「......」
戦闘訓練を終えた翌日。いつもより早く起きる事が出来たので、遅刻しないように学校に来たんだけど......
校門の前に広がる光景に、私は思わず絶句してしまった。
「オールマイトの授業について一言貰えませんか!!」
「教師として働くオールマイトはどんなかんじですか!?」
校門の前には大量のマスコミがオールマイトについての情報を得ようと群がっていた。10や20じゃない、下手したら100人近くいる。
まるで砂糖に群がる蟻だ。あの中通っていくの嫌だな......でもほかに入れる場所無いし......
「はぁ......」
このままじゃ遅刻確定だ。今度こそ相澤先生に本気で怒られる......それだけは避けたい。
私は意を決して校門に向けて歩き出した。そうすれば当然、マスコミの視界に入るわけで......
「すみません!そこの人!オールマイトの授業について......」
ターゲットが私に向く。わかってはいたけど、どう足掻いてもこれは避けられない。だから、私は得意な冷たい表情を浮かべ......
「なにか?」
と言い放った、殺気にも近い視線を向けられたことでマスコミ達は固まってしまう。今のうちに逃げよう。
私はマスコミの群れから抜け出し、足早に学校へと入っていった。
◇
「......」
A組の教室にたどり着き、私はドアを開けた。もう大半の生徒は到着していたらしく、校門前にいたマスコミについて話をしていた。
「......」
「......」
私が教室に入ると同時に、教室が静まり返った。視線こそ私に集まっているけど、昨日みたいに話しかけてくる人は誰も居ない。私は自分の席に座り、頬杖をついて外を眺める
その後も続々と教室にクラスメイト達が教室に入ってくるけど、私に話しかけてくる人は誰一人としていなかった。昨日のアレが効いたんだろう。これでようやく一人で過ごせる。
全員が教室に到着し、しばらくして、相澤先生が教室に入ってきた。
「昨日の戦闘訓練お疲れ。Ⅴと成績見せてもらった」
いつも通り、気だるげな表情を浮かべながら話を始めた相澤先生。視線は私の前と後ろ、そして私に向いている。
「爆豪、お前もうガキみたいなマネするな、能力あるんだから」
「......わかってる」
「で、緑谷はまた腕ぶっ壊して一件落着か......個性の制御、いつまでも出来ないから仕方ないじゃ通させねえぞ。俺は同じ事言うのが嫌いだ。それさえクリアすればやれることは多い。焦れよ緑谷」
「っはい!」
「で......魔嚙」
「......はい」
爆豪君、緑谷君に言葉を掛けた相澤先生が、最後に私にデフォルトなのか呆れているのか分かりずらい視線を向けてきた。
「ああいう言動と行動は控えろ。お前の言い分もわかるが......それが許す理由にはならん。省みろ」
「......わかりました」
私の返事に、私から視線を外す相澤先生。教室全体を見渡し、話を始めた。
「さて、HRの本題だ。急で悪いが君らに......学級委員長を決めてもらう」
『学校っぽいのきたぁぁぁぁぁぁ!!!』
相澤先生の言葉に、先ほどまで緊張感が走っていた教室内が一気に騒がしくなる。
学級委員長、他の科ではどうか知らないけど、ここヒーロー科では、多を率いる能力を鍛えられる役職......らしい。
私はやりたくない。多を率いるつもりも無いし、何より委員長なんて体の良い小間使いだ。そんなものになる気は無い。
「......」
退屈なHRだ。私は窓の外を眺めながらそんな事を考える。
結局投票で決めることになり、委員長は緑谷君、副委員長は八百万さんで決定したらしい。それぞれが複数票を獲得して選ばれた。見てなかったし、そもそも誰が委員長になろうと興味は無い。その後はHRも終わり、通常の授業が始まった。今日も長い一日が始まる。
◇
午前の授業が全て終わり、昼休み......
