ARIA星人イアちゃんと出会った結月ゆかりの青春模様   作:へるしぃーぼでぃ

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足下まで届く長〜いファンタジー髪の毛、好き。



閑話:イアちゃんの異様に長い髪の毛のヒミツ

 

 

「イアちゃんの髪の毛って、いつ見ても綺麗ですよね」

 

ふと、結月ゆかりの口から言葉が零れた。

昼食を食べ終え、緩慢とした空気が流れる午後のひと時。程よく満たされたお腹と、暖かな日差しでポカポカと体を暖められたゆかりは、ぽやぽやした頭で隣人を眺めていた。

 

「んー……?」

 

隣人──同じソファで微睡むイアの口から、返事とも寝言とも取れる可愛らしい吐息が漏れる。

そんな彼女にゆかりは頬を緩めながら、その長い髪を手慰みに触り始めた。

 

透き通る白髪に日が当たり、虹のように淡く光る彼女の毛先。

 

その先端を摘むが、驚きの滑らかさで指をすり抜け、捕まえられない。まるで生き物のようだ。

そんな毛先を弄ばれたイアは、閉じられた長いまつ毛の先端がふるふると動き始め、瞼が薄く開いた。

潤む、宝石のような蒼い瞳が、うっすらとゆかりを捉えた。

 

「ゆかりさん……?私、寝ちゃってた?」

 

瞼をくしくしと手の甲で擦りながら、イアは体を預けていたソファから上体を起こした。

件の髪の毛がサラサラと、1本1本がイアの細い体の上を流れていく。

そんな魅惑の光景を目に焼き付けながら、ゆかりは保護欲と慈愛の眼差しと共に言葉を返した。

 

「ほんの10分くらいですよ。そっと触ったつもりでしたけど、起こしちゃいましたか」

 

「ううん。ゆかりさんのせいじゃないよ。……ちょっとくすぐったかったけど」

 

そう言って自身の毛先を触るイアに、ゆかりは「ん?」と疑問を感じた。

 

(あれ?私、髪の毛しか触ってませんよね?それなのに『くすぐったい』?)

 

揺れた髪が肌を撫でれば多少はくすぐったいだろうが、先程は毛先をひと房摘んだだけだ。

それだけでくすぐるほどの接触があったとは思えない。

ひょんな疑問を持ったゆかりは、ふとイアの後頭部の髪が1箇所、跳ねていることに気づいた。

 

「あ、イアちゃん。寝癖がついてますよ」

 

「え?ねぐせ?」

 

イアは両手で頭を抑えるが、肝心の寝癖は指の隙間からひょっこり覗いている。

苦笑したゆかりが手を伸ばし、手櫛で梳いた。

イアは気持ちよさそうに目を細める。

 

「……ふふっ、くすぐったいよゆかりさん」

 

すぅー、と梳くたび、イアが身をくねらせる。

さらにゆかりの視界の端で、イアの毛先がピコピコと犬の尻尾のように跳ねているのが見えた。

 

──毛が、めちゃくちゃ動いていた。

 

「……あの、イアちゃん。つかぬ事をお聞きしますが、髪にも感覚が通ってらっしゃる?触られるとくすぐったい……?」

 

「え?うん。……あれ?ゆかりさんは、髪の毛触られてもくすぐったくないの?」

 

まさかの髪の毛に神経が通っているらしい。

久しぶりに宇宙人イアの本領が発揮された瞬間である。

ゆかりは一瞬だけ深く考えたあと、直ぐに考えるのをやめて素直に答えた。

 

「くすぐったくないですね。まあ、触られてるなー、くらいの感覚はありますけど……」

 

それだって、髪の毛を通して頭皮越しに反応しているだけだ。髪自体に感覚があるわけではない。

それに、なにより。

どう頑張っても髪の毛は独りでに動かせない。

ゆかりの視界の端では、今もピコピコとイアの毛先が動いていた。蠢いている、と言った方が正しいかもしれない。

 

「そうなんだ。だからゆかりさん、髪を纏めてても平気なんだね。ずっと窮屈そうだな、って思ってたの」

 

そう言って、括られたゆかりのもみあげに触るイア。

紫の毛先を宝物のように優しく触れて、小動物を愛でるようにそっと撫でる。

その触り方に、髪の毛に感覚がなくてもこそばゆくなるゆかりだった。

 

「んー……、という事はイアちゃん。そのピコピコ動いてる毛先は自分の意思で動かしてるんですか?」

 

こそばゆさから逃げるように、とうとう気になっていた現象を追求し始めたゆかり。

だが当のイアはキョトンとし、その後自分の毛先を見つめて「……勝手に動いてるね」と笑った。

 

「自分でも動かせるけど、たまに無意識に動いちゃうみたい」

 

そう言って自分の髪を捕まえると、その毛先がピチピチとのたうつ。

これは自分で動かしているようで、ゆかりが人差し指をそーっと近付けると、ちょん、と毛先と指先が触れ合った。

 

「へー、なにかと便利そうですね。3本目の腕みたいなモノじゃないですか」

 

素直に感心するゆかりだが、しかしイアの反応は再びの『キョトン』だった。

 

「3本目の腕……。そんな考え、なかった」

 

長い髪を自由に動かせたとしたら、どうするか?

