ワケアリ少女の進む道   作:猫耳の人

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皆とは違う


第三話 私のやり方

 

......夢を見た。まだ幼い頃の......嫌な思い出

 

『ば......化け物......!!』

『来ないで!!』

 

怯える二人の男女。個性を使い、目の前にいる「狼」を近寄らせないように威嚇している。

それでも尚近付こうとする狼に対し、二人は個性を使って鎮圧。狼......私はそこで意識を失い、その場に倒れ伏す。

 

『それでは...よろしくお願いします』

 

薄れゆく意識の中、私が最後に聞いたのはそんな言葉。霞む瞳が捉えたのは、私を置いてどこかへ行ってしまう二人の男女......そんな光景を最後に......

 

「......」

 

私は目を覚ました。ぼやけた視界のまま布団を退かし、体を起こす。

 

「はーっ......」

 

少しズキズキと痛む頭を抱えながら、今まで見ていた夢を思い出してため息を吐いてしまう。

また嫌な夢......最近多いな......

思い出したくもないことを思い出してしまった。朝から気分が悪い。

 

「......学校......行かなきゃ」

 

いつも以上に鬱屈とした気分のまま布団から這い出て、いつものように身支度を済ませ、「薬」を飲んでから家を出る。時刻は8時、昨日より遅くなっちゃった。急がないと、また相澤先生に怒られる。そんな考えを持ちながら、私は駆け足で雄英に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

軽く走る事十数分、朝のHRギリギリの時間で教室前に到着した私。隣には相澤先生が居る。ギリギリで学校に着いたのが見つかってしまい、軽い小言を受けながら一緒に教室に歩いてきたのだ。薬飲んでおいてよかった。

 

「おはよう」

 

挨拶をしながら教室に入っていく相澤先生。それに続くように私も教室に入っていく。視線が集まるけど気にしない。遅刻ギリギリなのはダメだけど......結果的には誰にも話しかけられることが無いからよかったのかもしれない。

私は所謂「話しかけるなオーラ」を出しながら自分の席に座った。それと同時に相澤先生の話が始まる。

 

昨日相澤先生に見送りして貰う時、今後の動きについて軽い説明してもらったから置いて行かれるなんてことは無い。曰く、今日からもう通常の授業が始まるとのこと。入学前に買った教材は机の中に入っており、それを使って授業を受けろと説明を受けた。

 

「HRは以上だ、授業の準備に入れ」

『はい!!!』

 

私たちにそう呼びかけて教室を出ていった相澤先生。言われた通り、自分の机の中から教材を取り出そうと動き始めた。すると......

 

「魔嚙さん!おはよう!」

「......」

 

急に声をかけられた。少し驚きつつも、声がした方に視線を向ける......するとそこには、透明人間さん、耳たぶがプラグみたいになってる女の子、醤油顔の男子、チャラそうな男子......四人が私の席に集まってきていた。ほかの人も近くには居ないものの、興味ありげな視線を私に向けている。

 

「私葉隠透!!改めてよろしくね!!」

「ウチ耳郎響香、昨日早退してたみたいだけど大丈夫なの?」

「俺上鳴電気!!昨日の50m走すごかったぜ!!どんな個性なん?」

「俺は瀬呂範太な、隣の席だし仲よくしようぜ」

 

代わる代わる自己紹介していく透明人間......葉隠さんたち。ワクワク、心配、興味、わずかな下心、良心。聞こえてくる息遣いと心臓の音で考えていることは何となく分かる。

話しかけるなオーラ出してたのにな......なるべくクラスメイトとは関わりたくない。

だから私は......

 

「ああ、そう」

 

と、素っ気ない返事をして準備に戻る。これで離れていってくれればいいんだけど......なんて考えながら横目でチラリと視線を向けると......何故かもっと興味ありそうな瞳で私を見てくる。おかしいな......今までならこれで離れていったのに......

