心を探し求める水瓶座   作:リコレクションでも嬉しい

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第37話

 シオナside

 

 

 拝啓、私をこの世界に転生させた何処かの誰か様へ。

 

 前世で散々遊んでやりこんだゲームの世界に転生させてくださったこと、心から感謝申し上げます。

 

 おかげさまで私は原作知識をフル活用しようとして空回り、家族も原作も大崩壊、挙げ句の果てにはやけっぱちになって地球と心中しかけるという大ポカをやらかしかけました。

 

 幸いにも幼馴染と友人達、並びに家族のおかげでもう一つのミライENDは免れましたが、どの面下げてみんなの元へ帰ることができるのでしょうか。無表情だからって面の皮が厚い訳じゃないんだよ、こちとら。

 

 矢鱈と設備の整った病院で治療に専念しながら、サテラポリスの刑事と児童相談所の職員の質問に答える毎日。嘘偽りなく答えるたびに同情と憐憫の目を向けられ、お医者様と看護師さんにこれでもかと優しく扱われる日々。

 

 なんというかもう、申し訳がなくて堪らないし肩身も狭い。来世があるのなら記憶はなしで貝に生まれ変わりたいです。なに? やらかしが過ぎて貝すら贅沢? それはそう。

 

 ベッドから起き上がる許可が出て、リハビリもスタート。そろそろ今後の身の振り方を考えないとなぁ、なんて思っていたところに突如として襲来する原作キャラこと暁シドウ。この世界は私の度肝を抜かないと済まない性質なのでしょうか。

 

 前世の私は一体どんな大罪を犯してしまったのでしょうか。参考までに伺いたいです。あ、聞いたところで既に今世でやらかしちゃったから意味ないですか、そうですか。

 

 何はともあれ、もう少しだけ手加減というか、手心を加えてくださると幸いです。今後は一人で抱え込んで勝手にブレイクカウントボムみたいな真似は控えるので、平にご容赦ください。切実に。

 

 敬具

 

 

 ……と、現実逃避はこれくらいで十分かな。何の前触れもない原作登場人物との邂逅に吹っ飛んでいた意識は戻ってきた。少なくとも、目の前のイケメンを落ち着いて観察する程度の余裕はできた。

 

 暁シドウ。流星シリーズ三作目にて登場する男で、若くしてサテラポリスの精鋭部隊に所属するエースメンバー。スバル達の味方として色々と助けてくれたり、逆に助けたりする仲間だ。

 

 人工的に開発されたアシッドという電波体と電波変換し、共に肩を並べて戦ってもくれる頼れる大人。お菓子が好きで、デスクに山ほど某十円棒スナックを積んでたり、お茶目な面もある青年。

 

 一方で敵対組織であるディーラーの元幹部という背景があったり、元恋人であるクインティアと敵対することになったり、敵幹部の自爆からみんなを守って爆死したり、かと思えばエンディング後にちゃっかりクインティアに看病されていたりする色々と美味しい役回りの人でもある。

 

 やりこんでいた頃はアシッド・ジョーカーの見た目やら、サテラポリスのエースという立ち位置から純粋に格好いいなと思っていた。現実になって思うのは、もう少し言葉を尽くしてほしいというもの。特にクインティア関連とか。もっとこう、やりようあったでしょ、と思う。 

 

 あ、何でもかんでも一人で抱え込んで爆発した私が言えることじゃなかったですね。ごめんなさい。でも小学生の子供達の目の前で爆散は普通にトラウマになるのでやめてほしい。

 

 ……話が脱線した、閑話休題。

 

 三作目でレギュラー出演するシドウさんが、無印も終わっていないような今この時期に現れた。私はいつのまにソフトを入れ替えたのだろうかと思ってしまうくらいには、フライングにも程がある邂逅である。一体全体何がトリガーとなったのだろう。

 

 シドウさんが出てくるとすればノイズかディーラー関連の事件。自分でも気付かない内にノイズかディーラーに関わりを持ってしまったのだろうか。可能性としては否定できない以上、今後の言動には注意を払っておくべきかもしれない。

 

 内心で色々と考え込んでいると、シドウさんが一言断ってベッドの側に置かれていた椅子に腰を下ろした。そして真っ直ぐ私の目を見つめてくる。

 

「こんな(ナリ)だけどこれでもサテラポリスの隊員なんだ。怪しいものじゃないから、あんまり警戒しないでくれると助かる。今日はシオナに色々と伝えなくちゃならないことがあって来たんだが……」

 

