心を探し求める水瓶座 作:リコレクションでも嬉しい
シオナside
久方ぶりに星河家のお夕飯にお邪魔させてもらい、あかねさんの温かい手作り料理をご馳走になった翌朝。珍しく清々しい寝起きで目覚めを迎えた私に、アクエリアスから驚きの情報が齎された。
「ハープに会った……?」
『はい。昨夜、シオナが寝ている時に。どうやら既に電波変換の相手も見つけたようです』
オックスの次はハープと来たか。三番目であることに変わりはないけれど、この時点でもう電波変換の相手を見繕っているのは予想外だ。恐らく相手はシナリオと変わらないのだろうけど……。
何となくリビングのテレビをつける。朝のニュース番組では様々なトピックが取り上げられている中、やはり一際注目されているのは響ミソラの特集だろう。
響ミソラ。私達と同じ歳でありながら今を時めく人気トップミュージシャン。ハープと電波変換してハープ・ノートとなる少女であり、シナリオにおいて星河スバルと初めてブラザーバンドを結んだ相手だ。
そして何より、ゲームにおけるメインヒロイン──
『どうかしましたか、シオナ?』
「……別に、何も。それより、ハープがウォーロックを狙っているのは確か……?」
『ええ、本人にも確認しましたので。あまり気乗りしていないようでしたが』
ハープもFM星人である以上、FM王ケフェウスからの命で地球に来ている。任務内容はアンドロメダの鍵の奪取、そしてアクエリアスの言が正しければ地球の破壊。到底看過できるものではない。
しかしアクエリアスの話を聞く限りハープは乗り気ではないらしい。アクエリアスが裏切りを勧めて靡いたことを思えば、やりようによってはゲームと同様にロックマンの味方に引き込むことも不可能ではないはずだ。
問題はどうやって説得するかであるが……。
『そう難しく考えることはありませんよ。時が来れば自然といい方向に転がるはずですから』
「……?」
『ふふっ、早ければ今夜にでも動くでしょう。それでも気になるのでしたら、実際に会ってみるというのはどうでしょうか』
意味深にアクエリアスが言うとトランサーの画面にとある情報が表示される。それは響ミソラのシークレットライブの情報であった。
「これは……」
『百聞は一見にしかずでしたか。シオナの知る響ミソラと同じかどうか、確かめてみては?』
気になるのであれば実際に確認してみればいいとアクエリアスは勧めてくる。私的には悪くない考えだと思う。ライブの開始時刻も放課後、電波変換して向かえば余裕で間に合う時間帯だ。行ってみる価値はある。
「ん、行こう……」
ライブに行くとなると放課後のスバルの動向を把握できなくなってしまうけれど、今日ばかりは仕方ないと諦める。ないとは思うけれど、万が一戦いにでもなったらアクエリアスがいなければどうしようもなくなってしまうから。
放課後の予定を決めたところでチャイムの音が鳴り響く。きっとスバルが迎えにきたんだと思う。登校拒否をする前は一緒に登下校していたから、おかしなことではない。
既に支度は整えてあったので鞄を手に持ち、アクエリアスに静かにするようお願いしてから家を出る。予想通り、玄関前にはスバルが待っていた。
「おはよう、シオナ。ちゃんと起きててよかったよ」
「ん、おはよう。私もたまには起きてる……」
朝が弱いのは自他共に認めているけれど、私だってたまには自力で起きられる。ここ最近はアクエリアスに起こされてばっかりだったけど。
「行こうか」
「うん……」
スバルと並んで学校へ向かう。もっと小さい頃は手も繋いでいたけど、流石に小学五年生になってまで手を繋いで登校しようとは思わない。恥ずかしいし、前に一度近所の奥様方から「兄妹みたいね」などと言われたから二度とやらん。髪色的に兄妹はありえないでしょ……。
私達と同じく登校中の小学生の姿がちらほらとチラつき始める。みんな、仲のいい友達と楽しく話しながら登校していた。対して私とスバルは基本的に無言である。
別に仲良くないとかいうわけじゃない。端的に言って私のコミュ力が拙いからスバルが気を遣っているのと、久方ぶりの登校にまだ緊張が抜けていないからだろう。話すときは話すし、友達らしく遊んだことだってあるのだ。
