心を探し求める水瓶座 作:リコレクションでも嬉しい
シオナside
翌朝、いつもの如く迎えに来てくれたスバルは私の予想を裏切ってそこまで落ち込んでいる様子は見られなかった。むしろちょっと上機嫌なまである。この感じはあかねさんから何か言われたのかな。何にせよ、落ち込んでいるよりはいいのでよかった。
学校では特筆して語るようなこともなく、授業が終わって迎えた放課後。今日は予定もないのでスバルと一緒に帰ろうと思ったら、そのスバルが委員長達に絡まれていた。
聞き耳を立ててみるとどうやらショッピングのお誘いらしい。十中八九荷物持ち要員としての誘いで、嫌そうな顔でスバルは断ろうとするもゴン太の圧力にあっさり負けて参加を表明する。
むぅ、スバルは委員長+αとお買い物かぁ……仕方ない、私も委員長達に気付かれないようにこっそり後を尾けよう。いつ何処でまたハープ・ノートと戦うことになるか分からないからね。可能な限りスバルに張り付いておかないと知らない間に展開が進んでいたなんてことになりかねないから、仕方ないのだ。
そう自分に言い聞かせていると頭上に影がかかる。見上げれば委員長が両腰に手を当てて私の席の前で仁王立っていた。
「海鳴さん、よければあなたもショッピングに行かないかしら?」
「私も……?」
珍しい展開だ。委員長が私に話しかけてくるのも珍しいけれど、放課後の予定に誘われるなんて初めてである。いったいどんな風の吹き回しなのか。
委員長は優雅な笑みを浮かべると言った。
「次期生徒会長を目指す者として、支援者との親密な交流は欠かせないことよ。それに、個人的に海鳴さんの女の子としての自覚のなさには物申したいことが山ほどあるもの」
なるほど、理解した。いつから私は委員長の支援者になったのかとか余計なお世話とか、色々と物申したいことはあるけれどお誘いの経緯は分かった。
私としてもわざわざこそこそと隠れることなく堂々とスバルの動向を把握できるチャンスなので断る理由もない。委員長のお誘いに私は首を縦に振った。
「決まりね。じゃあ行くわよあなた達!」
「おーう!」
「はい! 委員長!!」
高らかな号令に応じるゴン太とキザマロ。流石にそのテンションにはついていけずぼうっとしていると、同じく呆れた感じのスバルがすぐ隣に立つ。
「なんかごめんね、シオナまで巻き込んじゃって」
「気にしてない。スバルとお買い物、久しぶりだから……」
「ボクはただの荷物持ちだろうけどね」
ちょっぴり憂鬱げにぼやくスバルだけど断らないあたり根がお人好しなのだろう。将来的に、そのあたりを付け込まれないかが幼馴染としては心配である。
「二人とも、いつまで惚けているの。早く行くわよ!」
教室出入り口付近で委員長からお呼びの声がかかる。私はスバルと顔を見合わせてからすぐに荷物を纏めて委員長達について行った。
流星のロックマンでショッピングと言えばヤシブタウンとかロッポンドーヒルズ、あとはスピカモールが上がると思われる。しかし現実になればショッピングモールなんてちょっとバスに乗ればいくらでもある。委員長率いる私達はそんな幾つもある大型商業施設の一つにバスでやってきた。
「さあ、今日は何を買おうかしら」
モール内に入って開口一番に委員長がそう言った。前もって何を購入するか決めておかないところとかが女の子らしく、男の子との考え方の違いである。ちなみに私は委員長に引き摺り回されることが決定しているのか、はたまた迷子防止かは知らないけど委員長にしっかりと手を握りしめられてしまっている。
「とりあえず服は決定ね。それからアクセサリー類と雑貨を見て回りましょう」
行動方針を決めた委員長は私の手を引いて手当たり次第にブティックを回っていく。幾つもの店を巡り、気に入った物があれば試着して私にも試着させ、自分が欲しい物は自分で購入し私に似合う物があれば勧めてくる。ちょっぴり押し付けがましいところはあるけれど、嫌味は感じられない。
委員長のセンスがいいのもあるのだろう。購入を強要するわけでもなく勧めてくるだけに留まっているのもポイントだ。色々と残念な部分(主にロックマン絡み)が見られる委員長であるが、やはり基本的に人に好かれる人徳のようなものがあるのだと思う。でなければ生徒会長になんてなれない。
ちなみに購入した品々は男性陣がヒイコラ言いながら持ってくれている。中でも力自慢のゴン太は凄い。現実で自分の背丈より高い箱タワーを持つ人を私は初めて見たよ。
私も委員長に勧められて幾つかの物を買ったけど、それはスバルが持ってくれた。この辺りの気遣いはあかねさん仕込みである。
それでもごく自然に私の手から荷物を受け取ったり、試着に対して的確なアドバイスをする能力とか、小学五年生にしてはちょっと出来すぎだと思う。その辺りは委員長も驚いていた。
「星河君って、ほんとによく海鳴さんを見ているのね」
なんてお言葉も頂いていた……いや、なんか違くない?
