ARIA星人イアちゃんと出会った結月ゆかりの青春模様   作:へるしぃーぼでぃ

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作中想定曲、『グレート・エレキ・ファイアー』

楽曲コード、見つかんねぇんスけど……
(ガイドライン確認)
いや題名っ、題名を連呼してるだけだからっ。歌詞じゃなくて、あくまで心情を表してるだけですっ
……ダメすかね?ダメだったら普通に削除します(ほぼ毎話曲を挿入するスタイルのため)。



ゆかり、親友からの喝でやる気を出す

 

「う、うぅ……、イ゛ア゛ち゛ゃん゛っ!!」

 

「泣かないで、ゆかりさん。また遊びに来るよ」

 

ゆかりの部屋の玄関先にて。

イアの腰に抱きついてガチの涙を流すゆかりに、そんな彼女の頭を優しく撫でて宥めるイアの姿があった。まるで母と子の図である。

そんな二人の様子を、傍らのハクが白い目を向けて見ていた。

 

「……よくもまぁ、そんな今生の別れみたいな顔できますね、ゆかりさん」

 

ハクの呆れ声が聞こえていないのか聞いていないのか、ゆかりはまだイアの腰にしがみついている。イアも頭を撫で続けている。

 

──ハクが「イアの部屋を用意する」と言って二日後。

 

用意し終えたのでハクはイアを迎えにゆかりの部屋を訪れたのだが、その旨を伝えた瞬間、ゆかりが上記のように駄々をこね始めたのだ。ゆかりに白い目が向けられるのも仕方の無い事だろう。

ハクは呆れ返ってため息をついた。

 

「……隣の部屋になるというだけなのに、大袈裟です」

 

そう、たかだか壁一枚を隔てるだけなのだ。

だというのに、このゆかりの狼狽ぶりである。ハクは引いた。ドン引きだった。

ため息に反応したのか、ゆかりが顔をガバリと向けると怨嗟のような叫び声を上げた。

 

「だって!!これからはもう一緒の食卓を囲えないし、一緒のベッドで寝られないし、お風呂上がりのイアちゃんすらも見れないんですよ!?これが絶望と言わずしてなんと言うんですか!?!?」

 

「……イアさんの迷惑を考えたことはおありで?」

 

その一言でピシリっ、とゆかりが硬直した。

次いで、ギギギ……と油の切れた機械人形のごとく、眼前のイアを見やる。

 

「……え、イアちゃん、ひょっとして私、めーわく、でした?」

 

少し呂律の回らない口調で聞けば、イアは「ううん」と首を横に振った。

しかし……

 

「私は迷惑じゃないよ。……けど、今のゆかりさんはちょっとだけ、その……格好が悪い、かな?」

 

イアは「ここは玄関先だし、ハクさんも困ってるみたいだし」と言葉を続けたのだが、もはやゆかりの耳にその言葉は届いていなかった。

ちょっとだけ格好が悪い、カッコワルイ、かっこぅわるぅいぃ……と、イアの言葉が脳内スローモーションリフレインして、目尻からほろりと涙を流した。

 

「そ、そ、そ、そ、そうですよねっ。イアちゃんだってプライベートな空間欲しいですもんねっ!私がしつこかったですゴメンなさい…」

 

早口で捲し立てて項垂れると、とぼとぼと部屋の隅に移動し、体育座りして微動だにしなくなった。

相当ダメージが深いようである。

 

「ゆ、ゆかりさん……」

 

イアがその背中に手を伸ばしたが、それをハクが遮った。

こちらは仕事なのだ。いつまでもこの寸劇に付き合ってはいられない。

 

「……それではイアさん、部屋に案内します。……それとゆかりさん。……貴女の部屋からイアさんが退去する事に伴い、没収したゲーム機全般を後日お返しします。……では」

 

「え……あ、ゆかりさん……」

 

イアはゆかりを気にしていたが、ハクに促されるままゆかりルームを退出していった。

部屋の電気が消され、陽光がカーテン越しに差し込むだけの薄暗い空間が出来上がる。

 

「イアちゃん……イアちゃん……」

 

一人取り残されたゆかりは、しばらく壁に向かってブツブツと呟いていた。その姿は哀愁を通り越して、むしろ狂気を感じさせた。

 

そんなゆかりの脳内で思い出されるのは、この二日間イアと過ごした幸せな日々だった。

 

朝目覚めれば天使の寝顔を拝むことから始まり、一緒に優雅な朝食と洒落こんで、日中はお散歩したりオススメの本を貸したりゲームしたりお昼寝したりと、とても充実した幸せな時間を過ごした。

