波動のない勇者 〜魔力ゼロの格闘家、異世界で拳を貫く〜   作:ゆでダコ

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第六話「魔法と拳、交差する意志」

 

朝の王都は、灰色の雲に覆われていた。

湿った風が街路を吹き抜け、石畳に水の匂いを残す。

リュウは宿の一室で、静かに拳を構えていた。

 

波動拳──特殊な構えから、手に僅かな気が集まり、放たれる技。

昨日の魔狼討伐で通じたが、まだ不安定だった。

 

「……気が乱れる。集中が足りない」

 

彼は深く息を吐き、構えを解いた。

拳は、心を映す。迷いがあれば、技は鈍る。

 

窓の外では、王都の朝が始まっていた。

リュウは道着の袖を整え、腰に布袋を括りつける。

銀貨二十八枚──宿代にして二週間分。

だが、拳で稼いだ初めての報酬だった。

 

「……行くか」

 

彼は静かに部屋を出た。

 

---

 

ギルドの扉をくぐると、すでに数人の冒険者が依頼掲示板を囲んでいた。

その中に、見覚えのある銀髪の少女がいた。

 

「おはよう、リュウさん!」

 

ミリアが手を振って駆け寄ってくる。

昨日の笑顔と変わらないが、瞳には期待と何かを探るような光が宿っていた。

 

「……来たか」

 

「もちろん。今日も一緒に行こうね」

 

リュウは少しだけ頷いた。

 

「……組んでみる。ただし、俺は拳しか使えない。魔法のことはわからん」

 

「それでいい。むしろ、それがいいの」

 

ミリアは嬉しそうに頷いた。

 

「じゃあ、正式に登録しよう!」

 

受付に向かい、職員にパーティ結成の旨を伝えると、手続きはすぐに始まった。

 

「リュウさんとミリアさんですね。

お二人ともCランクですので、C級依頼から選択可能です。

本日は、郊外の廃村跡に現れた魔獣の調査依頼が出ています。

危険度は中程度。戦闘の可能性もあります」

 

リュウは依頼書を手に取り、目を通す。

 

「……これでいい。戦闘より、まずは動きを合わせる」

 

「了解!じゃあ、行こう!」

 

ミリアは軽やかに笑い、リュウと並んでギルドを後にした。

 

---

 

廃村跡は、王都から馬車で一時間ほどの距離にあった。

かつて人が住んでいた痕跡は、崩れた石壁と朽ちた木材に残っている。

風が吹き抜けるたび、瓦礫がカラカラと音を立てた。

 

「……魔力の残滓、あるね。昨日より濃い」

 

ミリアが杖を掲げ、魔力感知を行う。

杖の先端が淡く光り、空気が震える。

 

「南側の建物に、何かいる。魔力の波が不規則」

 

リュウは頷き、拳を握る。

 

「……行くぞ」

 

二人は廃屋の影に身を潜め、慎重に接近した。

そこにいたのは、甲殻に覆われた四足の魔獣──“シェルファング”。

魔力を帯びた突進を得意とする中型種だった。

 

「来る!」

 

魔獣が二人に気づき、突進してくる。

リュウは横に跳び、拳を構える。

 

「ミリア、援護!」

 

「任せて!」

 

ミリアが詠唱を開始する。

杖が光り、空気が震える。

 

「《氷鎖の環》──!」

 

魔獣の足元に氷の輪が出現し、動きを鈍らせる。

リュウはその隙を逃さず、距離を詰めた。

 

「……沈める」

 

彼は拳を叩き込む。

甲殻にひびが入り、魔獣が呻く。

 

その瞬間、リュウは構えを取った。

拳に気が集まり、空気が震える。

 

「波動拳!」

 

特殊な構えから放たれた衝撃波が、魔獣の胸部を打ち抜く。

甲殻が砕け、魔獣が後退する。

 

「もう一発、いける?」

 

「……いける」

 

リュウが再び構えを取る。

ミリアは詠唱を続け、氷の槍を生成する。

 

「《氷槍連撃》!」

 

複数の氷槍が魔獣を貫き、動きを止める。

リュウの拳が、最後の一撃を叩き込む。

そして、再び波動拳が放たれ、魔獣の体を吹き飛ばした。

 

魔獣が崩れ落ち、静寂が訪れた。

 

---

 

「……終わったね」

 

ミリアが息を整えながら言う。

リュウは拳を見つめていた。

 

「……魔法、便利だな。動きを止める、距離を取る。

俺にはできないことだ」

 

「でも、止めただけじゃ倒せない。

あなたの拳がなかったら、突破できなかったよ」

 

リュウは少しだけ頷いた。

 

「……役割が違う。だが、噛み合えば通じる」

 

「うん。そういうの、好き」

 

ミリアは笑った。

その笑顔の奥に、何かを確かめるような光が宿っていた。

 

---

 

魔獣の素材を回収しながら、リュウはミリアの動きを観察していた。

彼女の魔法は、詠唱が短く、発動も早い。

だが、無駄がない。

攻撃魔法も補助魔法も、状況に応じて切り替えていた。

 

「……魔法の扱い、慣れてるな」

 

「うん。村にいた頃から、魔法だけはずっと練習してたから。

魔力はそんなに強くないけど、精度には自信あるよ」

 

「……村?」

 

「うん、ちょっと遠い場所。近々帰る予定なんだけど……」

 

ミリアはそう言って、少しだけ視線を伏せた。

リュウはそれ以上聞かなかった。

だが、彼女の言葉には、何かを急いでいるような響きがあった。

 

「……魔法は、使い方次第。

力が強いだけじゃ、意味ないから」

 

その言葉には、何かを背負っているような響きがあった。

 

---

 

ギルドに戻った二人は、報告を済ませた。

魔獣の素材は回収され、報酬は銀貨二十五枚。

昨日よりも多く、生活にも少し余裕が出る。

 

「今日の連携、すごくよかったね。

リュウさんの拳、やっぱり頼りになる」

 

「……お前の魔法も、正確だった。

無駄がない」

 

「ふふ、ありがと。

じゃあ、また明日も一緒に依頼、受けようね」

 

ミリアはそう言って、ギルドを後にした。

 

リュウはその背を見送りながら、拳を握った。

魔力がない自分にできること──それは、技を磨き、仲間の力を活かすこと。

 

彼はギルドの扉を出て、夕暮れの街路を歩きながら思索を続けた。

ミリアの魔法は、正確で、無駄がない。

だが、それ以上に彼女の動きには、焦りのようなものがあった。

 

「……近々、帰る予定か」

 

その言葉が、妙に引っかかっていた。

彼女は何かを急いでいる。

それが何なのかはわからない。だが、目的を持って動いているのは確かだった。

 

リュウは拳を見つめた。

波動拳は、気を練り、放つ技。

魔力がなくても、通じる力。

だが、それだけでは足りない。

 

「……俺にできることは、まだあるはずだ」

 

拳を握り直す。

魔法に頼らず、魔法に並ぶ力を。

それが、彼の目指す道だった。

 

そして、ミリアのように“何かを変えようとしている者”の隣に立つなら──

拳だけではなく、意志も磨かねばならない。

 

夕暮れの王都に、魔力灯が灯り始める。

その光の中で、リュウは静かに歩き続けた。

 

拳と魔法。

異なる力が、少しずつ交差し始めていた。

 

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