心を探し求める水瓶座   作:リコレクションでも嬉しい

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第9話

 シオナside

 

 

 本日は金曜日、学校は終わり放課後である。基本的に放課後に予定はない。ウォーロックと出会う前のスバルは平日も休日も関係なく、大半の時間を部屋で過ごしていたので私もそれに倣えをしていたのだ。

 

 しかしウォーロックと出会ったことでスバルは積極的に外出するようになった。厳密にはウォーロックが駄々をこねて仕方なく出掛けているらしい。家を出る時のスバルの顔を見れば大体分かる。

 

 今日のスバルは公園で時間を潰すつもりらしい。一人でブランコに乗ってウォーロックと会話している。側から見たらブランコに乗りながら一人ぶつぶつと喋る小学生だった。アクエリアスと話す時は周りの目に気をつけよう……。

 

『はぁ、シオナもよく飽きませんね』

 

 公園の茂みからスバルの様子を覗いているとトランサーから呆れ混じりの声が聞こえた。ひとりでに開いたトランサーの画面には肩を竦めるアクエリアスの姿があった。

 

 飽きるも何も、いつ何が起きるか分からない現状でスバルから目を離すわけにはいかない。だからこうして尾行して、気づかれないように見守っているのだ。仕方なく、本当に仕方なく。

 

 そもそもアクエリアスだって、彼の側に居れるのならどんな手も使う恋の追跡者(チェイサー)と自他共に認めているくせに……。

 

 アクエリアスと不毛な論争を小声で交わしているとスバル達に動きがあった。何やら二人の頭上を煙の輪がゆっくり通過していったのだ。

 

 科学や宇宙が大好きなスバルはその輪に興味を示し、輪が飛んできた方向へと駆け出す。私もこそこそと茂みに身を潜めながら後を追う。

 

「さっきの……前に見たことある」

 

 スバルの頭上を通り過ぎていった煙の輪。あれは確か液体窒素か何かの煙を充満させた空気砲を発射した時に発生するものだったはず。前世でサイエンスショーに引っ張りだこな先生がやっていた。あれは見ていて面白かったなぁ……。

 

 なんて考えながら煙の輪の発射地点に辿り着くと、そこには驚くべき人物がいた。

 

 アフロと二重人格もとい育田先生と双葉少年がいたのだ。しかも初対面にも拘わらず何やら科学絡みの話で盛り上がっており、見る見るうちに距離を縮めていくではないか。

 

「むぅ、これは不味い……」

 

 今まで影も形もなかった育田先生の登場には驚いた。微かに聞こえてくる会話からすると、近くの科学館に勤めておりそこで子供向けの科学教室を開いているそうだ。双葉少年は科学教室の常連らしい。

 

 困った。よもやこんな形でスバルと双葉少年が接触するとは思いもしなかった。しかもクラスは違えど同じ学校、科学という共通の話題があるからかスバルと双葉少年の仲は加速度的に深まっているように見える。

 

 あ、丁度良いからとばかりに育田先生がスバルを明日の科学教室に誘った。スバルも歳相応に目を輝かせて参加すると返事をしてしまう。久しぶりにうきうきしているスバルを見たかもしれない。

 

「どうしよう……」

 

 段ボール製の空気砲ではしゃぐスバルから目を離し、私は茂みの中で頭を悩ませる。

 

 育田先生はまだいい。私が警戒しているのは双葉少年だ。悪意がなかったとはいえ、シナリオにおいて最もスバルの心を抉ったのは双葉少年である。過剰なまでに警戒してしまうのも仕方ないと思う。

 

 私の知るシナリオとはまるで違う展開であるため必ずしも原作のようにスバルが苦しむとは限らない。そもそも双葉少年は二重人格ではない可能性がある。もしかしたらスバルとはただの良き友人関係に留まることだって……。

 

 ……いや、流石にそれは希望的観測が過ぎるかな。だいたい、二重人格でないからといってFM星人に取り憑かれない保証はどこにもないのだ。それは今までの人達が物語っている。宇田海さんはどうか知らないけれど、ゴン太とミソラはシナリオとは違う展開で電波変換に至っているし。

 

 今は穏やかな笑顔を浮かべている双葉少年も、裏では虎視眈々とウォーロックを狙っている可能性だって否定できない。うん、やっぱり警戒はしておくべきだね。

 

 出来ることならスバルに距離を取ってもらいたいところだけど、いくら幼馴染だからって友好関係に指図をすることなんてできない。というか、そんなことしてスバルに嫌われでもしたら私はショックのあまり軽く不登校になる自信がある。ここはしばらく様子見に徹するべきかな。

