ARIA星人イアちゃんと出会った結月ゆかりの青春模様 作:へるしぃーぼでぃ
作中想定曲『ラストダンス』。
はい、作者はねじ式さんのファンです。
妹分たちが勢揃い回。
『それでは今日のゲスト、結月ゆかりとイアのお二人です!』
MCを務める赤髪の女性、カルの紹介とともに現れたのはその二人。
紫髪を両頬の横に結った少女、結月ゆかり。
純白を基にした、不思議な髪色を持つ浮世離れした容姿を持つ少女、イア。
かたや緊張した面持ちで、かたやいつも通りの笑顔が画面の向こう──ここ『ちぇびおカフェ』に設置された液晶テレビに映し出されていた。
余談だが、このカフェは夜間はバーの顔を持っており、カフェには少々ミスマッチなテレビがそのまま設置されている。
そして今は店主の権限で特別に放映されていた。
「うわぁ、ホントにテレビに出てるね。ゆかりさんとイアさん」
「瞬く間に遠い人になってしまったみたいだわ」
感嘆の息を漏らすのはこのカフェの店員、さとうささらとすずきつづみだ。
そんな彼女たちに、同じく店員として働き始めたオネがため息をついた。
「いやいや、知り合いのコネで一足飛びしただけだから、まだ全然『遠い人』じゃないよ」
若干拗ねた声音のオネが独り言つ。
ゆかりと元々知り合いだった、この番組のMCを務める才女、カル。
そんな彼女がイアの歌声にイッパツで惚れ込んだお陰で瞬速の地上波デビューとなったイアとゆかりである。
しかしこの時点でなんの実績もないユニットなので、確かに『遠い人』とは言い難い現状であった。
「確かにね。けど、この機会で一気に……っていう可能性もあるよね」
店長のタカハシも話に入ってくる。
その指摘にオネは「……っそうなんですけど」と複雑な表情を浮かべた。
ささらがウンウンと頷く。
「2人とも美人さんだからね!……ほら見て、SNSでも早速話題になってるよ!」
自分のスマホを掲げて見せてくれたのは、カルの番組をハッシュタグにした数多の投稿。『今出てる新人の子、メッチャ可愛い!』『声も可愛い、これは期待』『平たい胸族キマシタワー』など、様々な反応が上がっていた。
「歌もとっても上手いからね!今日を境に一気にメジャーデビューしちゃうかもだよ!」
ささらが興奮冷めやまぬ様子で語る。
もともと歌手を目指している結月ゆかりと、歌で愛と平和を訴える使命を持つイアである。
ビジュアルも良い2人はとてもよくテレビ映えしており、初々しさを除けばそこらの芸能人となんら変わらぬ佇まいであった。
「たのもー!」
「こんにちはー!」
と、そこで元気の良い声が店内に響いた。
タカハシが熟練の営業スマイルと、気の良い近所のお兄さん然とした柔らかな表情がブレンドした笑みを浮かべ、その客人を出迎えた。
「いらっしゃい、あかりちゃん。それにロサちゃんも」
訪れたのは白髪お下げを振り回す結月ゆかりの妹分、紲星あかりと、淡い赤毛を片側に括った勝気な雰囲気の少女、ロサだった。
ロサは今テレビでMCを務めているカルの実の妹である。
「久しぶりータカハシさん!って、あー!?もうお姉ちゃんの番組始まってる〜!?タカハシさんっ、私カフェオレで!」
「はいはい。ロサちゃん、他のお客さんに迷惑だからもう少し静かにしてね」
登場するや否や、速攻でテレビの前を陣取るロサ。
タハカシ以外の店員はその勢いに呆気に取られる中、微かにつづみが「お姉ちゃん?」と小声で反応した。
ロサは目ざとく反応し「あ、こんにちは!私カルの妹です!」と元気よく挨拶する。
その隣であかりがマイペースにメニュー表とにらめっこしている。
「あ、マスター。あかりは大きめのマグカップにモカください。それからカツサンドにナポリタン、そしてデザートにモンブランと〜……」
「ちょちょっ、あかりちゃん。デザートは後から頼むよ。じゃあ皆、文字通りの大口顧客が来たからひとまず仕事に戻るよー」
店主の声にささら、つづみ、オネがテレビに後ろ髪を引かれながらも動き出した。
姉の勇姿は見届けたいが、給料を頂く身でそれはワガママというものだ。まずは与えられた仕事を全うしようと、オネはエプロンの裾を翻した。
☆
「期せずして、画面の中の妹分が全員勢ぞろいしたねぇ」
落ち着いた店内。
