うちの悪霊は一周回って明るい   作:秋塚翔

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学校の朝と悪霊少女待つ家と

 最寄りの駅から二駅電車に乗り、そこから徒歩で行ける場所にあるのが俺の通う高校だ。

 特にこれといった由緒も伝統もないありふれた学校……とはっきり言ってしまうのはあれだが、実際そうなのだからしょうがない。強いて言えば、生徒の自主性に任せる校風を謳っていて、他校よりも比較的校則など緩い傾向にあるくらいだろうか。あと、校舎自体は改装を重ねた年季あるものらしい。

 

 そんなくらいで他はごく普通の我が校に、俺を含めた在校生たちが今日も今日とて律儀に登校していく。

 周りを見れば同年代の人、人、人……見た目から真面目そうな生徒もいれば、髪を金色に染めた上級生もいたり、独自のファッションをナチュラルにキメたギャル(死語)もちらほら。

 考えてみると、日本国の一地域とはいえど十人十色な人間が、決められた時間に特定の場所へと示し合わせたように集まるのは、結構凄いことなんじゃないかと思えてくる。しかも揃いの制服まで着て。

 

 この集団が意欲の差こそあれ時間ごと学業に従事し、余暇時にはそれぞれが交流し合い、そしてまた決まった時刻に揃いも揃って帰宅していく様相は、限られた中での社会の縮図にも似ている。

 そうして見ると日常の光景も、別角度の視点で新鮮に感じ取れるなあ。

 ――などと、独り物思いに更けながら歩き行く俺。……寂しいとか言うなよな?

 

 そうやって俺もまた登校し、自身に割り当てられた教室に向かう。

 三つある二年生の一教室が俺のクラスだ。

 教室内は先に登校してきた同級生が集っており、ある者は単身合間の時間を過ごし、またある者は仲良しグループの中で談笑していたりしている。いつもの賑やかさがそこにあった。

 俺はその中を特に絡みなく進み、自分の席へと着いて一息。

 ……すると、それを見計らったように一人、俺の席にやって来る人影が。

 

「よっ。おはよう、セイ」

 

 そう親しげに声を掛けたきたのは、いつもこの教室で見知った顔。

 朝日の眩しさに照らし出される色素の薄いふんわり髪、触れたら壊れてしまいそうな華奢な肢体、立ち居姿から滲む儚げな雰囲気、思わず目を見張るほどに見目麗しい美少女――

 

「おう、ユキト」

 

 ではなく。美少女顔した俺の()()()だった。

 矢代(やしろ)雪人(ユキト)――恐らく初見では大体の人間がその容姿に見紛うが、正真正銘のれっきとした男である。その証拠に、俺や他の男子生徒と同様の男子制服を身に着けていた。

 毎度ながら、一見すると男装した超絶美少女でしかないよなー、こいつ。

 

「なんかオレに失礼なこと考えてないか?」

「いや? 今日もお前は男子生徒の視線を独占してんなって」

「やっぱ失礼なこと考えてんじゃないかこのヤロ」

 

 ジト目で抗議してくるユキト。だってお前ほどの女子顔負けの男なんて、バ〇テスとか俺ガ〇ルの某キャラくらいなもんだろ。もうファンタジーだよ。そんな怒ったしかめっ面ですら眩しいほど美少女すぎるから、陰で男子から「もう男でもいいかもしれない」って割と真剣に議論されてるんだぞ。

 

 ――俺は以前、放課後に連れ立って遊ぶような仲の相手がいない的なことを明言したが、これは半分正しく半分正しくはない。この口ぶりだと学校でもぼっちだと思われただろうが、厳密には数少ない友だちはいるのである。いわゆる叙述トリックだ。

 因みにユキトとは家の方向真逆のため、放課後一緒に帰りついでで遊ぶことはない。

 

「くそぅ……オレだってなあ、いつか男らしくなってボンキュッボンのネェちゃん両手に侍らせてウハウハするんだ。そうなる日を首洗って待ってろよ……!」

 

 こうして弄る度に再三聞いた決意表明。見た目に反してマインドはちゃんと思春期真っ盛りなんだよな。

 そして……うん、夢見るくらいは自由だよな。まるで神が因果律定めたかのような現実を無視すれば。運動してもすぐ筋肉痛で挫折する小食タイプに実現は遥か遠い。

 ふとユキトは気を取り直す。

 

「ところで、今日はどうしたんだ? なんか朝から疲れ気味っぽいが」

「あー……いや、なんでもねえよ。あれだ、週の後半でダレてきてるのかもな」

「はは、それは言えてるなー。木曜日って絶妙に気が抜けるから。これでまだ金曜日が待ってて、だからこそもどかしいんだよなあ」

 

 適当に理由を述べると、同意した様子でユキトが笑う。

 ……いくらなんでも、実は悪霊が家に転がり込んできてさー、などとは言えなかろう。ユキトにも俺の体質はカミングアウトしてないし。状況と頭どちらにせよ可哀想なヤツ認定だ。清々しい朝の時分にする話でもない。

 

「ちょっとトイレ行ってくる」

 

 会話を切り上げ、授業の前に用を済ませに立つ。

 目下、みたまの件は悩みの種だが、朝に本人へと表明した通り一度関わった以上は投げ出すような真似は後味が悪い。やれる限りの手伝いはするつもりだ。

 手掛かりも何もない現状ではあるものの、みたまの身に何かがあって悪霊となったからには、どこかにとっかかりはあるはず。とにかく手当たり次第調べてみるか。俺のためにも、あと……みたまのためにも。

