ARIA星人イアちゃんと出会った結月ゆかりの青春模様   作:へるしぃーぼでぃ

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作中想定曲、黒うさP『千本桜』。
楽曲コード:703-4546-5


イア、緑のツインテールな歌姫と一緒に歌う

 

「ゆかりさん。私、お外に出てみたいなぁ」

 

「ッダ、ダメですイアさん!お外は危険がいっぱいです、もう少し地球の空気に慣れてからにしましょう?」

 

イアがゆかりの部屋にお世話になってから一夜明け、お昼手前ごろ。

窓の外がサンサンと陽で照る中、彼女たちは変わらず室内に引き篭もっていた。

いや、引き篭りと言うのは正確ではない。

ゆかりが事情聴取と言って、イアのことを根掘り葉掘り聞きまくり、頑なにイアを部屋から出そうとしないのだ。

その理由は単純。ゆかりがイアを独占したいからである。ゆかりの下心による軟禁であった。

この女、これからもいつまでもイアを掴んで離さない心づもりのようである。たった一夜で彼女は愛を通り越してメンヘラを拗らせてしまっていた!お巡りさんコイツです。

 

………というのは冗談半分で、一応ゆかりなりの言い分はあった。

 

まず、イアがこのアパートの正式な住人では無いこと。

このアパート『ふぁ〜すとぷれいす』は“声”を扱った仕事を生業とする人材の、それも若手ばかりを集めた一種の社宅のような構造をしている。つまり未成年も多数在籍しているのだ。

そんな所に、言ってはなんだが素性謎成分100%のイアは紛うことなき不法侵入者扱いというワケである。

 

つまり、バレたら通報待ったナシなのだ。

 

それが理由の一つであり、他にもイロイロあるのだが、しかしそれらを差し置いても最大の理由はやはり『ゆかりの独占欲』が堂々一位に輝いていた。欲に塗れた獣である。

「だってこんな可愛い生きものを独り占めにするという権利を誰が手放せるというのか!」とはゆかりの心の談である。

もちろん、イアという美少女を万人に自慢し吹聴しその可愛さを共有したい気持ちも無くはないゆかりだが、しかし独り占めの旨さに勝るものは無く。

ゆかりの心の唾液腺はもうハジけまくりであった。じゅるりと物理的なヨダレも頬を伝う始末である。

そんな独り占め欲にかられたゆかりには、既にひとつのエピソードがあった。

 

──昨日、イアが降臨した夜半の出来事である。

 

あの後、落ち着いた二人は睡魔に襲われ寝ることになった。

そこでベッドを譲ろうとしたゆかりに、対してイアは床で寝ると言い張り、最終的にイアの提案で『一緒のベッドで寝る』という超展開に突入していた。

 

思わず宇宙ねこになるゆかり。

 

シングルベッドで抱き合うほど詰めて包まれた布団の中には、まさに天国が広がっていた。

キスが出来そうなほどの至近距離で「おやすみなさい、ゆかりさん」と微笑まれたら、もう色々なヤル気が漲ってしまう。

イアはすやすやしていたが、ゆかりは当然ギンギンだった。

しかもイアは抱き着きグセがあるのか、四肢を絡めてぎゅうっ、とゆかりに抱き着いてきたのだ。

セッ……が頭をよぎったが、耐えに耐えた。

だって襲いかかったら嫌われてしまう。それくらいの損得勘定ができる理性はギリギリなんとかあった。

お陰で寝不足なゆかりは今日半日、ずっとうつらうつらと過ごしていた。

 

そうして今に至り、イアが外に出たいと言い始めたところである。

 

外は危ない、と主張するゆかりに、イアは可愛らしく首をこてんと傾げた。

 

「そう、なの?でも、ゆかりさんこそ大丈夫?なんだかフラフラしてるよ?」

 

イアは寝起きがすこぶる弱かった。

朝起きたイアはぼーっとしていて、だから自分がゆかりに抱き着いていた事など微塵も覚えていなかった。罪作りな女である。

しかしゆかりは寝不足ながらも、エネルギーは満タンであった。クマのできた血走った目をギンギンに見開き、イアにサムズアップする。

 

「おーらいですイアさん。とりあえず、この家にはもう食べ物がありません。調達してこないといけないので、イアさんにはひとまずお留守番を頼みたいんです」

 

朝食はシリアルに豆乳をブっかけただけと、普段のズボラ飯を提供してしまって恥ずかしい思いをしてしまったゆかり。

イアはそれでも喜んで食べてくれたが、せめて昼食は“ランチ”と呼べる代物をイアに提供したいと思い、これから意気込んで買い物に行くところだ。

果たして、イアはお留守番を承諾した。

 

