ARIA星人イアちゃんと出会った結月ゆかりの青春模様   作:へるしぃーぼでぃ

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屋台ラーメンってまだ存在する?



閑話:ゆかイアがラーメン食べに行くだけ

 

 

 

「イアちゃん!ラーメン食べましょう!」

 

「うん。いいよ」

 

とある日の夜。

今日も二人で歌のレッスンをした帰り。

現代では珍しい屋台を引いたラーメン屋を発見した結月ゆかりは、脊髄反射でイアにそう提案した。

イアの二つ返事の返答に、ゆかりの口が少しだけへの字に曲がる。

 

「あのー……イアちゃんさん。素直に頷いてくれるのは嬉しいですが、他に食べたいモノがあれば言ってくださいね?」

 

「?、うん。だから今は、ゆかりさんの食べたいものが私の食べたいものだよ」

 

愛する相棒の言葉にゆかりが「私の隣人が可愛すぎてヤヴァイっ」と悶える。

そんな彼女を尻目にイアは疑問符を浮かべた。

 

「ところで、らーめん、ってどういう食べ物なの?」

 

「え?……そういえば、まだイアちゃんは食べたことないんでしたっけ?」

 

以前はカップ麺を常食していたゆかりだが、ここ最近はイアに見栄を張るためにそこそこ食生活が改善されていた。

なのでイアはカップ麺を見る機会もなく、また自ら外食もしないため、ラーメンとは未邂逅であった。

ゆかりは少し躊躇し始めた。

 

「ふーむ。今夜がイアちゃんの初めてのラーメンになるんですか。……私も初めての屋台ラーメンですし、これは安牌な店に行った方が良いのでは?」

 

「私はよく分からないから、お任せするね」

 

「……まぁラーメンなら、そうそう酷い出来はないでしょう。何より私が寄りたいです!行きましょう!」

 

こうして屋台ラーメンの暖簾、『アマト家』をくぐった二人を出迎えたのは、見知った顔──タカハシだった。

 

「いらっしゃい。……おや?見知ったお二人さんだね」

 

「タカハシさんじゃないですか!?」

 

「タカハシさん、こんばんは」

 

驚くゆかりに挨拶するイア。

タカハシも「こんばんはー」と朗らかに挨拶し、とりあえず二人に席を奨めた。

大人しく座る二人に、おしぼりと水が慣れた手つきで提供される。

ゆかりが呆れた様子で声を掛けた。

 

「タカハシさん、いつの間に屋台ラーメンなんて始めてたんですか?というか、お昼はカフェの経営してましたのよね?さっきまで私たちの居たスタジオに併設されたトコで」

 

「うん。あっちが本業で、このラーメン屋はつい最近始めたんだ。ラーメン好きが高じて、ね」

 

装いも普段の白スーツから、和洋折衷のオシャレなモノに変わっている。ラーメン屋スタイルなのだろうか。

ともあれ、顔見知りの店とあってか、安心が担保されたゆかりは目の前のメニュー表を見て呟いた。

 

「……なるほど。奇をてらわず、オーソドックス、スタンダードなメニューですね。一応、オススメを聞いておきましょうか」

 

「オススメは……そうだね、女性にはやっぱりアッサリ目な塩かな。でもレッスン終わりのお二人には足りないかもしれないから、餃子も追加することをオススメするよ」

 

「ふむ。餃子ですか。もう夜とはいえ、流石にニンニクはご遠慮願いたいのですが」

 

「大丈夫。ニンニク有りと無しを選べるよ」

 

ゆかりとタカハシの会話の横で、彼女らの横顔を見ていたイアが間に入った。

 

「ねぇゆかりさん。ニンニクっていうのはなんで遠慮するの?」

 

「ニンニクはですねぇイアちゃん。アレは圧倒的旨みと引き換えに、翌日まで強烈な匂いが残ってしまう、私たち美少女の天敵のような存在なのですよ」

 

タカハシが「自分で美少女って言っちゃう」と苦笑する中、イアは首をこてんと傾げた。

 

「うーん。でも、美味しいんだよね?せっかく食べるんだから、私は美味しい方がいいな」

 

「ん、んん〜……、あのですねイアちゃん。例えば明日の朝ですね、私の口から今日食べたモノの匂いがプワ〜ンと漂ってきたら、どう思います?」

 

「昨日一緒に同じモノを食べたね、って嬉しく思う、かな?」

 

「タカハシさん、ニンニク餃子一丁!」

 

ニンニクの匂いを忌避していたゆかりだが、イアの純真無垢な言葉に即座に宗旨替えした。

タカハシは苦笑のまま「はい、後はラーメンの方どうします?」と促す。

 

「せっかくだから違う味を頼んで、少し交換しましょう。イアちゃんはオススメの塩でいいですか?」

 

「うん。ゆかりさんは何味を頼むの?」

 

「そうですね〜。初来店ですし、ここは基本の醤油で」

 

「了解。塩一丁、醤油一丁入ります」

 