そして夜にはお風呂に入ってお互いの髪を洗いっこしたりして、ひとつのベッドの中でおやすみと言い合って寝入るのだ。

 

最高の日々だった。

 

ダメ元で「一緒にお風呂に入りませんか?」と言ったゆかりに「うん!」と純新無垢な笑顔で返された時は流石に理性の糸がぷっつんしかけたが、なんとか耐えてキャッキャウフフな展開を味わえた。

だがそんな幸せな日々は、こうして無情にも終わりを告げた。ゆかりがダークサイドに堕ちてしまうのもムリはな……、いや、仮にも独り立ちした人間としてこれくらいガマンしてほしかった。

だがガマンできなかったゆかりは、ユラリと立ち上がると怪しい足取りで玄関に向かった。

 

「…そうだ。私がイアちゃんのお部屋にお泊まりすればいいんです。ふふふ、待っててくださいイアチャァン…」

 

のそのそと動く様は不審者そのもので、通報されたらイッパツの様相を呈していた。

そんな危険人物と化したゆかりが玄関のドアノブに手を掛けようとして、ガチャリ、と触れるより先に扉が開いた。

バランスを崩して前のめりになったゆかりを、物凄く柔らかい物体が受け止める。

 

「わぷっ。…え、アナタは!?」

 

「おっとゆかりちゃん、中々ダイナミックなお出迎えだねぇ?」

 

少し我に返ったゆかりが顔を上げれば、そこには見知った顔が居た。

 

「マキさん!?」

 

「や!遠征ライブから帰ってきたよゆかりちゃん!」

 

腰ほどまで伸びた長い金髪と、主張の激しい乳房がユサユサ揺れた。

ゆかりの先輩であり親友の弦巻マキだ。

ゆかりは彼女の胸にぶつかっていた様で、そのまま「ひさしぶりー!」とぎゅうと抱き締められた。ゆかりの顔面がたわわに実った谷間にサンドイッチされる。

 

「あ、ちょっ、マキさっむぐっ」

 

「あー、一週間ぶりにゆかりちゃん成分が補給されるー。くんかくんかスーハースーハー」

 

つむじに顔を埋めてゆかりちゃん成分なる謎のエネルギーを補給し始めたマキ。互いの身長は同じくらいだが、ゆかりの顔をムリヤリ胸に押さえつけているのでやりたい放題だ。

 

「むぐぐ…っぷは!マキさん!会えて嬉しいですけど、今私には追わなきゃならない人が居るんです!また後で!」

 

だが今のゆかりはそんな場合ではなかった。

憎き脂肪の塊からなんとか逃れたゆかりは、親友との再会だというのに素っ気ない態度で突き放した。

そして愛しのイアを追わんと外に出ようとして…

 

「おっと。行かせないよ」

 

「え?わわっ!?」

 

マキは目をキランと輝かせ、腕を掴んで捕まえると、そのまま壁ドン⥲顎クイをキメてゆかりの顔を覗きこんだ。

キリッとした表情には先ほどまでの親しみやすさはなく、突然の先輩イケメンモードにゆかりはきょとんと呆けた。

 

「つれないねぇ、竹馬の友との再会だってのに。……さっきハクさんと一緒にきゃわいい女の子がここから出てきたのを見たんだけど、あの子の事を追いかけてるのかな?ゆかりちゃん、あの子とどういう関係?」

 

「あ、あの、マキさん?顔が怖いです……」

 

段々冷静になってきたゆかりがおずおずと上目遣いで伺う。

少し目尻に涙を浮かべたゆかりのその姿に、マキは「んん゛!!」と咳払いひとつ、再び先輩イケメンモードになって言葉を続けた。

 

「私が遠征ライブで居なかったこの一週間で、ゆかりちゃんの身の周りで何が起こったのか。事情を聞かせて頂こうかしらん?」

 

 

 

 

 

 

 

「んーっ!やっぱり家のラザニアが一番だねー!…ん?ほらほらゆかりちゃん、遠慮せず食べなよ」

 

「い、いいんですか?私ホントにお金持ってないですよ?」

 

「後輩が遠慮なんかしないでよ!それに今の私の財布は潤ってるし、なによりウチのお店なんだから」

 

二人はアパートから場所を移し、近所の喫茶店『マキ』で昼食を摂っていた。

この店はマキの言う通り彼女の父親が経営するお店で、彼女自身もたまにウェイトレスをしていた。マキはアパートの住民ではなく、実家住みであった。

そんな勝手知ったる喫茶店で、マキは好物のラザニアをパクつきながらこんな提案を出し始めた。

 

