目を開けると、視界に広がる真っ暗な空間。
臭いも、音も、何も感じない。
立ち上がろうと地面に手を突くと、グチャリという音が耳に入ってくる。
視線を下に向けると、そこには脳無の首無し死体が転がっていた。
突如として現れたソレに驚き、思わず尻餅をついてしまった。
手に付着する脳の欠片と血液。生暖かい感触が手に伝わる。
手に付着したソレを拭おうと動き出した途端。景色が変化を表した。
暗い空間は影となり、影は人となり、人は集団を形成し、私を取り囲む。
人は私に視線を向け、ただジッと佇んでいる。
そんな静寂の中、不意に、集団の一人が声を上げた。
『こいつ、人を殺したぞ』と。
瞬間、静まり返っていた空間が喧噪に包まれる。
やれ「人殺し」だの、やれ「犯罪者」だの、言葉の刃が、私の心を抉ってくる。
外からの音を遮ろうと、耳を塞ぎ蹲る。音は止まない。
口撃はさらに激化する。罵声が飛び交う中、その内の一つが、やけに明瞭に聞こえた。
「化け物」
認識した瞬間、私に浴びせられる罵声がソレ一色に染まる。人々は私を指差し、私を化け物だと罵り始める。
化け物 化け物 化け物 化け物
やめて
化け物 化け物 化け物 化け物
違う
化け物 化け物 化け物 化け物
私は────
◇
「っは!!はぁっ......はぁっ......。」
夢が覚め、現実に引き戻される。悪夢を見ていたせいか、呼吸が大きく乱れ、ぐっしょりと汗をかいている。
徐々に頭がクリアになっていき、夢の事を明瞭に思い出していく。
それと同時に、嫌なものが込み上げてきた。
「うっ......!!」
咄嗟に口を押え、布団から飛び出してトイレに走る。乱暴に扉を開けて床に手を突き、私は込み上げてくる物を吐き出した。
「おぇ......ぇ......はぁ......はぁ......」
最悪の目覚めだ。気分が悪い。
先日、ヴィラン連合と名乗るヴィランの集団から襲撃を受けた私達。臨時休校も終わり、今日からまた学校だというのにこの有様。
「我ながら笑っちゃうな」
皮肉気味にそう呟き、私は身支度を済ませるべく立ち上がった。時刻は7時、急げば間に合う時間だ。急いで準備しなきゃ。
口を濯いでから歯を磨き、顔を洗って寝癖を直す。
「はは......ひっどい顔」
鏡に映る私の顔は、今にも倒れてしまうのではないかというぐらい青白い。
出来る事なら休みたいけど......休校明け初日だし、これからの流れとか、行事についても話があるだろうし。休むわけにはいかない。
「......もう行かないと」
身支度していると、もう家を出る時間になった。普段は朝ごはんも食べるんだけど、今はそんな気分になれない。
私は制服に着替え、薬だけ飲んで、誰も居ない自宅を後にした。
◇
見慣れ始めた通学路を歩き、雄英に到着した私は、いつものように下駄箱で靴を履き替え、教室に向かって歩く。
教室に到着し、扉を開けると、皆もう自分の席に着いていた。私は皆に視線を向けないように自分の席に座る。それと同時に予冷が鳴った。
ギリギリだったんだ。間に合ってよかった。
「おはよう」
『相澤先生復帰早えええ!!!』
「先生!!無事だったのですね!!」
「無事言うんかなアレ......」
私が席に着いてから数分後、全身どころか顔にまで包帯をグルグル巻きにした相澤先生が教室に入ってきた。あれは流石に私でも少し引く。せめて顔の包帯が取れてから来てほしい。
フラつきながら教壇に立ち、クラスメイト達の心配をよそに話を始めた。
「俺の安否はどうでも良い。何より、まだ戦いは終わってない」
相澤先生の言葉に、教室全体に緊張が走る。同時に、私の耳が教室全体の音を捉えた。
緊張 闘争 恐怖 疑問......息遣いや心音から、あらゆる感情が情報として耳に流れ込んでくる。
......多分、今朝の夢のせいで個性が敏感になってる。雑音ばかり、耳障りだ。
私が雑音に頭を悩ませている中でも、相澤先生の話は続く。