イアの答えは、良くも悪くも無関心だった。

髪は髪、腕は腕と、たとえ動かせたとしても普通の人と変わらない認識。

ゆかりは少し考え、提案した。

 

「それなら、これを機に活用してみましょう。ちなみに私なら、ゲームしながら飲み食いしますね」

 

髪の毛を手のように操れれば、ローディング中に急いで飲食する愚行をしなくて済む。

ゲームを進行しながら食欲を満たせるとは、なんと優雅なことか。ゆかりの夢が広がる。

そんなゆかりの妄想を聞いて、イアはテーブルの上にあった中身の入っていないコップに手を──もとい、髪を伸ばした。

コップの取っ手にクルンと白髪が巻き付くが……

 

「うーん……、ちょっと持ち上げられない、かな」

 

どうやらそこまでの腕力(?)はないらしい。

これを見たゆかりは残念そうに呟く。

 

「なるほど、あくまで動かせるだけですか。確かに、それだと活用するのは難しそうですね」

 

これならば『3本目の腕』などと発想が出てくるハズもない。ゆかりは納得し、そこで新たに疑問が出てきた。

 

「でも感覚はあるんですよね?そしたら、理髪どうするんです?切られたらやっぱり痛いんですよね?」

 

髪に感覚があるとするならば、カットなど出来ようはずもない。

だからこんなに髪が長いのかと思ったゆかりだったが、イアの答えはまた突飛なものだった。

 

「え、髪の毛ってどうやって切るの?『透ける』のに」

 

「え?透ける?」

 

謎の表現にゆかりの思考が止まっていると、それを察したイアがハサミを持ってきた。

そして自らの髪をひと房持ち上げると、その毛先にハサミを添えて……

 

「あ、ッちょ、イアちゃん!?」

 

「ほら、通り抜けちゃう」

 

その刃は何も切らなかった。切れなかった。

イアの凶行を止めに動いたゆかりの方が、止まる。

非現実的な光景を前にして止まるゆかりの前で、イアは何度もハサミを開閉する。

だが切れない。彼女の透き通るような髪は、本当に透き通っていた。

 

「えぇーー……っとぉ……。……理髪代が掛からなくて良いですね!!!」

 

ムリヤリ理解したゆかりが叫ぶ。

イアの手は髪を摘んでいるのに、ハサミの刃はすり抜ける。意味が分からないが、イアの事はすべからく全肯定したいゆかりは自らの拒否感を拒否した。

 

「す、凄いですねー!つまりイアちゃんは不変の存在っ、毛先の1本に至るまでを含めて『イア』という事なんですねー!!???」

 

テンパるゆかりの言葉に、「?、ありがとう。でも、不変の存在じゃないよ」とイアは自らの髪の毛を差し出した。

 

「ゆかりさん、もう一度、私の髪を梳いてみて」

 

「へ?は、はぁ……」

 

差し出された髪を、ゆかりは恐る恐る触る(仕方ないでしょうっ、この場合!※結月ゆかり)。

当然、触れる。触れた。

そのまま言われた通り梳くと、純白の毛が1本、ゆかりの指に絡みついて取れた。

 

「あ……、抜け毛」

 

「うん。お別れした毛だよ。ばいばい」

 

自らの頭髪を擬人化し、別れを告げるイア。

するとその髪は光の粒子に包まれ、サラサラと溶けるようにして空中へ消えていった。

ポカンとするゆかり。

 

「………………ほう。そう来ましたかっっ」

 

「なにが?」

 

可愛らしくコテンと首を傾げるイアに、ゆかりは深く考えるのをやめた。

 

「私はまだ、イアちゃんの事を全然分かってなかったみたいです。これからもよろしくお願いしますね、イアちゃん」

 

「?、うん。よろしくね、ゆかりさん」

 

緩慢とした午後のひと時。

程よく満たされたお腹と、暖かな陽光にポカポカと照らされて。

ゆかりは今日も世界は平和ダナーと遠い目をした。

 

 

 

 

 

 

 






「……という事があったんですけど、オネちゃん。貴女も髪の毛が透けたり消えたり、動かせたりするんですか?」

「え、そんなワケないじゃん。というか人の姉を変な生き物扱いしないでよ。夢でも見てたんじゃない?」

「夢……?あぁそうか、そうですよねっ!流石にありえない現象ですよね!……でも、イアちゃんの部屋、抜け毛落ちてるの見たことないんですよね。あんなに綺麗な髪なら、1本でも落ちてれば目立つハズ……」

「……き、綺麗好きだからじゃない?こまめに掃除してたり……してるの、見たことないけど……」

「……」

「……」

「コレ、怖い話でしたっけ?」

「アンタが話し始めたんでしょ!」

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