ワケアリ少女の進む道   作:猫耳の人

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プロローグ
始まりのお話


 

この世界には、「個性」と呼ばれる異能力が存在する。

 

物を浮かせる、透明になる、空を飛ぶ......

 

かつては空想......「夢」と言われていたそれが、今私達の目の前に、確かに「現実」として存在している。

 

事の始まりは中国軽慶市、とある病院で「光る赤子」が生まれたのが始まりだ。それを皮切りに、中国だけでなく、全世界で異能が確認され、いつしかその異能は「個性」と呼ばれるようになり、社会に溶け込んでいった。

 

世界中の人間の約八割が、「個性」を持っている超人社会。

かくいう私も、その「個性」を持って生まれた一人だ。「個性」という、一生モノの()()を持って......

 

 

 

 

 

 

 

 

「おめでとうございます......!!元気な女の子ですよ!!」

 

日本のどこかの病院で、私は生まれた。今でも微かに覚えてる。産声を上げる私を抱き、優しい目で見つめる......かつて私の体を焼いた、今は憎き()母親の姿。

 

「よく頑張ったな......」

「あなた......」

 

その隣には、私と元母親を涙ぐんだ目で見つめる白髪の男......その力で私に手を掛けた、忌まわしき()父親。

仮に今の私がその場に居たら、怒りのままに彼らの首を引き裂いていただろう。

「どの面下げてそんな顔ができるんだ」と......

 

 

 

 

 

私は元両親に鳴神蒼(なるかみあおい)と名付けられ、この世に生を受けた。

生まれてからの二年間は、大きな事件もなく、普通の「幸せな」日々が続いた。

 

「あなた!!蒼が......!蒼が歩いたわ!!」

 

私が初めて歩いた時には、二人して喜んでくれた。

 

「聞いたか雷羅!!今俺の事をパパって呼んだぞ!!」

 

私が初めて言葉を発した時には、二人で笑いあってくれた。

そんなこともあってか、私は両親の笑顔が好きだった。両親が喜んでくれるのが、何よりも嬉しかった。

 

あの時までは......

 

 

 

 

 

 

三歳になってから、私は幼稚園に入れられた。他の子たちに比べて大人しく、体も大きかったから、周りに馴染めずにいた。けれど、体は強かったから近所の森で木に登ったり、動物を追いかけたりしながら一人で遊んでいた。

 

今にして思えば、この時から個性の吉兆は現れていたのかもしれない。

 

「うおぉぉぉ!!」

「しーくんすげー!!」

 

幼稚園に入れられて数か月がたった頃、園児の一人が「個性」を開花させた。手足の指が伸びるだけの「個性」。

 

にも関わらず、その日、その児童は一躍注目の的になった。「個性」が発現していない子供にとって、「個性」とは憧れの象徴。自分の持っていない物を持つ者が現れれば、必然的に「自分もいつかは」となるのは自然の事だ。もちろん、私もそんな「非現実」に憧れていた一人だった。

 

その日を境に、同じ幼稚園に通っていた園児たちは次々と個性を発現させていった。

筋肉や骨がバネになる個性、空中を歩ける個性、爪を伸ばす個性......いろんな個性の子がいた。

 

けれどその中で、私が、私だけが、個性を持たない人間だった。

私以外が個性を発現させたその日から、皆が私をいじめてくるようになった。先生たちも、まるで腫れ物に触れるような態度で私に接してきた。

 

「個性」を持たないというだけで、こうも扱いが変わる。

 

悲しかったし、悔しかった。あの日以来、何度「私にも個性があれば」と考えたか分からない。個性が発現しない自分の体を恨んだこともあった。

どれだけ望んでも、どれだけ恨んでも、個性は現れない。悲しみと恨みを募らせる日々が半年ほど続いた。

 

 

 

 

そんなある日、転機と共に悲劇が訪れた。

 

 

 

 

四歳の誕生日、私はこの日、両親と川が近くにある森にキャンプに来ていた。

 

「おとーさん!おかーさん!私遊んできていい!?」

「いいぞ、お父さん達はバーベキューの準備をしてるから、存分に遊んできなさい!」

「気をつけて行くのよ、それと、森と川には入っちゃダメよ」

「はーい!」

 