「雄英体育祭が迫っている」
『クソ学校っぽいのきたぁぁぁ!!!』
体育祭。その言葉が聞こえた瞬間、教室が一気に騒がしくなる。
煩い......もう少し静かにしてほしい。ただでさえ個性のせいで聴覚が敏感になってるのに......教室全体で騒がれるなんてたまったものじゃない。耳が痛くなる。
けれど、そんな騒がしい教室の中、隣の瀬呂君が不安げに声を上げた。
「待って待って!!ヴィランに侵入されたばっかなのに大丈夫なんですか!?」
確かに、この二日間、ただでさえニュースやネットで「危機管理体制が~」とか、「警備の程度が~」なんて騒がれていたのに、そんな中で開催した暁には、これまで以上に批判が殺到するだろう。
だけど、雄英側もそれは予想していたようだ。
「逆に開催することで雄英の危機管理体制が盤石だと示す......って考えらしい。警備も例年の五倍に強化するそうだ」
相澤先生曰く、この雄英体育祭は、かつて世界中を熱狂させていたスポーツの祭典、「オリンピック」に代わる日本のビッグイベント。
全国のトップヒーローもスカウト目的で来る。つまりヒーロー候補生にとっての最大のチャンス。ヴィランごときで中止していい催しじゃない......らしい。
「当然、名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。時間は有限、プロに見込まれればその場で将来が拓けるわけだ。年に一回、計三回のチャンスだ。ヒーローを目指す以上、絶対に外せないビッグイベント、その気があるなら準備は怠るな。以上だ」
◇
放課後。
何事も無く一日が終わり、帰りの支度をしていると、なにやら教室の外が騒がしい。
大量の足音、人が話しているようなざわめきやどよめき......多分、教室の外に大量の人間が居る。そんな私の予想は的中していたようで......
「うおおおお......!何事だぁ!?」
教室の出入口を塞ぐように、大量の人間がごったがえしていた。
早く居なくなって欲しいな......できるだけ注目は受けたくないし、何より一刻も早く教室から出たい。
「出れねーじゃん!!何しに来たんだよ!!」
「敵情視察だろザコ。ヴィランの襲撃を耐え抜いた連中だもんな。体育祭前に見ときてぇんだろ。意味ねえから退けモブ共」
やっぱり爆豪君は苦手だ。多方面に敵を作りやすい不遜な態度。自分が「強者」だと信じて疑わない慢心とも言える程の自尊心。爆豪君一人にヘイトが向くのは構わないけど、こっちにも被害が出るからやめてほしい。
「敵意」は向けられたくない。
「敵情視察?少なくとも俺は、調子乗ってっと足元ゴッソリ掬っちゃうぞって宣戦布告しに来たつもり」
「おうおう!!隣のB組のモンだけどよぅ!!ヴィランと戦ったっつうから話聞こうかと思ってたんだがよぅ!!エラく調子づいちゃってんなオイ!!本番で恥ずかしい事んなっぞ!!」
他のクラスを代表しているのか、紫髪の生徒と銀髪の生徒が、爆豪君......というよりも、私達1年A組に対して物申したい事があるといった様子で声を上げた。
どうやらヴィランと戦って生き残ったことで調子に乗っていると思われているらしい。
クラスメイト達がどう思われようとどうでも良い。私は私の目的の為にやるべきことをやるだけ。
私は荷物を纏め、人で塞がれている出入口に向かった。
「退いて欲しいんだけど」
視線が集まるのも気にせず、私は冷たい口調でそう言い放った。すると集まっていた人間が顔を青ざめさせ、道を作るように退けていく。私はその道を歩いて玄関へと向かった。
が、その瞬間、個性が反応すると同時に、背後から敵意を感じた。肩越しに視線を向けると、爆豪君が私を睨みつけていた。爆豪君と目が合う。数秒睨みあった後、私は視線を外し、再び歩き出す。
雄英体育祭は二週間後、やるべき事は沢山ある。一秒も無駄には出来ない。
全ては、私の為に。
◇
