邪魔をするな
※微胸糞注意
体育祭昼休憩終了。
私は誰も居ない控室で、購買で購入したおにぎりをお腹に収め、会場に向かった。会場には既に多くの生徒が待機しており。最終種目を今か今かと待ちわびているように見える。
私も待機所へ向かおうとゲートをくぐり、生徒達が集まっている場所に歩き出した。
「......ん?」
人込みへ歩いている途中、先ほどまで談笑していた生徒たちが、急に黙ってある一点に視線を集めていた。私はその視線を辿り、視線が集まっている方向を見る。するとそこには......
「......何あれ」
『どーしたA組!!?』
感情が抜け落ちたような表情をし、チアガール衣装を身にまとった私以外のA組女子がそこに居た。何してるんだろう......
呆れながら皆の方を見ていると、更にその向こうで顔を合わせながらサムズアップしあっている上鳴君と峰田君が居た。そこで状況を察する。大方あの二人に騙されたんだろう、なんとも滑稽な姿だ。
私は彼女たちから視線を外し、最終戦開始の合図を待った。
◇
『さァさァみんな楽しく競えよレクリエーション!それが終われば最終種目......進出4チームと一人の総勢17名からなるトーナメント形式!!一対一のガチバトルだ!!』
会場に全生徒が集まって間もなく、マイク先生からのアナウンスが入った。
いよいよ最終種目が始まる。
さっき薬も飲んだし、個性は落ち着いてる。本戦で暴走する心配はない。これなら思う存分力が出せる。
「それじゃあ組み合わせ決めのくじ引きしちゃうわよ。組が決まったらレクリエーションを挟んで開始になります!」
組決めの概要と共に、レクリエーションについても説明されたけど、参加する気は無いので無視。
レクリエーションの説明が終わったところでくじ引きが開始。一位の私から......と言いたいところだけど、最終種目進出メンバーの合計人数が奇数の為、一位の私はシード枠らしい。組み合わせを見てどこに配置するか決めると説明を受けた。
つまり私の対戦相手が決まるのは最後。
私はそれを聞いて元の位置に戻り、自分の番が来るのを待った。2位のチームからくじを引こうと前に出たその時、ふと、一人の男子生徒が声を上げたのが聞こえた。声がした方に視線を向けると、そこには尻尾の生えた男子生徒が挙手をしている姿があった。
「俺......辞退します」
辞退するという言葉に、その場がにわかに騒がしくなる。
あの人は確か......同じクラスの......
「尾白くん!何で......!?せっかくプロに見てもらえる場なのに!!」
そう、尾白くん。彼が最終種目出場辞退を申し出た。緑谷君が尾白君に理由を問いただすと、紫色の髪をした男子生徒の方を向きながら、騎馬戦の記憶がないと答えた。
次いで、皆が力を出し合って争ってきた場に、訳もわからないまま並べないとも話した。尾白君の話が終わると、背の小さい小太りの男子生徒......多分B組の生徒だ。その生徒も、同じ理由で辞退を申し出てきた。
「......馬鹿みたい」
どよめきに乗じて、私は小さくそう呟いた。
私から言わせてみれば、これは良い話風に話してるだけの、非難を恐れ、自分達のプライドを優先しているだけの他責。
この真っ黒に汚れた世界じゃ、そんなお涙頂戴の綺麗事を唱えたところで意味はない。綺麗事と現実は対極にある。両立するなんて夢のまた夢。
生き残りたいのなら、理想を叶えたいのなら、どれだけ汚れようと前に進むしかないんだ。
表面上だけ綺麗にされた世界しか知らない彼らにはわからないだろうけど......
結局、二人の辞退はミッドナイト先生の好みで認められた。
これで人数は15人、キリのいい人数にするという事で6位の鉄哲チームから一人繰り上げされることになった。上がってきたのは体育祭前に宣戦布告しに来た銀髪の生徒......多分彼が鉄哲君だ。トーナメントで当たったところで、彼程度はどうとでもなる。
ともあれ、これで人数は16人。シード権が無くなり、通常通り8組のペアからなるトーナメントが展開されていく。私を含む最終種目進出者全員がくじを引き終え......