 

『そんなに気に掛かるようでしたら、闇討ちでも仕掛けてはどうでしょう? 不安の種は早めに摘んでおくに越したことはないですしね』

 

 やだ、うちのアクエリアスったらさらっととんでもないことを言ってくれるんですが。しかもこれが割と本気な提案であるから笑えない。

 

 まあでも、闇討ちまでいかずとも双葉少年の方に何かしらの圧力を掛ければ……いや、これ以上はやめよう。何だか人として踏み外してはいけない道を踏み外しそうだ。それよりもまずは目先の問題を片付けよう。

 

 明日、スバルは育田先生主催の科学教室に参加する。いつ何が起きても対応するためならば私も参加するべきなのだろうけど、偶然を装うには少し苦しい。私が普段から科学が好きでアグレッシブに活動する性質(タチ)の人間だったなら良かったんだけど……。

 

『こと幼馴染君のことに関しては積極的ですけどね』

 

 そこ、要らない茶々を入れない。話が進まないから。

 

 私が参加するのは不自然である以上、明日は電波変換して尾行する他ないだろう。いつも通り、陰から見守る幼馴染である。

 

 空気砲を使って様々な実験に取り組むスバル達の様子を、私は茂みの陰に隠れながら見守るのだった。

 

 

 

 

 

 ♒︎

 

 

 

 

 

 

 翌朝、アクエリアスのモーニングコールで目を覚ました私は眠気と格闘しながら身支度を整え、うきうき気分で科学館へと繰り出したスバルを尾行するために電波変換しようとしていた。

 

『それでは、いきましょうか』

 

「ん……電波変換、海鳴シオナ、オン──」

 

 電波変換するまさに直前、リビングに来客を知らせるチャイムの音が鳴り響き、私は反射的に変身寸前のポーズで動きを止めた。

 

 休日の朝っぱらにいったい誰だろうか。唯一、我が家を訪ねる可能性の高いスバルはうきうき気分で科学館へ向かってしまったので除外。考えられるのはあかねさんか、今度こそ宅配便かな? 

 

 首を傾げながら玄関扉を開けると、そこには見覚えのある三人組がいた。今日も今日とてばっちり金髪ドリルを決めたお嬢様こと委員長と、助さん格さんばりに付き従っているゴン太とキザマロの三人だ。

 

 三人の突然の来訪に驚いていると、私の格好を見た委員長が何故か目を丸くした。

 

「あら、ちゃんと起きてるじゃない。てっきりまだ寝てるかと思っていたのだけど、もしかして何処かに出掛けるつもりだったのかしら?」

 

「ん、そんなところ。委員長は、どうしたの……?」

 

 まさか休日にまで私のお節介を焼きにきたのでは? と内心で身構える。世話焼きの気質がある委員長ならば、私の私生活のだらしなさを見かねてという可能性も否定し切れない。それはちょっと勘弁願いたい。

 

「実はこれからコダマ科学館で開かれる科学教室に参加するのよ。良かったら、海鳴さんも一緒にどうかしら?」

 

「私も……?」

 

「ええ。本当は星河君も誘おうと思ったのだけど、生憎とお留守みたいだし。折角だから、あなたも誘ってあげようと思ったのよ」

 

 スバルが留守なのは仕方ない。委員長達が来る三十分以上前には、科学教室に向けて出発していたのだから当然だ。向こうで顔を合わせたらきっと驚くだろう。

 

 それよりも、気になることが一点。

 

「……どうして」

 

「え?」

 

「どうして、私を誘ってくれたの……?」

 

 私と委員長の接点なんてクラスメイトであることくらいしかない。不登校だったスバルを学校へ連れ出すために多少なりと距離が近くなったとは思うが、それも一過性のものに過ぎないだろう。私なんて所詮、数いるクラスメイトの一人でしかないはずなのにどうして? 

 

 私の疑問に対して委員長は怪訝そうな顔で首を傾げていたが、やがて呆れたように溜め息を吐くと答える。

 

「どうしても何も、友達を遊びに誘うのにいちいち理由なんて考えないわよ」

 

「────」

 

「何よその顔は。もしかして海鳴さんって、わざわざお友達になりましょうって言わないと友達になれないタイプだったりするのかしら?」

 

「そんなこと、ないけど……」

 

 愛想なんて皆無、コミュ力壊滅の私を一瞬の躊躇いもなく友達と断言してくれる人なんて、スバルとミソラくらいのものと思っていた。まさかあの二人以外で、私のことを友達扱いしてくれる人が現れるなんて、想像すらしていなかったのだ。

 