 

「ピアス凄いね、自分で開けたの?」

「うん」

「個性教えてくれよ!」

「言いたくない」

「どこの中学から来たんだ?」

「個人情報」

 

次々と飛んでくる質問を表情を変えず、一言でバッサリと切っていく。これなら流石に......と思ったけど、葉隠さんたちの表情は変わらない。どうにかして彼女たちから離れたい。

 

「もういいかな?そろそろ授業だし」

「あ......ごめんね!準備中だったもんね!」

 

なるべく冷たい表情と声色でそう言い放つと、少し気圧されたような様子を見せて私の下を去って自分の席に戻っていった。これで少しは効果があるといいんだけど......そんな風に考えていると授業が始まる。最初の授業は英語、先生はプレゼントマイクだ。

どんな授業になるのか......僅かな不安を残しつつ、私は最初の授業に臨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

昼までの授業が終わり昼。私は昼食を食べに購買に来ていた。

雄英高校......最高峰の学校の授業という事で少し身構えていたけど......授業そのものは普通だった。普通じゃなかった所と言えばプレゼントマイク先生が少しうるさかったくらい。内容もそこまで難しくなく、案外拍子抜けだったというのが本音だ。

 

「......」

 

購買で買ったおにぎりを持って、人が居ない屋上へ続く階段に向かった。ここなら誰かに見られたり、絡まれたりする心配もない。私は階段に座ったままおにぎりの封を開け、それを口に運んでいく。

お腹を満たすためだけの作業、味なんて気にする必要は無い。

 

「......ご馳走様でした」

 

数秒でおにぎりを腹に詰め込んだ私は、ゴミを捨てて教室へと歩く。確か次の授業は......ヒーロー基礎学。しかもいきなり実技らしい。

授業のオリエンテーションも無しにいきなりって......ほんとに大丈夫なのかな......

不安が残るけど、始まらない以上は分からない。教室に戻ってきた私は机に突っ伏し、授業が始まるまで眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わ~た~し~が~......普通にドアから来た!!」

「ん......?」

 

いきなり教室に響いた轟音に、私は目を覚ました。

体を起こし、音がした方に視線を向ける。するとそこには誰もが知っている最強のヒーローが立っていた。

現ナンバーワンヒーローであり、平和の象徴。どんな人も笑顔で助け、どんな状況でも圧倒的に勝ってしまう無敵の男......オールマイトが、赤いコスチュームにマントを羽織りながら教壇に立っていた。

本当に雄英で先生やってたんだ......

 

「画風が違いすぎて鳥肌が......」

 

クラスの皆が生のオールマイトを見て興奮したように声を上げている中、私は眠気を覚ますために目を擦っていた。興味が無いわけじゃないけど、別に興奮するほど好きってわけじゃないし。

 

「早速だが今日はコレ!!戦闘訓練!!」

 

と、オールマイトはどこからか取り出した「BATTLE」と書かれたカードを見せながらそう言った。

戦闘訓練......ヒーロー科に入った以上覚悟はしてたけどこんなに早く......しかも個性が不安定になってる今......本当にツイてないな......「薬」飲んでおかないと......

 

そんな私の不安を置いて話を進めていくオールマイト。どうやら今回の訓練ではヒーローコスチュームを着用するらしい。

入学前に届けにあったアレか......要望通りに作られてるといいんだけど......

オールマイトが話を終えた後、私は自分の出席番号が書かれたアタッシュケースを持ち、足早にトイレに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

素早く着替えを済ませ、会場であるグラウンドβに向かう。到着するともう大体の人は着替えを終えて到着していたようで、雑談しながら授業の開始を待っていた。

 

「あ!魔嚙さん!」

「おー!コスかっこいいね!」

「黒いコートにズボン......なんかエージェントみたいやね!」

 

私が到着すると同時に、女子全員が私の下に来た。やっぱりおかしい、あれだけの冷たい態度を取られてまだ話しかけてくるなんて......

ひとまず距離を置くため、彼女たちを一瞥し、無言でその場を離れ、誰も居ない場所で座り、授業の開始を待つ。

 

なんとなしにクラスメイトに視線を向けた。白いフルプレートアーマーの生徒、道着姿の生徒、上半身裸の生徒......様々な姿のクラスメイト達がそこにいた。そのいずれもが見た目で「魅せる」コスであることを理解し、自分のコスに視線を落とす。

 

私のコスチュームは、黒いロングコートにハイネックのアンダーシャツ、黒いグローブに伸縮性の高い黒いズボンにポーチが少し......見た目より機能性を重視している。特徴があるとすれば、全身が真っ黒で、肌の露出が極めて少ないことくらいだろうか。カラフルで華やかな皆のコスチュームに対して、私のコスチュームは黒一色。華やかさの欠片もない。そんな事実に思わずため息を吐いてしまう。

