波動のない勇者 〜魔力ゼロの格闘家、異世界で拳を貫く〜   作:ゆでダコ

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第五話「魔法使いとの再会、そして始まり」

 

朝の王都は、魔力灯の残光が消えかけ、街路に活気が戻り始めていた。

リュウは宿の一室で、拳の感覚を確かめるように静かに構えを取っていた。

 

波動拳──特殊な構えから、手に気が集まり、放たれる技。

昨日の魔狼討伐で確かに通じた。だが、まだ不安定だった。

 

「……気が乱れる。集中が足りない」

 

彼は深く息を吐き、構えを解いた。

拳は、心を映す。迷いがあれば、技は鈍る。

 

窓の外では、王都の朝が始まっていた。

リュウは道着の袖を整え、腰に布袋を括りつける。

銀貨二十八枚──宿代にして二週間分。

だが、拳で稼いだ初めての報酬だった。

 

「……行くか」

 

彼は静かに部屋を出た。

 

---

 

ギルドの扉をくぐると、すでに数人の冒険者が依頼掲示板を囲んでいた。

その中に、見覚えのある銀髪の少女がいた。

 

「おはよう、リュウさん!」

 

ミリアが手を振って駆け寄ってくる。

昨日の笑顔と変わらないが、どこか期待を込めた瞳だった。

 

「……来たか」

 

「もちろん。約束したもん。

それに、今日からパーティでしょ?」

 

リュウは少しだけ頷いた。

 

「……組んでみる。ただし、俺は拳しか使えない。魔法のことはわからん」

 

「それでいい。むしろ、それがいいの」

 

ミリアは嬉しそうに頷いた。

 

「じゃあ、正式に登録しよう!」

 

受付に向かい、職員にパーティ結成の旨を伝えると、手続きはすぐに始まった。

 

「リュウさんとミリアさんですね。

お二人ともCランクですので、C級依頼から選択可能です。

本日は、魔獣の痕跡調査依頼が複数出ています。

危険度は低めですが、情報収集が中心になります」

 

リュウは依頼書を手に取り、目を通す。

 

「……これでいい。戦闘より、まずは動きを合わせる」

 

「了解!じゃあ、行こう!」

 

ミリアは軽やかに笑い、リュウと並んでギルドを後にした。

 

---

 

郊外の草原地帯。

依頼内容は、魔獣の痕跡を調査し、報告すること。

戦闘は想定されていないが、油断は禁物だった。

 

リュウは周囲を警戒しながら歩いていた。

ミリアは杖を手に、魔力感知を行っていた。

 

「……こっちに、魔力の残滓がある。

たぶん、魔獣が通った跡」

 

リュウはその方向に目を向け、地面を確認する。

 

「足跡が浅い。小型だな。群れではない」

 

「さすが……観察力、すごいね」

 

ミリアは感心したように言ったが、どこか探るような視線を向けていた。

 

「ねえ、リュウさんって……どこから来たの?」

 

「……遠い場所だ。名前も、今は意味がない」

 

「そっか……でも、なんか懐かしい感じがするんだよね。

あなたの構えとか、技とか……」

 

リュウは少しだけ眉をひそめた。

 

「……そうか」

 

それ以上、彼は何も言わなかった。

ミリアもそれ以上は聞かなかった。

 

だが、彼女の瞳には、何かを確かめようとする光が宿っていた。

 

---

 

調査を終え、ギルドに戻った二人は報告を済ませた。

報酬は銀貨十枚。少額だが、初動としては十分だった。

 

「今日は、いい感じだったね。

リュウさんの動きに合わせるの、ちょっと難しいけど……楽しかった」

 

「……お前の魔力感知、助かった。無駄な戦闘を避けられた」

 

「ふふ、ありがとう。

じゃあ、また明日も一緒に依頼、受けようね」

 

ミリアはそう言って、ギルドを後にした。

 

---

 

その夜。

王都の路地裏を歩くミリアの足取りは、昼間よりも静かだった。

街灯の魔力が淡く揺れ、石畳に影を落とす。

 

彼女は足を止め、空を見上げた。

今日一日、リュウと共に過ごした時間が、胸の奥に静かに残っていた。

 

拳だけで戦う男。

無駄な言葉はなく、ただ真っ直ぐに前を見ている。

その姿に、ミリアは確かに何かを感じていた。

 

「……信じられる人だ」

 

ぽつりと、誰にも聞こえない声で呟く。

それは、確信ではなく、直感に近いものだった。

 

「これなら……未来を変えられるかもしれない」

 

彼女は杖を握り直し、歩き出した。

その背には、静かな決意が宿っていた。

 

---

 

一方、リュウは宿の部屋に戻っていた。

窓の外では、王都の灯りが揺れている。

 

彼は椅子に腰を下ろし、拳を見つめていた。

今日の依頼は、戦闘こそなかったが、得るものは多かった。

 

「……魔法、便利だな」

 

ミリアの魔力感知。

敵の位置を察知し、無駄な接触を避ける。

それは、自分にはできないことだった。

 

「俺には魔力がない。だが……」

 

拳を握る。

魔力がなくても、気を練り、技を磨けば通じる。

だが、それだけでは足りない。

 

「……できることを、もっと探す必要がある」

 

彼は立ち上がり、構えを取る。

波動拳の型。

気を集め、放つ──その感覚を、何度も繰り返す。

 

「魔法に頼らず、魔法に並ぶ力を」

 

その言葉は、誰に向けたものでもなかった。

ただ、自分自身への問いかけだった。

 

夜は静かに更けていく。

拳と魔法。

異なる力を持つ二人の冒険が、今、始まったばかりだった。

 

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