アイと少女の、名もなき旅   作:沼海レン

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6.獣の巣窟

「さぁ、アイ。私たちの力を機械獣に見せつけてやろう」

『はい、了解しました』

 

 私とアイが銃砲を向けるのは、ガラクタでできた獣の巣窟だ。具体的には、古代の戦艦に穴が開いており、洞穴のような、廃村のような様相だ。

 

 そんな彼らをまるごと殲滅する作戦はもう既に立てている。

 

「アイ、ジャミングして」

『了解、機械獣の周波数に合わせてノイズを発生させます』

 

 機械獣は遠距離知覚をレーダーに頼っている。だからノイズにより、その目を奪うのが有効だ。

 

ダンダダンッ、ダダダンッ!

 

 そして、少し盛り上がった砂漠の小山から狙撃を開始する。連射による反動で少し腕が軋んだ。

 

「まずは10体」

 

 レールガンのCCC(スリーシー)から蒸発した冷却剤が白い煙が上がっていく。だが、獣たちに私の居場所を教える目印にはならなかった。

 

 軽い砂嵐が吹き始め、蒸気を胡散霧散させたのだ。

 

 ちなみに、髪は靡くと面倒なので結んである。古代人の文化で言うところの、ポニーテールというやつだ。けっこう気に入っている。

 

「チッ」

 

 だが、同時にその風によってこちらの軌道も微かに歪んだ。目標との距離も読みづらくなり、照準が定まらないので思わず舌を打つ。

 

「アイ、補足と修正して」

『了解しました。発射後の弾道計算と、補足修正を開始』

 

 アイがレールガンのスコープとなり、ズレた軌道を元に戻して、目標へと照準を合わせる。

 

『グガアァァッ?!』

 

 ここからはあまりにも遠いので声は聞こえないが、そんな愛に飢えた機械獣たちの哮り声が聞こえたような気がした。

 

 聞こえたような気がするどころか、目を細めると大きく口を開けて咆哮しているような仕草が見えた。

 

 そうやって順調に死体の山を積み上げていく。鉄血の臭いが、距離を超えて微かに感じるほどだ。だけど、そのリズムが突然崩れた。大きな影が目標への照準を遮ったのだ。

 

「あっ……」

 

 思考の時間を少し経て、その影を排除すべく引き金を引く。

 

ガン!

 

 だが、防御行動によって鈍い音を渡らせながら容易く弾かれた。

 

『約マッハ6の速度の弾を弾くとは、あの推定体長10メートルの巨駆に反して驚異的な反射神経ですね。主よ、警戒を強めてください。こちらの位置が割れている可能性があります』

「まるで"機械獣の王"ね」

 

 そのように形容できるほど他の機械獣とは比較にならないほど巨大で、身体からせり出した機械部品には気品さえ感じる。しかし、同時に継ぎ接ぎに繋がれたその姿は醜悪であることも示していた。

 

「全然効かない……」

 

 そして、この異常なまでの反応速度と堅牢な鎧。仲間を庇うため、俊敏な動きで弾丸に自分から当たりに行っている。

 

「いくらなんでも早すぎる」

『恐らく原因は不明ですが、"未来予測能力が異常に高い"という可能性はあります』

「となると、アイの予測と私の動きで予測を上回るしか——」

 

 思考を動かすが情報が不足している。いや、そもそも思考が途切れた。機械獣の王がこちらに向かって走り始めている。あと10秒もせずに到達するだろう。

 

「っ……!」

『主よ、危険です。今すぐに離脱してください!』

 

 レールガンから分離し、上空100メートルに退避したアイが警告してくる。されなくても危険なのは分かりきっている。だけど、また例の高揚感や満足感が私を襲う。そして、その感情と共に"機械獣の王"から大きな鉤爪が振り下ろされる。

 

『ガァッ!』

「……ぐっ?!」

 

