ARIA星人イアちゃんと出会った結月ゆかりの青春模様   作:へるしぃーぼでぃ

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作中想定曲、ゆかりさんは『幾望の月』
楽曲コード:240-4119-0

イアちゃんは『Resonance World』
楽曲コード:239-2953-7



結月ゆかり、宇宙人と出逢う

 

 

そこは、歌手や声優・ナレーションなどの多種多様な“声”を扱った仕事をする人たちが集う集合住宅(アパート)、コーポ『ふぁ〜すとぷれいす』。

今宵、ここに新たな住人が(そら)から舞い降りるところから、この話は始まる。

 

 

 

 

 

 

夜の帳がとっぷりと落ちた時間帯。

敷地に植えられた夜桜が街灯に照らされ、中々に雰囲気のある空間が演出されているアパートにて。

一人の紫髪の少女が、ベランダで鼻唄を奏でていた。

 

「破滅的な暗闇に♪私は立ち尽くす♪……はぁ」

 

その仄暗さの中、目の前の夜桜の如く儚げなため息が零される。

 

少女の名前は結月ゆかり。

 

彼女は今、絶賛売り出し中のイケイケ歌手……を目指す、上京したての無名の新人歌手であった。仕事はまだない。

彼女は自信家であった。親や地元友だちからは『歌が上手い』『テレビに映る人みたい』と子どもの頃から絶賛され、いつしか歌手になる夢を抱き、今に至る。

 

しかし、そんな彼女に無情なる現実の壁が立ちはだかった。

 

オーディションによる厳しい審査、自分と同等もしくはそれ以上に上手いライバルたちとの競争の日々に、彼女は音を上げてしまったのだ。

結果、不貞腐れて引きこもりになってしまったワケである。

 

「〜♪、……はぁ」

 

不意に鼻唄をやめた彼女の小さい口から、今日何度目にもなるため息が零れる。

彼女が寄りかかる手すりの上には、ビニール袋を下敷きにした口の開いた炭酸水と、食べかけの惣菜パンが鎮座していた。ズボラな夕飯である。

室内から漏れ出る光が、陰鬱な少女の横顔にさらに影を落としていた。

 

「いいかげん、仕事を見つけないとなんですが…」

 

今日も今日とて自堕落な(ニート)生活を送った彼女の悩みは、金欠という至極当然な問題であった。

現実の高い壁から逃げた彼女だが、こればっかりは逃げようがない。本来ならセンチメンタルに鼻唄を歌っている場合ではないのだ。

 

だがまだ年若いゆかりは、無情な現実からも逃避する。

 

流れ星に願いを──、なんてロマンチストでもないが、それでも縋るように途方に暮れた表情で天を見上げた。

 

「……ん?」

 

するとそこに、一際目立つ七色に輝く星を見つけた。

綺麗なモノを見て少しだけその顔がパッと輝く。

 

「わあ、キレイですね。…でもあんな星、ありましたっけ?」

 

彼女の疑問は最もだ。

そしてその疑問が正しかったことが、直ぐに判明する。

 

「んん?なんだか、変ですね…?」

 

ゆかりは目をゴシゴシと擦る。

見間違えでなければ、その七色に光る星がゆっくり、ゆっくりと大きくなっていくではないか。

 

──否、それは確実に近付いてきていた。

 

「………うそ」

 

ゆかりは呆然とその光景に魅入った。いや、目を逸らせなかった。

信じられないことに、その七色の星が自分の目の前にフワフワと降り立ったのだ。

 

あまりの超常現象を前に、思考が停止する。

 

眩しさに目を細める中、その光が一際輝き、ブワリと羽ばたくように霧散した。

次第に光は収まっていき視界が戻ると、辺りにはキラキラと純白に輝く羽根が舞っていた。それだけでもおかしい事態なのに──

 

──目の前には、一人の美しい少女が立っていた。

 

「ッな、なな……!?」

 

どういう原理か分からないが、あの七色の星の中には人が入っていたようである。

言葉を失い立ち尽くすゆかりに、降り立ったその人物がゆっくりと目を開けた。

 

そして、お互いに目が合った。

 

ゆかりは息を飲んだ。その少女のあまりの美しさに。

端正な顔立ちの中に幼さを残しつつも、凛とした雰囲気を放つ青い瞳。

地面に届くほど長い髪は純白とも白銀とも取れる輝きを放ち、角度が変わると薄く虹色が現れるという不思議な髪色をしていた。

大胆にも肩口から覗く肌は玉のようで、直視するのも憚られた。

 