「組はこうなりました!!」
第一試合
緑谷対心操
第二試合
轟対瀬呂
第三試合
魔嚙対上鳴
第四試合
飯田対発目
第五試合
芦戸対青山
第六試合
常闇対八百万
第七試合
鉄哲対切島
第八試合
麗日対爆豪
以上八組の試合が決定した。
初戦の相手は上鳴君、ハッキリ言って負けるビジョンが見えない。彼の放電は私には効かないし、彼が放電以外に何もできないことは知っている。
チラリと上鳴君に視線を移すと、絶望したような表情をしながらモニターを眺めていた。
そんな彼を見届けてから、私は一人になれる場所を探し、その場を後にした。
私が会場を去ってから程なくしてレクリエーションが開始された。参加者のはしゃぐ声が控室にまで響いてくる。
うるさい......これじゃゆっくり休めない......
「......他の場所に行こう」
荷物を持って控室を出た私は、どこか静かな場所を求めて会場内を歩き回った。
だけどこのお祭りムードの中、静かな場所なんてあるはずも無く......結局購買で耳栓を購入し、会場の外にある森の木にもたれ掛かり、目をつぶって休息を取った。
◇
『ヘイガイズ!!アァユゥレディ!?』
「ん......」
耳栓を突き抜けてくるほどの大音量に目を覚ます。ぼやける目を擦りながら状況を確認しようと辺りを見渡していると、さらに大きな声が耳を突き抜けた。
『色々やってきましたが!!結局これだぜガチンコ勝負!!頼れるのは己のみ!!ヒーローでなくともそんな場面ばっかりだ!!分かるよな!!心・技・体に知恵知識!!総動員して駆け上がれ!!』
「っ......」
相変わらずうるさい、耳がキンキンする。
私は耳栓を付けたまま荷物をまとめ、試合が見れる場所を目指して歩く。
十分程歩いた頃、ようやく試合を見下ろせる場所に到着した。視線を巡らせれば、そこには緑谷君以外のヒーロー科の生徒達がおり、各々が席に座って試合を観戦していた。
「今戦ってるのは......」
フィールドを見てみると、広いフィールドで緑谷君と紫髪の生徒......心操君が取っ組み合っているのが見えた。どうやら今行われているのが第一試合みたいだ。
そうこうしているうちに第一試合に決着がついた。結果は緑谷君の勝利だった。場外ギリギリまで追い詰められた瞬間、勢いを利用して一本背負い。個性の使用を最小限にして勝利したようだ。
「......」
私は緑谷君の左手を見る。人差し指と中指が変色して震えているのが見えた。どうやら彼はまだ個性を使いこなせていないらしい。
個性を使いこなせていようと使いこなせていなくとも、彼が私の道の邪魔になるのは変わりない。もし上がってきたら、全力で叩き潰すだけだ。
そんな風に思考を巡らせていると、第二試合の轟君対瀬呂君が始まった。
と言っても、決着そのものは早く決まった。結果は轟君の圧勝。開始直後に拘束された轟君、そのまま場外に投げ飛ばされそうになるけど、瀬呂君目掛けて一瞬で大規模な氷結を放ち制圧。行動不能になった瀬呂君のギブアップ宣言で第二試合は幕を閉じた。
そして第三試合、いよいよ私の出番だ。
30分の会場の復元の後、マイク先生のアナウンスと同時に入場を開始する。
『さぁさぁ次々行くぜ三回戦!!スパーキングキリングボーイ!!上鳴電気!!バーサス!!実力派一匹狼のクールビューティー!!魔嚙蒼!!』
体を伸ばしながら入場すると、既にフィールドには上鳴君が立っていた。わずかに震え、心臓の音が聞こえてくる。緊張......あるいは恐怖......いずれにせよ、私に対して畏怖の感情を抱いていることは間違いないだろう。
「......フーッ」
フィールドに立ち、準備運動を済ませて開始の合図を待っていると、上鳴君が僅かに震えた声で話しかけてきた。
「なぁ」
「......」
急に話しかけられたことに驚きつつも、表情を変えないように上鳴君の方へ視線を向ける。
そこにはどこか怒っているような表情をし、私を睨みつけている上鳴君が居た。
「訓練の時、梅雨ちゃんにひでーこと言ったって本当か」
「......」
多分、遠回しに友達になりたくないって言ったことを言っているんだろう。蛙吹さんから聞いたんだろうか。というか今更なんでそのことを掘り返してきたんだろう。
「そんだけじゃねえ、爆豪にもひでーこと言ってたし、USJん時、緑谷の事ぶっ飛ばしたらしいじゃねぇか」
「......それで?」
「俺って意外と友達思いなんだよね......だから友達傷つけた奴がなんも無しにしてんのが気に食わなくてさ......」
なるほど......敵討ちとのためにって事ね。
......下らない。自分の事もまともにどうにかできていないクセに、どうして他人の為に動こうとするんだろうか。
そう考えていると、上鳴君が怒りを含んだ声で......
