。

 

 シオナが今回の騒動や被害の責任を追及されることはまずない。意識が戻り次第、事情聴取の類はされるだろうが、あくまで参考人の範囲内に収まるだろう。

 

 だがそれとは別の事情で、シオナは複雑な環境に身を置かれている。端的に言ってしまえば、シオナは家庭環境に重大な問題があると見做され、行政機関による保護の対象となっているのだ。

 

 現時点では一時保護の段階ではある。しかし行政の調査結果と経過次第では、体調が回復して退院できたとしても今まで通りの生活に戻れるとは限らない。すぐに再会できる保証もないのだ。

 

 事情が非常にデリケートなものであるだけに明かすこともできず、純粋に信用してくれている少年を騙しているようで、天地は胸中で深い溜め息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 

 ──一方その頃、サテラポリス直轄の病院にて。

 

 開きかけた胸の傷口とアンドロメダの侵蝕による衰弱をサテラポリスが誇る高度な医療技術によって治療し、無事に命の危機を脱することができたシオナ。意識を取り戻し、問題なく受け答えができるようになるまでに数日を費やし、やっとのことで面会謝絶が解除される運びとなった。

 

 しかし面会謝絶が解除されたところで、サテラポリス直轄の病院に部外者の立ち入りは許可されていない。家族ならば話は別であるが、友人関係程度では見舞いに訪れることもできないのだ。

 

 その家族も先の電波災害によって齎された交通網の麻痺によって海外から戻れず仕舞い。いや、仮に戻ることができたとしても、シオナの見舞いのためにわざわざ帰国することはないだろう。海鳴家の親子関係は既に取り返しがつかない程に壊れてしまっているのだ。

 

 そのためシオナの元を訪れるのは医者と看護師、事情聴取を行うサテラポリスの刑事と児童相談所の職員だけ。それ以外の時間はぼうっと天井を眺めるか、体力回復のために眠っているかの二択だ。

 

 スバル達に会いたいという想いを心の片隅に仕舞い込み、治療に専念する日々が暫く続いたある日、転機は唐突に訪れた。

 

 怪我の治療も順調に進み、退院に向けて始まった軽いリハビリを終え、特にすることもなくベッドの上でぼうっとしていると、コンコンと病室のドアがノックされた。

 

 医者と看護師の巡回は既に済んだ後。またぞろサテラポリスか児童相談所の職員が訪ねてきたのだろうと、特に身構えることもなくシオナは小さな声で返事をした。その結果、シオナはなんの心構えもないままでその人物と対面する羽目になってしまった。

 

 ドアを開けて病室に足を踏み入れたのは背の高い青年だった。

 

 サテラポリスの精鋭部隊の制服を着こなし、胸元に紅色のサングラスを掛けた出立ちをしている。一見すると陽気で気の良さそうなお兄さんだが、瞳には揺るぎない正義の光が宿っていた。

 

 見覚えがあるにも程がある青年の登場にシオナは限界まで目を見開き驚いた。見開いたといっても数ミリ程度だが、それでも無表情が常のシオナにしては最大級の驚愕である。

 

 衝撃のあまり言葉も出ないシオナを緊張しているとでも思ったのか、青年はニカッと人当たりの良さそうな笑顔を見せた。

 

「初めましてだな、海鳴シオナ。オレは暁……暁シドウだ。気軽にシドウと呼んでくれ。よろしくな!」

 

 完全不意打ち超絶フライングでエンカウントした原作登場人物に、シオナのキャパシティは一瞬でオーバーしてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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