波動のない勇者 〜魔力ゼロの格闘家、異世界で拳を貫く〜   作:ゆでダコ

2 / 8
読んでいただきありがとうございます。
量は少ないですが、少しずつ投稿していきます。


第二話「試験開始、剣士カイルとの邂逅」

朝の王都は、魔力の光に包まれていた。

空には浮遊灯が漂い、通りには魔法で動く清掃ゴーレムが静かに往来している。

リュウは訓練場へ向かっていた。道着姿のまま、腰に何も帯びず、ただ拳だけを頼りに。

 

昨夜はほとんど眠れなかった。

異世界に来てまだ一日。魔力がないという現実。

それでも、拳だけは裏切らない。そう信じていた。

 

訓練場は王都の外れにある広場だった。

魔法障壁で囲まれた円形の闘技場。観客席こそないが、周囲にはギルド関係者が数人立ち会っていた。

石造りの床には無数の傷跡が刻まれており、ここが実戦の場であることを物語っていた。

 

「リュウさんですね?」

 

声をかけてきたのは、若い剣士だった。

栗色の髪に軽鎧をまとい、腰には一本の長剣。

その瞳は穏やかで、どこか人懐っこい。

 

「俺が試験官のカイルです。よろしくお願いします」

 

リュウは軽く頭を下げた。

 

「……よろしく」

 

「緊張しなくて大丈夫ですよ。形式的な試験ですから。

僕と軽く模擬戦をして、戦闘能力を確認できれば、それで合格です」

 

「……魔法は使わないのか?」

 

「僕は剣士ですから、基本は物理攻撃です。

ただし、魔力強化は使います。身体能力を底上げする魔法ですね」

 

リュウは拳を握った。

魔力強化──この世界の常識。

だが、自分にはそれがない。

 

「……始めよう」

 

カイルは頷き、剣を抜いた。

魔力が剣に流れ、淡く光る。

その光は、リュウにとって未知の力だった。

 

「では、始めます!」

 

瞬間、カイルが踏み込んだ。

剣が横薙ぎに振るわれる。

リュウは一歩下がり、体を捻って回避。

その動きは、まるで風のように滑らかだった。

 

「速い……!」

 

カイルが驚く間もなく、リュウは踏み込む。

拳が一直線に伸びる。

正拳突き──だが、カイルは剣で受け止めた。

 

「重い……っ!」

 

剣が軋む。

魔力強化された剣士の腕が、拳の一撃で押されていた。

 

「これは……魔力なしで、ここまで……?」

 

リュウは言葉を返さない。

ただ、拳を構え直す。

 

カイルは距離を取った。

今度は縦斬り。

リュウは身体を横にずらして回避し、足刀蹴りを放つ。

 

蹴りがカイルの脇腹に命中。

鎧がきしみ、彼の体が一歩よろめく。

 

「……参りました!」

 

カイルが剣を下げ、手を挙げた。

ギルド職員が駆け寄る。

 

「試験終了です。リュウさん、合格です!」

 

周囲がざわめいた。

魔力ゼロの男が、魔力強化を使う剣士に勝った──それは、常識を覆す出来事だった。

 

カイルは笑顔で手を差し出した。

 

「すごいですね。あの拳……魔法じゃないのに、魔法以上の威力がある。

リュウさん、あなたは本物の格闘家です」

 

リュウはその手を握った。

 

「……拳は、魂を打ち込むものだ。技じゃない。意志だ」

 

カイルは目を見開き、そして頷いた。

 

「……いい言葉ですね。僕も、剣にそういう気持ちを込めたいと思います」

 

ギルド職員が書類を手渡す。

 

「初期ランクはCと認定されました。魔力ゼロでこの評価は、前例がありません。

リュウさん、これからの活躍を期待しています」

 

リュウは静かに頷いた。

 

「……依頼は、いつから受けられる?」

 

「今日からでも可能です。ですが、まずは装備を整えることをおすすめします。

道着だけでは、さすがに危険ですから」

 

リュウは拳を見つめた。

この拳が、どこまで通じるのか。

それを確かめる旅が、今始まった。

 

---

 

その日の午後、リュウはギルドの装備庫を訪れた。

革製の防具、簡易の手甲、旅用のマント──最低限の装備を整えながら、彼は静かに考えていた。

 

「魔力がないということは、依頼の選択肢も限られる。

だが、俺には拳がある。それだけで、十分だ」

 

受付の職員が声をかけてきた。

 

「リュウさん、初依頼におすすめなのは、郊外の魔獣討伐です。

小型の魔狼が出ているようで、Cランクでも対応可能です」

 

「……受ける」

 

職員は驚いたように目を見開いたが、すぐに笑みを浮かべた。

 

「では、明日の朝に出発ですね。準備を整えておいてください」

 

リュウは頷き、ギルドを後にした。

 

---

 

夜。

宿屋の部屋で、リュウは拳を見つめていた。

炎が揺れる。窓の外では、王都の灯りが静かに瞬いている。

 

「……魔力がない。だが、それが俺の道だ」

 

彼は立ち上がり、構えを取る。

正拳突き。足刀蹴り。回し蹴り。

空気が震え、拳が風を切る。

 

「……波動拳」

 

その言葉とともに、拳に微かな“気”が集まりかける。

だが、まだ不完全だった。

 

「焦るな。力は、心に宿るものだ」

 

彼は椅子に座り直し、目を閉じた。

明日から始まる冒険。

魔力ではなく、拳で切り拓く道。

 

それは、誰も歩んだことのない道だった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。