 そっかぁ、友達かぁ。委員長は私のことを友達として見てくれているんだ。お節介焼きでちょっと鬱陶しいところもあるけど、友達思いでツンデレな委員長が……ちょっと嬉しいかも。

 

 しかしこんな時も我が無表情フェイスは不動なり。委員長達からすれば急に黙り込んでしまい、無視をされているような気分にでもなったのだろう。やや不機嫌そうに眉根を曲げて口を開いた。

 

「それで、どうするの? 行くの? 行かないの?」

 

「……行く。一緒に行きたい」

 

 どの道、スバルと双葉ツカサの様子を見るために向かうつもりだったのだ。電波変換してこそこそ隠れ見るくらいなら、生身で堂々と乗り込んだ方が楽に決まっている。

 

 決して委員長の友達宣言に浮かれて反射的に返事した訳ではない。だから微笑ましげに私を見るのは止めてください、アクエリアス。一般人には見えないからって小学生同士のやり取りを母親みたいに見守るのはどうかと思う。

 

「ふふっ、海鳴さんは素直ね。星河君も海鳴さんの素直さを少しは見習うべきだと思うわ」

 

 それはちょっと難しい相談だと思う。別にスバルが捻くれているとか捻じ曲がっているとかいう訳ではないけど、多感な時期の男の子に女子に対する素直さを求めるのは酷だよ。

 

「それじゃあ、早速向かいましょう! ゴン太とキザマロも行くわよ!」

 

「「はい、委員長!」」

 

 私と委員長のやり取りを静観していたゴン太とキザマロが舎弟みたいなノリで返事をする。二人とも私たちの会話に口を挟むことなく黙っていたけど、もしかして空気を読んでくれていたのかな。それとも私みたいな何考えているのか分からないタイプは突っ掛かり難いのか。

 

 どちらにせよ、私もぼうっとしていては置いていかれてしまう。慌てて靴を履き、普段よりも軽い足取りで委員長達の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 ♒︎

 

 

 

 

 

 

 コダマ科学館所属の講師である育田道徳先生が主催する科学教室は地域の子供達に大人気のようで、教室内は科学好きの子供達で溢れかえっていた。その中には勿論、私の幼馴染ことスバルもいた。

 

「え、シオナ? どうして此処に?」

 

 参加者の中に私の姿を見つけたスバルは驚いたように目を丸くした。この手のイベント事に関心の薄い私が自主的に参加している事自体が信じられないのだろう。でもちょっと驚き過ぎだと思う。

 

「私が誘ってあげたのよ。というか、星河君も参加しているのなら海鳴さんを誘ってあげなさいよ。幼馴染でしょうに」

 

「うっ、確かに。ごめんね、シオナ」

 

「気にしなくて、いい……」

 

 そこで謝られてしまうと居た堪れなくなる。一応、私は人生二周目小学生二度目だ。炊事洗濯家事掃除だって一人でできるし、幼馴染に遊びに誘われなかったくらいで拗ねたり凹んだりなんてこともない。ないったらない。

 

 そんなことよりも、私の注意はただ一人に向けられている。教室の常連で育田先生のアシスタントのような立ち位置で実験を手伝っている少年、双葉ツカサ。

 

 ゲームのシナリオという先入観がバリバリに入っているのは重々承知している。それでも疑いが晴れることはない。この教室の期間中で化けの皮を剥げるとは思わないけど、スバルに危害を加えるような真似をしたらその時は覚悟してもらおう。

 

 私が常の無表情でじぃっと双葉ツカサを見つめていると、不意に手を掴まれた。見上げればスバルがいつもの柔らかい笑顔でそこにいる。

 

「見て見て、シオナ。面白そうな実験がたくさんあるよ」

 

「う、うん……」

 

 大好きな科学の分野というだけあって今日のスバルはいつもの五割り増しで明るく積極的だ。お父さん云々の話がなかったとしても、スバルは元来科学オタク気質だからおかしなことでもない。そんなスバルに手を引かれて私も教室の内容に目を向けていく。

 

 教室内では育田先生が用意した幾つもの科学実験が行われている。果物電池にグラスハープ、男の子が好きそうな手作りポンポン船。学校の授業とは一味違う科学教室に、参加している子供達はみんな笑顔を咲かせて夢中になっている。

 

 勿論その中には我らが幼馴染のスバルと委員長達もいる。そしてかくいう私も、表情にこそ出ないが楽しんでいた。

 

 この手の実験や遊びは子供に限らず大人でも楽しめる。中身大人である私もご多分に洩れず、本来の目的を忘れそうになるくらいには楽しませてもらっていた。

 