「分かりました。ゆかりさんも、気を付けていってらっしゃい」

 

「あいさーですイアさん。それじゃあダッシュで買ってきます」

 

ロクにお金の入っていない薄い財布を握りしめ、ゆかりは近所のスーパーへと出掛けて行った。

あとにはポツン、とイアが部屋に取り残された。

 

「大丈夫かなぁ、ゆかりさん。お外は危ないって自分で言ってたのに」

 

しばらくその場でジッとしていた彼女だが、次第にゆかりの部屋をウロウロしだした。

 

ゆかりの部屋は雑多だった。

 

マンガや雑誌類が床やテーブルの上に点在し、シンクには空になったペットボトルや紙パックが所狭しと並んでいる。

特にテレビ前など、床にはコード類が散らばり、その線を辿ればテレビの足下の多種多様なゲーム機類に繋がっていた。

テレビと向かい合うように座椅子と背の低いテーブルが置かれ、ゆかりがゲームをよくしている事が窺えた。テーブルの上にはそのゲーム機のコントローラーに、空のコップ、そして恐らくポテチ類の残骸だろう破片が散らばっていた。

自堕落な(ニート)生活を絵に書いたような部屋であった。

 

しかし最低限の家事はしている片鱗はあった。

 

窓の向こうのベランダには、ジャージやスウェットなど凡そ乙女が着るにはダルすぎる衣類が干されていた。如何に引き篭っているかが窺える。

だがそんなラインナップの中に、うさ耳を垂らした可愛らしいパーカーがブラ下がっているのを見つけた。

 

「かわいい。ゆかりさんにすごく似合いそう」

 

うさ耳パーカーを着たゆかりの姿をしばらく想像していたイアは、ふと思った。

 

「ベランダなら、お外じゃないよね?」

 

これなら言いつけを破っていない、とばかりにイアはガラス戸を開け放った。意外とお転婆な性格らしい。

敷居を跨いだ向こうに据え置きされていたサンダルを履くと、手すりに両手を添え外の景色を見やる。

 

まず出迎えてくれたのは、昨夜見た大きな桜の木だ。

 

夜には妖しげで艶やかな雰囲気を醸していたが、今は華やかで清々しい美しさを放っている。

そんな桜の足元にはアパートの敷地を示すフェンスが張られ、その向こうにはそこそこな大きさの川が流れていた。

はるか遠方に見える山の稜線を眺め、あそこの雪解け水が流れてきたのかな?とイアは思いを馳せた。

そうしてしばらく暖かな陽光にぽかぽか照らされていると、冷たい春風が吹き抜けて桜が舞った。

 

桜の枝が忙しなく揺れ動く。

 

と、イアはその隙間に人影を見た。

イアは手すりから少しだけ身を乗り出し、その人影を確認しようと身体を傾けた。

そうして見つけた人物は、川の方を向いていて顔は見えなかった。だが、とても印象に残る背中をしていた。

地面につきそうなほど長い青緑色の髪をツインテールにした、小柄な少女。

見ていると少女は何やらポーズを取り始め、踵を地面にとんとんと叩きリズムを取り始めた。

その時もう一度風が吹き、風に乗ってきた歌声がイアの耳に届いた。

 

 

 

 

 

綺麗で元気な歌声だった。

 

軽快でポップ、それでいてエレクトロな勢いを乗せた歌声は、聞いている内に体が勝手にリズムを刻んでしまう快調さがあった。

桜をテーマにした曲なのだろう、桜の木を中心としてダンスを展開している。時折手を銃の形にして、さながら舞い散る桜を撃ち落としているかのようだ。

 

リズムを掴んだイアが小さな声量で鼻歌を歌う。

 

指と、それと足先をトントンと叩いてノりながら、元気いっぱいに動き回って踊る少女を眺める。

くるくると動くツインテールが、ふとコチラを向いた。

 

目と目が合った。

 

ぱちくり、とお互い時が止まったのも一瞬。

少女は満面の笑みを浮かべると、さっきよりも一層、熱の篭った歌と踊りを展開した。

見られている事でスイッチが入ったのか、先程よりも数段キレが違う。明朗快活な歌舞音曲が惜しみなく表現され、イアの胸が昂った。

目をキラキラと輝かせるイアに気を良くしたのか、少女は銃を象った手をイアに向け、放った。

突然の発砲にわたわたと慌てるイアに、その様子を見た少女が可笑しそうに笑いながら踊りを続ける。

そして最後に決めポーズをキメて曲を終えると、とてとてと階下のベランダまで走り寄ってきた。

彼女は両手を上げて手を振り、にぱーっ、と太陽のように明るい笑顔で声を掛けてきた。

 