だがゆかりは凝視した。

 

網膜に焼き付かんばかりに魅入った。ぶっちゃけ好みどストライクだったのである。

超常現象を前に欲望を優先とは、ゆかりは意外と肝が据わっているらしい。変な肝の据わり方だ。

 

そんな食い入るように見つめるゆかりに、その美しい少女がゆっくりと言葉を紡いだ。

その声音(こわね)は、透き通った宝石のようだった。

 

「あの、貴女のお名前を聞いても、いいですか?」

 

「っえ!?…ア、はい!私は結月ゆかり十八歳です!彼女はいません!!」

 

名前以外に要らない事を口走ったゆかりだが、内心「ああぁあ゛ああ!!声もめっちゃ綺麗ぇええ!!」とそれどころではなかった。この興奮状態で返答できただけ奇跡である。

 

そんなゆかりに、少女はくすりと微笑んだ。

 

それだけでドキリとゆかりの心臓が跳ね、金縛りにあったようにカチコチに固まってしまう。

再び少女が口を開いた。

 

「ゆかりさん、ですね。初めまして。私はイアです。惑星アリアという星から、この地球に愛と平和を届けにやって来ました」

 

ここでゆかりは「ん?」と違う意味で固まった。

なにやら惑星アリアとか、愛と平和を届けに来たとか、……言ってはなんだがスゴい電波な物言いに急に不信感が募ってきたのだ。

 

第一、空から女の子が降ってきた時点でだいぶヤバい。

 

私、いつの間にかヤケになってヤバいクスリでもキメてたかしらん?と自身の正気を疑い始めた。

少し冷静になってきた頭で、再度イアと名乗った好みどストライクの美しい少女を見やる。

彼女は、名を名乗ったのに無反応でジッと見つめてくるだけのゆかりに対して、クエスチョンマークを頭の上に出しながらもニコリとはにかんだ。

 

その瞬間、ゆかりは結論を出した。

 

(…まあ、可愛いからいっか)

 

可愛いは正義である。

その他全ての問題を頭の中から吹き飛ばしたゆかりは、ややあってこう切り出した。

 

「イアさん、ですか。立ち話もなんですから、とりあえず私の部屋に入りませんか?お茶を出しますよ」

 

まだ春に入りたての季節である。日中は幾ばくか暖かくなってきたとはいえ、夜はまだ冷え込む。

自身も少し肌寒さを感じていたこともあり、流れるような動作で戸を開いた。

 

「ありがとうございます、ゆかりさん。じゃあ、失礼します。地球のお茶、すごく楽しみです」

 

「…ッ、粗茶なので、あまり期待されても…」

 

無邪気な足取りで敷居を跨ぐイアに、ゆかりは頬を引き攣らせてそう言った。

粗茶どころかペットボトル飲料なのだが、自室でイチバン上等な茶器はどれだったかとゆかりは脳内で部屋内を探る。

肌寒い空気とともに、二人の少女は室内へと入った。

 

 

 

 

 

「…ん、美味しいです。このお茶」

 

「……お口に合ったようで何よりです」

 

普段淹れないお茶を慣れない手つきでなんとか淹れたゆかりは、イアの感想にホッとため息をついていた。

 

まさかの茶葉を発見していたゆかりだった。

 

「ずんだ餅にサイコーに合うお茶っ葉ですよ!」とお裾分けしてくれた東北地方の友人に、心の中で感謝するゆかりだった。

セットで貰ったずんだ餅をお茶請けに糖分補給しながら、ゆかりは早速とばかりに切り出した。

 

「あの、イアさん」

 

「はい。この緑色のお餅も、美味しいです」

 

「それは良かった。……じゃなくって!あの、改めて聞きたい事があるんですが…」

 

イアの天然マイペースな返事に調子を崩されながらも、ゆかりはひとつ、深呼吸をしてから続けた。

 

「あの、イアさんは宇宙人でいらっしゃる…、という事でいいんですかね?」

 

まず一番気になったのがそこだ。

空から降ってきたのもそうだが、イアの容姿も少々、いやだいぶ人間離れした美しさを誇っている。

その存在感は神々しさすら感じるレベルで、ゆかりは正直、宇宙人という言葉に信ぴょう性を感じていた。こんなに可愛い子が宇宙人なワケがない(錯乱)。

 

「うーん、そうなるの、かな?」

 

しかしイアはなんとも煮え切らない返事をしてきた。

だがそれもそうだ。宇宙からやってきたイアにとってみれば、地球人こそ宇宙人なのだ。しかしゆかりは宇宙人ではない。言うならば地球人だ。だとすれば宇宙人とはどれを指すのか?…宇宙空間に漂う生物?