「......財布忘れた」
昼食を取ろうと財布を探すけど、鞄の中に財布は無かった。家に忘れてきてしまったみたいだ。
「今日は昼ごはん抜きかな......」
お金もなければ食べる物も持っていないのでどうすることもできない。なので空腹を紛らわす為に校内を歩き回ることにした。
「やっぱり広いな」
マップを眺めつつ、校内を歩き回りながら一人で呟く。サポート科が使用する工房や、普通科が体育の授業で使用する体育館、経営科が授業で使用する会議室......色々な場所を見て回った。この他にも、雄英の敷地内にはヒーロー科が使用する様々な施設が存在する。
無駄に......ではないけど、他の高校と比べるまでもなく広い。
「......ん?」
しばらく歩き回り、職員室の近くまで来た時、私の鼻が奇妙な......不快感のある臭いを捉えた。臭いの元は二つ。一つは、小さな死体の臭いを幾つも纏った生者の臭い......もう一つが......動く
おかしい、一つ目の臭いはともかく、二つ目の臭い、死体が動くはずがない。
臭いの出所は職員室、私は警戒心を強め、身を隠しながら職員室に向かった。
「......!」
職員室の窓から中を覗く。中にいた人物を見て、私は驚いた。全身に手を装着した細身の男......そして、全身がモヤに包まれた人間......明らかに先生や職員って風貌じゃない。多分......
「ヴィラン......」
なんで雄英に?侵入者用のセンサーは?どうやって侵入した?
様々な疑問が頭をよぎる。ここで捕らえれば......いや、個性がわからない以上迂闊に行動できない。二人組のヴィランの動向を探りつつ思考を続ける。しばらく観察を続けていると、全身に手を装着した男が、机から紙を一枚取り、モヤの人間と少し話した後動きを見せた。
モヤのヴィランの体が広がり、二人ともその中に消えていった。
ワープの個性......なるほど、あれで侵入してきたのか......何が盗まれたのか分からないけど......
「......嫌な予感がする」
これで終わり......なんてことは無いはずだ。できれば何事もなければ嬉しいんだけど......
この先起きるかもしれない事件を想像し、不安を感じながらも、ヴィランが居なくなった職員室を数秒眺めた後、私は教室に戻って午後の授業に備えた。
◇
翌日
あの後、職員室で見たことを相澤先生に伝えようとしたんだけど......緑谷君から委員長に任命された飯田君が、相澤先生に色々質問していたせいで、結局話すことができなかった。強引に話に行っても良かったけど...面倒事は避けたいし。
まあ......直ぐにどうこうなることは無いだろうし。今日の放課後にでも話に行こう。
「今日のヒーロー基礎学だが......俺とオールマイト、それともう一人の三人体制で見ることになった」
ヒーロー基礎学の時間、教室に入ってきた相澤先生がそう言い放った。なったって事は......元々は別の体制で見るつもりだったんだろう。急遽変わったって事は......昨日の事はもう知ってるのかな。
「はーい!!何するんですかー!?」
「災害水難なんでもござれ、レスキュー訓練だ」
相澤先生が取り出したのは「RESCUE」と書かれたカード。
救助訓練......戦闘以上に私が苦手とする分野。狼の嗅覚や聴覚を使えばケガ人を探すことはできる。でもそうなれば、必然的に血の匂いを嗅ぐことになる。
血は苦手だ。嫌なことを思い出してしまうし、気分が悪くなる。
「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない」
コスチュームの中には救助活動を限定する物もあるだろうから、との事。
私はあまり関係ない。機能性だけは良い物を作って貰ってるから。
相澤先生の話が終わった直後、戦闘訓練の時と同じように、アタッシュケースを持ってトイレに駆け込み、ヒーローコスチュームに着替えを始める。
「薬......一応飲んでおこう」
私は手に持った瓶を眺めながら一人でそう呟き、中から錠剤を取り出し、持ってきた水で流し込んむ。
「そろそろ時間か......いかないと」