「こんにちは!私の歌と踊り、どうでしたか?」

 

イアも手を振り返し、朗らかな笑顔で返した。

 

「とっても可愛くてかっこよくて、凄かったです。私、ちょっと踊っちゃいました」

 

とん、とん、とさっきのリズムを、手すりを叩いて鼻歌と共に奏でる。ツインテールの少女はぴくんと反応し、再びくるくると踊りだした。

どちらからともなく笑い合い、うららかな春の陽が二人を照らす。

世界平和がここにあった。

 

「イアさーーーん!!ただいま帰りましたー!ベーカリーショップで値引きしてていっぱい買ってきたので、お昼ご飯この中から選んで下さい!」

 

玄関がバァン!と開き、ゆかりが帰宅した。片手にビニール袋をブラ下げ、得意げな顔でズカズカと入ってくる。

少々間の悪い彼女だが、イアは気にすることなくゆかりに笑顔を振りまいた。

 

「おかえりなさい、ゆかりさん」

 

「……ぁあ、ただいまと言っておかえりと返ってくる家庭、あったかぁい。好き……、ケッコンしょ…」

 

なにやら感涙しだしたゆかりに、開けっ放しのガラス戸から春風が舞い込んだ。

ゆかりのもみあげが風に揺られ、意識が現実に戻ってくる。

 

「ん?イアさんベランダに出てたんですか。確かに今日は良い天気過ぎて締め切ってると暑いですよねー。すみません気が利かなくて。直ぐに冷たいお茶出しますね」

 

ガサガサとベーカリーのパンをテーブルに広げていると、外から声が掛かった。

 

「あ、そこのお部屋ってやっぱりゆかりんさんの所だったんですね」

 

「ん?その声はミクちゃん?」

 

声に反応してゆかりもベランダに出る。

据え置きのサンダルはイアが履いているので、敷居からつま先立ちをして手すりに上半身を預ける形で階下を覗いた。

そこには想像通り、ゆかりの見知った顔が。

 

「こんにちはゆかりんさん。お隣の方はご友人ですか?」

 

「こんにちはミクちゃん。あ〜……、そうですね、友だちです」

 

昨日初めて会ったばかりだが、既に友だちと言って差し支えないだろうとゆかりは横目にイアを見た。

 

「とも、だち……」

 

目線の先、イアは『友だち』という言葉を反芻し、キラキラした瞳でゆかりを見ていた。

 

──イアには『友だち』という存在がいなかった。

妹や先生が居たのでひとりぼっちというワケではなかったが、ソレとコレとはまた別物。

つまり、イアは友情というものにひどく憧れ、飢えていた。

 

「ゆかりさんは、友だち。……ふふ」

 

そんな彼女はゆかりの友だち宣言により、嬉しさのあまり笑みを零した。その笑みを見たゆかりは「え、急に可愛いが天元突破したんですけど?」と食い入るように魅入った。

 

「あのー?ゆかりんさーん?」

 

階下のミクからは何が起きているのか分からず、置いてけぼりをくらった彼女から訝しんだ声が上がる。

ゆかりはハッとなって再び手すりから身を乗り出して答えた。

 

「っは!?すみませんミクちゃん!何か用でしたか?」

 

「用という程ではないんですが、先程そちらのお友だちさんに一曲付き合ってもらったので、ゆかりさんの知り合いなら紹介して欲しいです」

 

「ゆかりさん。私もあの子と、友だちになりたいな」

 

二人からのリクエストを受け、ゆかりは「あー……おほんっ」と一拍。

手のひらを上に向けて、交互に二人を指した。

 

「イアさん。あの子は初音ミクちゃんと言って、今イチバン売れてる絶賛イケイケの超人気アイドルちゃんです」

 

「ミクちゃん。こちらはイアさんと言って、昨日の夜……、え〜……、遠方より泊まりに来ました友人です。仲良くしてあげて…て、もう仲良しですね…」

 

ゆかりの紹介に与った二人は互いにニコニコと手を振り合っていた。

すっかり意気投合しているようである。ぶっちゃけゆかりは置いてけぼりだった。

 

「〜ッイアさん!パン買ってきましたよ、食べませんか?」

 

居た堪らなくなったゆかりが叫んだ。

それに反応したイアが「食べます!」と元気よく返事し、ゆかりはそれだけでご満悦になる。安い女である。

机の上に並んだパンを見て「わあ!」と目を輝かせるイアを見ていると、足元から \く〜/ と可愛らしい音が聞こえた。

 