いつもとは違う環境、その事にワクワクしていた私は両親から許可貰い、近くにあった木を登ったり、木から木へ飛び移ったりしながら、両親の目が届く範囲で、好奇心の赴くままにひたすら森の中で遊んでいた。

そうしてしばらく遊んでいると、私が登った木の幹に、小さな穴があるのを発見した。

 

「なんだろう......コレ」

 

興味がわいた私は、その穴を覗き込んだ。するとその穴から、小さなリスが飛び出してきた。

 

「わぁ......!」

 

とても可愛らしいリスだった。近所の森にも動物は居るが、リスは居なかった。つまり、リスに出会ったのはこの時が初めてだった。

初めて見たリスに触れようと私は手を伸ばす。けれど、私の手がリスに触れる寸前で、そのリスは逃げ出してしまった。

 

「あ......まってリスさん!」

 

子供だった私は、初めて見た動物にどうしても触れたくて、木から降り、言いつけを忘れてそのリスを追いかけた。

 

それがいけなかった。

 

「好奇心は猫をも殺す」とはよく言ったものだ。私はリスを追いかけて森の奥へと入ってしまった。森の奥に入ってからも、ひたすらリスを追いかけ、捕まえようとしていた。けれどその途中転んでしまい、リスを見失ってしまう。

 

「リスさん......」

 

見失ったことに落胆しつつも、私は元居た場所へ戻ろうと動き出す。そこで気が付いた。森の中で迷ってしまったことに......

自分がどこから来たのかも、どこに行けば帰れるのかも分からない。

本当なら、その場から動かない方が良かったんだろうけど、私は両親の元へ帰るべく、ゆっくりと歩き出してしまった。

 

「おとーさん......おかーさん......」

 

両親を呼びながら辺りを見渡し、森の中を彷徨っていると。

 

突如、バランスを崩してしまう。

 

「!?」

 

突然のことに驚愕し、咄嗟に足元を見た。そこに足場は無く、あるのは遥か下にある川。

私は崖から足を踏み外してしまったのだ。

それを認識した時にはもう遅く、私の体は真っ逆さまに落下を始めた。

直後、私に頭に浮かび上がる「死」という単語。

 

このままでは死ぬ。何とかしなきゃという思考が頭を駆け巡るが、個性のない私には何もできない。ただただ、死への恐怖と落下の衝撃に備え、歯を食いしばり、体を丸める事しかできなかった。

 

落下し始めてから数秒、ついに私は背中から水面に衝突した。衝撃で肺から一気に空気が抜ける。けれど、不思議と痛みは感じなかった。

私はそこで、先程までとは体の感覚が違う事に気が付いた。体が軽く、五感がいつもより鋭い。今なら何でも出来てしまうような気さえした。

 

もしかして......

 

私は崖から落下したことも忘れ、濡れていることも気にせず、水面に反射する自分の姿を見た。

そこには、腕は肥大化し、五本の指の先には鋭い爪があった。頭には尖った耳があり、瞳の中の瞳孔は、まるで獣を思わせるような鋭い物に変化している自分の姿が目に映っていた。

 

幼い体にそぐわない大きな腕と鋭い爪、そして獣の耳、どう見ても、さっきまでの私にはなかった物。そうして気が付いた。私にも個性が発現したのだと。嬉しさのあまり、私はその場で小さく飛び跳ねた。「これでいじめられたりすることは無くなる」、「もうあんな思いをしなくても良い」、そう思うだけで、自然と笑みが零れた。

 

お父さんとお母さんにも見せたい、見せて喜んで欲しい。

強化された嗅覚のおかげで、両親がどこに居るのはがわかる。私は両親が待つ場所へ行こうと動き出した。この先に起こる悲劇を知らぬまま......

 

「あ......」

 

両親の元へ戻ろうとした私は、そこでようやく自分が崖から落ちたことを思い出した。どうにかして崖の上に行ける道を探すけど、崖しか見当たらない。先程までの私であれば、諦めてそこでジッとしていただろう。けれど、今は違う。

 

私には個性がある。それも、こんな崖くらい登れてしまえそうな個性が......