「この試合が終わったらアイツらに謝れよ!」
敵意を剥き出しにしながらそう言い放ってきた、それに合わせて私の個性が反応する。
どうやらヒーロー科には仲間意識が強い人が多いらしい。面倒だな......邪魔になるのはあの三人だけだと思ってたんだけど......放っておけば彼らも私の邪魔をしてくるかもしれない。そうならないように、ここでへし折っておく必要がありそうだ。
「......いいよ、私に勝てたらね」
「舐めやがって......!!」
上鳴君がバチバチと帯電し始め、戦闘態勢に入る。そんな上鳴君に対し、私は棒立ちのまま開始の合図を待つ。沈黙が数秒続いた後、マイク先生のアナウンスによって、開戦の合図が下された。
『それじゃあいくぜェ!!第三試合!!START!!』
「無差別放電......!!200万ボルト!!」
開始の合図とほぼ同時に、騎馬戦の時よりも強力な電撃が放たれた。まともな防御手段の無い人間が食らえば一撃で倒せるだろう。
でも残念、この程度の電撃は私には効かない。
「......大口叩いた割には大したことないんだね」
「っ......!!」
電撃を浴びながら、私は上鳴君に向かって歩みを進める。私には効かないと分かっても尚放電を続ける彼に対し、私は冷たい視線を向けた。
「......まだやる?」
「あたり......まえだろ......!!」
「そう......」
私が見下ろしても、上鳴君は攻撃をやめなかった。攻撃を続ければ勝機があるかもしれないとか考えてるんだろうか。滑稽な姿だ。このままショートするまで放置でもいいんだけど、あいにく私は無意味なことに時間を使ってられる程暇じゃない。これ以上は時間の無駄だ。
私は上鳴君の顔を片手で掴み、持ち上げた。
「がっ......!!はな......せよ!!」
顔を掴む私の手をはがそうと必死にもがく上鳴君。そんなに慌てなくてもすぐに放すよ。
私は上鳴君を持ち上げている手を放し、片脚を引く。そしてそのまま、自由落下する上鳴君の顔面目掛けて思い切り蹴りを放った。
蹴りは上鳴君の顔面にクリーンヒット。そのまま場外まで吹き飛ばされていった。
「か......上鳴君場外!魔嚙さんの勝利!!」
ミッドナイト先生が試合終了の合図を出す。だけど、前二試合の様に、喝采や声援は無く、ただただ沈黙だけが会場に流れていた。
吹き飛ばされ、気を失ったまま壁にもたれ掛かる上鳴君に一瞬視線を向け、私はフィールドを後にした。
◇
試合を終えた私は現在、観戦席に戻るために会場内の通路を歩いている。
「......遠い」
試合に向かうときも思ったけど、フィールドから観戦席まで遠い。片道十分以上かかる。試合の直後だっていうのに、これじゃあ疲れる一方だ。雄英は何を考えてこんな構造にしたんだろうか。
「......」
そんな不満を抱えながらしばらく歩いていると、ちょうどいい所に自販機を見つけたのでそこで飲み物を買って行くことにした。お金を入れて安い缶ジュースのボタンを押す。するとガコンと音を立てて缶ジュースが出てきた。
私はその場で封を開け、一口飲む。
「ん......ふう」
安っぽい甘さが口に広がる。普段はあまり飲まなけど、偶にはこういうのもいいかもしれない。
なんて思いながらもう一口飲もうと缶に口を近づけたその時。
「蒼」
不意に、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。声の出所は私の後ろ。私は思わず顔をしかめた。
なぜなら、その声が聞き覚えのある声だった事に加え、私の事を苗字じゃなく名前で呼ぶ人間は、この世で二人しかいないからだ。
「......」
そのまま無視して観戦席に向かおうと思ったけど、あの二人の事だ。無視されれば個性を使ってでも私に絡んでくるだろう。腐っても「4年間」一緒に暮らした相手だ、嫌でも想像がつく。
仕方なく、私は無言のまま振り返る。そこには金髪の女性と白髪の男性が居た。
「......久しぶりね」
「元気......だったか?」
「......今更何の用ですか、
私がそう反応すると、僅かに嬉しそうな表情を浮かべる男女。
10年以上も前、飽きる程見てきた顔。「稲妻ヒーローライデン」と「雷鳴ヒーローカンナリ」こと、鳴神雷羅と鳴神光星......