着替えが終わる頃には、時計は出発の時間の10分の時間を指していた。私は荷物を教室に置いてから、今日の訓練施設行きのバス停がある場所へ向かった。
◇
「......」
バス停に到着後、飯田君の扇動の元、訓練施設行きのバスに乗った私達。現在は施設に向けて移動中だ。私以外のクラスメイトは何やら騒がしく話をしている。
「あなたの個性、オールマイトに似てる」
耳を傾けてみると、蛙吹さんが緑谷君に話しかけているのだとわかった。
会話の内容は個性の話、どうやら、緑谷君の超パワーとオールマイトの超パワーが似ているとかなんとか。
パンチ一発でビルを半壊させる程の超パワー......確かにあれはオールマイトを彷彿とさせる物だった。
「待てよ梅雨ちゃん、オールマイトは怪我しねえぞ」
切島君が蛙吹さんにそう話しかける。オールマイトとの決定的な違いは個性を使用したとき怪我をするか否か。切島君の言う通り、オールマイトは個性を使うたびに怪我をしない。
似て非なる......というやつだ。
......けど、この話題になった途端、緑谷君の心拍数が急速に早くなり、冷や汗の臭いがし始めた。これは焦りや動揺を表す、いったい何に焦っているんだろうか......多少疑問には思うけど興味は無い。
そこからどんどん話が転換していき、ただでさえ騒がしかったバス内が更に騒がしくなる。
......皆は良いよね、楽しそうで。
笑顔で話すクラスメイト達、私はそれを妬ましく思う。
「もうすぐ着くぞ、いい加減にしとけよ......」
バスに揺られること十数分、相澤先生の声が聞こえてきた。チラリと外を眺めてみると、かなり大きいドーム型の建物が見えてきた。バスはそのドーム型の建物に向かっている、どうやらあそこが訓練施設らしい。
これから始まるであろう過酷な救助訓練を想像し、私は不安になりながらもバスが施設に到着するのを待った。
◇
『すっげー!!USJかよ!!?』
施設に到着し、施設に入ったクラスメイト達がそう叫ぶ。眼下に広がるのは様々な災害を模した多数の訓練施設。
火災、土砂崩れ、水難、倒壊......一つ一つの施設がかなりの広さだ。ここで救助訓練をやるのか......
「あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も......」
ウソの災害や事故ルーム、略してUSJ。権利的に大丈夫なのかな......
そんな私の疑問を置いて、宇宙服のようなヒーローコスチュームを着たプロヒーロー、13号先生が話を始めた。
「えー始める前にお小言を一つ二つ......三つ......四つ......」
指折りで数えながら呟く13号先生、小言だけで授業終わっちゃうよ......
なんて思ってると、13号先生の話が始まった。
「皆さんご存じだと思いますが、僕の個性はブラックホール。どんな物でも吸い込んでチリにしてしまいます」
「その個性でどんな災害からも人を救い上げるんですよね!」
「ええ......しかし、簡単に人を殺せる力です」
「......」
人を殺せる力、その言葉が、やけに明瞭に聞こえた気がした。まるで自分の事を言われている気がして......
「っ......」
内側から引っ張られるような感覚が私を襲う。いつもの発作だ。息が切れ、脂汗が額を伝った。13号先生が話を続けていたけど、発作を抑えるのに必死で、話の内容はほとんど覚えていない。
「以上!ご清聴ありがとうございました!」
13号先生の話が終わると同時に拍手が起こる。拍手の音と13号先生の声で意識を引き上げられ、顔を上げる。相澤先生が授業を始めようと合図を出そうとしているのが見えた。
授業が始まる。早く鎮めなきゃ......
私がそう考えたその時......
濃密な殺気が、辺りに充満し始めた。
「っ......ぁ......!!」
本能が警鐘を鳴らしている、殺気は徐々に強くなっていく。
同時に、激しい頭痛と、内側で抑えつけていた物が私を襲った。頭痛と苦痛でまともな思考ができない。
顔を歪め、痛みと苦痛に耐えていると、広場に黒いモヤが現れたのが見えた。
「あ......れは......」
見覚えががある......あのモヤ......昨日職員室にいた......!!