ゆかりが下を見ると、そこには顔を真っ赤にしたミクがお腹を抑えていた。

 

ゆかりの視線にハッと気付いたミクは「あわわわっ、ち、ちにゃいます!!」と分かりやすく狼狽えた。

ゆかりは、何だこの可愛い生き物は、と思いながらも外面モードを発動。何も聞かなかったふうを装いながら「これからお昼にしようと思うんですが、ミクちゃんも一緒にどうですか?」と聞いた。

瞬間、パァ!と顔を輝かせるミク。

 

「いいんですか!?やったぁ!!」

 

人懐っこい笑顔が、満開の桜の下に咲いた。

 

 

 

 

 

 

右手には、もっきゅもっきゅと小さいほっぺたをこれでもかと膨らませたミク。

左手には、はむっ、とちぎったパンを少しずつ食べるイア。

 

小動物のように可愛らしく頬張る二人に挟まれ、ゆかりはパンひとつでスッカリお腹いっぱいな思いだった。

 

「でねー!三日後の公演に向けて練習してたのー!」

 

「そうだったんだ。……ねぇゆかりさん、ミクちゃんの公演、観に行けないかな?」

 

「ちょっとムリですね。チケットが無いと……」

 

ただいまの話題は、ミクが外で何をしていたのかという話だ。

言葉通り、彼女は三日後の公演に向けてリハーサルをしていたところだったらしい。

ゆかりとしても是非ともミクのライブは観に行きたかったが、如何せん金欠の身だ。

今回のライブは都内であるが、移動費もバカにならない。お金の問題は深刻を極めていた。

 

それを聞いたイアは「そっか……」としょんぼりする。

ゆかりがアタフタする中、その様子を見たミクがアルコール消毒布で手を拭きながら「だいじょーぶですよ!」と朗らかに答えた。

 

「来年の春にまた都内でライブを行う予定なので、良かったら招待チケットを用意しますよ!いつも四人分渡されてるのですが、今回は他の人たちに配ってしまったので」

 

それならばチケット代金も浮いて、都内開催ならば今からお金を貯めれば余裕で移動費も賄える。ゆかりはミクを神と崇めた。

崇敬の視線を送るゆかりにミクはにっこりと微笑むと、イアに向き直った。

 

「あ、イアちゃんのお住まいはどこですか?ここに泊まりに来るくらいだから、もしかしたら遠いという事も……」

 

「いえ。つい昨日から、ゆかりさんのお家に住まわせてもらってるので、大丈夫です」

 

「え?住ま……?ゆかりんさん?」

 

途端、ジトっとした視線をゆかりに向けるミク。

ゆかりは視線を逸らした。

 

「ァ。これはですね、長〜いお泊まりなんですよ。そう、百年くらい?」

 

「それはもうお泊まりじゃなくて、住んでます!」

 

ぷんすか怒るミクは立ち上がると玄関に向かった。

「え、え?どこに?」と焦るゆかりに、「大家さんのところです!」と憤慨するミク。

 

「ハクさんを連れてきます!ちゃんとイアちゃんのお部屋を用意しましょう」

 

それを聞いたゆかりはミクのスカートの裾を握った。

 

「後生!後生ですからっ、もうしばらくイアさんを私の部屋に居させて〜!!」

 

ゆかりは必死だった。

ただでさえ無断で人を招き入れたのだ。この特殊なアパートのルールでは確実にアウト、何かしらの罰則がゆかりに下されるだろう。

それとイアとの夢のような同棲生活もたった一日しか過ごしていない。この贅沢な空間を手放したくなくて本当に必死だった。

 

「ちょっ!?スカート掴まないでください!!アパートのルールはちゃんと守りましょう!」

 

ミクのお御足に抱き着き懇願するゆかり。

スカートの裾を抑えて叱るミク。

ちまちまとパンを齧るイア。

場は混沌を極めていた。

 

「……随分楽しそうですね、ゆかりさん?」

 

その時、どこかヒヤリとするような陰鬱な声が響いた。

全員がハッと顔を向ければ、そこには長い白髪を後ろに束ねた、グラマーな身体をしたクマの目立つ赤眼の女性が玄関に立っていた。

その女性はひどく猫背で、のそのそと幽鬼のような足取りでゆかりの部屋に入ってきた。小脇には一升瓶のお酒が抱えられている。

 

「ハ、ハクさん……っ」

 