かつて、私に電撃を浴びせ、化け物と罵り捨てた、元両親。
「強く......なったわね」
「怪我はないか......?」
「ええ、
話しかけてくる二人の言葉に皮肉めいた返答をする。すると二人の顔が歪み、曇る。いい気味だ。
「それだけならこれで失礼します。早く休みたいので」
「まって!」
「......まだなにか?」
私が踵を返し、観戦席に向かおうとすると、二人が私を引き留めてきた。
これ以上無駄に時間を使いたくないんだけど......
そう思いながら私は二人を睨みつける。すると、少し言葉を詰まらせてから意を決したように言葉を発した。
「その......私達、また一緒に暮らさない?」
「......は?」
聞こえてきた言葉に、私は思わず声を上げてしまった。
この女は何を言っているんだろうか。私を捨てるだけじゃ飽き足らず、ヒーローともあろうものが、個性を使って自分の子供を傷つけ、「化け物」と罵り......挙句私が強くなったらヨリを戻して仲良くしようと?同じ空間に居るだけでも反吐が出そうな程なのに?
「......巫山戯てるのか」
「「っ......」」
巫山戯たことを抜かす二人を威圧しながら睨みつける。目の前の二人は一歩後退り、私から距離を取る。
「自分を傷つけた奴と一緒に暮らす?冗談も休み休み言え......!!」
怒りが、憎しみが、力になり、全身から溢れるのを感じる。
「あれだけ私の人生を滅茶苦茶にしておいて、まだ私から奪うつもりか......巫山戯るな......!!巫山戯るな!!これ以上私から何も奪うな!!」
私が怒りのままに叫ぶと同時に、缶を握る手に力が入る。メキメキと音を立てて変形していく缶。普通ではありえない潰れ方をした缶が、私の怒りの大きさを物語っていた。
「......これ以上、私に関わるな。次に私の前に姿を見せてみろ。お前達を嚙み殺してやる......!!」
「あ......蒼......」
「......気安く名前を呼ぶな」
それだけ言い残し、私は二人を置いてその場を後にした。
〈No side〉
「......」
元両親の元を離れ、観戦席を目指していた魔嚙だが、途中で進行方向を変え、現在は荷物のある控室に来ていた。
目的は薬を飲むため、控室に到着した魔嚙は自分の荷物を漁り、薬を取り出して喉の奥へ流し込む。
薬を飲んで数秒、魔嚙は自分の個性が落ち着いて行くのを感じた。
後に残ったのは、純粋な怒りと憎しみのみ。自分の人生を壊し、傷つけ、挙句捨てた憎き相手への怒り......
この行き場のない怒りをどうしてくれようか、薬で個性は抑えられても、感情は抑えられない。ましてや自分の人生を壊した相手への感情だ。放っておいて治まるようなものではない。
なら必然、どこかで発散しなければならない。幸い、ここには相手が沢山居る。
ここからの魔嚙の試合は、最早試合と呼べない一方的な蹂躙になるだろう。その最初の被害者である次の対戦相手......飯田天哉は、そのことを知る由もない。
皆さんどうも猫耳の人です。
今回のお話はいかがでしたでしょうか?楽しんでいただけたら幸いです。
変更
次回は「無敵のヒーロー(仮)」...と思ったのですが、先にこちらの体育祭編を書いてしまおうかなと思います、ので、次回もこちらの投稿になります
それでは、次回もお楽しみに。
追記
なんとまたまたファンアートを頂きました!!
ぬおー!!さまより今回の小説のワンシーンです!!
【挿絵表示】
迫力がすんごい