二週間という短い時間はあっという間に過ぎ去り、体育祭当日の朝。
「......」
今日は悪夢を見なかった。いつもよりは多少気分が優れている。
......でも、そんな気分とは裏腹に、私の心はどこかザワついている。何か良くないことが起こる気がしてならない。狼の勘......なのかな、嫌な予感がする。
......今日は少し多めに薬を飲んでおこう。
「......」
家を出て、いつもの通学路を歩く。体育祭だからと言って何か特別なことがあるわけでもない。しいて言うのなら、いつもより見かける雄英生が多いことくらいだろうか。
体育祭という事でワクワクしているのだろう。心臓の鼓動が大きく聞こえてくる。
少し羨ましく思いつつ、そのまま歩き、何事も無く雄英に到着した。
「人多いなぁ......」
校門前の人だかりを見ながらそう呟く。
この前のマスコミ事件以上の人数だ。私は人込みをかき分けるように歩き、雄英に入る。
ジャージは持ってきたから、いつも通りトイレで着替えて控室に行こう。
◇
着替えを済ませてから数分、荷物を持ったまま会場を歩き回っていたら、もうすぐで入場の時間になってしまった。流石に荷物を持ったまま入場するわけにもいかないので、私は荷物を置くために控室に向かう。
幸い控室は近くにあったので、数秒でたどり着くことが出来た。入場まではあと五分もある。私は間に合ったことに安堵しつつ、控室の扉を開けた。
「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う」
「へ!?う......うん......」
控室の扉を開けて、真っ先に私の目に飛び込んできたのは、轟君が緑谷君に宣戦布告している光景だった。空気が張り詰めているのを感じる。けどまあ......私には関係ないし。
そう思いながら、空いているロッカーに荷物を入れ、控室から出て入場口に向かおうとする。
すると......
「魔嚙」
「......」
轟君が私を呼び止めてきた。私は足を止め、肩越しに振り返る。
「お前にも勝つぞ」
「......」
「お前らに勝って、俺はナンバーワンになる」
宣戦布告。
私にそう言い放つ轟君の目には憎悪にも近い敵意が宿っているようにも見えた。けれど、その敵意は私じゃない他の誰かに向けられているようだった。私の個性が一切反応していないのが良い証拠だ。大方誰かに復讐するために、私を利用するつもりなんだろう。
どこを見てるのか......誰を憎んでるのかは分からないけど、そんな下らない復讐に巻き込まないでほしい。
「......下らない、勝手にすれば」
「なに......?」
私の言葉が気に入らなかったのか、眉を顰めて私を睨みつける轟君。私は轟君の方を向き、冷たい視線を向けながら言葉を紡ぐ。
「復讐とか小競り合いとか......やりたいなら君達で勝手にやってればいい。私は私の為に動く。下らないことに付き合うつもりはない」
「てめぇ......言わせておけば......!」
轟君が怒りに満ちた顔で私を睨みつけてくる。ちっぽけな殺気だ。
私が目を細めて轟君を睨みつけ、何倍も大きい殺気をぶつける。すると僅かに気圧されたような反応を見せた。それを見届けた後、私は控室を後にした。
「......」
なるべく関わりたくないとは言ったけど、私の邪魔をするのなら話は別だ。
障害は排除する。誰にも私の邪魔はさせない。
◇
『雄英体育祭!!ヒーローの卵達が我こそはとシノギを削る!!年に一度の大バトル!!どうせてめーらアレだろ!?ヴィランの襲撃を受けたにも関わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!ヒーロー科!!一年A組だろぉぉ!!?』
相変わらず煩いマイク先生の声。耳がキンキンする
アナウンスと共に入場を開始する私達。入場するにつれて、嵐の様な歓声と拍手が聞こえてくる。