無言のまま通学路を歩いていると後ろから声を掛けられた。
「あら、今日もちゃんと登校しているのね。感心、感心」
「あ、委員長」
昨日と同じく今日も登校しているスバルに満足そうに頷くのは委員長だ。今日も今日とてゴン太とキザマロを引き連れ、キレッキレの金髪ドリルヘアを輝かせている。
「海鳴さんも一緒ね……あら、ちょっと待ちなさい」
スバルの隣に並ぶ私を見ると委員長は何処からともなく櫛を取り出し、手慣れた手付きで私の髪を梳く。
「もう、また寝癖がついていたわよ。もう少し身嗜みに気を遣いなさいって昨日言ったでしょ?」
「ん、ありがと……」
「明日からは自分でちゃんとやるのよ。いいこと?」
「善処する……」
ぶっちゃけると面倒くさい。小学五年生で髪型やオシャレにそこまで気を遣っているのなんて委員長くらいだと思う。確かに身嗜みは大切だけどさ……。
「じゃあ星河君。これからも続けるように、頑張りなさいな」
「続けろよな」
「続けてくださいね」
ゴン太に頭を小突かれ、キザマロに念押しされてスバルはちょっぴり鬱陶しそう。あれだ、親に何度も勉強しろと言われると余計やる気が失せるやつだね。分かるとも。
はぁと小さく溜め息を洩らすスバルの肩に手を載せる。背丈の格好でちょっと不格好な体勢になってしまうのは目を瞑ってほしい。
「嫌なら帰る……?」
「いやいや、ここまで来て帰ったりしないよ。大丈夫だから」
苦笑しながらも言うスバルに無理をしている様子は見受けられない。前を向いて再び学校に歩き出す。私も遅れまいとその隣に肩を並べた。
そうして歩いていると、登校拒否をする前のスバルにすっかり戻ったような気がして、私は何だか少し嬉しくなった。
♒︎
放課後である。以前ならスバルと一緒に朝と同じく下校するかスバルの行動を把握するためこっそり尾けていたところであるが、本日は響ミソラのシークレットライブがある。一緒に帰ろうと誘ってくれたスバルには悪いけれど、予定があると断らせてもらった。
その時、スバルがやけに驚いていたけど、私だって予定の一つや二つあるからね? ここ最近はスバルの尾行に費やされてばかりだし、イベント事に参加するのもこれが初めてだから強くは否定できないけども。
スバルの怪訝な眼差しを振り切って教室を出る。すると私の後に続いて教室を勢いよく飛び出す三人組。言わずもがな委員長達だ。
「早くしなさい、二人とも! 急がないといい席が埋まっちゃうじゃない!?」
「待ってくれよ委員長〜」
「ネットでシークレットライブの情報を見つけたのは僕なんですからね〜」
廊下を競歩で駆け抜ける委員長達の会話を聞いて、彼女達も響ミソラのシークレットライブに参加することを悟る。しかしゴン太とキザマロが響ミソラの熱狂的なファンであることは知っていたが、委員長までもがあそこまで熱烈なファンだとは知らなかった。シナリオではそこまで興味なさそうな雰囲気だったけど……。
疑問を抱きながら私も急いで学校を出る。人気のない路地裏に入り、そこで電波変換してライブ会場まで飛ぶ。無論、足で走る委員長達よりも早く着いたのは言うまでもない。
シークレットライブだから人は少ないのではないかと考えていた私であったが、会場の外にまで並ぶ老若男女の列に甘い考えだったと悟らされる。さすがは響ミソラ。年齢層も幅広く熱狂的なファンが数多くいるわけだ。
取り敢えず私も並んでおく。その数分後、会場前の広場に猛スピードで黒塗りの車が駆け付けた。車内から飛び降りてきたのは金髪ダブルドリルと愉快な仲間達……って、委員長達だった。わざわざ車まで走らせるとか、本気すぎるよ……。
委員長達は私よりも少し後ろに並ぶこととなる。恐らく、席には座れるのではないかと思う。コンサートホールの規模を把握していないので断言はできないけど。
それからしばらく待っていると開場のアナウンスが聞こえ、長い列が順々に会場内へと入っていく。私も流れから弾かれないように気をつけながら入場し、端の方の席に座った。
ライブの始まりまでまだ時間がある。他の客達が響ミソラの登場を今か今かと待つ中、私は落ち着きなくきょろきょろと会場の飾り付けや機材なんかを観察する。