宇宙のように果てしない疑問を前に、ゆかりは考えることをやめた。

ゆかりは質問のチョイスを間違えたようだ。

 

「っこほん。失礼しました。…えーと、次の質問に移らせてください。確か、愛と平和を届けに来たとか言ってましたが、これは具体的にどういう事なのでしょうか?」

 

コレも中々にキてる内容だ。

ゆかりは、これは実は宗教勧誘の類ではないかと疑っていた。

 

だってどう考えてもおかしいだろう。

空から少女が降臨するとか現実的にありえないし、どこかのヘンテコ宗教団体がムダにお金を集めてムダに高価なギミックを使ってムダにハデな演出をしたと考える方がまだ論理的である。

先ほど宇宙人に信ぴょう性があると言っていた気がするが、ゆかりは何を隠そう手のひら返しドリルが得意技だった。この技で過去、何回手首がねじ切れたことか(ウソ)。

 

最近は技術の進歩も目覚しいし有り得なくもなくもない、と思考がスパイラルするゆかりに、イアはゆっくりとその口を開いた。

 

「そのままの意味です。私は、この地球(ほし)に愛と平和を届けるようにと言われて、やって来ました」

 

「………っなるほど」(分からん!!!)

 

ゆかりはキリッとした表情とは裏腹に、脳内は完全にパニックだった。

やっぱり電波な子、宗教勧誘という言葉が脳裏にチラつく。

 

──余談だが、ゆかりは『外面は完璧』という特技も持っていた。

そうと決めれば心の内を顔に出さない事にかけてはプロ級(?)な彼女だが、こういう時ばかりは便利だった。

ゆかりはマジメな(知ったか)顔で話を続ける。

 

「つまり、イアさんは慈愛の女神として地球に愛を注ぎに来た、という事でしょうか?」

 

しかし外面が完璧なのは顔だけのようだった。

女神だとか愛を注ぐとか、口に出すととても小っ恥ずかしいセリフを真顔で言ってしまい頬がカッと熱くなる。

これもそれも、イアの美しさと可愛さと綺麗さと天然マイペースの空気に当てられたせいである。

慌てて口を塞いだゆかりだったが、対するイアはきょとんとしていた。

 

「?、私は女神じゃないけど、ゆかりさんの言う通り、この地球を愛するために来たの。地球の情報は一通り調べて知っているけれど、やっぱり実際に体験しないと、本当の意味で愛する事は出来ないから」

 

イアは恥ずかしげもなく、真っ直ぐな瞳で愛を語った。

ゆかりはその真剣な瞳に気圧されたが、めげずに質問を続けた。

 

「っでもイアさん。愛するって、それこそ具体的にどうやってするんですか?」

 

愛する行為といえば、耳年増なゆかりは必然的に性的な行為を思い浮かべた。

しかしイアの弁は『地球を愛する』というもの。きっと自分には想像もつかない、壮大で荘厳な行いを…

 

「セ〇クス、だよ」

 

「ちょぉおおお!?!?」

 

ゆかりのポーカーフェイスは崩れた。

だって目の前の純真無垢そうな少女の口からどストレートな卑猥な言葉が放たれるなど、誰が想像出来ようか。

ゆかりはその衝撃の光景に耳まで真っ赤になり、意味もなく口がパクパクと開閉する。

 

「そ、そ、それはぁ、え?つまり、私とセッセッ……!?ッダメですイアさん自分を大事にして下さい!!」

 

「え?セッ〇スは人間にとって、かけがえのない行為だって、教わったよ?」

 

どうやらイアはセッ……の事を知識でしか知らないらしい。ゆかりは頭を抱えた。

 

「……イアさん。セッ……!!以外の手段はないんですか?もっとこう、穏便に愛せるようなものは…」

 

穏便に愛するとは一体何なのか?