『B組に続いて普通科C・D・E組!サポート科F・G・H組も来たぞー!!そして経営科......』
紹介の口上に明らかな格差を感じる。そういうのはなるべく止めてほしい。爆豪君のせいでただでさえ敵意が向いているっていうのに、更に敵意が集まってしまう。
個性が落ち着いているとは言え、敵意が集まればまた反応してしまう。
人目の多いこの場所で、USJの時みたいに暴走すれば、私の目的の達成が不可能になってしまう。それだけは避けたい。
「フーッ......」
私は息を整え、精神を落ち着かせる。
......大丈夫、今は落ち着いてるし薬も飲んだ。何も問題は無い。
私は自分にそう言い聞かせ、開催式を待つ。
「選手宣誓!!1-A爆豪勝己!!」
一年全生徒が入場を終えて整列すると、今年の主審であるミッドナイト先生が姿を現した。
選手代表は今年のヒーロー科の首席合格者。爆豪君だ。
ミッドナイトに呼ばれた爆豪君が壇上に上がっていく。それと同時に、騒がしかった生徒達が静かになっていく。
変なこと言ってヘイトを集めないと良いんだけど......私にまで飛び火するのは勘弁願いたい。
「せんせー、俺が一位になる」
一瞬の静寂。
次の瞬間、会場の生徒達から大ブーイングが発生した。これが爆豪君だけに集まるのなら良いんだけど......他の科......特に普通科の人達はヒーロー科をよく思っていない。
下手をしたら私にまで妨害や敵意が向くかもしれない。
「......迷惑極まりないな」
ブーイングが響く中、私は思わずそう呟いてしまった。敵意が少しずつ私にも向き始めた。
......後でまた薬飲まないと。
そして選手宣誓も終わり、いよいよ第一種目が始まる。
「所謂予選よ!毎年ここで多くの者が
ミッドナイト先生の宣言と共に、第一種目がモニターに映し出される。
障害物競走......一年全生徒によって行われる総当たりレース。コースはこのスタジアムの外周4キロらしい。そして......
「我が校は自由さが売り文句!!コースさえ守れば何をしたって構わないわ!!」
らしい。
何をしても良い、つまり他の走者の妨害だって出来るという事だ。
さっき爆豪君がヘイトを集めたのもあって、普通科の生徒からの敵意をより強く感じる。スタートと同時に妨害でもしようと考えているんだろう。
スタート位置に立っている普通科の生徒の近くには、いずれもA組の生徒がいる。それは私も例外ではなく、私の背後から。複数の敵意を感じた。だから、私はスタート位置をあえて一番後ろにした。
普通科の生徒達も、さっきの爆豪君の宣誓で闘争心に火がついてる。その証拠に、普通科の生徒達から聞こえてくる音が、「闘争」や「怒り」を表すものに変化していた。
そんな人達が、わざわざ自分から一番後ろに行った生徒の妨害に来るはずがない。
私の予測は合っていたようで、私が後ろに歩いて行くと、ターゲットを別の生徒に切り替えた。
一番後ろには私一人。他の生徒たちは少しでも前に出ようとスタート地点に固まっている。
観客席からも訝し気な声が聞こえてきた。その声を無視し、私は屈伸などをして体を解す。
全員がスタート地点に立ってからしばらくして。スタート地点のゲートのランプが赤く点灯を始めた。カウントダウンだ。
一つ、二つ、三つ......全てのランプが点灯し数秒後、開始の合図は訪れた。
「スタート!!」
ミッドナイト先生がそう叫ぶと同時に、ゲートのランプが緑色に点灯。私を除く全員がゲートに向かって一斉に走り出した。
「やっぱり、スタート地点はそうなるよね」
一クラス20人、それが11クラスもある。合計で220人、そんな人数があの狭いゲートを一斉に通ろうとすれば、私の目の前で繰り広げられている光景のように、互いにつっかえ、身動きが取れなくなる。
さて、どうやって通ろうか......なんて考えていると、私の鼻が強い冷気を捉えた。この冷気は......