 などと考えを巡らせながら教室を出たら――どん、と胸辺りに軽い衝撃が。

 

「あ……っ!」

「うおっと」

 

 出会い頭に廊下の女生徒にぶつかり、相手は力負けして尻もちを着く。

 

「悪い、大丈夫か?」

 

 しまったと思い、即座に俺から手を差し伸べる。

 尻もちを着く女生徒は――長い髪で目元こそ窺えないが、痛がる様子もなくぽかんと俺の手を見やっていた。そうして不明瞭なか細い声を零しながら、恐る恐るといった手付きで手を取ってくれる。

 すると、

 

「――ッ! ご、ごめんなさい……!」

「え、あ、ちょっと!?」

 

 途端、女生徒は慌てたようにして独りで立ち上がり、足早に立ち去ってしまった。

 な、なんだったんだ? まるで触った瞬間に怯えたみたいに逃げていって。

 もしかして、触れられるのが嫌だったのか? それなら仕方ないけれど、反応的に少しばかりショックな気もしなくないんだが……

 まあ、俺も気安すぎたか――そう思うことにして、当初の目的を果たすため男子トイレへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 この日は調べ物をしたりせず、まっすぐ家に帰ることにした。

 まだ昨日の今日のこと。冷静に考えると、一番落ち着く我が家に曲がりなりにも悪霊を留守番させてるってのは、我ながら胆力バグってると言える。呪術師でも傍に置いてるぞ。

 

 手早く帰路に就き、なんとなく不穏な雰囲気を錯覚する実家に辿り着いて、玄関前で気後れしながらも、ええいままよと家に入る。

 

「あ、おかえりなさーい。早かったですねえ」

 

 そこには待ち構えていたように、みたまが立っていた。……何故かエプロン姿で。

 うん、俺の緊張返せ?

 

「なんで若奥様スタイルで出迎えてんだよ。そしてそのエプロンどっから出した」

「男の子ってこういうの好きでしょう? エプロンに関しては、まあシチュエーションに応じて姿形を変えられる幽霊スキルの応用ですね」

「ああ……まあ心霊ドラマだと老婆が子供になって駅まで送ってくれなんてのもあるよな」

「そんな感じです。もしリクエストあれば他のコスもできますのでどしどしご応募くださいな」

 

 こいつ幽霊を存分に満喫してやがるな……

 一応好きか嫌いか聞かれたら、「嫌いじゃないです」と心の内だけで答えさせてもらおう。セーラー服の上からシンプルなデザインのエプロンをしていて、そんな素朴さが逆にポイント高い。さながら学生の幼な妻って感じ。顔の良さも眼福の要素だ。いやー、いいセンスしてる――

 はっ、いかんいかん。ペースに呑まれるんじゃあない。

 

「ところで。俺がいない間、本当に下手なことしてないだろうな?」

「信用ないですねえ」

「そりゃどんな聖人君子が相手だろうと交流一日じゃ全面的に信用できんだろうよ」

 

 それができるのは世に溢れる物語の善性主人公くらいなもんだ。

 俺の問いに、みたまはにっこり笑って答える。

 

「もちろん生太郎くんが嫌がることはしてませんって。気を利かせてブランチマイニングと色違い厳選とレート上げはやらせてもらいましたが」

「……絶妙に有益なことしてるな」

 

 マイ〇ラとポ〇モンとマ〇カーやってただけとも言えるが。

 

「というか物体にも干渉できるんだな」

「これも応用ですねえ。ただ、制限はあるんですが。試したら、重量ある物を持ったまま維持し続けることはできないんですよね。一方で電子機器とは相性がいいようで、操作自体は問題なく行えます」

「まあ、ポルターガイストなんかも照明を点滅させたり人感センサーが反応したりするからな」

「なので、ぼっちの生太郎くんのゲームの対戦相手もできますよ」

「人を勝手にぼっち認定するな」

 

 しつこいようだが友だちはいるんだっての。

 ともあれ、何もないなら別にいい。朝はこの幽霊少女を真面目と評したが、過大評価ではなかったらしい。

 

 昨夜は勢いで居着かれ、朝には若干不可抗力気味に受け入れたが。いかに幽霊とはいえ、一つ屋根の下で一緒に過ごす以上はお互いに礼儀は必要だと思う。無論、ああしろこうしろと口うるさくルール決めしたりはしないが、それで関係の不和が生まれて家が居心地悪いものになるのはよろしくない。

 みたまも自称悪霊とはいえ元は生きた人間である以上、そこは分かってくれていたようで。俺はもう少しこのとにかく明るい記憶喪失幽霊少女を信用してもいいかもしれないだろう。

 俺は人の見てくれでなく、その中身を重きに置いて見る質だ。だからこれからの生活、みたまという少女を正しく見ることにする。

 そう結論付けた俺は、一安心したまま家に上がる。

 

「あ、それはそうと生太郎くん。ベッド下にあったエロ本のご趣味についてなんですが、いくらリクエストを聞くにしてもあれは私としても羞恥がありまして……ああいえ、ご恩がある生太郎くんがどうしてもやれというなら、私もやらせていただきますが。しかし――生太郎くんも澄ました顔してあんなのがお好きなんですね?」

「余計なことしてんじゃねえかッ!!」

 

 一瞬上がりかけていた信用値が急落する音が聞こえた気がした。




連日更新はとりあえずここまで。
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