 そこで言葉を切るとシドウさんは私の様子を伺うように見つめてくる。無遠慮なものではなく、体調や具合を確認しているような優しく気遣いに満ちた眼差しだった。

 

「よし、本題に入る前にアイスブレイクでもするか。ここ最近は大人に話をするばっかりだったろうから、逆にシオナの質問に答えよう。オレの年齢、好きなもの、嫌いなもの、何でも答えるぞ。勿論、オレに纏わる質問でなくても構わない……訊きたいことが色々とあるんじゃないか?」

 

「…………ん」

 

 シドウさんの言う通り、ここ最近はサテラポリスの刑事と児童相談所の職員に質問されては答えるばかりで、私からものを尋ねる機会はなかった。私の疑問に答えてくれるというのなら、お言葉に甘えて色々と訊かせてもらおう。

 

「みんなは、無事?」

 

「スバルとミソラのことなら心配要らない。きちんと治療を終えて既に退院済みだ。他のお友達に関しても怪我一つなかった」

 

「……そう」

 

 みんなに取り返しのつかない怪我や障害を負わせていなくてよかったと安堵する。同時に、サテラポリスがこの時点でロックマンとハープ・ノートの正体に辿り着いているだろうことに、心の中で警戒を強めた。一番にスバルとミソラの名前を出すあたり、間違いないだろう。

 

 作中でサテラポリスは基本的に正義の味方、市民の味方だ。だからといって、スバルやミソラの善性に付け込んで利用するような真似をしないとは限らない。

 

 シナリオにおいては成り行きや持ち前の正義感から立ち上がり、サテラポリスと肩を並べて世界の危機に立ち向かっていた。でも正直、小学五年生の子供をサテラポリスの遊撃隊に登用するのはどうかと思う……ロックマンワールドなら珍しくもないか。

 

 ともあれ、その手の大人に対する警戒は私がすればいい話だ。今後も守り続けられるかどうかは分からないけど。

 

「……アクエリアスは、どこ?」

 

 意識が戻ってから、私は一度もアクエリアスと直接会話していない。私が入院している場所が精密機器だらけで、迂闊に近寄ると誤作動を起こしかねないからだ。

 

 特にこの病院はサテラポリス直轄のため、下手な騒動を起こせばお巡りさんが素っ飛んでくる。ただでさえ心象が最悪だろうに、騒動を重ねて印象を悪化させるのは得策ではない。

 

「アクエリアスは眠っていた君に代わって事情聴取を受けていた。彼女の証言でだいたいの事情は把握できている……心配しなくても、尋問紛いの取り調べなんてしていないよ。そもそも事情聴取だって彼女自身が申し出たことだからな。シオナには怪我の治療に専念してほしいそうだぞ」

 

「……分かった」

 

 アクエリアスが具体的にどんな証言したのかは気になるけど、今更聞いたところで口裏を合わせることもできない。心配があるとすれば、アクエリアスが自分を悪役にして全部の責任を背負ったりしていないかどうか。もしもアクエリアスが一人で責任を背負うなんて真似をしたら、その時は改めてオハナシする必要がある。

 

「シオナの体調がもう少し良くなったらアクエリアスと会う機会を用意するから、今はそれで納得してくれるか?」

 

「……ん」

 

 会わせられないとか言われたら噛みついていたところだけど、私の身体の具合を引き合いに出されては受け入れる他ない。今はシドウさんの言葉を信じて一日でも早く体調を戻すことに専念するべきだろう。

 

 さて、次に訊くのは……やっぱりこれかな。今後の身の振り方にも関わってくることだし。

 

「私は……何の罪に問われるの?」

 

 地球侵略を目論んだFM星人からアンドロメダの鍵を奪い取った。そこまでは別にいい。問題はその後、鹵獲したアンドロメダを利用して地球に大災害を齎してしまったこと。やらかしたことだけを鑑みれば私は世紀のテロリストである。

 

 歴代のラスボスのやらかしにも引けを取らないやらかしっぷりである。なんなら他のラスボスはロックマンによって悪事を防がれているので、被害規模だけでいえば私がトップの可能性が十二分にある。自業自得だけど、嫌すぎる称号だ。

 

 表舞台で罪に問うことは難しいかもしれないけど、人知れず裏側でならどんな罰だって与えられる。私個人の予想としては、良くてもサテラポリスか国に一生飼い殺し、悪ければ人道無視で戦力として酷使されると思っている。その辺り、どうなっていることやら。

 

 覚悟をした上での問い掛けに、シドウさんは私を安心させるように笑いながら答える。

 

「──なにも。シオナもアクエリアスも罪に問われることなんてないよ」

 

「……なんで?」

 

