波動のない勇者 〜魔力ゼロの格闘家、異世界で拳を貫く〜   作:ゆでダコ

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第三話「魔狼討伐任務と斧使いガルド」

朝のギルドは、依頼を求める冒険者たちで賑わっていた。

リュウは受付前に立ち、昨日の試験官だった職員から依頼書を受け取っていた。

 

「こちらが、リュウさんに割り当てられた初依頼です。

王都南東の森林地帯“黒樹の縁”にて、魔狼の群れが出没しています。

依頼ランクはC級。報酬は銀貨三十枚、素材回収分は別途加算されます」

 

リュウは依頼書を受け取り、目を通す。

魔狼──フェンリル種の亜種。群れで行動し、魔力感知能力を持つ個体もいる。

奇襲は困難。正面からの戦闘が前提となる。

 

「……問題ない。受ける」

 

「ありがとうございます。なお、今回は同行者が一名おります。

ギルド推薦の戦士──ガルドさんです」

 

その名が呼ばれた瞬間、背後から重い足音が響いた。

振り返ると、そこには巨漢の男が立っていた。

 

身長は二メートル近く。筋骨隆々の体に、黒鉄の軽鎧。

背には巨大な両手斧を背負っている。

 

「俺がガルド。斧使いだ。よろしく頼む」

 

声は低く、無駄がない。

リュウは一瞬だけ警戒したが、すぐに拳を握り直した。

 

「……リュウだ。拳で戦う」

 

ガルドはリュウをじっと見つめる。

その視線には、試すような色があった。

 

「魔力がないと聞いた。だが、昨日の試験は見ていた。

あの拳──悪くない。俺は魔法を使わん。肉体で戦う。

気に入ったら、背中は預ける」

 

リュウは頷いた。

言葉は少ないが、信念は感じられた。

 

「……なら、まずは任務で確かめる」

 

ギルド職員が地図を広げる。

 

「黒樹の縁までは、徒歩で半日ほどです。

魔狼は夜行性ですが、昼間でも警戒が必要です。

討伐対象は群れのリーダー個体を含む三体。

魔力感知能力を持つ個体には、魔法による奇襲が通じません。

近接戦闘が主軸となりますので、お二人には最適な編成かと」

 

リュウは地図を確認し、ガルドと目を合わせた。

 

「……行こう」

 

「応」

 

---

 

王都を出て、二人は南東の森林地帯へ向かっていた。

道中は静かだった。ガルドは無口で、リュウも余計な言葉を発さなかった。

 

だが、沈黙の中にも、互いの歩調は自然と揃っていた。

 

「……お前、異界の者なんだろ」

 

ガルドがぽつりと口を開いた。

 

「そうだ」

 

「魔力がないのに、拳で戦う。

この世界じゃ、珍しい。だが、俺は嫌いじゃない。

魔法に頼る奴は、脆い。魔力が切れたら終わりだ」

 

リュウは少しだけ目を細めた。

 

「……拳は、切れない。鍛えれば、いつでも使える」

 

ガルドは笑った。

それは、初めて見せた表情だった。

 

「気に入った。お前の拳、見せてもらうぞ。魔狼相手に」

 

---

 

黒樹の縁に到着したのは、午後を過ぎた頃だった。

森は鬱蒼としており、木々の間から差し込む光は少ない。

空気は湿っていて、獣の気配が漂っていた。

 

「……いるな」

 

ガルドが斧に手をかける。

リュウも拳を握り、気を集中させる。

 

草陰から、低い唸り声が響いた。

魔狼──灰色の毛並みに、赤い瞳。

三体が連なって姿を現す。

 

「来るぞ!」

 

一体が跳躍し、リュウに向かって飛びかかる。

リュウは回避し、拳を叩き込む。

顎に命中。魔狼が地面に転がる。

 

「一体目、沈黙!」

 

ガルドが叫び、斧を振るう。

二体目の魔狼が斧の一撃で吹き飛ぶ。

木が裂け、地面が揺れる。

 

「……最後の一体。リーダーか」

 

リュウは構える。

魔狼が唸り、魔力を纏う。

だが、リュウには関係ない。

 

彼は静かに構えを取った。

両足を開き、腰を落とし、両手を腰に構える──それは、彼だけの“型”だった。

 

拳に、僅かな気が集まり始める。

空気が震え、周囲の魔力とは異なる波動が生まれる。

 

「……波動拳」

 

特殊な構えから、両手を前に付きだし、集まった気が放たれる。

その手から放たれた衝撃波が、魔狼の胸を打ち抜き、吹き飛ばす。

 

静寂が訪れた。

三体の魔狼が、地に伏していた。

 

ガルドは斧を肩に担ぎ、リュウを見た。

その瞳には、ただの驚きではない。

未知なる力への疑問。そして、拳が持つ純粋な破壊力への尊敬。

 

「……やるな。魔力なしで、ここまでとは」

 

リュウは息を整え、拳を見つめた。

 

「……まだ未完成だ。だが、通じる」

 

ガルドは頷いた。

その表情は、試験のときとは違っていた。

少しだけ、柔らかくなっていた。

 

「背中、預けてもいいかもしれんな」

 

---

 

討伐を終えた二人は、魔狼の素材を回収していた。

牙、毛皮、魔核──ギルドに持ち帰れば、追加報酬が得られる。

 

「……お前の拳、魔力がないのに、魔核を砕いた。

あれは、どういう理屈なんだ?」

 

ガルドが問う。

リュウは少し考え、答えた。

 

「……理屈じゃない。気を練り、拳に込め、放つ。

それが波動拳だ。魔力とは違う。だが、力になる」

 

ガルドは黙って頷いた。

その瞳には、まだ疑問が残っていた。

だが、それ以上は聞かなかった。

 

「……面白い拳だ。俺の斧とは違う。だが、悪くない」

 

リュウは拳を握り直した。

 

「……お前の斧も、悪くない。重くて、鋭い。

魔法に頼らない戦い方──俺は、好きだ」

 

二人は素材を袋に詰め、森を後にした。

夕暮れの空が、赤く染まっていた。

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