私の思考は正しかったようで、広場に現れたモヤから、全身に手を装着した男と、ヴィランと思しき人物が無数に現れた。
「一塊になって動くな!!」
「え?」
相澤先生がクラスメイト達に向けてそう叫ぶ。クラスメイト達はまだこの状況を理解できていないのか、きょとんとした顔をして棒立ちしている。
なんで......誰もこの殺意に気付かないの......?仮にもヒーロー候補生なのに......
「13号!!生徒を守れ!!」
相澤先生が戦闘態勢に入った。その間も、増幅する殺意と共に、どんどんヴィランは増えていく。
「なんだアリャ!?また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」
「動くな!あれは......ヴィランだ!!」
ここでようやく今の状況を理解したクラスメイト達、狼狽える人、恐怖に怯える人、冷静に分析しようとする人......各々が別々の反応を見せていた。
突如目の前に現れた悪意の塊。辺りに恐怖が伝播していく。
「13号に......イレイザーヘッドですか......先日頂いた教師側のカリキュラムではオールマイトが居るはずなのですが......」
「どこだよ......せっかくこんなに大衆連れてきたのにさ......オールマイト......平和の象徴が居ないなんて......子供を殺せば来るのかな?」
私の耳が、広場で話すヴィランの会話を微かに捉えた。それと同時に、精神を這い回るような得体の知れない何かを感じ取り、呼吸が乱れ、激しい頭痛が私を襲った。
「ヴィランンン!?馬鹿だろ!?ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!!」
「先生!!侵入者用のセンサーは!」
「もちろんありますが......」
誰かが13号先生に叫びかけたのが聞こえた。侵入者用のセンサー、それが反応してないって事は......
「そういう個性持ちがあっちに居るんだろ」
声の主が誰かは分からないけど、十中八九その通りだろう。そうでなきゃ、この人数が侵入してきて警報が鳴らないはずがない。
「バカだがアホじゃねえ、これは何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ」
まさか昨日の今日でこんな大掛かりな事をしてくるなんて......やっぱり無理やりでも話をしておくべきだった......
過ぎたことをいつまで考えていても仕方がない。頭痛はするけど......まだ正常な思考力は残ってる。考えろ......この状況からどうやって脱出するか......
「13号!避難開始!!学校に電話試せ!!電波系の個性が妨害してる可能性もある、上鳴、お前も個性で連絡試せ」
「ッス!」
痛む頭で思考を巡らせていると、相澤先生が私たちに避難するよう指示を飛ばした後、ヴィランが大勢居る広場へと飛び込んでいった。恐らく遠距離攻撃の個性持ちだろうか、個性を使おうと構えた瞬間、相澤先生によって個性が抹消される。
狼狽えるヴィラン達を一瞬で捕縛し、ヴィラン同士を叩きつけ撃破。続く異形型の個性持ちも、攻撃を回避し即座に反撃、空中に投げ出されたヴィランを捕縛し、遠心力を利用して思い切り地面に叩きつけた。
「すごい......!多対一こそ先生の得意分野だったんだ......!」
「分析してる場合じゃない!早く非難を!」
相澤先生が時間を稼いでくれている今なら逃げることができる。委員長の先導の元、私たちはUSJから逃げ出そうと動き出す。
けど、動き出すのが遅すぎた。
「させませんよ」
不気味な音と共に空間が揺らぎ、黒いモヤを纏ったヴィランが、私たちの前に立ち塞がるように現れた。
やられた......出入口を押えられた......!!
「初めまして、我々はヴィラン連合。僭越ながら......この度ヒーローの巣窟......雄英高校に入らせて頂いたのは......平和の象徴......オールマイトに息絶えていただきたいと思っての事でして」
瞬間、私たちに浴びせられる殺気。先ほどの物よりも濃く、冷たい殺気。
「っ......が......!」
頭痛が更に酷くなり、心臓の鼓動が早くなる。思考と呼吸が乱れ始めた。
痛い......苦しい......このままじゃ......溢れる......!
「危ない危ない......いくら生徒といえど、やはり優秀な金の卵......私一人でこの人数は分が悪い......ですので」
誰かに攻撃されたであろう黒いモヤのヴィランが、そう小さく呟くと同時に、体が揺らぎ始める。そして次の瞬間
ズアァッ!!
