波動のない勇者 〜魔力ゼロの格闘家、異世界で拳を貫く〜   作:ゆでダコ

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第八話「再合流、三人の歩み」

 

王都の朝。

ギルド前の広場は、依頼を終えた冒険者たちで賑わっていた。

リュウとミリアは、次の依頼を選ぶために掲示板を見ていた。

 

「魔族の痕跡調査、また出てるね。今度は西の渓谷か……」

 

ミリアが呟いたそのとき、背後から低い声がかかった。

 

「また一緒になるとはな、リュウ」

 

振り返ると、長身の男が立っていた。

黒い外套に、背には重厚な戦斧。腰には片手剣も差している。

鋭い眼差しと、落ち着いた気配。

 

「……ガルドか」

 

リュウが短く言うと、男は口元をわずかに緩めた。

 

「魔狼討伐以来だな。あれから、動きは見ていた」

 

ミリアが目を丸くする。

 

「知り合い?」

 

「最初の依頼で一緒だった。斧使いだ。冷静で、腕も確かだ」

 

ガルドはミリアに視線を向け、軽く頭を下げる。

 

「ガルド。斧が主だが、剣も使う。君は?」

 

「ミリア。魔法使いです。よろしく」

 

「魔族の気配が濃くなってきた。俺も調査に加わる。構わないか?」

 

リュウは少しだけ頷いた。

 

「……力になるなら、歓迎する」

 

三人の歩みが、ここから始まる。

 

---

 

依頼内容は、西の渓谷にて魔族の痕跡を調査する任務。

最近、周辺で魔力の揺らぎが報告されており、魔族の使い魔が潜んでいる可能性があるという。

 

馬車で二時間。

渓谷の入口に立った三人は、空気の異様さにすぐ気づいた。

 

「……魔力が濁ってる。自然の流れじゃない」

 

ミリアが杖を掲げ、魔力感知を行う。

空気が震え、杖の先端が淡く光る。

 

「魔族の残滓がある。使い魔か、偵察か……」

 

ガルドは斧を背から外し、地面に軽く打ちつけた。

 

「動きがあるな。足跡が新しい。三体、軽い個体だ」

 

リュウは拳を握る。

 

「……接近する。連携は任せる」

 

三人は渓谷の岩場を進み、魔力の濃い地点へと向かった。

 

---

 

そこにいたのは、黒い皮膜に覆われた小型魔獣──“スレイド・インプ”。

魔族の使い魔で、素早く跳ね回り、毒爪を持つ厄介な相手だった。

 

「三体。囲まれるぞ」

 

ガルドが斧を構え、リュウは拳を構える。

ミリアは詠唱を開始する。

 

「《氷障壁》!」

 

魔獣の動きを遮るように氷の壁が出現し、一体を分断する。

残る二体が左右から跳びかかる。

 

リュウは地面を蹴り、左の個体に拳を叩き込む。

衝撃で魔獣が吹き飛ぶ。

 

「波動拳!」

 

構えから放たれた衝撃波が、もう一体の胴体を貫く。

魔力の霧が散り、動きが止まる。

 

その隙に、ガルドが斧を振るう。

分断された個体が壁を越えようとした瞬間、斧が振り下ろされ、岩ごと叩き潰された。

 

魔族の使い魔“スレイド・インプ”との戦闘が終わり、渓谷には静寂が戻っていた。

岩陰に散った魔力の残滓が、風に溶けて消えていく。

 

ガルドは斧を背に戻しながら、リュウに目を向けて言った。

 

「……やはり強いな。拳の一撃、前よりも研ぎ澄まされている」

 

リュウは拳を見つめながら、静かに答えた。

 

「……鍛え続けている。それだけだ」

 

ミリアは微笑みながら言った。

 

「二人とも、無駄がない動き。見てて安心できる」

 

ガルドは短く頷いた。

 

「連携も悪くない。三人で動く価値はある」

 

ミリアは杖を軽く振り、魔力の残り香を払う。

 

「でも、魔族の気配はこれで終わりじゃない。

この渓谷、もっと奥に何かいる気がする」

 

ガルドは岩場の奥を見つめた。

 

「……次は、もっと深い場所に潜んでいるかもしれん。

魔族は、群れで動くこともある」

 

リュウは拳を握り直した。

 

「なら、備えるだけだ」

 

---

 

その夜、三人は渓谷の外れで野営をしていた。

焚き火の炎が静かに揺れ、風が草を撫でていく。

 

ミリアは魔力感知の術式を再調整しながら、ふと口を開いた。

 

「……魔族の動き、何か知ってるの?」

 

ガルドは斧の刃を磨きながら、少しだけ間を置いて答えた。

 

「一年前、南方の村が消えた。魔族の実験場だったらしい。

生き残った者はいない。村ごと、跡形もなく消えた」

 

リュウは拳を握った。

 

「……村が、消えた?」

 

「魔族は、ただ破壊するだけじゃない。

魔力の流れを歪め、土地そのものを変える。

次に狙われるのがどこかは、誰にもわからん」

 

ミリアは焚き火を見つめながら、静かに言った。

 

「……私の村は、まだ生きてる。エルゼン村。

あそこだけは、絶対に守りたい」

 

ガルドが少しだけ顔を上げた。

 

「……お前、エルゼンの出身だったのか」

 

ミリアは頷いた。

 

「ええ。だから、前回の調査も気になってたの。

村の周辺に魔族の痕跡があるなんて、放っておけない」

 

ガルドはしばらく黙っていたが、やがて低く呟いた。

 

「なら、なおさら動く理由があるな。

守るべきものがある者のほうが、強い」

 

リュウは拳を見つめ、静かに頷いた。

 

「……この拳が、届くように鍛えるだけだ」

 

炎が揺れ、夜が静かに更けていく。

三人の歩みは、確かに始まったばかりだった。

 

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