 

「......よし」

 

私は意を決して、大きくなった手で崖を掴む。もともと木を登ったりしていたから、高い所に登る事に抵抗も恐怖も無かった。

両手で崖を掴み、崖の上を見ながら登ろうと腕に力を込めた、けれどその瞬間。

 

「あ......帽子......」

 

被っていた帽子が頭から落ち、川に着水した。私は崖から手を放し、急いで帽子の回収に向かう。幸い、川の流れが緩やかで、帽子が流されていく、なんてことはなかったけれど......

 

「どうしよう......」

 

帽子を被ったままでは崖が登れない、なら帽子を置いて行けばいいんだろうけど、それだけはしたくなかった。

 

何故なら、この帽子は両親が買ってくれた大切な物だったから。帽子を被っていると崖が登れない。けれどここに置いて行きたくもない。ならばどうするか。私はそこで、自分の口に咥えて持っていくことを選んだ。これなら置いて行く必要はない。

 

私は帽子を咥え、再び崖に手を掛けた。幸い崖は手や足を掛けられるような凹凸が多く、登ることに苦労は無かった。

しばらく崖を登り続け、無事登りきることが出来た私は、嬉しさのあまり、帽子を手に持つことも忘れ、帽子を咥えたまま両親の元へと走った。走っているうちに少しずつ森が開けていき、私を探している両親が見えてきた。私は速度を上げて両親の元へと走る。

 

『おとーさん!!おかーさん!!見て見て!!』

 

両親の元へと辿り着いた私は、私にもついに個性が出たと、喜んで欲しくて、笑って欲しくて、両親にそう告げた。

けれど、返って来た反応は、私が想像していた物とは真逆の物だった。

 

「ひっ......!!」

 

私の姿を見た瞬間、母親は顔を青くして怯え始めた。

 

「ば......化け物......!!」

 

私の姿を見た父親は、警戒し、個性を構えた。

 

『お......おとーさん?おかーさん?私だよ......?わからないの......?』

 

想定とは違う反応を見せた両親を不思議に思いつつも、目の前にいる子供が私であるという事を教えるように、言葉を紡ごうとする。しかし......

 

「ヴァ......アヴ......?」

 

言葉が話せない、いや、声は出せるけど、人の言葉が話せなくなっていた。

異変を感じた私は、自分の姿を確認すべく、近くにあった川に視線を向ける。そこに映っていたのは、先ほどまでの私じゃなく、ズタボロの帽子を咥えた四足歩行の獣の姿。

 

その姿はまるで、本物の狼のようだった。

 

それもただの狼じゃない。普通の狼よりも一回り以上も大きく、上半身と前足に当たる部分が異常に発達した狼だ。

その瞬間、個性が発現した喜びよりも、肉体が変質しているという恐怖が上回った。

 

『なに......これ......』

 

自分の体なのに自分じゃない。そんな未知の恐怖に、私は最も親しい人間に救けを求めようとした。けれどその瞬間。

 

『っ!?あ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛ッ!?』

 

体に電流が走り、焼けるような痛みが私を襲った。まだ子供だった私に耐えられるはずもなく、その場に崩れ落ち、倒れ伏してしまった。

痛みの中、電流を放ったのが誰なのかは理解できた。だって、この三年間、一番近くで見てきたから。

 

「ヴ......ァア......」

 

痛い、どうしてこんなことを......そう言葉にしようとしたけど、喉から出てくるのは掠れた獣の呻き声だけ。辛うじて動く頭だけを動かし、私は両親......私を攻撃した人達の方を見る。

 

怯えたような表情を見せ、個性を使い、私を近寄らせないように威嚇している。

なんで、どうして、私はただ喜んで貰いたかっただけなのに。そんな思考が頭の中をグルグルと回る。どうすればいい、どうしたらいい。頭の中はめちゃくちゃだ。

 

そんな痛みと混乱の中で、生まれてから4年しか経っていない子供に正常な判断ができるはずもなく、私は訳もわからないまま、再び救けを求め、這いずって両親の元へ向かおうとした。

 

けれど

 

「こ......来ないで......!!」

「来るな!!化け物め!!」

 

両親は助けてくれず、再び私に電撃を浴びせた。

 

「ァ゛......ヴア゛ァ゛ア゛ッ......」

 

痛い、熱い、苦しい。

体が痺れて動かない。助けてほしいのに、助けてもらえない。でもどうすればいいか分からない。視界に映るのは、両親の怯えた顔。そこで理解した。この人たちは、私を救けてくれないんだと。

 

そこからは地獄だった。

 

パニックになっていたんだろう、動けないんだから、大人しく警察でも呼べばよかった物を......