私がそう思考した瞬間、ゲートでつっかえている人間の脚ごと、ゲートが凍り付いた。十中八九轟君の仕業だろう。いきなりの大規模の妨害、前に居なくてよかった。
「......よし」
準備運動を終え、ようやくスタートの体勢に移る。スタート地点の集団にヒーロー科生徒の匂いはしない。多分全員回避したんだろう。今頃第一関門の手前位を走ってるかな。
「......私も行こう」
私にとって、4キロという距離はさほど長い距離じゃない。たとえ障害物があったとしてもよほどの物じゃない限り、私の障害には成り得ない。
私はクラウチングの姿勢を取り、目を細める。個性は安定してる。なら、多少無茶な使い方をしても暴走することはない。
暴走しない限界まで脚に力を込め、深く息を吐いた。
彼らの小競り合いも、他の科の不満も、そんなことは知ったことじゃない。私は私の為に進むだけ。その過程で邪魔になるのであれば、その芽は摘んでおく必要がある。
特に、轟君と爆豪君、そして、緑谷君。今後、彼らが私の邪魔をしないように、ここで......
「......心を折っておく」
その呟きと同時に、私は走り出す。
踏み込んだ地面が陥没し、砕ける。私は走り幅跳びの要領でゲートで固まっている人込みを飛び越え、外に飛び出した。
「このまま......駆け抜ける」
着地と同時に踏み込み、更にスピードを上げる。すると、スタートしてから10秒と経たずに第一関門が見えてきた。
第一関門は入試の時に現れた0ポイントの仮想ヴィランが複数体。準備が何もできなかったあの時はともかく、十分な準備が出来た今の私なら取るに足らない。
私は走りながら跳躍し、大量に居る0ポイントヴィランの内、半端に凍っている物に向かって跳び蹴りを放った。
大きな破壊音を辺りに響かせ、氷ごと0ポイントヴィランの頭部を貫いた。先頭は誰かと地面を見下ろすと、私を見上げる轟君が目に入った。
「魔嚙......!?」
「みっけ」
轟君より前に人の気配は無い。という事は、やっぱり轟君が先頭なんだ。
私は轟君の前に着地し、勢いを殺さずにそのまま走り出す。これで私が先頭だ。
「逃がさねえぞ」
轟君が前に出た私に向かって氷結を放つ。でも、その氷結が私に届く事は無かった。何故なら......
「......死にたくないなら後ろは気にした方が良いよ」
「あ?何言って──」
轟君が私に疑問をぶつけようとしたその時、轟君の足元に大きな影が落ちる。それに気が付いた轟君が慌てて後ろを振り向く。するとそこには、先ほど私が頭部を貫いた0ポイントヴィランがあった。
その0ポイントヴィランは、轟君目掛けてゆっくり倒れ始める。
「!?チィッ!!」
逃げ始めた轟君に0ポイントヴィランが倒れ、凄まじい振動と音を立てる。
私はそれを肩越しに確認してから再び走り始めた。マイク先生と相澤先生が何か解説しているけど、聞いている暇は無い。
走り始めて数秒、私の耳が特殊な風の音を捉えた。ビル風と似た音だ。
私は目を凝らして先の光景を眺める。すると、無数の円柱状の崖が存在していた。そして円柱同士が細い鉄のワイヤーで繋がっている。
これが第二関門......本来ならこの細い鉄のワイヤーを伝って少しずつ進んでいく障害物なんだろう。でもお生憎様。
「私には関係ない」
私は崖の直前ギリギリまで、速度を上げながら走り、崖際スレスレで先程よりも強く、高く跳ぶ。一度の跳躍でおおよそ三分の二くらいの距離を跳ぶことが出来た。
けど、このまま地面に着地すれば大幅に速度が落ちてしまう。ここで速度が落ちてしまえば、多分他の上位勢に追いつかれる。
なら、どうするか。
「ふっ......!!」
私は体勢を変え、崖を通り過ぎ、ワイヤー目掛けて急降下する。そのまま両足でワイヤーに着地した。
着地と同時にワイヤーが大きく沈み、キリキリと音を立てる。一瞬の停止の後、ワイヤーが元に戻ろうと反発。瞬間、私の体が大きく持ち上げられ、トランポリンの要領で私を空へ投げ飛ばした。
おそらく地面に着地するよりもスピードを維持したまま第二関門を突破できた。チラリと後ろを見てみると、第二関門のスタート地点に轟君が到着しているのが見えた。十分距離が離れている。第三関門の障害物にもよるけど、これなら少し余裕がありそうだ。
そして、いよいよ第三関門......