ゆかりが頬を引き攣らせその女性の名を呼ぶ。彼女は「はい」と答えた。

妙な間が空く。

と、その妙な間で唐突にミクが「はい!」と手を挙げた。「……どうぞ」と力なくハクが承認する。

 

「ハクさん!ゆかりんさんが無断でイアちゃんを住まわせてる可能性があります!」

 

「ミクちゃんン!?」

 

早速のカミングアウトにゆかりが動転するが、ハクは事も無げに言った。

 

「……知ってますよ」

 

「なんでェ!?」

 

ゆかりは再度動転した。

そんなゆかりをヨソに、ハクは一升瓶を抱えた脇とは反対側の脇に挟んでいた書類を抜き取り、机の上に置いた。

 

「……私はこのアパートで起きたことならだいたい把握しています。……流石にプライバシーは考慮してますが、誰が入って誰が出ていったくらいは分かってるつもりです」

 

ボソボソと喋るハクは、胸の谷間からボールペンを取り出しイアの前にコトリと置いた。

ゆかりは生唾をゴクリと飲み込み、イアはこてんと首を傾げた。

 

「……こんにちは、イアさん、でしたか。……私はこのアパートの大家の弱音ハクです。……以後お見知り置きを。……早速ですが、この書類に必要事項を記入して下さい。……このアパートに住むには、最低限の身元の保証が必要ですので」

 

それに反応したのはゆかりだ。

ゆかりは「あ、あのハクさん!」と身を乗り出すと、「……なんですか、ゆかりさん?」とクマの付いた赤眼がジロリと向けられる。

ゆかりは一瞬言葉を飲み込んだが、それでもイアを横目に見て言葉を続けた。

 

「あ、あの、信じられないかもしれないですが、イアさんは宇宙から来たんです!だから、身元の保証とかそういうのはッ」

 

捲し立てるゆかりを制止するように、ハクはスッと手の平をかざした。

ゆかりが口を噤むと、ハクは驚くべきことを言い放った。

 

「……大丈夫です。……対宇宙人用の契約書を持ってきたので」

 

「……………は?」

 

言葉の意味が理解出来ず、時の止まったゆかりの横で「凄いですハクさん!」とミクが手放しで絶賛する。

肝心のイアは書類にすらすらと書き込んで、「書けましたハクさん。よろしくお願いします」と早速提出していた。

 

「……記入漏れは無いようですね。……どうしましたゆかりさん?」

 

「え?いやだって宇宙人用って……?え?どういう事ですか???」

 

「……どういう事も何も、言葉通りです。……他にも妖精やロボット用などもありますよ」

 

難なく言うハクであるが、その用意周到さには鬼気迫るものがあった。

 

──このアパート『ふぁ〜すとぷれいす』は、ただのアパートではない。“声”に関するありとあらゆる才能を持つ存在を輩出・管理する為の施設でもあるのだ。

例えその才能の持ち主がどんな存在であろうと、逃さない準備は万全なのである。だから例え宇宙人でもお構い無しなのだ。

かつては弱音ハク自身が目指していたその道。しかし彼女には才能が無かった為に、この常軌を逸した行動力が発揮されているのだ。

 

「……しかし、イアさんの来訪は突然だったので、流石にお部屋の用意が出来ていません。なので用意が整うまでは引き続きゆかりさんにお世話になって貰うことになります。……イアさんが嫌でなければ」

 

そんなハクのハイスペック加減にゆかりは辟易していると、セリフの途中になんだかあまりにも自分に都合のいいセリフが流れた気がした。

いや、聞き間違えでないならば、確かにゆかりに世話になれと……

イアが答える。

 

「イヤじゃ、ないです。その、ゆかりさんさえ、よろしければ……」

 

少し頬を染めてゆかりに上目遣いするイアに、ゆかりは「これはッ現実だ!!!」と確信すると、喜びを隠しもせず上気した顔で立ち上がった。

 

「バッチこいですよイアさん!!むしろずっと居てくれても良いんですよ!?」

 

「……あくまでお部屋が決まるまでです。……それとゆかりさんには、第三者を無断で宿泊させた罰を与えます。……そうですね、ゲーム機没収で」

 

「うぼぉあ!?後生ッ後生ですからっ!!」

 

「良かったね、イアちゃん!……ところで、さっきの話は本当なの?宇宙人さんなんですか?」

 

「ありがとうミクさん。うん。私はアリアっていう星から来てね……」

 

こうしてゆかりとイアは無事(?)に、大家の許しを得てもうしばらく同居生活を送ることになった。

 





ミクイアってあんまり見ない気がする。
曲では割とデュエってる作品あるんだけどなぁ。

弱音ハクも好きなんスよ……
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