元両親はそれをせず、私が動くたびに電撃を浴びせてきた。どれだけ電撃を浴びせられたのかは覚えてない、10回、100回、それ以上かもしれない。それだけの電撃を浴びせられても、私は気を失うことが出来なかった。

 

生き地獄だった。いっそのこと、最初の電撃で意識を飛ばせていたならと何度思っただろう。

動けず、助けてももらえず、ただただ痛みに耐えるしかない。そんな長くも短くも感じた地獄がようやく終わった頃。そこでようやく私の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは......よろしくお願いします」

 

意識が覚醒した時、私の耳に最初に飛び込んできたのは、父親のそんな言葉だった。

ぼやけた視界が捉えたのは、私を置いて車に乗り込み、そのまま去っていく両親の姿。

 

 

まって 置いて行かないで

 

 

そう声を出そうとするけど、声が出せない。両親を追いかけようとするけど、体が動かない。私は、ただ去っていく両親を眺めている事しかできなかった。

両親の車が見えなくなった後、誰かに運ばれるような感覚を覚えながら、私の意識は再び途切れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

次に目が覚めた時、私は真っ白な部屋に居た。硬いベッドと、剥き出しのトイレだけがある殺風景な部屋。

 

私は体を起こし、自分の体を見た。視界に映る両手は小さな人間の手。そこで私は、自分の体が元に戻ったんだと安堵した。けれど、その肉体はかつての物ではなかった。

 

体に付いたおびただしい火傷の跡、そして、今まで付いていなかった、身に覚えのない無数の傷跡。

それを見た瞬間、恐怖と悲しみが同時に襲い掛かって来た。

 

「あ......あぁ......」

 

涙が込み上げてくる。両親に捨てられた事、知らない傷がある事、これは悪い夢だ。きっとそうだ。そう願い、私は両頬を思い切りつねる。感じたのは頬に走る痛み。その痛みが物語っていた。これが夢じゃなく現実であることを。

 

私はその場で泣きじゃくった。助けてほしいと願い祈った。けれど救けは来なかった。

泣き始めてからどれぐらい経っただろう、1分?1時間?それ以上かもしれない。そうして泣き続け、涙が治まり始めた頃、部屋の扉が開き、白衣を着た長身の男が部屋に入って来た。

 

「だれ......?」

「時間だ」

 

男は私の質問に答えることは無く、代わりにひどく冷たい声色でそう告げ、私の腕を強引に掴み、どこかへ引っ張り始めた。痛い、やめてと泣き叫んでも、男は引っ張るのをやめない。

ひたすら痛みに耐え、涙を流しながら歯を食いしばっていると、白衣を着た人が沢山いる部屋に放り込まれた。みんな無表情で、私の事を見下ろしている。

 

ただひたすらに不気味だった。同じ人間でも、表情がないだけでこうも違うのか。そう怯えていると、そのうちの一人が私に手を伸ばした。瞬間、体の自由が利かなくなる、多分、目の前の人間の個性。逃げたいけれど逃げられない。そんな恐怖だけが、私にあった。

 

「目覚めているがどうする、また眠らせるか?」

「いや、丁度いい、覚醒時の反応も見ておきたい。このまま続行する。それに起きていようがいまいが、研究の本筋に大した支障はない」

 

そう話した直後、訳もわからず困惑している私を、彼らは実験台のような場所に磔にした。

私は恐怖に震える事しかできなかった。怖い、帰りたい。頭の中でそう繰り返し、瞼を固く閉ざしていると......