いけない、またネガティブになっちゃった......恰好はこの際どうでもいい。重要なのは私がヒーローになれるかどうかだ。

 

「さぁて!準備は良いか!有精卵ども!!」

 

しばらくしてオールマイトも到着。いよいよ戦闘訓練が始まる。

......何事もなければいいんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オールマイトから訓練のルールと概要の説明を受けた。

今回の訓練のルールはシンプルなものだった。簡単に言えば2対2のタワーディフェンス。二人一組でヒーローチームとヴィランチームに分かれて訓練を開始する。

 

ヴィランチームは制限時間中核爆弾を守り切るかヒーローチームを支給される捕獲用のテープで捕らえる事。

 

ヒーローチームは核爆弾を守るヴィランを同じく支給される捕獲用テープで捕らえるか、ビルのどこかにある核を回収する事。

 

これがそれぞれの陣営の勝利条件になっている。

分かってはいたけど......やっぱりヒーローチームの方が不利なルールだ。ヴィランチームはビル内にトラップだったりを仕掛けられるけど、ヒーローチームは前準備をほとんどできずにその中に飛び込むことになる。できる事ならヴィランチームの方が良いんだけど......

 

「......」

 

引いたのは「H」と書かれた白い球......ヒーローチームの球だった。

ペアになったのはカエル顔の女子生徒......蛙吹梅雨だった。

 

「ケロ、よろしくね、魔嚙ちゃん」

「......」

 

私に話しかけてきた蛙吹さんに一瞬視線を向け、私は控室に歩いて行く。

第一試合は緑谷、麗日さんチーム対爆豪、飯田君チーム、このペアが相手じゃなくて本当に良かった。「薬」を飲んでるとはいえ......爆豪君と戦ってたら確実に抑えが効かなくなる。

 

「魔嚙ちゃんはどっちが勝つと思う?」

「......さあ」

 

素っ気ない反応で突き放しても関係なく話しかけてくる蛙吹さん。

同じチームだけど......できれば関わりは最低限にしておきたい......なんて考えながらモニターを眺めていると、訓練が始まった。どんな訓練になるんだろう......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「負けた方が無傷で......勝った方が倒れてら......」

「試合に負けて勝負に勝ったといったところか」

「訓練だけど」

「......」

 

最初の訓練はとても悲惨なものだった。

結果だけ言えばヒーローチーム......緑谷君と麗日さんのチームが勝った。

訓練の勝利条件上勝利という扱いにはなってるけど......

 

「......ひどいなぁ」

 

半壊したビルを眺めながら、私は小さくそう呟いてしまった。

ビルの惨状がじゃない。訓練の内容がだ。

爆豪君の単独行動に大規模破壊、ヒーローチームの気の緩み、乱暴な攻撃......すべて踏まえて「最悪」な結果を残した訓練だったと私は思う。更に付け加えるとすれば......入試一位だった爆豪君、どれくらい戦えるのか観察してたけど......案外拍子抜けする程度の実力しかなかった。

 

乱暴で幼稚、動きの節々にセンスは見受けられたけど、結局それだけ。自己中心的で粗暴な人間性が動きにも現れていてわかりやすい動きだった。

 

「......こんなのでも合格できるんだな」

 

オールマイトの講評の途中、思わず口からそんな言葉が零れた。私の悪いクセだ、長いこと一人で居たせいで、思ったことが無意識に口から零れてしまうことが多々ある。私の発言が聞こえたのだろう。皆の視線が一斉に私に向く。

 

......やっちゃった。なるべく注目を浴びないようにしたかったのに......

私の言葉を不愉快に思ったのか、赤い髪の男子生徒が何か言いたげな表情をしながらこっちに向かってくる。

 

「オイ!そんな言い方は......」

「......」

「あ!オイ!待てよ!」

 

私は声をかけてきた赤髪の生徒を無視して訓練会場に向かった。後ろから声が聞こえてくるけど、私は反応せず、指定されたビルの前に立ち、ビル内のマップに目を通し始める。

マップを見始めて数分、大方内部構造を理解したころ、今回の相手である赤髪の生徒と醤油顔の生徒がビル内に入っていくのが見えた。それと同時に......