「そんなにお金ないならウチでバイトする?ていうかしようよ!前からゆかりちゃんにウチの制服着てほしかったんだよね。あとあと!メイド服とかチャイナ服姿も見たいなぁ…、あ、割烹着なんてどうだろ?」

 

「…お店の装いから段々離れてきますし、最早マキさんの願望じゃないですか」

 

ゆかりは嘆息しながらも、提供された煮卵をかじった。

喫茶店にあるまじき渋いメニューだが、この店の煮卵は絶品なのだ。この店に通う者なら必ず頼む鉄板メニューである。

ここ最近引き篭っていた為、ずいぶん久しい味に舌鼓を打っていると、マキはぶーぶーと唇を尖らせた。

 

「えーバイトしないのー?まぁいいや。…で、三日間寝食を共にした女の子と離れるのがイヤだって話だっけ?それくらいガマンしなさい!!」

 

急な話題変換&バッサリ切られ、口に煮卵を含んでいたゆかりは「しょ、しょんな!?」とフガフガ愕然とした。口の中の水分を持っていかれている。

イア関連の一部始終はすでに洗いざらい話し終え、腹ごしらえも済ませた二人は互いにコップを呷ってひと息つく。

 

「…ッゴキュ、ッぷは、…うぅ、マキさんが辛辣です…」

 

煮卵を水で流し込んだゆかりはテーブルに突っ伏した。

目尻に涙を浮かべるゆかりだが、今度のマキは遠慮容赦なく意見を言っていく。

 

「辛辣って言われても。だって同居人が隣人になるだけでしょ?どんだけその子にゾッコンなのよゆかりちゃん」

 

「だって!昨日まであんな事やこんな事してたのに、今日からそれが出来なくなるんですよ!?そんなの耐えられません!!だからいっその事、私もイアちゃんの部屋に引っ越すんです!!!」

 

突然立ち上がって叫び始めたゆかりに「このアホゥ」とチョップをかますマキ。

ゆかりは「ぎゃん!?」と頭を抱えた。

 

「何するんですかマキさん!?」

 

「落ち着きなさいゆかりちゃん。まったく、ゆかりちゃんがこんなに狼狽えるなんて……。よし、取り敢えず私の部屋に行くよ!」

 

ゆかりの手を取ってズンズン歩き出したマキに、引っ張られたゆかりは「え、ちょっマキさん!?」と困惑する。

マキはそんなゆかりに振り向くと、先輩イケメンモードになって言った。

 

「一曲歌おう!」

 

 

 

 

 

 

「ぎゅんぎゅん行くよー!」

 

喫茶店の離れにあるこぢんまりとした一軒家に移動したマキは、六畳ひと間ほどの自室でエレキギターを構えていた。

言葉通り、ギターからぎゅんぎゅんと唸り声が上がる。

 

「……ちょ、マキさん。私今歌う気分じゃ……」

 

対して、事態についていけてないゆかりは呆然としていた。

オモチャのタンバリンをムリヤリ握らされたが、激しく弦を揺らすマキのテンションに反してまだ1シャンもしてない。部屋の隅でこぢんまりと体育座りしていた。

そんないつまで経っても暗い雰囲気を醸すゆかりに、マキはギターをキュッと黙らせると、真剣な表情になって言った。

 

「……ゆかりちゃん。最近歌、歌ってる?」

 

その言葉にゆかりはギクリとした。

確かに、イアが来てから彼女に構いっぱなしで歌はおろか、発声練習すらしていなかった。

 

いや、そもそもの話、イア云々は関係ない。

それ以前の話である(・・・・・・・・・)

 

ゆかりのそんな反応をチラリと横目で見ると、マキはつらつらと話した。

 

「多分だけど、前のオーディションで落選してから歌ってないよね?落ち込んでるのは分かってたから、ゆかりちゃんが引き篭っててもしばらくはそっとしておこうと思ってたんだ。それで今日、遠征ライブから帰ってきてもまだウジウジしてたら、喝を入れようと思って寄ったんだ。そしたら…」

 

女の子にうつつを抜かすゆかりが居た、というのがマキ視点の見解だ。

ゆかりは歌手という夢にひたむきな女の子で、だからこそ落ち込んでいてもそっとしておいたというのに、それがどうだ。

今や諦観にまみれた鬱屈な顔ばかりしているのだ。百歩譲って女の子にうつつを抜かすだけならまだしも、マキにはこの表情が見るに耐えなかった。

 

「ゆかりちゃんは、歌手になる夢を諦めちゃったの?」

 

「……」

 

そしてとうとう、マキは核心をつく質問をした。それに対してゆかりは言葉を紡げなかった。

 