コーヒーの芳しい香りと共に感慨深く呟かれたタカハシの、その言葉に全員が振り向いた。
少女たちの疑問の視線を一身に浴びたタカハシは微笑むと、それぞれの関係性を指で差した。
「オネちゃんはイアちゃんの妹で、あかりちゃんはゆかりちゃんの妹分、そしてロサちゃんはカルちゃんの末妹だからねぇ。……この3人で、オネちゃんだけが面識ないのかな?」
タカハシの指摘にオネと、それにあかりとロサがそれぞれ見つめ合った。その瞬間、パァ!と顔を輝かせたのはロサだ。
「え、待って。イアって今、ゆかりさんとカルお姉ちゃんに挟まれてる綺麗な人のことだよね!?えー、その人の妹さん!?奇遇ぅ〜!私はね!あの赤い人の妹だよ!」
「はぁ。そうですか」
画面の中のカルをズビシ!と指差して怒涛の勢いで喋るロサに、オネは圧倒されてつい塩対応な反応になる。あまりのテンションの温度差に周囲が苦笑した。
あかりもカツサンドをゴクン飲み込み、間に入る。
「イアさんの妹さんかー。あ、あかりは紲星あかりって言います!イアさんには前にお世話になりました!ゆかりん先輩とは従姉妹ですけど、ほとんど妹みたいなものです!よろしくね!」
テンション高い二人に迫られ、オネは借りてきた猫のように「よ、よろしく」と返すだけで精一杯だった。グイグイ来るのは苦手……というより慣れていないようである。
妹という共通項目がない分、傍観者として気軽なささらとつづみが物怖じせず声を上げた。
「二人はここの常連さんなの?私たちはついこの間からここで働き始めたさとうささらです。よろしくね!」
「すずきつづみです。仲良くしてくれると嬉しい」
美人な年上二人からの挨拶に「「よろしくお願いしまーす!」」と元気よく答えるあかりとロサ。
瞬く間に広がる姦しさに、店主のタカハシは一人静かにブラックコーヒーを嗜んだ。
『では、緊張も解けてきたようですし早速その歌声を披露して貰いましょう!』
画面から司会者、カルの口上でステージに上がるゆかりとイア。その勇姿を観ようと一旦、全員の注目がテレビに集まった。
歓談なインタビューとは一転、緊張と期待の入り交じった独特な空気が画面越しに伝わってくる。
『では、聞いてください』
『私たちの、歌を』
そして始まる、白と紫のデュオ。
快活な音調、それでいて一抹の悲しさを漂わせる歌詞。
出会いと別れ。
交互に入り混じる吐息。
牧歌的な光景がまぶたの裏に映し出されるようで、何もかも忘れて踊り出す──……、そんな雰囲気が漂うような曲だった。
「……すごい楽しそうに歌うね。この二人」
誰が呟いたのか、銘々が無言の肯定で魅入る。
そんな中、特にオネは姉に釘付けだった。
その顔の、なんと朗らかなことか。
普段から笑顔の絶えない姉であるが、今画面に移るその姿にはより一層の幸せが詰まっていた。
(いいな。私も、なにか……)
一生懸命に歌う姉に魅せられて、妹はただただ羨望の眼差しを向けるばかり。
まだ地球に来たばかりとはいえ、自分が何も持ってない事を強く意識させられた。こんなに幸せそうに頑張る姉を見て、何もせずにはいられない衝動に駆られる。
なにか、自分もなにかに打ち込めるものが急激に欲しくなった。
「いいなぁ」
つい口に出たのかと思い、慌てて口を抑えたオネ。
だがその言葉を発したのは、同じく魅入っていたロサの口から出たものだ。
「お姉ちゃん、あんなに嬉しそうにニヤニヤしちゃって。MC冥利に尽きてるなー。いいなー私もなにか『これだ!』っていうものを見つけたいなー」
羨ましいという感情を余すところなく発露する年頃の乙女。
どうやら彼女も姉たちの姿に魅せられ、突発的になにか目標を持ちたくなったらしい。
「先輩もすごくイキイキしてます!よっぽどイアさんと組めたのが嬉しいんだろうなぁ」
あかりもしみじみと、新たに運ばれてきたチーズケーキを頬張りながら幸せそうに呟いた。
そんな悩める年下の彼女たちに、ささらが微笑ましく提案した。
「だったらここに居る三人で組んでみちゃうとか?みんな、妹っていう繋がりがあるんだし」
それに一も二もなく飛びついたのはロサだ。
「それだ!お姉ちゃんたちが羨ましいから、私たちも対抗してユニット組んじゃおう!」
ガバッ!とあかりとオネの肩に両腕を回すロサ。
あかりはアップルパイを頬張ったまま、オネは露骨に対応に困っていた。