そうして調理に入るタカハシ。

イアとゆかりはそんな彼の背中を見ながら、屋台の雰囲気を楽しんだ。

グツグツと沸くお湯の音。

木目のカウンター、イスの固さ。

結露で滴る、冷たい水の入ったコップ。

少し暗い電球の照明。

暖簾越しに吹き抜ける風が、小さな屋台の中の熱気を攫っていった。

 

「なんだか気持ちいいね」

 

「ええ。これが『乙なもの』というヤツですかね」

 

初体験の屋台なのに、どこか懐かしさを感じる趣き。

二人は互いに微笑んだ。

 

「へいお待ち」

 

そんな風情の中、カウンター越しからタカハシが丼を差し出した。

熱い湯気がフワリと香る。

 

「わあ。スープが透き通ってる……」

 

「この醤油ラーメン、まさに昔ながらな、というヤツですね」

 

二人は感嘆としながら、お互いに頷き合うと「いただきます」と手を合わせた。

 

「どうぞ召し上がれ」

 

まずはスープを、レンゲで軽くひと口。

見た目の期待通りの味、そして期待以上の旨みが、舌を、喉を潤していく。

ホッと息をついたゆかりは、感想を言うのも忘れて麺を持ち上げた。

スープのよく絡んだ麺を、小さな口で下品にならない程度に息を吹きかける。

ほんの少し冷めたであろう麺を、ゆかりは躊躇することなくズズズ!とすすった。

 

「ん、美味しいです。醤油も十分スッキリとした味わいじゃないですか」

 

そのままふた口、さん口、スープと口に含み、舌鼓を打つゆかり。

タカハシはその食いっぷりにウンウンと頷いた。

と、ゆかりは一旦箸を置いて水を飲み、ふと横を見た。

 

「イアちゃんの塩はどうですか?美味しいです……か……」

 

ゆかりの瞳に映ったのは、横髪を片手で耳に掛けながら一本の麺をはむはむと食べるイアの姿。

小さな口で一生懸命、たった一本の麺をすすれずに唇と箸で格闘するその姿は、ゆかりの心を撃ち抜いた。

イアはしばらくしてその一本を口に含むと、むぐむぐコクンと食べ終えてから、ようやくゆかりの言葉に返答した。

 

「うん、美味しいよ。でも、ちょっと食べづらいかな」

 

「イアちゃん、ラーメンとはこうやって食べるんですよ」

 

ズゾゾ〜!と麺の束を勢いよくすすって見せるゆかり。

イアもそれを真似して麺の束──三本を口に含むが、その後のすすりが出来ない。ちゅる、と少しだけ麺が動いただけだ。イアの目とアホ毛がシュン、と項垂れる。

ゆかりは悶えそうな心身をなんとか自制し、至極マジメな顔を作って応対した。

 

「うーん。イアちゃんはすすれない人でしたか。それでしたら、箸で少しずつ口の中に持っていくか、噛み切っちゃいましょう」

 

それを聞いたイアはやる気に満ちた目でコクンと頷くと、少しずつ麺を箸で口の中に入れ始めた。……が、直ぐに動きが止まる。彼女の口内はすでに許容オーバーだった。

 

「(か、可愛い……!?)イアちゃん、そこで噛み切っちゃってください。下にレンゲを添えて、そう」

 

ゆかりのアドバイスに従ってようやく麺から解放されたイアは、ひと仕事終えたようにひと息ついた。

 

「ラーメンって、美味しいけど食べるの大変だね」

 

ゆかりとタカハシは微苦笑だ。

まさかここまでラーメンを食べる才能がないとは。

普段あれだけ歌って踊れる彼女だが、何故か肺活量は赤ちゃんらしい。ゆかり的にはソレも大好きポイントなのだが。

 

「まぁゆっくり……はしてたら麺が伸びちゃいますか。タカハシさん、取り皿を」

 

「はい。イアさん、ここに麺を一旦取り分けてね」

 

麺が伸びないように皿に分け、セルフつけ麺スタイルになるイア。

その横にコトリ、とタカハシの手により違う皿が置かれる。

餃子だ。

 

「これも熱いから、お箸で皮をちょっと破って冷ましてから食べてね」

 

軽くウィンクして厨房の清掃に入るタカハシ。

そんな彼を尻目に、ゆかりが早速餃子に手をつけた。

 

「イアちゃん、こんな感じですよ」

 

皿の隅の窪みに醤油と酢を垂らし、餃子をちょんと浸け、レンゲに乗せると皮を割りふー、ふー、と息を吹きかける。

そしてひと口で口の中に放り込むと、「ん〜!やはりニンニクは正義!」と悶えた。

イアもそれに倣い、酢醤油、レンゲ、割り、息と手順を踏み、餃子の隅っこを啄んだ。

瞬間、イアが目を見開く。

 

「!、なんだか、すごく強い味が通り過ぎていったよ!」

 

「それがニンニクのパワーです。イアちゃんも来てしまいましたか。『こちら側』に……!」

 