ゆかりもよく分からなくなってきたが、しかしイアにはソレ以外の行為に思い当たる節があるようだった。

 

「あとは、歌、ですね」

 

「歌、ですか?」

 

セッ……からの落差にゆかりは思わず体から力が抜けた。

と同時、確か音楽を聞いたり歌ったりする喜びというのは、セッ……や美味しいものを食べた時など、三大欲求レベルの喜びと同等だと聞いたことがあった(諸説あり)。

オウム返ししたゆかりの言葉にイアは「はい」と頷き、それから思い出したように言った。

 

「そういえば、私は歌の練習ばかりしてました。『〇ックスはまだ早い』って、先生にも言われてました」

 

ゆかりはその先生にグッジョブ、と心の中で親指を立てておいた。

しかしそれならセッ……情報を最初から与えないで欲しかったとも思う。心臓に悪い。

 

「それで、その……」

 

と、そこでイアがなにやらモジモジしだした。少し頬を赤く染めて、その姿はとてもいじらしい。

その姿にゆかりは思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。

もしかしてこの流れ、セッ……案件なんじゃ……ッ!?と期待感が募る。心臓に悪いのではなかったのか。

ドキドキと身構えるゆかりに、イアは意を決した表情で言った。

 

「その、ゆかりさんに、ぜひ私の歌を聞いてほしいんです…!」

 

顔を真っ赤にしてそう言ったイアに、ゆかりは心の中で自分の煩悩を張り倒した。

こんな可愛い子に何を期待してたんだ腹切って詫びろゴルァ!!と、己の浅ましい欲望を消去した上で、ニッコリと微笑んだ。

 

「ぜひ聞かせてください!いくら払えばいいですか?」

 

「え?払う?」

 

「すみません、なんでもないです。でもなんで急に歌を?」

 

無意識のうちに構えた厚みのない財布をそっと脇に置き、突然歌を聞いて欲しいという願いの真意を問う。

話の流れを考えれば、今からイアはゆかりに(うた)を与えたいという事だろうか。

 

好みどストライクのイアの、しかも愛を与えるという歌声にはとても興味があった。

個人的にも、そして歌手を目指す結月ゆかりとしても、純粋にとても興味があった。

イアがゆかりの質問に答える。

 

「その、アリアでは先生やオネ……、妹に歌を聴いてもらってたんだけど、地球の人たちに私の歌が本当に愛を届けられるのか分からなくて…。だから、さっき綺麗な声で歌っていたゆかりさんに私の歌を聴いてもらって、本当に愛を感じたのか教えてほしいの」

 

なるほど、とゆかりは事情を把握した。

それと同時に、ベランダでの鼻唄を聞かれていたことにちょっとの羞恥心と、まさかの褒められで内心ニマニマしていた。

自信を喪失していたゆかりにとって、第三者からの、しかも超絶美少女からの褒め言葉は劇薬だった。

しかもイアの()を聞けるという特典付き。

ゆかりの鼻の穴がこれでもかと膨らんだ。

 

「そういう事でしたら、バッチ来いですよイアさん!イアさんの愛、私がしっかりがっしりずっしり受け止めます!!」

 

「ありがとう。……じゃあ早速、始めるね」

 

そう言ってイアは立ち上がる。長髪が動きに沿って靡き、ゆかりはその一挙手一投足に注目した。

愛と平和を願う儚い少女が、今宵地球で初めての歌を捧げる。

 

 

 

 

 

 

ゆかりは、これは現実かと目を疑った。

 

目の前で繰り広げられる、ア・カペラで歌う彼女の、なんと神々しいことか。

正直、先程まで「ぽわぽわした子だな」と思っていたゆかりは、歌い始めた彼女のしゃんとした佇まいに居住まいを正した。

 

ただただ聴き入り、魅入った。

 

クリスタルのように透き通る綺麗な声。

しかしどこか温かみのある、包容力に富んだ優しい歌声が、ゆかりの心を、体を魅了して離さない。

気が付けば、イアの足下にはカラフルな花々が咲き乱れていた。ありえない光景のハズであるが、そう幻視するほどイアの歌声は美しく荘厳で、儚い。

 

ふと、目が合った。

 

イアはその青の瞳でふっとゆかりを見つめ、ゆかりは呆然とその視線を見つめ返した。

トクン、とゆかりの心が揺れ動いた。

 

──『愛』とは。

 

対象をかけがえのないものとして認め、それに引き付きられる心の動き。また、その気持ちの表れ。相手を慈しむ心。

 

「…ぁ」

 

ゆかりの胸中に今、『イア』という存在が本当の意味で入り込んだ。

ひと目見た時からその存在に惹かれていたが、今この瞬間、ゆかりの中でかけがえのない光となって、その心に、その魂に少女の名が刻まれた。

 