「もぐもぐ……、あかりは全然いいけど、問題がいくつかあります」
急にキリッとなったあかりに、ロサが「ほぇ?」と間抜けな声で返した。あかりは構わず話を進める。
「まず、オネさんが乗り気でない事もぐもぐ。けれど無理もありません、ゴクン。あかり達はまだ出会ったばかりなのですからもぐもぐ」
咀嚼しながらも何故か流暢に喋れるあかりに、「腹ぺこ探偵あかり……!」とロサが戦慄いた。どうやら茶番が始まったようである。
オネはこの展開にまったく付いていけず、目を白黒させるばかりだ。
現場の精査は続く。
「そしてなにより、ロサちゃんだけがコーポ『ふぁ〜すとぷれいす』に入居が決まっていません!以上を持って捜査を打ち切ります!ロサちゃんの次の活躍にご期待ください!!あ、マスター、食後のコーヒーください」
摂取した糖分を一気に使い切ったあかりが、へにゃりと脱力した。腹ぺこ探偵が輝く瞬間は短いのだ。
そしてこの情報に一番辟易したのはロサだった。
「なっ!?あかりちゃんが来年入居するのは知ってるけど、オネちゃんもなの!?」
「……というか、もう住んでます」
オネが遠慮しがちに言うと、ロサの背景に雷が落ちたような顔になった。
「そんなっ!ウチだけが進路なにも決まってないなんて!……こうしちゃいられない!私も入居する!!」
「それなら早くした方がいいよ。特例を除いて、新規の手続きは春しか受け付けてないからね」
話を聞いていたタカハシがお節介を焼く。
その言葉にさらに焦りが募った様子のロサは、カップに残っていたカフェオレを一気に飲み干すと勢いよく立ち上がった。
「よぉーし!思い立ったが吉日、お姉ちゃんのコネを使ってちょっとハクさんに直談判してきます!それじゃ皆、また会おうね!」
止める暇もなく、颯爽と駆けていった元気な少女。
残された面々はしばらく玄関口を見ていたが、あかりの「マスター、お会計お願いします」の言葉で動き出した。
「……なんか、すごく疲れた」
初対面で急にユニットの話を振られたオネは、気が抜けてつい椅子に座り込んだ。
つづみが労わるようにその肩に手を置いた。
「たしかに勢いが凄かったけど、悪い子じゃないと思う」
「うん、元気が有り余ってるって感じの子だったね。オネちゃん、ユニット組んでみちゃう?」
ささらの少しイタズラ心の働いた悪い顔の問いに、オネはやはり困った顔を返した。
「まだ……なんとも言えない。初めて会ったばっかりだし……」
「あかりはオネさんの事、ゆかりん先輩から聞いてるよ!」
消極的なオネに、あかりの明るい声が被さった。
つづみがそういえば、と呟く。
「あかりさんはイアさんと面識がある様なことを言ってましたね。その繋がり?」
「はい!先輩はオネさんの事を『生意気だけど可愛い、新しい妹だ』って言ってましたし、イアさんからは『かけがえのない大切な妹』って散々自慢されて……」
「ちょちょ!?そんな事言ってたのあの二人!?」
身内自慢を人伝に聞いて、妙な恥ずかしさに苛まれたオネが思わず声を荒らげた。
そんな彼女に周りがほっこりする中、ニッコリと人懐っこい笑みを浮かべたあかりが手を差し出した。
「そんなわけで、あかりはあんまり初めましてって感じではないのです。よければ、これからちゃんと仲良くなりませんか?」
差し出された手、他意のない無邪気な笑みにオネは少しだけ躊躇したが、悪い気は全くせずその手をしっかりと握った。
「こちらこそ、よろしくお願いします。私も、その……イアのことは大切だし、ゆかりのことも……新しいお姉ちゃんだと思って接してるから……」
「!、えへへー!じゃあ私たち、友達以上姉妹未満って感じだね!」
その人懐っこい笑みに、オネたちもつられて笑った。
来訪したばかりの地球。
始めたばかりの労働に加えて、初めての同年代の友達。姉を追って地球に来たオネであるが、姉とは違う道筋で着実に地球との親交を深めていった。
☆
「ようやくやりたい事が決まったか、ロサ」
手のかかる妹からのメールに顔を綻ばせるカル。
そんな微笑むカルにゆかりが「ロサちゃんから何か良い報告ですか?カル」と疑問に、「ああ、妹が進路を決めたんだよ」とスマホをしまった。
「それは今は置いといて……ゆかり、イア、お疲れさま。お陰で良い視聴率が取れたよ」