「......なにこれ」
関門に到着し、奇妙な光景に思わず足を止めてしまった。
第三関門は、辺り一面に広がる土の平地。だけどただの平地じゃない。所々土の色が違う。
......これが第三関門?今のところ何も見えないけど......
そう思って関門に脚を踏み入れようとしたとき、奇妙な臭いを感じ取った。
「これは......」
奇妙に思って五感を研ぎ澄ませると、私の鼻が特徴的な焦げくさい臭い......火薬の臭いを捉えた。臭いの出所は複数。そして、それは全て土の下......
火薬の臭い、土の下、色の違う土......多分これは......
「......地雷か」
雄英もとんでもない物を用意するね......火薬の臭いが弱いのを察するに、威力はかなり弱い物になっているのだろう。
だとしても、地雷を踏めば大幅にスピードを落とすことになる......かといって、地雷を避けながら進んでいけば後続に追いつかれてしまう。飛び越えようにも、一度足を止めてしまったので速度が足りない。が、幸い地雷の臭いは感じ取れる。
ならここは......
「......数秒止めても、地雷の位置を把握してから進む」
私は更に五感を研ぎ澄ませ、色の違う土、地雷の臭い、音の反響を利用し、地雷の正確な位置を把握する。
「......」
地雷の位置の把握は済んだ。後はそこから最短ルートを割り出すだけ。時間はもう無い、なるべく早く特定しないと......
ルートを探すこと数秒、第二関門を突破してきた轟君と爆豪君が後ろから迫ってきた。
「追いついたぞ......!!」
「待てやデカ女ぁ!!」
轟君の氷結と爆豪君の爆破が私に迫る。あわや妨害が私に命中するかと思われたその時。
「......見つけた」
最短ルートの割り出しが終了した。
二人の攻撃が私に命中する直前、瞬間的に両脚に力を込めて跳ぶ。いきなり私が居なくなったことに驚いたのか、二人の足が止まる。二人の妨害を回避し、私は地雷原のど真ん中へ。
「ここからは止まらずに行く......!」
つま先から着地し、割り出した最短ルートを辿って跳んで行く。その間一度も地雷は爆発していない。地雷原に飛び込んでから数秒、たったの数秒で最終関門を突破した。
後はゴールまで駆け抜けるだけだ。
私はそのまま後ろを振り返らず、ゴールに向かって走り出した。
後ろから音は聞こえない。どうやら距離を離すことに成功したようだ。そのまま走り続ける事数秒────
『さあさあ!!最序盤の展開から誰が予想できた!?最後尾からスタートしたにも関わらず!上位の奴らをぶっちぎりで抜き去り!!今一番にスタジアムに帰って来たのは!!魔嚙蒼だぁぁぁぁぁぁ!!!!』
私がゴールのゲートを潜り抜けると同時に、マイク先生のアナウンスがスタジアム中に響き渡る。私は無事に予選を突破することが出来たようだ。
......少し個性が活性化している。少し無茶しすぎたかな......
私は深く息を吐き、そのまま控室に向かった。全員がゴールするまではまだ時間があるだろう。今のうちに個性を鎮静化させておかないと......
「ん......ふう......」
薬を水で流し込み、個性を落ち着かせる。
控室のモニターに目を向けると、緑谷君、轟君、爆豪君の三人がゴールしているのが見えた。その後も続々とゲートをくぐり、ゴールしてくる生徒達。
ここからは戦いも加速していくだろう。第二種目が何になるかは分からないけど......結局やる事は変わらない。
今はただ、目的の為に進み続けるだけだ。
「......やってやる」
全ては、私の幸せのために。
みなさんどうも猫耳の人です
前回、素敵なファンアートをいただいたので紹介させていただきます
ぬおー!様より
【挿絵表示】
とても可愛らしいファンアートありがとうございます!!
とても励みになります...
もっと頑張るぞ。次回もお楽しみに