「散らして......嬲り殺す」
黒いモヤが急激に膨張し、近くに居た私たちを飲み込まんと襲い掛かる。逃げなきゃいけないのは分かる。でも、体が動かせない、少しでも他の事にリソースを割いてしまえば溢れてしまう。
「っ......」
視界いっぱいに広がる闇が、私を飲み込んでいく。込み上げる物を必死に抑えつけながら、私はその闇に身を委ねた。
◇
「っ......ぁ......!」
ヴィランのワープゲートに吸い込まれ、一人で投げ出された私。痛む頭を押えながら顔を上げると、目の前に広がっていたのは、辺り一帯火の海で、倒壊したビルが散乱している凄惨な光景だった。
「こ......こは......」
ここに来る前に見たUSJのマップを思い出す、恐らくここは火災ゾーン。
ジリジリと焼けるような熱さが、服越しに肌を突き刺し、吸い込む空気の熱さが肺を刺激してくる。
「っ......早く出ないと......」
出入口を探すべく、立ち上がって探索を始める。けど......
「がっ......!?」
爆発のような衝撃と共に、私の背中を熱さと鈍痛が襲った。痛みと衝撃で思わず倒れこんでしまう。立ち上がろうとするけど、再び走った痛みと衝撃で倒れてしまう。
私が倒れると同時に、下卑た笑い声が辺りに響いた。
「ギャハハハ!!雄英生だっつーから警戒してたが......やっぱただのガキだな!!」
「っ......」
「お?しかもよく見りゃ女じゃねえか!!こいつぁツイてるぜ!!」
「見たところ一人だぜ、俺らで一斉にかかればいけるぞ!!」
私に向けられる下卑た視線と言葉......
敵意と攻撃を受け、既に限界に近かった私の理性は、それだけで崩壊するほど脆弱な物だった。頭が割れるように痛い、体の内側から力が溢れ出てくるのを感じる。
(今ので......『緩んだ』......!!ダメだ......溢れる......出てくるな......!!嫌だ......嫌だ嫌だ嫌だ......!!)
呼吸が乱れ、視界が揺れる。心臓の鼓動も早くなり、内側で抑圧していた物が表に出ようと暴れだす。揺れる視界が赤く染まっていく。思考が上手く纏まらない。
もう......限界だ。
〈noside〉
「やっちまえ!!袋叩きだ!!」
ヴィラン達が攻撃を開始する。個性で飛び道具を放つ者、ナイフや拳銃を放つ者、直接攻撃を仕掛ける者......あらゆる攻撃が魔嚙に殺到する。当たれば致命傷は免れない。だが、魔嚙に動き出すような気配は無く、うずくまって震えているだけ。
ヴィランの口角が上がる。自分たちに恐れを為したのだと、恐怖に震えているのだと......
哀れな勘違いをして......
「アぁァぁぁアァァ!!」
ヴィラン達の攻撃が魔嚙に命中するかと思われたその瞬間......突如、魔嚙が頭を抱えながら立ち上がり、両腕を振り抜いた。
刹那、辺りに吹き荒れる衝撃波......否、衝撃波と呼ぶにはあまりにも「鋭すぎる」。魔嚙の腕から放たれた衝撃波は、ヴィラン達から放たれた飛び道具を細切れにし、直接攻撃を仕掛けたヴィランや、遠距離から攻撃を仕掛けたヴィラン達を「切り裂いた」。
「ぎゃああああ!!」
「腕が!!俺の腕がぁぁぁ!!」
「痛ぇ......!!なんだよコレ......!!」
腕が切り落とされてパニックに陥る者、脚の腱が切られて動けない者、全身を切り裂かれて出血が止まらない者......魔嚙に攻撃を仕掛けたヴィランは、例外なく致命傷を受けた。
そして、痛みと傷に気を取られていたヴィラン達は気が付かなかった。先の衝撃波で、「この火災エリアの火が全て」消えたことに......