 

「準備が早いわね、魔嚙ちゃん」

 

背後から蛙吹さんが私に話しかけてきた。

......どうして私に話しかけてくるんだろう。同じチームだからかな......だとしてもあれだけ突き放せば関わりたくなくなるはずだけど......

 

「......あのね魔嚙ちゃん、あまりこういうことは言いたくないのだけれど......さっきの発言、ああいう発言は控えた方が良いと思うわ」

「......」

「せっかくクラスメイトになったのだから、私は皆で仲良くしたいわ。」

 

......ああ、そうか、この人は......いや、この人たちは......皆優しいんだ。

あんなに嫌な態度を取ったのに、あんなに突き放したのに、それでも尚私に話しかけてくる。

つくづくヒーロー思考だな、皆......

 

「だから......これからはもう少し発言を顧みてほしいわ」

「......」

 

私にそう言ってくる蛙吹さんの顔は諭すような表情をしていた。

仲良くしたい......か......気楽なものだ......

 

「......何も知らないくせに」

「ケロ?何か言ったかしら?」

「......別に」

 

......今はそんな事考えてる暇はない。訓練に集中しないと。

 

「そろそろ始まるわね、作戦はどうするの?」

「......」

 

蛙吹さんの声を聞きながら個性を発動させ、鼻を動かす。使っているのは狼の嗅覚。

狼の嗅覚は人間の数百~数千倍。数キロ離れた場所から獲物の臭いを嗅ぎ分け、追跡することができる。

さっきヴィランチームの臭いは覚えた、彼らの居場所は......

 

「......見つけた」

「ケロ?」

「場所は4階南東の角部屋、核もそこにある」

 

ヴィランチームの二人は同じ場所にいる。二人と核の臭いとは別にテープみたいな臭いがする。そういう個性なのかな。まあでもやることは変わらない。最速、最短で終わらせる。

 

「蛙吹さんは外から入って奇襲を、私は中から詰める」

「わかったわ、それと、私の事は梅雨ちゃんと呼んで。お友達にはそう呼んでほしいの」

「......じゃあ、蛙吹さんでいいね」

「ケロ......」

 

私はなるべく冷たい表情と声色で、言外に「友達になりたくない」と伝え、開始の合図とともに蛙吹さんから視線を外しビルの中に入る。

マップはもう暗記した。敵の位置も把握した。あとは......

 

「叩くだけ」

 

両足に個性が暴走しないギリギリまで力を込め、踏み切る。その瞬間、地面が砕けると同時に私の姿が掻き消える。

壁沿いに走り、階段を駆け上がり、ヴィランチームが待ち伏せている部屋を目指して地を走り、壁や天井を跳ぶ。

最短ルートを強引に進んでいき、ものの数秒で核とヴィランチームが居る部屋の前に到着した。蛙吹さんは......まだ登り切ってない。

でも......

 

「待ってる暇はない」

 

私は蛙吹さんの到着を待たず、扉を強引に蹴破り、核がある部屋に突入した。部屋の中にはまるで蜘蛛の巣のように、核を守るように張り巡らされたテープが大量にあった。

核を守るためのバリケードか......面倒だな......

 

「んな!?」

「もう来たのかよ!?」

 

ヴィランチームの二人が狼狽える。

動きが止まった。今のうちに核を回収......

 

「っ......!狙いは核か!やらせねえ!!」

「来ると思った」

 

フルフェイスのヘルメットを着けた醤油顔の男子生徒が、核目掛けて走る私に向けてテープを射出する。二人の個性はこの前の個性把握テストで見た。赤い髪の生徒のほうは体を硬質化させる個性。だから中〜遠距離で触りに来るとしたら、テープの個性の醤油顔の男子だって予想もついてた。

だから......

