波動のない勇者 〜魔力ゼロの格闘家、異世界で拳を貫く〜 作:ゆでダコ
王都の夕暮れは、魔力灯の淡い光に包まれていた。
リュウとガルドは、魔狼討伐を終えてギルドへ戻ってきた。
道中、二人の会話は少なかったが、沈黙の中に奇妙な安定感があった。
ギルドの扉をくぐると、受付の女性職員が顔を上げた。
「おかえりなさい。討伐任務、無事完了されたようですね」
リュウは頷き、魔狼の素材が詰まった袋を差し出す。
牙、毛皮、魔核──すべてが揃っていた。
職員は手際よく確認し、報告書に記入する。
「魔狼三体、討伐確認。素材も良好です。
報酬は銀貨二十八枚──宿代にして、二週間分に届くかどうか、というところですね」
リュウは無言で頷いた。
初任務としては十分。だが、生活の余裕はまだ遠い。
職員が報酬袋を差し出す。
「では、お二人で分配を──」
「いらん」
ガルドが短く言った。
職員が目を見開く。
「え……?」
「報酬は、リュウに渡せ。俺は、戦いを見たかっただけだ。
金で動いたわけじゃない」
リュウは少しだけ目を細めた。
「……理由は聞かない。だが、礼は言う」
ガルドは頷き、斧を背負い直した。
「また、どこかで会うだろう。そのときは、背中を預ける」
それだけ言って、ギルドを後にした。
職員は困惑したようにリュウを見たが、彼は報酬袋を受け取り、静かに礼を言った。
「……ありがとう」
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ギルドの裏手。
人目のない通路を抜け、ガルドは静かに歩いていた。
その先には、王都の情報局がある。
彼は扉を叩き、無言で報告書を差し出す。
「魔力ゼロの拳使い。波動と呼ばれる技を使用。
魔狼の魔核を破壊可能。魔力感知個体にも有効。
現時点では脅威なし。ただし、成長の可能性あり」
係員は黙って書類を受け取り、頷いた。
「報告、確かに。引き続き、接触を継続してください」
ガルドは何も言わず、背を向けた。
その瞳には、任務とは別の感情が宿っていた。
「……あの拳、ただの力じゃない。何かが、ある」
彼はそう呟き、夜の王都へと消えていった。
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ギルドの前。
リュウは報酬袋を手に、静かに歩き出そうとしていた。
夕暮れの風が、道着の裾を揺らす。
「ねえ、あなた──リュウさん、でしょ?」
突然、背後から声がかかった。
振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。
年の頃は十六、七。
淡い紫のローブに、魔法石をあしらった杖。
長い銀髪が風に揺れ、瞳は鮮やかな青。
「……誰だ?」
「私はミリア。魔法使い。ギルド所属のCランク冒険者。
あなたの試験、見てたの。魔力ゼロなのに、あの拳──すごかった」
リュウは無言で彼女を見つめる。
ミリアは一歩踏み出し、真剣な表情で言った。
「私と、パーティを組んでほしいの。
魔法と拳──相性、悪くないと思う」
リュウは少しだけ眉をひそめた。
「……なぜ、俺を?」
「魔法だけじゃ、限界がある。
でも、あなたの拳なら、魔法が通じない相手にも届く。
それに──なんか、面白そうだから」
その言葉に、リュウは少しだけ笑った。
「……軽い理由だな」
「でも、悪い気はしないでしょ?」
リュウは拳を握り、空を見上げた。
夕暮れの空が、赤く染まっていた。
「……考えておく。明日、また来い」
ミリアは笑顔で頷いた。
「うん!待ってる!」
彼女は軽やかに去っていった。
リュウはその背を見送りながら、拳を見つめた。
魔力がない。
だが、拳は通じる。
そして今、拳に興味を持つ者が、少しずつ集まり始めていた。
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ギルドから少し離れた路地裏。
ミリアは足を止め、振り返ることなく呟いた。
「……あの人……やっぱり、あの“リュウ”だよね……」
その声は、誰にも届かないほど小さかった。
だが、確信に近い響きがあった。
彼女はそれ以上何も言わず、静かに歩き出した。
その背に、何かを探すような気配が漂っていた。
どっかのタイミングで話数を合体させるかもしれません。このペースだととんでもなく増えそうなので(-_-;)