正直、今のゆかりは信念が揺らいでいた。

 

オーディションに落ちたことはもちろん、追い討ちをかけるようにして、イアという『本物』の存在を知ってしまったから。今更自分程度の存在が…、とゆかりが卑屈な精神状態になってしまうのも、仕方の無い事なのかもしれない。

だが、本当はそんな事は重要ではないのだ。

 

「ゆかりちゃん。今は全てを忘れて、私と一緒に歌おう」

 

「……マキさん」

 

マキはムリヤリゆかりの腕を引っ張って立たせると、腹の底からひねり出すように声を張り上げた。

 

「ッぎゅんっぎゅん!!行っくよーー!!!」

 

ドッ!!とギターが掻き鳴らされる。

凄まじい勢いのギターソロが繰り広げられ、狭い室内に反響する。一瞬にして場がマキにより支配され、鬼気迫るその表情がゆかりをギラリと射抜いた。

まるで、ちっぽけなことで悩んでんじゃねぇ、お前の力はそんなものかと言われているようで。

 

「グレート・エレキ・ファイヤー!!」

 

命を燃やすほど頑張ったのかと、自分に嘘をつかずホンキで取り組んだのかと、歌が、目が、ギターが語りかけてくる。

 

──自分(ゆかり)は、歌以外取り柄がないと言ってもいい。これまでずっと歌手になれるように頑張ってきたし、今更それ以外考えつかない。

 

ドクン、とゆかりの胸に“熱”が去来する。

 

そうだ、たかだか落選したくらいで諦めるほど、自分の夢は軽くない。仮に自分の実力が本当に無いとしても、それが諦める理由になることは一つもないのだ。

人生は一度きり。

悩むばっかりじゃ何も起きない。全身全霊、この二度と来ない青春に命を燃やして夢に挑まずして、なにが人生か。

 

「ッグレート・エレキ・ファイヤー!!」

 

気付けば、ゆかりも叫んでいた。

何かが吹っ切れたように歌うゆかりに、マキはニヤリと口角を吊り上げるとさらにギターをギュンギュン掻き鳴らす。

音楽の力とは凄まじい。たった数分でダイレクトに人の心を揺らし、突き動かしてしまう力がある。

もちろん、弦巻マキという第一線で活躍するバンドマンだからこそ、というのもある。だが想いが凝縮された曲というのは、かくも人を変えさせるのだ。

ゆかりとマキの視線が交錯し、互いに渾身の声を張り上げた。

 

「「エッレキ・ファイヤー!!!」」

 

 

 

 

 

「……はぁ……はぁ、ッ、良い声出すじゃん、ゆかりちゃん」

 

「……ッいえ、それほどでもッありませんよ…」

 

単純だと笑われてもいい。あのままくよくよしているくらいなら、こうしてバカみたいに騒いで前に進んだ方が、ずっとマシだ。

汗だくな身体も心地よい余韻となって、二人は笑顔を交わした。

 

 

 

 

 

 

「今日は久しぶりに会えて楽しかったよ、ゆかりちゃん」

 

「いえ、こちらこそ。一緒に歌っていただけてありがとうございました。私、もう少し頑張ろうと思います」

 

マキの家を出て夕刻ごろ、アパート『ふぁ〜すとぷれいす』の門口にて。見送りに付いてきたマキにお礼を言い、ゆかりは再度決意を表明した。

 

「うん、頑張れ!!なにせ、サボってた分下手くそになってたからね!」

 

「うぅ……何も言い返せないのがツラい……」

 

そう、さっきはテンションが上がっていたお陰でスルーしてくれていたが、ゆかりの歌声はそれはまぁヒドいものだったのだ。

ひきこもり始めて以来、まったく練習をしてこなかった皺寄せが一気に現実として押し寄せた瞬間である。

だが、今のゆかりには良いクスリとなるだろう。

 

「ま、また何か困ったらこのマキさんに相談しにおいで。煮卵食べながら話を聞くし、次はカラオケにでも行ってもっと気分を発散させよう!私も歌いたいし!」

 

「それマキさんがカラオケ行きたいだけじゃないですか、もう」

 

どこまでもマイペースな先輩の姿に、ゆかりは苦笑しながら手を振った。マキもブンブンと振り返して「またねー!」元気よく去っていく。

 

その背中を見届けると、ゆかりは「よし!」と気合を入れた。

 

時が止まっていた『歌手を目指す日々』の再スタートだ。ゆかりは頭の中で今後の予定を立てながら自室を目指す。

カン、カン、と外階段を登り、自室のドアの手前まで来て、ゆかりははたと足を止めた。

 