 

「がっ......!?」

「まず一人」

 

射出されたテープを搔い潜り、ヘルメットを砕くために顎に膝蹴りを入れる。狙い通りに顎が露出した。私は両足が地面に着いた瞬間、脚を交差させ回転、そのまま姿勢を低くし、露出した顎目掛けて、回転の勢いとパワーを乗せた後ろ回し蹴りを炸裂させた。

 

「か......」

「瀬呂!!」

 

醬油顔の男子......瀬呂君の意識を刈り取り、そのまま核に向かって走ろうとすると、目の前に赤髪の男子が割り込んできた。

 

「核はやらせねえぞ!!」

 

そう叫びながら私に向けて右ストレートを振るう。個性が反応してしまう恐れがある、できれば受けたくない。だから、私は近くにあった物を盾として使った。

 

「っ!?」

 

その盾を間に割り込ませた瞬間、赤髪の男子の動きが止まる。肉体を硬質化できるのなら、目の前の盾諸共殴って破壊すれば良い。普通ならそう考えるだろう。なら何故、目の前の赤髪の男子は動きを止めてしまったのか。簡単だ、私が絶対に殴れない盾を使ったから

 

「......仲間は殴れないよね。特に君みたいな人間は」

 

私が盾に使ったのは、私が意識を刈り取った瀬呂君だ。さっきの問答で彼の性格は大方把握できた。付き合いの浅い人間でも、クラスメイトが悪く言われれば怒る。彼は情に厚い人間なのだろう。だから、そういう人間にはこの手が一番効く。

 

「っ......!卑怯だぞ!正々堂々戦えよ!」

「......」

 

悪いけど、君とお喋りしてる暇は無い。私は瀬呂君を投げつけ、体勢を崩している隙に核に走り、そのまま触れた。

 

『訓練終了!!ヒーローWIN!!!』

 

私が核に触れると同時に、訓練終了の合図が流れる。訓練開始から僅か十数秒。驚異のスピードで、私たちの訓練は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ講評......と行きたいのだが......」

 

瀬呂君以外の全員が控室に戻り、講評が始まる。

けど、オールマイトを含めた全員の顔は微妙なものだった。その視線のすべては私に向いている。

 

「うん......MVPは魔嚙少女で間違いないのだけれど......」

「......」

 

言葉尻を濁しながらそう言うオールマイト。何か言いたげな表情だ。

クラスメイト達も納得していないような、ハッキリ言うのならば文句を言いたそうな表情をしていた。

 

「......言いたいことがあるのならハッキリ言ってください」

「ぬう......」

「では、ハッキリ言わせていただきますわ」

 

前に出てきたのは、先ほどの講評で辛辣な評価をしていた八百万という女子生徒。その瞳には怒りに近い物が宿っているように見える。

睨みを利かせ、私の目の前に歩いてくる八百万という生徒。

 

「よろしいですわね?」

「......どうぞ」

 

冷たい目で見下ろしているにも関わらず、臆さずに向かってくる。こういう人間を相手にするのは初めてだ。

 

「言いたいことは多々ありますが......まずは魔嚙さん、あなたの訓練中の行動について言わせてもらいますわ」

「......」

「まず最初に、いきなりチームを分けるのは愚の骨頂と言えますわ。映像を見た限り、作戦の概要も十分に伝えていなかったのでしょう......それはチームの連携にも関わってきますし、何よりあの場面での単独行動は危険だと言えますわ」

「......それで?」

「次は考えなしに核がある部屋に入ったことです。ヴィランがどこに居るか、どこに潜んでいるのかを把握していないにも関わらず、ヴィランの本丸に突入するのは愚策ですわ」

「......」

 

......なるほど、控室からは音声が聞こえないからそう見えてたのか。

別に考えなしに核がある部屋に入ったわけじゃないし、慢心があったわけでもない。だから数十秒という限りなく短い時間で訓練を終了できたのだから。

 

「......最後に」

 

これが一番言いたい事だと言わんばかりの表情を浮かべている。その瞳には、より一層強い怒りが宿っているように見えた。

 

「......訓練で、敵という立場だったとはいえ......クラスメイトを盾に使ったこと。ヒーローとしては勿論、人としても許せませんわ!!」

「......」

 

怒りに満ちた顔と声で、私に指を差してそう叫ぶ。ヒーロー以前に人として失格だと、ヒーローになる資格は無いと、目の前の女子生徒は言っているのだ。

甘い、考えが甘すぎる。

 

「それらを踏まえて、何か反論があるならどうぞ」

 

自信ありげな表情で私にそう言ってくる八百万という生徒。反論しても良いというのならさせて貰おうかな。

 

「......分かったように言ってるけど、何もわかってないね」

「......なんですって?」

 