そうして比較的充実したショッピングを楽しみ、モール内のテナントを片っ端から回ったのだった。
◆
ルナ主導による放課後ショッピングに一区切りがつき、一行はショッピングモールを出ていた。ホクホク顔のルナを先頭に、そのすぐ後ろに並ぶのは山とばかりに荷物を抱えるゴン太とキザマロ。そして少し後ろにシオナとスバルが並んでいた。
「さあ、次は何処に行こうかしら」
まだまだ元気が有り余っている様子のルナは次の目的地を思案し始めている。ショッピングに対して発揮される女の子のバイタリティは無限大だ。例外もあるが。
「疲れた……」
ルナに付き合わされてあちこちへ連れ回されたシオナは既に疲労困憊であった。
服装はショッピングモール内で試着し購入した白いワンピースと麦わら帽子に変わっている。基本的にオシャレに無頓着であり、なおかつ子供っぽいなる理由でスカートの類を好まないシオナにしては珍しい選択だ。
それもこれも試着の際に「よく似合ってると思うよ。なんだかお嬢様みたい」と本物のお嬢様がいる隣でスバルがそんな感想を洩らしたからである。今回のショッピングにおいてシオナが購入を決めた物の大半にそんな経緯があったりした。
儚げな雰囲気漂うお嬢様のような装いのシオナと肩を並べるスバルは、服装が変わっても変わらないシオナの態度に微苦笑を零す。
「シオナ、大丈夫? 無理なら先に帰らせてもらおうか?」
「……まだ、いける」
「そっか。辛くなったらきちんと言ってね。無理して倒れたりしたら大変だから」
「らじゃー……」
いつもに増して覇気のない声にギブアップが近いなとスバルが内心で考えていると、ルナ達含める道行く人々が足を止めていることに気づく。何事かと民衆の視線を追えば街の至る所に設置された大型ディスプレイに響ミソラのライブ映像が映し出されていた。
昨日あたりから失踪のニュースが広まり世間を騒がせている人気トップミュージシャン響ミソラ。やはり気になっていたのかルナ達も立ち止まって映像に目を留めている。
かくいうスバルであるが、その手の話題にあまり関心がないためつい最近まで響ミソラのことを知らなかった。しかし映像内で歌うミソラの姿を見て妙な既視感を覚えていた。
「あれ、あの子……」
「どうかした、スバル……?」
常と変わらぬ無表情でシオナが尋ねてくる。スバルは微かに眉根を寄せながら、何でもないと首を振ろうとして──
『──眠れ眠れほ〜ら』
ジジッと短いノイズ音の直後に街中のディスプレイ全ての映像が切り替わる。明るく元気よく歌っている響ミソラのライブ映像から一転、全体的にピンク色が目立つ装いの少女が一風変わったギターを弾きつつ歌い始めた。
「あれは昨日の……!」
昨夜、ウォーロックと戦っていた少女の登場にスバルは愕然と目を見開く。ウォーロックから近いうちに動きを見せるだろうと伝えられていたが、一体何をするつもりなのか。
スバルが身構えていると歌を聴いていた人達が次々と倒れ始めた。どうやら眠ってしまっているようで、ルナ達も地べたに崩れ落ちて眠り始めてしまう。
そしてシオナも、ふらふらと体を揺らしたかと思うと隣にいたスバルに凭れかかってきた。
「シオナ!?」
『落ち着け、スバル。こいつも寝てるだけだ。それより早く止めねえと不味いことになるぞ!』
「……! 分かった、行こう!」
小さな寝息を立てる幼馴染をゆっくり寝かせ、ウォーロックと電波変換する。ロックマンへと変身したスバルはこの歌の元凶を止めるべく飛び立つのだった。
スバルが事態の収拾に向かって少し、眠りこけていた集団の中の一人がむくりと体を起こす。日頃から眠たげな無表情がデフォルトのシオナだ。