気付いた時にはもう遅く、ヴィラン達の視界に映るのは、先の見えない真っ暗な闇。何も見えないというその状況が、更にヴィラン達の恐怖を加速させた。
「な......なんだよ......アレ......」
阿鼻叫喚の中、辛うじて冷静でいられたヴィランが、暗闇の中に何かを見つけた。
ヴィランが見つけたのは、赤く、怪しく光る、二つの光......その光は、ゆらりと赤い帯を引き、光を見つけたヴィランを捉えた。
「ひ......!!」
何も見えないという現状に加え、正体不明の光がヴィランを捉えた。必然、ヴィランの思考は恐怖に染まる。闇の中、得体の知れない「何か」に捕捉されたのだ。冷静でいるという方が無理な話である。
赤い光は、自らを見つけたヴィランに向かって、迷いなく歩みを進めた。まるで、真っ暗な闇の中が見えているかのように......
「く......来るなぁ!!」
情けなく悲鳴を上げながら、自らの持てる最大火力を光目掛けて放った。一瞬暗闇が照らされる。しかし、光に照らされた瞬間には、すでにそこに赤い光は居なかった。
手ごたえは無い。攻撃が命中した気配もない。冷静でいられたはずのヴィランの呼吸が乱れる。
いつ、どこから襲われるか分からない。その恐怖が思考を乱し、正常な判断をさせてくれない。ヴィランは恐怖に震えた。彼の中にある思考はたった一つ......
殺される
圧倒的な恐怖を前にしたとき、人は動けなくなる。今の彼は「狩られる」側、蛇に睨まれた蛙、脚が竦み、体が硬直している。こうなってしまえばもう、「狩る」側に狩られるのを待つ他ない。それを示すかのように、ヴィランの目の前に、赤い二つの光が現れた。
それを認識する前に、ヴィランの胸に激痛が走り、鮮血が噴き出す。
恐怖のせいか、はたまた痛みによるショックなのか、ヴィランはそこで気を失った。ヴィランが最後に見たのは......狼のような赤い瞳を持った、蒼い髪の少女だった。
◇
悲鳴も、攻撃の音も、下卑た笑い声も聞こえない暗闇の中、空ろな瞳をした少女が、たった一人で佇んでいた。
「......」
暗闇の中に佇む少女......魔嚙蒼の視界に、自分の手が映る。
視界に映る自分の手は、人間の物とは思えない程大きく鋭い爪を持った、異形の物へと変化していた。その腕はまさに「狼」、赤い毛皮に鋭い爪......入試の時と同じ、真っ赤な両腕。
「......」
魔嚙が自分の手から視線を外し、辺りを見渡し、何かを探し始める。数秒見渡し、何かを見つけた魔嚙が歩みを進める。目の前には、最初に攻撃を仕掛けてきた、気を失ったヴィラン。魔嚙の腕に力が入る。
形が無くなるまで、自分の気が済むまで、破壊しようとしたその時、魔嚙の鼻がとある匂いを捉えた。
流れ出たばかりで、錆びた臭いがしない、新鮮な血の匂い。
血は流れ出てからしばらくすると酸化が始まり、新鮮さが失われてしまう。血が大量に流れているこの場で、魔嚙が血の匂いを嗅ぎ分けられたのは、これが原因だ。
匂いの出所は中央広場......ヴィランの主犯格と、イレイザーヘッドが居る場所。
「......」
血の匂いに引き寄せられるように動き出す魔嚙。幽鬼のような足取りで火災ゾーンの出口へ歩いて行く。
理性が残っているのか、はたまた本能的に見られるのを嫌がったのか、歩いている途中、魔嚙は常備している包帯を、腕全体が隠れるように巻き付け、強く締め付けた。すると腕の大きさが人間の物と同じ大きさまで縮む。
両腕に包帯を巻いた魔嚙が、フラフラと火災ゾーンを後にした。
魔嚙が去った後に残ったのは、大きな血だまりに沈む、大爪で引き裂かれたヴィラン達だけだった。
次がストックラスト...また書き溜めしなきゃ