アイと少女の、名もなき旅 作:沼海レン
廃村で機械獣を撃破してから約1週間。私とアイの過酷な旅は、未だに続いていた。
「アイ、そろそろ食糧と弾丸が切れそう。何か補給できそうな場所は?」
『周辺をレーダーで探知………完了。主よ、現在地から5km地点にある、廃工場での探索を推奨します』
「廃工場か……いいね」
廃工場群には、この旅に必要な物がなんでもある。いわば、補給基地だ。
◆
ラウンドアバウトを中心に、工場が立ち並ぶ。各工場には電線や配管パイプが接続されており、古代文明特有のレトロチックな雰囲気を醸し出している。
「それにしても、こんなに大きいなんて……過去一番の規模なんじゃない?」
『この工場集積地は周辺地域の中でも群を抜く規模だったと推測されます。また、主が訪れている集積地の規模が拡大傾向にあり、旧文明の中心地に向かっている可能性があります』
「ふーん、つまり当分は物資に困らないって訳ね」
旧文明の遺跡を探索すれば、保存食糧なんていくらでもあるので困らない。それは長い旅の中で嫌というほど学んだ。そして、この規模の工場群なら一カ月ぐらい生きていけるだろう。
そう思いながら、手頃そうな物流倉庫に入る。中は薄暗いが、ベルトコンベアやロボットアームがかろうじて見えた。
ベルコンの上に並んでいた、金属容器を拾う。埃を払ってみると、塗装は擦れているが"FOOD"と書いてあるのが分かる。
……もしや古代人は金属を喰していたのだろうか?
「……アイ、なにこれ?」
『缶詰です。古代人が遥か昔に開発した、食糧を長期保存できる技術が利用されています。また、理論上は半永久的に喫食可能で、数世紀前の缶詰を食べたという実例もあるようです』
ああ、缶詰に書かれた文字は内容物を表しているのか。アイ含め、人類の叡智はやはりすごい。
「じゃあこれ、食べられるの?」
『はい、理論上は可能です』
「食べてみるか」
旧文明の食事を体験できるということで、俄然興味が湧いてきた。そう思い、機械獣にも劣らぬ腕力で缶詰を開けようとする……が
「ぐっ……開かない、固すぎる」
『缶切りがないので、私の多目的レーザー装置で切断致します。少々お待ちください』
どうやら、缶詰を開けるには専用の道具が必要らしい。こんな小さい物すらも開けられない自分が不甲斐なくて泣きそうになる。
『これは……トマトのスープですね。主よ、お食べください』
「……ありがと」
アイから差し出された缶詰から、なんだか酸っぱい匂いがする。本当はアイのセンサーが壊れいて、これは腐っているのではないか。そんな不安が頭の中をよぎる。
「これ、変な匂いする」
『大丈夫です。私を信じてください』
しかし、アイの言うことは正確だ。間違っているはずはない。そう思いながらも恐る恐る口元へと赤いスープを運ぶ。
「おいしい……!」
栄養補給だけを目的とした化学合成食とは全く違う、深い味わい。私の人生にとって、最も衝撃的なことだった。
「こんな物を食べてたなんて……古代人、羨ましい」
そして同時に、古代人への憧れを抱いた。彼らの文化は私に無いものを刺激し、満たしてくれた。更に言えば私の空腹も満たしてくれる。なんと素晴らしいことか。そんなことを思ってる内にいつの間にか、缶詰からトマトスープが消えていた。
「缶詰は保存も効くし、多めに持っていこう」
『主よ。缶詰は化学合成食とは違い、重く嵩ばるため多く持っていく事は推奨できません』
「えー……私の楽しみが……」
『心中お察しします』
せっかくできた楽しみなのに、残念だ。だけど、こればっかりは仕方ない。今度からちゃんと味わって食べよう。
『これで、一か月分の食糧は確保できました』
アイの内部貯蔵機構に収納されたのを確認し、倉庫の外に出る。
「なんだ?あれ」
ふと、巨大なドーム型施設に目が止まった。雑多な雰囲気を持つ工場の中で、明らかに異質だった。丸みを帯び、表面は滑らかだ。
「ちょっと行ってみよう」
『了解しました』
恐らくは厳重な管理が為されてたであろう、チタン製の開閉扉はこじ開けられた形跡があった。それに、隙間も空いている。
「え、すご」
開扉し、ドームに足を踏み入れた私は、砂漠の中に緑が残っていた事に感動した。そう、生命の息吹を感じる。"生きている"という感じがするのだ。
『この温室ファームは未だに稼働しているようです』
「おんしつふぁーむ?何それ」
『温室ファームとは、旧文明の人類が食料生産のために開発した、植物を育てる目的で用意した人工的環境を維持するための施設です』
旧文明の施設や住居は、電源や基幹システムが生きてる場合がある。それは、数世代にも渡って安全に暮らせるように設計されている証拠であり、古代人の高い技術力を示すものであった。
「ふぁ〜〜、あったか〜〜」
『摂氏24.6℃、湿度60%です』
ドーム内は適温適湿に維持され、心地いい。
また、背の高い草が繁茂しており、私の胸ぐらいの高さには赤い実が成っていた。アイに似たロボがふわふわと浮かび、水やりをしている、
『どうやら、トマトの栽培施設だったようです。ここで収穫されたトマトを原料にあの缶詰を作っていたと考えられます』
「なるほど……施設を一箇所に集めて効率よく生産してたのか」
やはり古代人、そこまで計算と設計していたとは……彼らから学ぶべき事はやはり多い。
「これが、トマト……」
人生初めて収穫したトマトを1玉、手に取って齧りつく。果汁が滴り、淡い甘みが口の中に広がる。
「はぁ……」
言葉にもならないため息が出てしまった。なんだか、旅の疲労が全部取れたような気もする。
「さてと」
食糧は無事に補給できたし、温室ファームで人生初めてのこともできた。となると———。
「次は弾の補充がしたいかな……アイ、どこにあるの?」
『北北西の倉庫に恐らくあります』
「ありがと」
私は、名残惜しい気持ちを抑えながら緑溢れるドームを後にした。過酷な砂の世界に戻ってきたが、あの甘みは忘れられなかった。
本作の良いところは?
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ストーリー
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文体
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雰囲気
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キャラ
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テーマ