ふと、瞼から筋を引いて涙が零れた。

 

感動、したのだ。

ありきたりで陳腐な感想だが、イアの愛と平和を願う歌声は確実にゆかりの心を動かした。

一般人(・・・)としてのゆかりの心は、純粋にそう感じた。

 

……だが──

 

ドクン、と沈むような鼓動が脈打つ。

だが、歌手(・・)を目指す結月ゆかりにとってはそうではなかった。

 

(は……は、上手、すぎて……)

 

ノドがカラカラに乾いていた。

 

恨めしかった。妬ましかった。ズルいとさえ思った。

自分の内に秘める醜い感情が溢れて止まらない。

絶賛しているのも本心であるが、同時に嫉妬心で脳内が塗れてるのも本当だった。

自分がこんなにも卑しく浅ましい感情を抱いているなど、目の前の

天才(イア)に伝わっていないだろうか。

 

いや、恐らくこの暗い感情が伝わってしまったとしても、この子はそれすらも愛で包んでくれるだろう。

 

それぐらい圧倒的だった。自分など足元にも及ばない、圧倒的な才覚。

その存在を前に、歌手としての結月ゆかり像が音を立てて崩れていくのを感じた。

だがその消失感や嫉妬心すらも、イアの優しい歌声を前にすると、溶けるように消えていった。

 

 

 

 

 

 

「…聞いてくれてありがとうございました、ゆかりさん。…その、どうでしたか?」

 

気付いたら、イアの歌声は止み上目遣いの彼女が自分を見つめていた。

ゆかりの意識が現実に戻ってきて、ハッとなって捲し立てる。

 

「ッとても素晴らしかったですよイアさん!ホントもう神々しくて、思わずトリップして…って、っええぇえええ!?!?」

 

ゆかりは絶叫した。

 

イアが歌ってる途中、色とりどりの花が咲くという幻覚を見たと思っていたら、現実に本当にガチで咲き誇っているではないか。何を言ってるのか分からねーと思うがゆかりにも分からない。

イアが周りの花々を見て、わぁ、と顔を綻ばせた。

 

「地球で歌ってもお花が咲いちゃうんだ。でも、みんな初めて見る子…、ゆかりさん、この子たちは地球に住んでる種類なのかな?」

 

「エ、あ、ちょっと私にもよく分からないですね。お花は詳しくないので…」

 

部屋の一角が草花に埋もれた状況に戸惑いながらも、ゆかりは花をどうしようかと花瓶になりそうな物を探した。

にわかに信じ難い光景だが、イアの生成した花だという事は紛れもない事実だ。なんとしても飾らねばならない。

 

……それとこうして体を動かしていれば、天才を前にした凡才として虚無感に浸らずに済む。

 

その後、花瓶類の見つからなかったゆかりはビニール袋に丁寧に花を摘むと、それを手伝っていたイアに向き直った。

 

「ところでイアさん。この後はどうするつもりですか?」

 

「この、後?」

 

可愛くきょとんと首を傾げるイア。やっぱり、と半笑いを浮かべるゆかり。

地球に来たばかり(宇宙人説を信じるならば)で行き場のないだろうイアに、ゆかりは「ここで一緒に暮らしませんか?」と持ちかけた。もちろん親切心とお節介焼きである。

 

表向き(そとづら)は。

 

本心は、「ひゃっほう!こんな可愛い子とひとつ屋根の下シチュをみすみす手放すワケがない!!」と下心百パーセントのゲスの極みゆかりだけが居た。

羨むほどの才能を魅せたイアだが、そんな嫉妬心など霞むほどの美人な彼女とここでサヨナラなどありえない。

プライドよりも実利を取るゆかりである。

 

「いいの?じゃあ、よろしくお願いします、ゆかりさん」

 

ゆかりの提案にイアは満面の笑みで答え、ゆかりは心の中でガッツポーズをキメた。

だが反面、ゆかりはこう思っていた。

イアは将来、歌手として圧倒的地位に登り詰め、いつしか全世界に愛を振りまくだろう、と。

 

ゆかりはどこか達観した様子で、無邪気に喜ぶイアを見やった。

 

見つめられたイアが微笑み、ゆかりもつられて笑った。

どうかそれまで、この天使と一緒に居たいと願いながら。

幾望の月の光が、ビニール袋に摘まれた百合の花々を照らしていた。

 

 

 







ゆかいあぁ……
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