 

突如、私の指に想像を絶するほどの激痛が走った。

 

痛みに震えながら、恐る恐る目を開けてみると、私の親指の爪剝がされていた。頭が理解を拒んだ。何とか理解しようと思考を回すけれど、私がソレを理解する前に、今度は人差し指の爪がはがされた。

 

「あ゛ぎっ!?い゛ぃ゛い゛!?」

 

余りの痛みに、思わず声を上げてしまう、けれど彼らの手は止まることなく、次いで中指、薬指と、次々に私の爪を剝がしていった。

 

「あ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛!!!!!!」

 

痛い、痛い、痛い、痛い。

痛みが思考を支配する。何とか痛みを逃がそうと体を捩るけど、磔にされていて動くこともままならない。私には、痛みに耐えて泣き叫ぶことしかできなかった。

 

そうして両手の爪が全て剥がされたころ、ようやく彼らの手が止め、今度は私の事をじっと観察し始めた。何もしないのなら早く解放してほしい。開放して、この傷をどうにかしてほしい。

 

私がそう願ったその時、爪を剥がされた指に違和感の様な感覚を感じた。それと同時に、痛みも徐々に治まってきている。何かが私の体に起きている。本能的にそう感じた私は、恐る恐る、自分の指に視線を向けた。自分の指が視界に入った瞬間、私はありえない光景に驚いてしまった。

 

「おお......!!」

()()した......!!しかも眠っている時より早い!!」

 

目の前の彼らが驚愕している通り、剥がされた私の指の爪が再生を始めたのだ。それも目に見える速度で。

 

「なに......これ......」

 

私が驚愕しているのも束の間、再生を始めてから僅か数秒で完全に再生。痛みも引き、元から剥がされてなどいなかったかのように、元通りになった。

いくら幼くとも、これが異常だという事はすぐに理解できた。傷はすぐには治らない。だというのに、私の体は即座に傷を再生させた。これは本当なら喜ぶべき事なんだろう。けれど、その時の私には恐怖しかなかった。

 

「爪でこれなら、他の部位も期待できるかもしれないな」

「そうだな、よし、研究を続行するぞ」

「やめて......来ないで......」

 

そう懇願するけど、私の願いは聞き入れれられる事は無く、先ほどよりも更に多く動き始めた。

 

爪の次は皮膚、その次は歯、腕、脚、舌......そして、内臓。

 

彼らは次々と私の体を傷つけた。再生するたびに傷つけ、再生する前に傷つけ、時に深く、時に大きく、時に抉り、私の体を弄ぶかのように傷つけ続けた。

 

 

何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

 

 

体が引き裂かれる度に、傷をかき回される度に、想像を絶する激痛が走る。そのたびに泣き叫び、やめてと懇願した。けれど、彼らの手が止まる事は無かった。気が狂いそうだった。そうして何度も傷つけられ、私の体力が尽きてからようやく、拷問が終わった。

元居た部屋に放り投げられ、最早泣く体力もない私は、そのまま泥のように眠りについた。

 

夢であってほしいと切に願った。次に起きた時には、いつもの日常が待っていたなら、何度もそう願った。

けれど、現実は残酷だった。

 

「あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛!!」

 

朝起きて、また磔にされ、切り裂かれる。それが終われば部屋に放り投げられ眠りにつく。私を待っていたのは、そんな生き地獄だった。

 

起きては体を切り裂かれ、乱雑に扱われ、また起きれば体を切り裂かれる。次第に痛みを感じにくくなっていき、泣き叫ぶ気力さえも無くなっていった。そんな地獄が、半年ほど続いたとある日......

 

「......」

 

また地獄が始まる。そう絶望しながら、私をあの地獄へ連れていく人が来るのを待っていた。

けれど、いくら待っても、部屋には誰も来ない。不審に思い、私はいつも人が入ってくるドアに手を掛けた。

 

すると......

 

「あいた......」

 

いつも掛かっているはずの鍵が掛かっておらず、扉が開いた。

その時私は、瞳に再び光が灯り、かつてない程の希望を感じた。ここから逃げられる、この地獄から抜け出せる、と。

 

瞬間、私の体は無意識に走り出していた。

 

脇目も振らず、どこにあるかも分からない出口を目指してただひたすらに......