 頑丈なレールガン《サンドスネーク》で何とか防ぎきるが、衝撃の余波で赤砂が飛び散り、腕が震撼する。射撃時の反動とは比にならない。

 

「ヤバい……!」

『グァッ!』

 

 続く追撃で蠢く鉄の塊が広い大地を揺らした。それは"鉄震"という言葉こそ相応しく、私の脳は揺さぶられる。砂に揉まれながらも、いつのまにか逃げようと足掻いている——なのに、揺らされた脳は悦に浸っている。

 

「があっ……あっ、うっ……」

 

 そのうち、震動だけで宙へと打ち上がる。空の彼方には双つの月が見える。その時、なぜか世界が止まったかのような感覚に陥った。揺れのない世界で思考は平静に回帰していく。

 

 そのなかで、ある一つの疑問がおぼろげに浮かんできた。

 

「……そもそも、電波はアイが妨害しているはず。どうやって私たちを、認識している?」

『熱で知覚していると推測します』

「じゃあアイ、フレアガン撃って」

『了解しました。フレアガンを射出致します』

 

 空中なのに急に滑舌が良くなったこと、アイと会話できたことに自分でも驚く。でもその理由はすぐに見つけた。

 

(そうだ。今までアイと私で何度も、何度だって繰り返してきたリズムだ。あの揺れに崩されていたのか)

 

 フレアが空から降り注ぐ。その景色は綺麗だ。まだ見たことはないが、古代文明の『花火』もこのようなものなのだろうか。

 

 目を奪い、目を奪われた瞬間だった。

 私とアイの連携、その動きは滑らかだ。アイのアームに掴まれた私は攻撃を軽やかに回避して、迎撃……否、反撃を始める。

 

ダンッ、ダダダンッ

 

 だが、フレアがある時間は少ない。だから素早く見当つかないまま暴れ回る巨獣の瞳を撃ち抜く。

 

『グガァァァッ?!』

 

 熱センサーが壊れた機械獣の王。目を奪われた巨体はタングステンの弾丸(Type-W)に心臓を撃ち抜かれた。赤い血液が垂れ落ちる。痛いのだろうか。慌てて喚いている。

 

 しかし、動きは未だに止まらない。やはり、動かしているのは愛なのか。だけど、その動きもだんだんと弱っていき、停止した。

 

 眼下には機械獣の遺骸が一面に広がっている。滑稽なことだ。仲間を守るために行動したのに、自分の揺れで下僕の機械獣を殺している。

 

 理性がないことの表れだ。

 

「これだけの機械獣が……いや、かつての人間たちが何かしらの愛を持っているというの?」

『はい、今での経験則からその予測は妥当です』

 

 愛とは、理不尽かもしれない。間違って仲間を殺すこともあるし、あっけなく死ぬかもしれない。

 

「アイ。私は機械獣たちの愛を知りたい。ログ解析やってくれる?」

『もちろんです! 直ちに解析を開始致します』

 

 アイは接続ケーブルを内部から取り出し、砂が混じらないよう、慎重に機械獣へと繋げていく。なにか、その姿を見て嬉しそうな気がした。

 

『解析……失敗、どれも致命的な損傷が確認されます』

「やっぱり廃村の時みたいにはいかないか」

『しかし、まだ希望はあります』

「希望?」

 

 アイは背面アームを内部へと仕舞いながら、そう伝える。

 

『はい。この機械獣たちは戦艦乗組員の可能性が高いと予測。つまり、この戦艦のブラックボックスを解析さえすれば、彼らが機械獣に成った理由が分かるはずです』

 

 アイの言うことはいつでも理に叶っている。心に欠けた"ナニカ"を満たしてはくれないけれど。

 

「じゃあ、この戦艦の中へ行けば分かるのね?」

『はい、理屈上はそうです』

「アイ、行こう。前照らして」

『了解しました』

 

 錆びついた非常ハッチから戦艦内部へと入った私とアイは戦艦の艦橋にある戦闘指揮所へと向かった。




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