私があきれたような、冷たい声色でそう言い放つと、八百万という生徒が顔をしかめた。それに構わず私は言葉を続ける。

 

「まず最初、チームを分けた事についてだけど、足手まといを連れてダラダラ動くより、動ける人が動いて早々に叩く方が効率がいい。相手の事がなにもわかってない状況なら兎も角、今回の訓練では相手の個性は分かってる。テープに硬質化......放っておけばトラップを仕掛けられるかもしれない。なら尚更好きに動かれる前に叩く方が良い」

 

どんな個性か探る必要もないし、準備される前に片づけた方が良いに決まってる。

 

「っ......」

「二つ目、核の位置も敵の位置も、私はどちらも把握できてたし、何より考えなしに部屋に突っ込んだわけじゃない。勝てると判断したから、負ける要素が無いと思ったから突っ込んだ」

「......」

「最後」

 

私はなるべく冷たい顔と声色で、軽蔑するような表情を浮かべ、言葉を紡ぐ。

 

「使える物があるなら使う、実戦を想定するのなら、甘いことは言ってられない」

 

私の言葉を聞き、一瞬驚愕したような表情を浮かべ、顔を伏せてワナワナと震えだす八百万という生徒。

 

「......使える「物」ですって......?何を仰っていますの......?貴女が盾にしたのは「人」ですわ......!」

 

怒りを孕んだ声でそう言葉を漏らす。ついで、怒りに満ちた目で私を睨みつけてきた。

 

「先ほどの発言も含めて言わせてもらいますわ。貴女に爆豪さんの素行をどうこう言う資格はありません。先ほどの貴女の行動......あれはヴィランの行いと同義ですわ......今の貴女に、ヒーローを名乗る資格はありません!」

「......」

 

私を睨みつけ、怒りをぶつけてくる八百万という生徒。普通の人間であれば、これだけ言われれば意気消沈してしまうだろう。

......でもお生憎様、私は普通じゃない。

 

「それで?」

 

その言葉と同時に、私は目を細め、今まで以上に冷たい表情を浮かべる。

その私の顔を見て、臆したような表情を浮かべて後ずった。それに合わせて私も一歩前に出る。

 

「考えが甘いよ、本物のヴィランは命を狙ってくる。死にたくないならなりふり構ってられないんだ。」

「っ......」

「それに......どうしようも無くなった時、ヒーローはヴィランを殺すことだってある。それに比べればマシな方だと思うけど?」

「そ......れは......」

「夢や理想で語るのは結構、でも、ヒーローってのは綺麗ごとだけじゃ成り立たない、相応の現実も見なきゃならない」

 

私も、昔は夢や理想に目を輝かせていた。煌びやかな世界に希望を抱いていた。

だけど、現実を知った。ヒーローはどこからともなく現れて助けてくれるわけじゃない。

だから、自分の身は自分で守らなきゃいけないんだ。

......私がそうだったように。

 

「以上、何か反論は?」

「......」

「無いね、じゃあ話はおしまい」

 

そう言い残し、オールマイトに少し休むことを伝え、私は一人で控室を出ていった。彼女たちと同じ空間に居たくないから。

 

「っ......」

 

心臓が脈打つような感覚と共に、胸が痛む。薬の効果も弱まってきた、あの場に居れば、皆の発言や視線を敵意と判断し、暴れだしていたかもしれない。

 

「......これでいいんだ、これで......」

 

私は自分にそう言い聞かせ、深く息を吐いた。

薬を飲み、落ち着いた頃に控室に戻ると、授業が終わるところだった。オールマイトの話を聞いた後、私は一足先にグラウンドを出て着替えを済ませた。そのまま教室に誰かが入ってくる前に、教室を出て学校を後にする。

 

「......」

 

夕焼けが私を照らす。今の私はどんな顔をしているだろう。少なくとも、見る人にいい印象を与えるような顔はしていないだろう。

明日からはあまり干渉されないと良いな。だいぶ厳しい事を言ったし、関わりたくはなくなるだろう。

これまでと何も変わらない、生活も、目標も......だけど、これで良い。

私には、これしか選べる道がないのだから。

 




皆さんどうも猫耳の人です
今回も楽しんでいただけたでしょうか
次回もお楽しみに
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