『シオナ、もしや緊張しているのですか?』
あまりにも落ち着きがなかったからかアクエリアスが尋ねてきた。私は内心でちょっと気恥ずかしさを覚えながら答える。
「ちょっとだけ……初めてだから、こういうの……」
前世含めてこういったイベント事に参加するのは初めてだ。参加したいイベントがあっても時間の都合や開催地が遠かったりとで前世は機会に恵まれず、今世はそもそも興味のあるイベント事がなくシナリオのことばかり頭にあって精神的に余裕がなかった。だからちょっとだけ緊張しているし、楽しみでもある。
『ふふっ、それはよかったです。たまには息抜きも悪くないでしょう?』
「ん、ありがと……」
『いえいえ……おや、そろそろ始まるのでしょうか』
観客達がミソラコールを始め、いよいよ会場内が盛り上がってきた。あとは主役たる響ミソラが登場するだけとなったところで、舞台袖からそそくさと見覚えのある男が現れる。
確か響ミソラのマネージャー、名前は金田……金田金太郎? なんか違う気がするけど、そんな感じの名前だったと思う。
マネージャーは非常に申し訳なさそうな顔をしながらマイク片手に話し始める。
「えぇ、お集まりのファンの皆さん。申し訳ない! ミソラは過労で倒れ、緊急入院しました」
マネージャーから告げられた驚愕の事実にファン一同が揃って声を上げる。響ミソラを心配する声が多数上がり、マネージャーは深々と頭を下げながら続けた。
「ライブはミソラが回復次第、また告知させていただきます。本当に申し訳ない!」
そう締めくくり、マネージャーはしばらく頭を下げ続けた。
観客から上がる声に非難の色はない。全員が全員、響ミソラの体を心配している。ライブの中止は残念ではあるが、それよりも響ミソラの無事が一番なのだろう。
『あらまぁ、残念でしたね、シオナ……シオナ?』
「……アクエリアス、行くよ」
ざわめきの収まらない観客席を立って誰よりも早くホール内を後にする。マネージャーがライブの中止に当たって特典を配るだとか言っていたけれど、そんなことより私には確認しなければならないことがあった。
「電波変換、海鳴シオナ、オン・エア……」
会場を飛び出てすぐに人目がないことを確認して電波変換、ウェーブロードに乗って天地研究所へ急ぐ。もしも今のライブがシナリオで言うところの展望台で開かれる予定だったものであるのなら、今頃スバルと響ミソラはアマケンに向かっている可能性が高い。
コンサートホールから一瞬で天地研究所に到着する。そのまま研究所内部に侵入し、スバルと響ミソラの姿を探す。けれどあちこち探し回っても二人の姿はなく、スバルが一番に接触するだろう天地さんに張り付いてみても二人が訪れる気配はなかった。
「また、違う展開……?」
『酷く焦っていたので何事かと思いましたが、早とちりだったみたいですね』
ぐぬぬ、シナリオはもう殆ど当てにならないとは分かっていたけれど、ここまで狂うと次の展開が全く予想できない。今頃スバルは何をしているのか、響ミソラは何処にいるのか。分からないことだらけだ。
取り敢えず帰ろう。今日のところは収穫なし、夜に事態が動くことに期待する他ない。アクエリアスも早ければ今夜にでも動きがあると言っていたし、それを信じて待つのも一つの手である。
「帰る……」
『幼馴染君の家にでも寄りますか?』
何故そこでスバルの家に寄る提案をするのか。じとーっとした思いを抱けば、アクエリアスから揶揄うような気配を感じた。
『ふふっ、だってシオナ、幼馴染君が響ミソラと二人きりになってると思って慌てていたのでしょう? 違いますか?』
「……ち、違う」
『シオナは分かりやすくて可愛いですね』
「だから、違う……」
否定するもアクエリアスは悪戯っぽく笑うだけでまともに取り合ってくれない。別にスバルが何処でどんな女の子とよろしくしていても、私には関係ないこと。いちいち文句を付けたり邪魔をしたりなんて大人気ないことはしません。
『私でしたら、逢瀬の現場に何食わぬ顔で登場する自信がありますね』
マジですか、流石アクエリアスさん。想い人をその手にするためなら私達にはできないことを平然とやってのける。良い子は真似しちゃダメだよ?