番組の収録が終わり、近くのレストランにて。
カルに連れられて訪れた敷居の高そうな店内で、カルの労いの言葉もそこそこにゆかりとイアはメニュー表とにらめっこしていた。
「イ、イアちゃんイアちゃん。ヤバいですよここの料理は……!お値段が……桁が……!」
「でも折角だから頼んでみよっか。この、とりゅふ?のパイ包み焼きください」
「イアちゃあああああ!!」
「フフ。大丈夫大丈夫。好きなの食べなよ。私の奢り……というか経費だし」
オーダーに時間が掛かったが、この店の常連であるカルからの有難いお言葉を受けてゆかりも無事に料理を選び終えた。
そうして料理が運ばれてくるのを待つのみとなって、水をひと口含んで落ち着いたところでカルが切り出した。
「それで、どうだった?初めての地上波デビューは」
「どうもこうも、まだネットの反応とか見てないですし何も実感が無いですよ。エゴサするのが若干怖いなーって感じですけど……」
ゆかりの妙な自信のなさにカルは苦笑する。
「大丈夫大丈夫。私の番組は新人発掘がメインテーマだから、視聴者は基本暖かい目で観てくれてるよ。それでも気になるんなら、ポジティブな投稿だけを抜粋したデータを後で送るけど……」
「いえ、それには及びません。どんな意見も真正面から迎えてみせます!……まぁ、今日はネット断ちしますけど」
外面は自信家なゆかりであるが、その性根はわりと繊細である。
今日は初めてだらけの仕事で疲れきっており、特にメンタルが落ちやすい事を自覚していた。世間が下した自分たちへの評判は、ぐっすり寝て回復した明日の自分に任せることにしていた。
「少し気にしすぎな感じがするけど、まぁゆかりがそれでいいんなら。……ところで、イアの方はどうだった?」
カルとゆかりがイアを見ると、彼女はニコニコしていた。
いつも以上に上機嫌なその顔に、二人も思わず気が緩んで微笑んでしまう。
イアははきはきと答えた。
「えっとね、ゆかりさんと一緒に歌えたのがすごく楽しかったの。また一緒に歌う曲、作ろうね」
それは、根源的な慶福。
パートナーと心を通わせ歌えたことへの、純粋無垢な感想。
この穢れを知らない彼女の言葉は、ゆかりの心に直撃した。
「わ、私も!イアちゃんと一緒に歌えて楽しかったです!」
「うん。この調子で、これからも一緒に頑張っていこうね」
奮起するペア、その光景をカルが頬杖をついて見守る。
またひとつ新人の門出を見届けられ、彼女はいい仕事をしたと感慨に耽っていた。
「ま、良いコンビだな。実際、クオリティの高いデュオだったよ」
「ありがとうございます。でもまだまだです、今度は完全なユニゾンを挑戦していきたいです」
今回の曲は交互に自分のパートを歌うという手法を取った。まだユニットを組んで日が浅く、綺麗なユニゾンを奏でる自信がなかったからだ。
ゆかりとイアは、どちらも歌うまモンスターである。
だが不貞腐れていた時期があったゆかり、そして天性のセンスで歌うイアの2人が完璧なユニゾンを奏でるには、練習期間がいささか短すぎたのだ。
「だからネットの反応を気にしてるのか?それなら平気だ。私が見た限りじゃ悪印象の呟きはなかったぞ」
番組の司会者として、そして仲介者として世間の反応はすでに把握している。
もしも否定的な意見があったらそれとなくフォローするのがパイプ役の筋だと思っているカルは、ゆかりの気掛かりをすぐ様フォローした。
しかし、ゆかりの真の気掛かりはそこではなかった。
「それも気にならないワケではないですが、これは私とイアちゃんの問題です。もっと高みを目指すために、これからもっと頑張りましょうねイアちゃん!」
今回の手応えは決して悪くない。
だがまだ駆け出し始めたばかり。慢心などしている暇はないとゆかりは自分たちに言い聞かせた。
二人の戦いは、まだ始まったばかりだ。
「うん!今回の地上波?で広範囲に“調和”を広げられたから、次はもっとLife Love Peaceを意識して〜……」
「おっと。イアちゃんの深淵を覗いてしまいました。さ、料理を頂きましょうか、カル」
「お、おう……」(最後の最後で変な不安をブッ込んできたな……)
ゆかいあカル
オネきずロサ
イアが宇宙人だということをカルはまだ知らない