「……アクエリアス」
『はい、もう大丈夫ですよ。ロックマンも離れましたし、歌声も遮断いたしました』
「ありがと……」
一言お礼を言ってシオナは立ち上がり、ずっと左腕を抓っていた右手を離す。スバルは最初からウォーロックが守ってくれていたようだが、アクエリアスの存在に気付かれるわけにはいかなかったシオナは自力で眠気に耐えていたのだ。
赤くなった左腕を摩りつつシオナは上を見上げる。
「追いかける……行くよ、アクエリアス」
『はい、参りましょう』
その場で電波変換してシオナもすぐに電波ジャックの大元へと向かう。途中、見覚えのある刑事が乗るパトカーが暴走している場面を見るも普通にスルー、ハープ・ノートの元へ急いだ。
「いた……」
『戦っていますね』
ロックマンとハープ・ノートは電波塔の屋上で戦闘の真っ只中であった。シオナは少し離れた建物屋上の陰に隠れて様子を見守る。
ハープ・ノートがスピーカーから音波を飛ばし、ロックマンは避けながらバトルカードで応戦する。素人目には互角にも見えなくないが、今までの戦いぶりを見てきたシオナにはロックマン有利に戦況が傾いていると読めた。
というか──
「思ったより、ハープ・ノートが弱い……?」
『うふふっ、そうですね。それも仕方ありませんが』
「どうして……?」
『その答えはすぐに分かりますよ。ほら』
アクエリアスが言うと同時、ロックマンの放ったガトリングが多数ヒットしてハープ・ノートが大きく吹っ飛ばされた。
屋上をごろごろと転がって止まったハープ・ノートはダメージを負いながらも立ち上がろうとしたのだが、何やら問題が起きたようだ。どうやらハープが操っていた響ミソラの意識が今の衝撃で覚醒してしまったらしい。
身に覚えのない風景に困惑するミソラ。そこへロックマンがハープの狙いが地球人の抹殺であることを伝え、ミソラとハープが揉め始める。もうハープ・ノートは戦える状況ではなくなっていた。
そんな様子を見てアクエリアスはシオナに説明を始める。
『前にも言いましたが、FM星人は地球人を洗脳して操ることで力を振るうことができます。しかしその手法ですと、発揮できる力はせいぜい半分が限界。完全に地球人の意識を塗り潰して同調するか、あるいはロックマンのように互いに協力し合わない限り、真の実力は出せない』
「じゃあ、ハープ・ノートが負けたのは……」
『元よりハープさんが戦いに向いていないというのもありますが、単純に電波変換した地球人との関係性の違いですね。まあかくいうロックマンも、電波変換の全てを引き出せているとは言えませんが……』
「そう……」
理解を示すようにシオナが小さく頷くとまたもや聞こえてくるサイレンの音。事変解決に乗り出したサテラポリスが駆け付けたようで、地上で無数の赤いランプが点滅している。
サテラポリスが来たことで逮捕を危惧したのかいの一番にハープ・ノートが姿を消す。嵐のような展開にまたもやロックマンことスバルはぽかんとしていたが、三度目の連行は敵わないとその場を後にした。
「ん、私達も帰る……」
『そうですね。早く戻らないと幼馴染君に怪しまれてしまいますから』
ロックマンが戻る前に元いた場所で寝ていなければ怪しまれてしまう。シオナは大慌てで踵を返す。その途中、アクエリアスが一つの提案をした。
『申し訳ありませんが、しばらく別行動をしてもいいでしょうか?』
「ん、いいけど……なにするの……?」
『ふふっ、それは秘密です』
茶目っ気たっぷりに言うアクエリアスに、まあ悪いことにはならないだろうと楽観してシオナは特に否定もせず頷き、ロックマンよりも先に委員長達の元へ戻るのだった。
