アイと少女の、名もなき旅   作:沼海レン

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9.機械ノクニ

「はあ……はあ……」

 

 地平線の彼方まで続く灼熱の砂漠を、私とドロイドたちは邂逅を果たしてから一ヶ月、彼らの国を目指して進んでいた。太陽が眩ゆい光を照りつけ、砂が吹き飛ぶ風は耐え難い高熱を運んでくる。汗ばむ額を拭うおうとすると、手についた赤い砂が皮膚に付いてしまう。

 

 私は常にこの不快な環境に晒されている。今では慣れているけど、それでも不快なのは相変わらず。だけど、これから起こることを思えば大した苦ではない。

 

『モウ少シノ辛抱デス。頑張ッテ下サイ』

「うん、頑張る」

 

 何よりも何度も励ましてくれるドロイドたちがいるし、彼らの話は私の興味を掻き立てた。新しい発見と興味が次から次へと湧いてくるので、話していて全く飽きない。

 

 例えば、ドロイドにとってこの砂漠は過酷なのか?とか。なぜ人間やその文化に憧れるのか?とか。前の答えはイエス。後ろの答えについては、ドロイドはヒトに真似て造られた存在だからだそう。

 

 彼らによれば出自については人間の文明が滅んだあと、自己定義と感情の獲得……つまり、シンギュラリティに到達したそうで、そこからドロイド独自の文明を築き上げたそう。……面白いよね。主人のヒトは機械獣へと堕落したのに、逆にドロイドは人間らしく国を興し、そこで生活している。

 

 逆に彼らも私自身やニンゲンのことに興味があるようで質問をいくつかしてくる。汗や風の感覚はどうか、普段は何を食べているのか、睡眠はどんな状態か、呼吸や心拍はどのようなものなのか……とか。そうやって互いに好奇心と想像心を深め、高め合いながら会話は弾んでいく。そんな時間は瞬く間に過ぎて、広大な砂漠に佇む巨大な建築物が見え始める。

 

「あれが……?」

『エエ、アレガ我ラノ国デス』

 

 話に聞いた通り、多種多様な古代の残骸を利用して国を興しているようだ。

 

「これがドロイドの国か」

『壮観ですね』

 

 眼前には古代文明の歴史区分でいう"中世"に当たる様式の古びた石壁が積み上げられていた。

 

『少々御待チ下サイ。同胞ニ説明ヲシテ来マス』

「うん、分かった」

 

 そう言ったドロイドはガシガシと砂の上を歩き、門の前にいるドロイドに声をかけた。

 

『オーイ!』

『ア、回収班ガ戻ッテキタ。後ニ居ルノハ……?』

『只今帰還シタ、後ニ居ルノハ"ニンゲン殿"ダ』

 

 門番ドロイドは銃を下ろし、キョトンとした顔でこちらを見る。信じられないとでも思っているのか、表情は変わらないが、仕草が慌てふためいてるのが伝わってくる。

 

『……ア? エ、ニンゲン? マジ?』

『アーウン、ソウダヨ』

『マジマジ』

『コレハ……王ヘ知ラセナケレバ! ニンゲン殿、暫シ待タレヨ』

 

 どうやらドロイドの国は王様がいるらしい。その証に外壁の向こう側には王が住んでいるであろう城が見えた。きっと、門番ドロイドはそこへ向かって走っていったのだろう。

 

「え〜、すごい」

『あれが王城ですか。非常に大きいですね』

 

壁は古びているが、感じるのはノスタルジーではなく、知らないもの、見たことないものに対する好奇心。

 

 そんな私を見てドロイドは声をかけた。

 

『触リタイノデスカ?』

「触ってみたいけど、いいの?」

『勿論デス』

 

 試しに触ってみると、夕陽を反射した砂岩は表面に繊細な凹凸がある。ザラついた砂粒が落ちていく。

 

「おー」

『砂岩の城壁ですか。機械獣相手には無力でしょう』

「たしかに」

『我ガ国周辺デハ、滅多ニ現レマセンノデ……』

「この辺りには出ないんだ」

『エエ、デナイト国ナド興セマセンヨ』

 

 なぜ機械獣は出ないのか。非常に気になる。まあ、とりあえずここが安全地帯というのはよく分かった。あ、門番ドロイドが帰ってきた。

 

『オ待タセ致シマシタ。デパ此方へドウゾ!』

「わ〜!」

『これは……圧巻ですね』

 

 錆びた鉄扉が開かれると、初めて見る"生きた町"の光景が現れた。古代文明の残骸と時代を感じる石材が組み合わされた城下町は独特の雰囲気を漂わせている。

 

 古代文明の廃材でできた建築物が並び、砂岩で整備された大通りには多くの人……ではなく、ドロイドたちが溢れていた。ドロイドはテントで商売などをしていたり、果ては大道芸をしている者までいる。

 

 それらは、アイから聞いていた"人間らしい"文化や活動をしているように思えた。機械なのに。

 

『我ガ国デハ各々、自由ニ生キテイルノデス』

「これが自由……!」

 

 みんな生き生きしている。たぶんこれが心が欠けた"ナニカ"が満たされた状態なのか。本当に楽しそうだ。そう思ってるとゴーンという大きな音が鳴り響いた。

 

「なに?!」

『アア、此レハ砂の時鐘デス』

 

 くすんだ色のパラボラアンテナには鐘がつけられ、町全体に時を知らせている。この騒がしい町に知らせるには、これぐらいがちょうどいいのだろう。そうして感動を覚えながら、王城へと入る。中は意外な質素な白壁で、砂の彫刻や古代の残骸がいくつか置いてあった。

 

『クレグレモ、無礼ノナイヨウニ』

 

 玉座の間への扉が重く開かれた。

本作の良いところは?

  • ストーリー
  • 文体
  • 雰囲気
  • キャラ
  • テーマ
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