例によって平常運転のアクエリアスに頭を痛めながら、それでも恋の応援は止めない。人を思う気持ちに貴賎はないから。限度はあったほうがいいと思うけども。
その後、やはりこれといった収穫もないまま私は帰宅するのだった。
ちなみにスバルは普通に帰宅していた。外出して誰かと会っていた様子もなく、趣味の機械弄りに没頭していた模様。何で分かったかって? 私の部屋の窓とスバルの部屋の窓は向い合っている。つまりそういうこと。
♒︎
良い子は眠る深夜帯。アクエリアスの言葉を信じて、私は自室の窓から星河宅を見張っていた。気分は張り込みしている刑事である。現実はサテラポリスに怪電波呼ばわりされて追い回されているけど。
襲い来る眠気の波に舟を漕ぎながらも待つことしばし。ようやく事態が動き出した。
『始まりましたね。ハープが彼を呼んでいます』
私には分からないけれど、電波体であるアクエリアスには感じられるらしい。コダマタウンの電波塔の一つからウォーロックだけが感知できる特定の周波数の音波が発せられているそうだ。
何故、ウォーロックだけが受信できる音波を然も当然の如くアクエリアスも感知できているかは知らない。藪蛇になりそうだから聞くこともしない。
音波が発信され始めてから数分と経たずしてウォーロックが星河宅を出て電波塔へ向かったとアクエリアスが報告してくれた。一方スバルに動きは見られないというか、熟睡しているように見えるのは気のせい? 呑気だなぁ……。
『いつまでも幼馴染君の寝顔を見てないで、行きますよシオナ』
「してない……」
別にスバルの寝顔なんて見飽きるほど見てますから。幼稚園の頃とか、お昼寝の時間に飽きるほど見てきたから今更どうこう思わない。だからさっとスバルの寝顔から目を逸らし、ウォーロックの後を追うべく電波変換する。
アクエリアスの案内に従って音波の発せられている電波塔の近く、私達の存在を気取られないだろう高層ビルの屋上に降り立つ。見れば既にウォーロックとハープの戦いは始まっており、電波変換した私の目には激しく衝突を繰り返す緑とピンクの閃光が映っていた。
素人目ではあるけど趨勢はウォーロック優勢に傾いているように見える。FM星で戦士として戦っていた分、ハープよりもウォーロックの方が腕っ節が強いのだろう。
やがて二人の戦闘に決着がつく。ウォーロックの強烈なタックルがクリーンヒットしてハープが建物の屋上に落ちた。かなりいい一撃が入ったらしく、これ以上の戦闘続行は不可能だろう。
これで終わりかと思われたがハープはまだ諦めていないらしく、電波塔の陰へ飛び込むと鮮やかな閃光が炸裂。数秒の間を置いて姿を現したのは私もよく知る少女であった。
「ハープ・ノート……」
『あの子がハープさんのお相手ですか』
響ミソラとFM星人ハープが電波変換した姿──ハープ・ノート。全体的にピンク色な様相の可愛らしい女の子である。
電波変換したことで能力が上昇したハープ・ノートはウォーロック相手に善戦し始める。スバルがいない状態では如何にFM星の誇り高き戦士であったウォーロックをしても分が悪い。徐々にではあるけど追い詰められてしまう。
「これ、不味い……?」
スバル抜きのウォーロックがハープ・ノート相手に勝てるとは思えない。もう一つ言えば想い人がボコられてアクエリアスが黙っているかも心配である。
しかしウォーロックが一方的に攻撃を受けてもアクエリアスは泰然とした態度のまま。暴走することもなく静かに含み笑いを零すだけ。はっきり言って不気味である。
「いいの? このままだと、ウォーロックが負ける……」
『ふふっ、心配には及びません。もうすぐ幼馴染君が到着しますから』
「えっ……」
驚いて周囲を見回すと、アクエリアスの言葉通り電波塔の階段を駆け上がる幼馴染の姿があった。恐らくウォーロックの不在と外で繰り広げられる激しい争いの電波に気づいて駆け付けたのだと思うけど、さっきまでぐっすり熟睡してなかった?
幼馴染の勘の良さに感心しているとウォーロックのピンチにスバルが乱入、危ないところで助けが間に合った。そこからロックマンとハープ・ノートの戦闘が始まるかと思いきや、地上で鳴り響くサイレンの音にハープ・ノートが退散。勝負の行方は有耶無耶に終わった。
ウォーロックはトランサーに戻り、駆け付けたスバルは何が何だか分からない顔で途方に暮れている。そこへ下から駆け上がってきたお馴染み五陽田刑事とサテラポリスの人達。案の定、スバルはサテラポリスの方々に保護されて連れて行かれてしまった。
『おやまぁ、連れて行かれてしまいましたね』
「ん、ちょっと気の毒……」
ウォーロックと電波変換してさっさと立ち去ればよかったのではと思わなくもないけど、ハープ・ノート相手に結構な疲労を強いられていて電波変換する余力がなかったのだろう。これはまたあかねさんが呼ばれるパターンかな。
きっと明日あたりは落ち込んでいるんだろうな、その時は黙って肩を叩いて上げよう。二度目の連行に肩を落とすスバルに合掌して、私はしれっと帰るのだった。