「なんでもなにも、君達はFM星人の侵略から地球を守ろうとしてくれただけだ。地球に被害を齎したのはFM星人と、その兵器であるアンドロメダ。シオナとアクエリアスが地球に災いを運んだ訳じゃない」

 

「それは……」

 

 確かにその通りだけども、その解釈は余りにも私とアクエリアスに都合が良すぎる。私達が余計な真似をしなければ起き得なかった災害が起きたのだ。責任の一つも問わずに無罪放免というのは、被害に遭った人達が受け入れられるはずがない。

 

「納得できないって? じゃあ改めて訊かせてもらおう。君達は地球を害する明確な意思を持っていたかい?」

 

「……なかった」

 

「そうだよね。そこに関しては、事情聴取の時点で確認済みだ。君達に地球を害する意思はなく、むしろ守ろうとしていた。無理矢理罪に問うとしても過失であり、加えてそれも予期できたものではなかった。他のFM星人がわざわざサテラポリスに足を運んで証言してくれたからね」

 

「他の?」

 

「ウォーロックとハープの二人だよ」

 

 ウォーロックとハープがわざわざサテラポリスに出頭した? それも私とアクエリアスの心象を良くするためだけに? 

 

 信じられない……特にウォーロック。スバルにお願いされたのかな? でもそれならスバルが自分の足で来るか、ロックマンに電波変換した状態で乗り込んでくると思う。ハープも同じだ。

 

「驚いたよ。まさか宇宙人が自らサテラポリスに出頭してくるなんてね。ああ、もちろん二人にも手荒な真似はしていないよ。なんなら二人は一方的に証言するだけして、こちらの質問には何も答えずさっさと帰っちゃったからな」

 

 困ったものだと言わんばかりにシドウさんは苦笑した。私が悪い訳でもないけど、なんだかちょっと申し訳なくなる。

 

 FM星人による侵略を受けたばかりの地球人にとって、その仲間としか思えないウォーロックとハープの来訪は色々と思うところがあったはずだ。むしろ二人はスバルとミソラも伴わずによく乗り込んだものである。一歩間違えれば捕縛からの尋問コースだって有り得ただろうに。

 

「そう言う訳で、シオナとアクエリアスが罪に問われることはない。でも君のことだ。きっとそれじゃあ自分を許せないんだろ?」

 

「……ん」

 

 そりゃあまあ、やらかしたことの重大さを思えば何食わぬ顔で表を歩くことなんてできない。スバルやミソラ、委員長達の元に戻ることなんてできやしない。

 

「だったらシオナなりに考えて、いつか自分を許せるような生き方を探すといい。オレ達大人はシオナの選んだ道を尊重する」

 

「……ありがとう、ございます」

 

「どういたしまして……と、良い話風に締め括りたいところなんだけど、本題は此処からなんだ」

 

 ここまで陽気な雰囲気で笑っていたシドウが真面目な顔付きになる。アイスブレイクと称した私の質問タイムは終わりのようだ。そして恐らく、私の予測が正しければ本題の内容は──

 

「本来であれば児相の職員が事情を説明するところを、訳あってオレが引き継いだんだけど……君の家庭環境について、話をしたい」

 

 ──ああ、やっぱり。

 

 分かり切っていた本題を切り出され、私は膝の上に置いた手を握り締めた。

 

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 

 本題を切り出した時、目の前の少女は覚悟していたとばかりに目を伏せた。膝の上に載せられた小さな両手を握り締め、常の無表情を無理やりに維持しようとして表情を強張らせている。

 

 中学生にも満たない子供が、告げられるだろう残酷な現実を受け入れようと必死に歯を食いしばっている。そんな姿に遣る瀬無さと憤りを覚えながら、しかしシドウは己の内心を悟られないよう注意を払いつつ口を開いた。

 

「アクエリアスとシオナへのヒアリング、並びに近隣住人への実態調査。そしてなにより、ご両親に対して通信での面談。それらの結果から、シオナに対する育児放棄、虐待が認められた……」

 

 小学生低学年にして自立ができているからと一人暮らしを半ば強制し、シオナが風邪に倒れても戻ってこず、挙句自分達は海外で新たな子供を設けていた。しかもその事実を長女となったシオナには一切知らせないまま、数年もの間まともな養育を放棄していた。

 

 世間体を維持するためか、或いは生存確認のため。ビデオ通信や通話によるやり取りはしていたものの、それで親としての義務を果たしているとは到底認められない。親の義務とはただ住む場所と生活費を与えるだけではないのだ。

 

