アイと少女の、名もなき旅   作:沼海レン

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5.沈みし艦

 

「ふあぁ」

 

 朝日を眺めていると、不意にあくびが漏れた。理由は明白、徹夜して戦い続けたせいで疲労が溜まっているのだ。

 

「さすがに寝るか」

「はい、睡眠を強く推奨します」

 

 私は武器庫へと入り、寝袋を出して寝る準備を整えていく。

 

「私が寝てる間に色々と調べておいて。黒錆の人のこととか」

『了解しました。では良い夢を』

「うん、おやすみ」

 

 勝利に酔った感覚のまま、私は武器庫の端で眠りについた。

 

◆◆◆

 

 その光景には見憶えがあった。

 

 現実の赤い砂漠とは対照的な、白銀の雪原。そして、そのなかに聳え立つ、黒い肌と葉のない枯れ枝が象徴的な、大木。古代人の感覚的に言えば“世界樹“

 

「ここは、夢の世界か」

 

 その“世界樹“の根本に目を向けると、やはり、夢の世界の少女がポツンと佇んでいた。

 

「あれは……」

 

 前と同じくワンピース一枚だけの格好だが、前は持っていた赤い果実"リンゴ"を持っていなかった。

 

「はぁ、やっと来たのね」

 

 そんな華奢な彼女は呆れた面持ちで、その透き通った目でこちらを見ている。この前とは違って私から逃げない。

 

「今日は逃げないの?」

「逃げる必要が無さそうだもの」

 

 どうやら、私の機嫌を伺っているようだった。

 

「リンゴは?」

「リンゴ? ああ、腐る前に私が食べたわよ」

「……そう」

 

 せめて夢の中だけでいいから、一度だけでいいから、食べてみたかった。

 

「ねえ、貴女はさ。なんで旅をしてるの?」

 

 不意に、彼女が質問を投げかけてきた。その唐突で核心を突いた質問に、私の思考は停止した。してしまった。

 

「……そんなの、分からない」

「何も知らないのね」

 

 その普段通りの彼女の些細な微笑みが、私が無知であることへの嘲笑に見えた。少し、腹立たしい。

 

「逆に貴女はなんで私を、私の全てを知ってるの? 前言ってた“あの約束“って、“約束の地“って何? 知ってるなら教えてよ!」

 

 彼女の不親切さによるその苛立ちから思わず衝動的になる。

 

「さぁ……? それを探すのが貴女の役目じゃない?」

「まっ……」

 

 いつの間にか、吹雪が強まっていた。いくら手を伸ばしても、白銀の雪によって視界が白く、淡く、ぼやけていく。

 

◆◆◆

 

「……って!」

 

 なんだか感傷的になった私は外を眺めた。

 

 まだ外は薄暗いが、朝日が上りかけているのが見える。どうやら、ほぼ丸一日寝ていたようだ。

 

「……おはよう」

『おはようございます』

「ん……ねえ、どいて。邪魔だよ」

『申し訳ありません。今どきますね』

 

 アイは何故か私の上にまた乗っており、胸もまた激しく鼓動していた。

 

「解析はどう? なんか分かった?」

『黒錆の人については詳細は分かりませんでした』

「まあ、それはそうか」

 

 初遭遇して間もないのだから分からなくて当然だ。だが、少なくとも機械獣よりは知的に見えるし、実際に強い。警戒するに越したことはないだろう。

 

「機械獣の方は?」

『機械獣の群れですが、周辺に大規模な生活巣がある可能性が高いです』

「なんで?」

『機械獣が、古代人の成れの果てだからです』

 

 その言葉に、私はあの廃村での出来事を思い出した。

 

 機械獣である彼らは愛を持っている。その愛は、"ナニカ"が欠けている私を満たしてくれるかもしれない。満たしてくれなくても、何か手がかりになるかもしれない。

 

「そういえば、そうだった」

『はい。ですから習性として、群れで生活している可能性は高いと推測しました』

「じゃあ行こう。その巣に」

 

 私はそれを聞き、迷いなく即答した。この心の欠落は、何か動いてないとすぐに広がってしまう。そんな気がした。

 

『主よ、その選択は非常に危険です。安全なルートを提示し……』

「アイ、今までどんだけ危険な目に遭って、ここまで来たと思ってるの。今更だよ」

 

 アイの心配を遮ってまで言い切る私の意見に、アイは深く考えているのか、暫く沈黙した。

 

『……分かりました。アイは主に従います』

「それに、ここで巣を潰せば旅は安全で快適になると思うよ?」

『たしかに、それもそうですね』

 

 そして、巣へ向かって私たちは砂漠を歩き始めた。

 

◆◆◆

 

「あれは……?」

 

 砂に揉まれながら歩いていると、巨大な構造物が沈んでいるのが見えた。長さは最低でも3000mはあるだろう。

 

『恐らく、あれは太古の戦いで利用されていた主力戦艦のようですが……』

 

 砲塔や堅牢な装甲、上部には艦橋が見える。戦艦としての面影はあるが、長年の風化や錆びの進行で、今はガラクタ同然であった。

 

「それが、今は機械獣の棲家になってるのか。それにしても数が多い……」

『視認範囲内だけでも100以上の数を確認、未確認個体も含め、300体以上在留していると予測します』

 

 そんなガラクタの家には、それだけの大量の機械獣がいるらしい。 そうして私はレールガン《サンドスネーク》を構え、アイは多目的レーザーを展開した。

 

「さぁ、アイ。私たちの力を機械獣に見せつけてやろう」

『はい、了解しました』





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