この判断が翌日、シオナの度肝を抜くことになるのだが、それは明日の話である。
◆
ハープ・ノートによる騒動の翌日、世間では謎の集団催眠事件として騒がれ原因の究明に専門家が動いているとニュース番組では報道されている。
その騒動の原因を知る一人であるシオナは学校が休みとあってマイペースに眠りこけていた。ちなみに現時刻は午前十時前、普段ならば起こしてくれるアクエリアスも別行動に出た切り戻っておらず、ショッピングに連れ回された疲労もあって爆睡している。
穏やかな寝息を立てて眠るシオナ。そこへ昨日から別行動をしていたアクエリアスがトランサーに帰ってきた。
『あらあらまぁ、こんな時間まで眠りこけてしまって。いけませんよ、シオナ。早起きは三文の徳と言うのでしたか、そろそろ起きてください』
アクエリアスの声にシオナが身動ぎする。悩ましげな声を洩らしながら重い瞼を開き、ぽけーっとした顔でトランサーの画面内に居るアクエリアスを認めた。
「……ん、アクエリアスお帰り……ふぁ……」
『ただいま戻りました。それよりシオナ、朝食はちゃんと摂りましたか?』
「……夢の中で食べた」
『食べてないんですね。まったく、ダメですよきちんと食べないと』
バツが悪そうにそっぽを向くシオナを母親のように叱るアクエリアス。なんとも微笑ましい構図であるが、片方は正真正銘の宇宙人であることを忘れてはならない。
『ほら、起きてくださいシオナ。貴女に会わせたい方がいらっしゃるんですから』
「会わせたい人……誰?」
首を傾げるシオナにアクエリアスは悪戯っぽく笑う。
『それは会ってみてからのお楽しみです。とりあえず起きてください』
「分かった……」
ここまでの会話でそこそこに意識が覚醒したシオナはベッドから起き上がるとリビングに向かう。微妙な時間帯であるが軽くでも朝食を食べておかなければアクエリアスに文句を言われそうだったのでそのままキッチンに立つ。
とりあえず冷蔵庫から牛乳を取り出してコップに注ぎ朝の一杯。根拠なんてないが将来的には色々と大きくなるための努力である。
コップの半分ほどまでを飲んだところでシオナはふと気づく。テレビの前に据え置かれたソファ越しにこちらを見やる、非常に見覚えのある少女がいた。
──響ミソラである。
「あ、初めまして! お邪魔してます! 私、響ミソラって言うんだけど、分かるかな?」
爛漫と笑顔を咲かせるミソラ。対してキッチンのシオナは二ミリほど目を見開き、内心で唖然呆然としていた。
噴き出す前に牛乳を飲み下し、シオナは己の友人に無言で問い質す。基本的にシオナの度肝を抜くのはアクエリアスの仕業である。当人も隠す気がないのか、楽しげに笑みを零していた。
『ふふっ、そう怒らないでくださいシオナ。ちょっとしたお茶目です』
「ちょっとじゃない……」
目が覚めて遅めの朝食を食べようとしたら家の中に原作メインヒロインがいた、なんてビックリドッキリ展開にさしものシオナも驚きが隠せない。
無表情でも不機嫌な雰囲気を醸し出すシオナにミソラがやや不安げに声をかける。
「あの〜、やっぱり勝手に上がるのは不味かったかな? ハープのお友達のアクエリアス? がいいって言ってたけど、まだ寝てたみたいだし……」
「……別に、いい……ちょっと驚いただけ……」
ちょっとどころではない、顔に出ていないだけで内心では大パニックであるがそこはこの無表情。良くも悪くも常時ポーカーフェイスである。ただし見方を変えればただの無愛想だが。
「とりあえず……説明、して……」
現状の把握を優先し、シオナはこの状況を作り上げた元凶に説明を求めるのだった。