 児童相談所の職員から調査結果を聞いた時、シドウは柄にもなく激昂しそうになった。この手のエキスパートである児童相談所の職員ですらも、滲み出る怒りを抑え切れていなかった。それ程までにシオナが置かれていた環境は酷いものだったのだ。

 

 直接的な暴力を振るわれていた訳ではない。だが時に精神的な暴力は殴られるよりも深い傷を子供の心に残す。現に目の前の少女は口数も表情の変化も乏しい、感情表現が上手くできない子供になってしまっていた。

 

 今この時も、シオナは親から虐待されていると伝えられても涙を零すこともない。ただ表情に諦観めいた憂いを貼り付けているだけだ。

 

 そんなシオナにシドウは更に残酷な事実を伝えなければならない。

 

「本来であれば行政による指導があって、シオナが家庭に戻れるように支援していくんだけど……」

 

 そこでシドウは言葉に詰まってしまう。シオナの両親の言葉をそのまま伝える訳にはいかず、直接的な物言いを避けようとしたのだ。

 

 だがそこはシオナ。シドウが何を口にしようとしたのか察し、先に口を開いた。

 

「あの人たちは、私を拒絶した……違う?」

 

「そんなことは──」

 

「分かってる……捨てられたって、言えないことくらい……大丈夫だから」

 

「……っ」

 

 子供らしからぬ聡明さでシオナはシドウの立場を汲み取り、その上で気遣いも配慮も要らないと切って捨てた。既にシオナ自身が病院のやり取りで両親に見切りをつけているのだ。今更拒絶されようと、化け物扱いされようと驚きはしない。

 

 ただ、何の痛痒も感じない訳ではないが。

 

 俯いたまま黙り込んでしまうシオナに、シドウは己の不甲斐なさを恥じて頭を掻いた。同時に一連のやり取りでシオナ相手に下手な誤魔化しや気遣いは逆効果だと察し、マニュアル通りの対応を捨てる決意をした。

 

「ご両親はシオナと一緒には暮らせないと言っているんだ。児童相談所が何度かカウンセリングをしているけど頑なでね」

 

 児童相談所が何度連絡してもシオナの面会に来ず、せめて手紙だけでも訴えても拒絶。それどころか自ら家庭裁判所に訴え出て親権の喪失を求めている始末だ。これには児童相談所の職員も言葉を失った。

 

 流石にそこまでのことは言えず、それでもかなり直接的な表現でシドウは両親の意思を伝えた。

 

 シオナはシドウの言葉にしばし瞑目し、やがて何もかも諦めたように溜め息を零した。

 

「ん……分かった。私も、一緒にいたくない……これで、いい?」

 

 両親に養育の意思がなく、子供側もまた拒絶している。親権喪失にあたって絶対的に必要な条件である親と子供の意思が揃ってしまった。これで無理に戻そうとすれば、それこそ虐待が悪化しかねない。

 

 だが本当にこれでいいのか。シドウは最後の確認の意味も込めて問い掛ける。

 

「本当にいいんだね?」

 

「……普通の幸せを奪ったのは、私……だからせめて、これからの幸せの邪魔をしたくない」

 

「それは違うよ、シオナ。君は誰からも幸せを奪ってなんかいないし、何も悪くない。そこだけは間違えちゃいけない」

 

「……じゃあ、これはナギサのため。もう二度と会うこともない、妹のため……」

 

 そう言ってシオナは無表情に寂し気な微笑みを浮かべ、シドウに向かって頭を下げた。

 

「大丈夫だとは思う……でも、念のために……あの人たちの未来を、見守ってあげて」

 

 ナギサはシオナと違って普通の子供だ。だから心配は要らないと思うが、それでもまた同じような悲劇が起きないように経過観察を依頼した。それは偏に何の罪もない無垢な妹の幸福を願った、シオナにできる唯一の祝福だった。

 

「……分かった。任せてくれ」

 

 余りにも健気なシオナの在り方に、シドウは見えない位置で拳を震える程握り締めた。

 

「……此処からはシオナの今後の話なんだが、二つ選択肢がある。もちろん、オレが提示する以外の道を選んでくれても構わない」

 

 シドウの前置きにシオナは小さく頷いた。

 

「まず一つ、施設に入所する道。シオナと似たような境遇の子供達と一緒に暮らすことになる。これが最も一般的な道になるかな」

 

 シオナの前世の時代よりも遥かに進んでいたとしても、変わらず児童虐待や親のいない子供という社会問題はある。そういった子供達の受け皿となる施設がこの時代にもきちんと存在していた。

 