幸い、森で過ごしていたこともあり、体力と身体能力だけはあった。私を捕まえようと、個性を使って追いかけてくる大人の追跡を振り切り、ようやく出口を見つけた。

 

私はそこから飛び出し、当てもなく走り続けた。

住宅街、あぜみち、路地裏、いろんな場所を駆け抜け、ついには街に出た。

 

車が走り、多くの人が歩く大きな街。いったいどれぐらい走ったんだろう。脚が痛いから、相当な距離を走ったのは確かだった。

それほど逃げてきたけど、逃げ切った、とは思えなかった。またどこかへ逃げなければ、だけど行く当てはない。自分が居る場所が何処かも分からないし、家には戻りたくなかった。

 

私は誰かに救けを求めるべく、また走り出した。長いこと裸足で走って来たからか、足の裏から血が出てきた。けれど、そんなことも気にせず、救けてくれる人を探して、ボロボロのままひたすら走った。

 

しばらく街を走り、体力も底を尽きようとしていた頃、私は人込みの中でとあるものを見つけた。

 

普通の服を着ている人の中で、明らかに異彩を放っている、黄色いスーツを全身に纏った人物を......昔、幼稚園の先生が教えてくれた。「個性」を使い、「個性」で悪さをする人たちを懲らしめる存在、それこそが......

 

「......ひーろー......」

 

あの人なら、ヒーローなら、きっと救けてくれる。そう思い、私はそのヒーローの元へ走った。ひたすら走り、ヒーローの元へたどり着いた私は、息を切らしながら、そのヒーローに救けを求めた。

 

「ひーろー......たすけて......」

 

掠れる声で救けを求め、手を伸ばす。

ヒーローなら、きっと私の手を取ってくれる。手を取って、きっと保護してくれる。これで救かる......

 

そう思っていた。

 

「え......?」

 

目の前のヒーローは、私の手を取ることなく、その場を走り去っていった。

 

なんで......?ヒーローは困ってる人を救けてくれるんじゃないの......?

 

その一瞬だけ、私は逃げる事も、あの地獄の事も忘れ、そんな思考だけが頭の中を駆け巡った。

 

ヒーローがダメなら、周りの人間に......そう思い、辺りを見渡した。けれどそこには、人っ子一人いなかった。そんな私の瞳に映ったのは、私を救けてくれなかったヒーローを、笑って応援する、町の人たちの姿。

 

「た......たすけ......」

 

それでも尚、救けを求めて声を上げようとする。けれどその瞬間、私を連れ戻しに来た人たちに、背後から口を掴まれ、車の中に押し込まれた。そこでハッキリと理解し、絶望したんだ。救けを求めても、誰も救けてくれない。誰も見向きもしない。

 

結局、私は逃げる事も出来ず、あの施設へと逆戻りになった。地獄が待っている、あの施設に......

 

私が伸ばした手は、最後まで誰かに掴まれることも無く、願いは救けを求める声と共に、虚空の彼方へと消えていった。

 

 

 

 

これが、私が齢4歳にて知った、残酷な世界の現実。

 

作られた夢は覚め、現実に還る。

 

ヒーローはどこからともなく現れて助けてくれてくれる訳じゃない。

 

救けを求めて手を伸ばしても、救けてもらえるわけじゃない。

 

何も信じない、ヒーローも、人間も、何もかも。

 

信じたところで、何かに縋ったところで、結局は裏切られる。

 

何かを為したいのなら、願いを叶えたいのなら、自分の力で何とかしなきゃならない。

 

だからこそ、私は一人で戦うんだ。

 

 

 

 

前置きが長くなってしまったけど、この物語は、私が理想を叶え、幸せになるための物語だ。

 

 




皆さんどうも猫耳の人です。

さて、第九話ではなく、なぜこのタイミングでプロローグを投稿したのかと言いますと...
単純に情報不足だったのです

皆様と私の間ではこの小説に対する情報量が違う、そこを失念しておりましたので、情報の開示と皆様に興味を持っていただくために、プロローグを投稿いたしました。

次こそは第九話の投稿になります。

それではみなさん、これからも私の小説をよろしくお願いいたします。次回もお楽しみに

追記
伏線ではなく小ネタなので言ってしまうと、このお話で出てきた「黄色いスーツのプロヒーロー」、実は原作に出ているネームドキャラクターなのですが...皆さんは誰だか分かりましたか?
宜しければ感想にて答えていただけると嬉しいです。
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