女性の中で『覚悟』を決めた者にしか味わえない、至高の嗜好。

ゆかりのように欲望を優先する女ならばいざ知らず。イアという純白の布地を自ら汚させてしまったことに、ゆかりは仄暗い快感を覚えて思わず笑みを零した。

そんな怪しさ満点のゆかりに、イアは「?」と首を傾げた。

 

「?、ゆかりさんの、少し貰うね」

 

「あ、じゃあ私もイアちゃんのを少し頂きます」

 

互いのスープと麺を仲良く交換し、餃子を食べて、しばらく。

 

「「ごちそうさまでした」」

 

スープは残りつつも、綺麗に完食した二人。

ゆかりはおしぼりで口元を拭いながら、ふと横を見た。

そこには、お冷で喉を潤すイアの姿が。

ラーメンを食べて暑くなったのだろう。いつの間にかインナー一枚になっていた彼女は、その華奢な肩を無防備に露出させていた。

熱気により、少し潤んだ蒼い瞳は宝石のよう。

コクコクと細く白い喉が一生懸命に動く様は、実に艶かしい。

ゆかりはラーメンを食べ終えたばかりだというのに、ゴクリと喉を鳴らした。

と、その時。

 

「ラーメン屋さんだー!やってますかー?」

 

「屋台なんて珍しいわね」

 

「おや、ささらちゃん、つづみちゃん、こんばんは」

 

さとうささらと、すずきつづみが来店した。

タカハシが接客し、ゆかりが現実に引き戻される。

イアがパッと顔を上げた。

 

「ささらさん、つづみさん、こんばんは。ここのラーメン、すっごく美味しいよ」

 

「あ、イアちゃん!もう食べ終わったところなんだね!……変な意味じゃないけど、なんだかイアちゃんがラーメン食べてるのって意外だなぁ」

 

「まぁ私が誘いましたし。実際、イアちゃんはこれが初ラーメンですよ」

 

「ゆかりさん。ゆかりさんはだいぶ似合いますね、ラーメン屋。……これも変な意味ではなく」

 

一気に姦しくなるラーメン屋。

彼女たちはひと通り挨拶を交わすと、その視線は次第に目の前の店主へと移っていった。

ささらが「というか!」と続ける。

 

「まさかタカハシさんがラーメン屋までやってるなんて思いもしなかったですよー!ていうか、数時間前まで私たちとカフェで働いてましたよね!?」

 

「これは副業みたいなモノだよ。ほら、僕ってラーメン好きだから、いつかやってみたいなーと思ってたんだ」

 

ささらとつづみにとっては近所のお兄さん的存在のタカハシであるが、その私生活は謎に包まれている。

今さらラーメン屋程度ではそこまで驚かないが、しかし一人でこんな事を始めていたとは「話してくれても……」と思わなくもないささらであった。

ゆかりがふと、こんな疑問を持った。

 

「そういえば、なんで『アマト家』なんですか?『タカハシ家』ではなく」

 

「ああ。僕の下の名前がアマトだからだよ」

 

サラッと答えたタカハシ。

イアとゆかりは「へー」と納得する中、その隣の二人組は口をあんぐりと開けていた。

 

「タカハシさんって、アマトさんって言うんですかー!?」

 

「下の名前、初めて聞いた……」

 

ささらはおろか、つづみまでも驚愕の表情を浮かべている。以前からの知り合いであるが、下の名前を今日まで知らなかったようだ。

タカハシがあっけらかんに言う。

 

「まぁまぁ、僕の下の名前なんてそこまで重要じゃないよ。ほら、今はラーメン頼んで頼んで」

 

まだ納得いっていないささらだったが、「ま、いっか!とんこつくださーい!」「私は味噌で」とつづみも注文する。

そんな彼女たちのひと幕に、ゆかりが呆れたように呟く。

 

「タカハシさんも、けっこう謎な人物ですよね……。情報の開示が少なすぎて」

 

「そうなの?……『も』って?」

 

「こちらさんは、情報が宇宙のようにいつまでも完結しない系ですけどね。可愛いが天元突破しているから全て許せますけど」

 

「?」

 

可愛らしく首を傾げるイアの頭を、軽く撫でるゆかり。

嬉しそうにされるがままのイアに、ゆかりは無限に癒されるのであった。

 

 

 

 

 

 

帰り道。

おしゃべりしながら歩いていると、ゆかりはふと気付いた。

 

(イアちゃんからの口臭が……、まったくニンニク臭くないですとッ!?)

 

ゆかりは自分の口を軽く塞いで嗅いでみたが、臭い。実にニンニク臭い。

しかし目の前の天使からは、まったくしない。むしろ無臭だった。これがARIAパワー。

臭いのはゆかりだけだった。

 

「イアちゃん、ズルいですよ……。あの美味しさを、なんの代償もなしに得られるなんて……」

 

「うん?美味しかったね、ラーメンと餃子。また行きたいな」

 

無邪気なイアの横で、ゆかりはそそくさとコンビニで口臭ケア用品を買うのだった。

 

 





ゆかいあささつづタカハシアマト
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