 しかしシオナとしてはこの選択はない、と心中で決めていた。何故なら、下手な施設に入所してキングに目を付けられる、或いは洗脳やら何やらされて使い捨ての尖兵にされるというとんでもないリスクを孕んでいるからだ。

 

 流星三作目において犯罪組織ディーラーを率いるボスである、ミスター・キング。その表の顔は世界中の恵まれない子供達に人道的支援を惜しまない慈善家であり優秀な科学者。子供のために寄付をし、孤児を保護する人格者とされている。

 

 だがその実態は保護した子供を悪事に利用して、使い捨てにする悪人。自らの欲望を満たすために子供達を洗脳して工作員に仕立て上げ、駒のように使い潰す冷酷非情な外道だ。

 

 勧められるがままに施設に入所して、その施設がキングの息が掛かった場所でしたでは笑えない。だったらまだサテラポリスに飼い殺しにされるほうがマシである。シドウの様子からしてサテラポリス側がシオナを利用しようという意図は今のところ見えないが。

 

 あからさまではないが若干眉を顰めたシオナに、シドウは苦笑して二つ目の道を提示する。

 

「二つ目、養子縁組を組む。新しい家族のもとで生活を始めることになる。こっちは相手ありきだから、すぐにどうこうとはいかない……だけど」

 

 急に歯切れ悪く、困ったように頭を掻くシドウ。何か不都合でもあるのかとシオナは小首を傾げる。

 

 シオナとしては親という存在に期待をするつもりは毛頭なく、最低限の衣食住さえ用意して貰えるなら誰でもいいとすら思っていた。そんな願望すら贅沢だと言われてしまえばお手上げになってしまうが。

 

 じっとシオナが答えを急かすように見つめると、やがてシドウが折れて何処か疲れたような微苦笑を零した。

 

「実はシオナの養子縁組候補に立候補している方が既にいてね。人格も経済力も申し分なし、唯一のネックはご本人が高齢で旦那さんを亡くされていることなんだけど……」

 

「……?」

 

 こんな無愛想で可愛げのない、おまけに盛大にやらかした前科持ちの子供を養子に迎え入れようとしている変わり者がいることに、シオナの胸中は疑問符で埋め尽くされる。

 

 最初に脳裏を過ったのはあかねの存在。心優しいあかねがお隣さんのよしみで縁組を申し出たのかと考えたのだが、後に続いた問題点でその可能性は消えた。ではその問題点が全て当て嵌まった上で、シオナを引き取りたいと口にする奇特な人間とは誰なのか。

 

「その人は俺もよく世話になってる人でな。一日でも早くシオナと会って話してみたいと仰って、実は隣室で待機しているんだ。シオナさえよければ、話してみないか?」

 

「いま……?」

 

 流石のシオナも相手の行動力に驚いてしまう。シオナが家族との離別を選ばない、或いは迷うことなく施設への入所を希望していたらどうするつもりだったのか。完全な無駄足になっていたかもしれないというのに。

 

 養子縁組候補者にそこはかとない不安と疑念が湧き始めるが、顔を会わせる前から拒絶する訳にもいかない。肉親からの愛情に見切りをつけたシオナにとって、求めているラインは相当に低い。よほど酷い相手でさえなければ、極論誰だっていいのだ。

 

 シオナが小さく頷きを返すと、シドウは相手を呼んでくると言って席を立つ。隣室に待機していたという話は本当だったようで、数分と経たずして再び病室のドアがノックされた。

 

 いったい何処の誰が自分を引き取ろうと名乗りを上げたのか。疑問を抱えたままシオナはどうぞ、と短く入室を許可した。

 

 

 この日、シオナはシドウと邂逅した以上の衝撃を受けることとなった。養子縁組に立候補した相手が想定外の相手だったからだ。

 

 その後、シオナは養子縁組に立候補した相手と顔を突き合わせ、時間をかけて話し合った末に養子縁組の提案を受けることとなる。

 

 出会ったその日で大丈夫なのかとシドウは心配したが、シオナにとっては既知の人物で人柄も予め知っていた。直接言葉を交わして自身の知識との相違もないと確認できた以上、むしろこの人以上はいないだろうと確信したまである。

 

 かくしてシオナの将来の安泰は一先ず確保されたのであった。

 

 

 

 




児相の対応とか保護後の流れとか、色々調べて違和感が少ないようにしましたが現実とは違うところもままありますので、その辺りは創作として受け入れていただければ……。

とりあえず、シオナの今後の扱いはこんな感じです。養母が養母ですし、やらかしに対する償いとしてサテラポリスに積極的に協力する外部オブザーバーみたいな立場に落ち着くと思います。
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