 ……って、いけないいけない。今日の目的は科学教室を楽しむことではなく双葉ツカサの監視である。忘れないように見張っておかなければ。

 

 今の所、双葉ツカサに怪しいところはない。教室初参加で戸惑いがちな子供達が楽しめるように、率先的に声を掛けたり実験のフォローをして回っている。側から見ている分にはただの穏やかで優しい少年である。

 

 スバルに積極的に接触するような素振りもない。やっぱり私の考え過ぎなのかなぁ……でもまあ、念には念を入れて警戒は続けよう。取り越し苦労で済むのならそれでいい。

 

 気取られないように実験の片手間で双葉ツカサを盗み見ていると、一緒に教室を見回っていたスバルが足を止めた。どうしたのかと見れば、スバルは机の上に無造作に置かれたペットボトルのロケットを見つめていた。

 

「これって……」

 

 スバルはペットボトルロケットを手に取って興味深そうに見つめる。お父さんを探すために宇宙飛行士になることを夢見ているスバルにとって、ペットボトルであってもロケットは心を掴んで離さない代物なんだろう。

 

「それはペットボトルロケットと言ってね。本物のロケットと同じ原理で空を飛ぶんだよ」

 

「本物のロケットと同じ?」

 

 熱心にペットボトルロケットを見つめるスバルに育田先生が声を掛けてきた。反射的にスバルが聞き返すと、育田先生は鷹揚に頷いてみせる。

 

「そうだよ……よし、じゃあ明日の教室ではペットボトルロケットを飛ばすことにしようか。スバル君も、よかったら明日もおいで」

 

「行きます! 明日も行きます! ね、シオナも来るよね?」

 

「ん、分かった……」

 

 そんな風に瞳をお星様みたいにキラキラさせながら誘われたら断れない。まあ、そもそもスバルからのお誘いを断るなんて選択肢自体が私にはないのだけど。

 

 両手に握るペットボトルロケットをワクワクと見つめるスバル。私は年相応な幼馴染の横顔をじっと見つめ、内心で微笑ましく思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 ♒︎

 

 

 

 

 

 

 科学教室帰りにまたまた星河家のお夕飯に誘ってもらい、お言葉に甘えてご相伴に預かった。あかねさんの手料理と温かい食卓にほっこりして、帰り際にスバルと科学教室参加の約束を交わしてやっと帰宅した。

 

『おやおやまぁ、いつになくご機嫌な様子ですねシオナ。幼馴染君と一緒に過ごせたのが余程嬉しかったのですね』

 

 休日をスバルと一緒に過ごせてほくほく顔(無表情)の私を出迎えたのはアクエリアスだ。ウォーロックに存在を気取られる訳にはいかないからと、今日一日はトランサーから離れて別行動していたのだ。

 

 揶揄い半分、微笑ましさ半分といった様子のアクエリアスに私は気不味くなる。年甲斐もなくちょっと浮かれ過ぎた。

 

 別に私はスバルと一緒に過ごせたのが楽しかったのではなく、育田先生の科学教室が想像以上に面白かったからはしゃいでいたのであって……どちらにしても大の大人が何をしているんだという話だった。お恥ずかしい。

 

 生温かいアクエリアスの視線から逃れるように私はソファに腰掛け、テレビの電源を点ける。もう少ししたらミソラのライブ特集が始まるのだ。ミソラから直々に「見てね!」とお願いされてしまったので見逃す訳にはいかないのだ。

 

 頻発する電波災害や事件についてのトピックを流し見ていると、お目当てのミソラのライブ特集が始まる。なんだかんだ言って私もすっかりミソラのファンになってしまったな……いやまぁ、ファン歴であればこの世の誰よりも長い自信はあるけど。何せ前世からのファンですから。

 

 内心で苦笑いしながらステージで歌い踊るミソラの姿を眺めていると、不意に画面にノイズが走った。テレビの不調かウイルスの仕業かと首を傾げたところで、ライブ映像は完全に途切れてしまう。

 

 ザザザッ、と一面砂嵐になってしまったテレビ画面。そこに一瞬だけ、見覚えのある影が浮かび上がる。天秤のような姿形をした電波体だ。

 

『──ウォーロック』

 

 誘うような、挑発するような声音でその電波体──リブラはウォーロックの名を呼んだ。直後にリブラの姿は掻き消え、テレビ画面は何も映さない灰色の砂嵐に戻ってしまった。

 

「今のって……」

 

『リブラですね。どうやら、テレビの電波塔をジャックして彼を誘い出したようです』

 

 ここに来てリブラの登場か。順番的には間違っていないし、育田先生と関わりを持ったことを思えば不思議ではないタイミングだ。

 