ゆかりの部屋の左隣、今日からイアが入居した部屋である。

 

途端、ゆかりの胸中に“イアちゃん欲”が湧いてきた。

朝方に泣き別れ(ゆかり側のみ)してから会っていないので、イアちゃん成分が圧倒的に不足しているのを身体が思い出したのだ。

マキが“ゆかり成分”なる謎成分を補給していたことをバカに出来る資格はゆかりになかった。同類なので。

 

「イ、イ……ッイアちゃん!!」

 

衝動に身を任せバアァン!と扉を開け放つゆかり。

せっかく決意新たに気を引き締めたというのに、『ソレとコレとは別』と自分に言い聞かせて行動してしまうあたり、ゆかりの人間性が窺えた。マキはコイツを殴っていい。

そうしてプライバシーの侵害甚だしく躊躇なくドアを開け放ったゆかりは、目当ての人物を見つけた。

 

「ゆ、ゆかりさん!?」

 

突然ドアが開いてゆかりが突入してきた事に、イアが驚きの声を上げる。当然だ。

だが驚きの声を上げたのは、突入したゆかりもだった。

 

「な、なんですかコレぇ!?」

 

部屋はカーテンが閉められて薄暗かった。

だがその部屋の中央には青白い球体の光源が浮遊していて、イアの目の前にもタブレット端末くらいの四角い光る板が浮いていた。

まるで立体のプラネタリウムのような空間が広がっていたのだ。ゆかりは目を白黒させた。

 

「びっくりしました。どうしたんですかゆかりさん?」

 

イアが手のひらを上げて横に動かすと、その浮いた球体と四角い板がフォン、と追従するように壁際に動く。どうやらイアの手により自由自在に動かせるようだ。

 

「あ、あの……な、なんですかコレ?」

 

「これは、今の地球の状態と、惑星アリアに居る先生たちと交信する為のディスプレイだよ」

 

どうやら惑星アリアなる星のテクノロジーは、地球のそれより遥かに高度らしい。

ゆかりは関心と同時、さらに率直な疑問を聞いた。

 

「え、えっと、そのセンセイたちとやらと交信して、何の話をしてたんですか?」

 

「んーとね、今の地球にどれだけ愛と平和が満ちているのか、とか、私が地球に来てどう過ごしているのか、とかだよ」

 

そういえば、イアは『地球に愛と平和を届けに来た』とかいうアブない宗教紛いな目的で降臨したことを思い出した。

なるほど、目の前のテクノロジーを見れば納得せざるを得ない。

イアが自身の指に嵌められた指輪をそっと触ると、立体映像が消えた。どうやらあの指輪がスゴい機械(ヤツ)らしい。

イアがもじもじと、言いづらそうに話し始めた。

 

「本当は、一日の終わりに定期連絡を入れないとなんだけど、ゆかりさんを驚かせたらいけないと思って連絡してなかったの。それで今ようやく連絡したら、凄く心配してたみたいで怒られちゃった」

 

「そんな……、確かに驚きましたけど、説明してくれれば私は全然……」

 

「あのね、一応、出来るだけ他人にはバレないようにって言われてて……」

 

そんなことを言ったら、なんでゆかりの目の前に降臨したのだとツッコみたくなったが、それを言ったらこの天使に出会えてなかったのでゆかりは言葉を飲み込んだ。

代わりに、イアという存在が色々ぶっ飛びすぎてて、これに比べれば自分の悩みは本当にちっぽけで凡庸だなぁ……と再確認したゆかりだった。

イアの独白は続く。

 

「だから、ゆかりさんとは別のお部屋になった方が、本当は都合がよかったの。だけど、ゆかりさんがあんなに一生懸命引き止めてくれるとは思わなくて……。たくさんお世話になったのに、……ごめんなさい!」

 

「いえいえ、イアちゃんにも事情がある事は分かりました。私も、無理言って困らせてすみません」

 

冷静になった今、ゆかりも少々イアに依存していた事を自覚していた。

それに、これからは歌手になる為の努力を再びしなくてはならないので、別室になるのもいい機会だとも思っていた。

 

「これからは良き隣人として、改めてよろしくお願いします、イアちゃん」

 

「うん。よろしくね、ゆかりさん」

 

その後、イアちゃん成分をたっぷり補給させてもらう為に三時間ほど居座ってしまったゆかりは、アパート内の事象を全て察知しているハクに首根っこを掴まれ自室に放り投げられた。

ゆかりの歌手デビューは、まだまだ遠いようである。

 

 





マキゆかぁ……
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