 問題は、スバルがまだスターフォースの力を手に入れていないこと。それが唯一にして最大の懸念点である。あの力がないと強化ジャミンガーを倒すことができない……いやでも、今のところジャミンガーなんて見たことないんだよね。ウイルス人間なるジャミンガー擬きは現れたけど。

 

『シオナ。色々と気になる事があるのは分かりますが、今はリブラの元へ向かいましょう。既に幼馴染君は飛び立ってしまいましたよ?』

 

「ん、分かった……」

 

 悩みの種は尽きないけど、今は一先ず横に置いておこう。アクエリアスに急かされる形で私は電波変換をし、リブラがジャックしているだろう電波塔へと直行した。

 

 テレビ局の電波塔付近では既に被害が広まっていた。リブラが電波塔のジャックだけに飽き足らず、近隣施設を見境なく襲っているものだからあちらこちらで火の手や煙が上がっている。

 

『これはまた、派手に暴れていること』

 

「早く止めないと……」

 

 逃げ惑う人々が被害に巻き込まれる前に止めなければならないと、肝心の下手人であるリブラを探す。

 

「……いた。けど」

 

『既に敗走していますねぇ……』

 

 下手人であるリブラはすぐに見つかった。私達よりも先に駆け付けたロックマンと戦闘していたのだ。ただその結果は相当に一方的なものだったらしい。手傷を負ったリブラが恥も外聞も捨て、背中を向けて逃げようとしている。そしてロックマンはリブラを逃すまいと追いかけていく。

 

 えぇ? ちょっと、なに? もしかしてリブラは電波変換する相手、要は育田先生に邂逅する前に仕掛けてきたの? そりゃ電波変換したスバルとウォーロックに勝てる筈もないでしょ。何で仕掛けてきたんだろう……。

 

 ハープは寝返ったから除外するとして、既に戦っているはずのオックスとキグナスから何も聞かなかったのだろうか。もしかしてFM星人って横の繋がりがろくにないのかな。せめて情報共有くらいしておきなよ。

 

 計画性も何もないリブラの杜撰な襲撃に内心で呆れつつ、私達もロックマンの後を追い掛けようと一歩踏み出す。しかしその直後に眼下で小規模ながらも爆発が起きた。リブラが引き起こした火災が悪化してしまったらしい。

 

 流石に拡大する被害を見て見ぬ振りはできない。リブラの様子からして、ロックマンが負けることもないだろうし、私はサテラポリスが到着するまで被害の抑制に回ろうか。

 

「バトルカード──ワイドウェーブ2……」

 

 火の手が上がる建物に向けて水属性のワイドウェーブ2を撃ち込む。バトルカードの便利なところはウイルスバスティングだけではなく、使いようによっては消火活動だったり護身術代わりに利用できるところだと思う。ある程度は使い慣れていないと難しいけど。

 

 続け様にネバーレイン2で広範囲に雨を降らせ、消火活動は粗方終了。ウォーロックと違ってアクエリアスは水属性だからなのか、水属性のバトルカードが扱いやすいんだよね。心なしか威力や範囲も上がっている気がする。だから本気でバトルする時は水属性のバトルカードを多用している。

 

 まあ、ロックマンを陰から助ける時は無属性のキャノンとかバルカンにしているけど。バトルカードからアクエリアスの存在を察知されては困るからだ。

 

「これで、大丈夫……?」

 

『ええ、もう十分かと。後は本職に任せて、私達は帰りましょう』

 

 もう耳に馴染んだサイレンの音が聞こえてきたので後始末は任せてしまおう。

 

 五陽田警部が乗っているパトカーを尻目に私とアクエリアスは電波塔を後にして自宅へと帰った。

 

 私達が帰宅して十分くらい経ってからスバルとウォーロックは帰ってきた。リブラをどうしたのか、ちゃんとデリートできたのかは分からない。でも無事な様子だったから、多分大丈夫だったのだと思う。

 

 まさかリブラ編がこうもあっさり終わってしまうとは……原作だと、ジェミニの暗躍やジャミンガーの介入で複雑化する時期だったから、相応に覚悟していたけど、本当に何事もなく終わってしまった。いや、何かあって欲しかった訳ではないけど。

 

 まあ、学習電波なる怪しいものを浴びることも無くなった訳だし、結果オーライとしよう。それよりも今日は早く寝て、明日に備えよう。折角スバルが誘ってくれたのだから、寝坊して遅刻する訳にはいかない。

 

 さっと風呂と寝支度を整えてから、私は襲い来る眠気に身を任せてベッドに飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

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