ARIA星人イアちゃんと出会った結月ゆかりの青春模様   作:へるしぃーぼでぃ

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作中想定曲、『アカリがやってきたぞっ』
楽曲コード:240-4038-0


ゆかりの妹分、来たる

 

 

 

ピンポーン、とインターホンが鳴らされた。

 

よく晴れた日だった。

朝ごはんを食べてのんびりしていたイアは、突如として鳴らされたその音にぴくん、と体を揺らした。呼び鈴を鳴らされたのは初めてで、少しびっくりしたのだ。

といってもイアの知り合いは少ない。

恐らく隣人の結月ゆかりが来たと思って、とてとてと玄関口へ向かうと、期待を込めてガチャリと開けた。

 

「はい。おはようございます」

 

「ゆっかりーん先輩!遊びにっ、来…た…よ…?」

 

ドアを開けた先。

そこに居たのは見慣れた紫髪ではなく、白髪をお下げにした可愛らしい声色の少女だった。イアの見覚えのない子だ。

対してその子も目を見開いて、イアをまじまじと見つめてきた。当然だが、お下げ少女の方もイアと顔見知りではない。

少しの間の後、少女の台詞を頭の中で反芻したイアはハッと思い至って、隣の部屋を指で差して言った。

 

「ゆかりさんのお部屋なら、この隣だよ」

 

イアの声に少女はハッ!となると、「し、失礼しましたー!」と叫んで隣の呼び鈴を猛プッシュしに行った。そんな元気溢れる姿に、イアは思わずクスリとはにかむ。

ピンポーンピンポーンピピピピンポーン、としつこいくらい呼び鈴を押しまくる少女。だが待てども待てどもその扉が開くことはなく、少女は首を傾げた。

少女は「んー?」と唸ると、とことこ再びイアの所に戻ってきた。

 

「あの、ゆかり先輩は出掛けてますか?」

 

「ううん、居るはずだよ。どうしたんだろう、ゆかりさん……」

 

二人して首を傾げていると、少女は不意に「あ!」と叫んでイアに向き直った。

そしてバッ!と頭を下げる。

 

「申し遅れました!あかり……っ私、ゆかり先輩の後輩で従姉妹の紲星 (きずな)あかりって言います!挨拶が遅れてゴメンなさい!あと間違えてお部屋の呼び鈴鳴らしてゴメンなさい!」

 

唐突な自己紹介と謝罪にイアはぽかんとするが、すぐにニコリと笑って挨拶を返した。

 

「私はイアです。私も挨拶が遅れてごめんなさい。よろしくね、あかりさん」

 

言い終わると、顔を上げたあかりはパァァ!と満面の笑みを浮かべて「よろしくお願いします、イアさん!」ともう一度お辞儀した。

そんな感じで挨拶を交わした二人は、再び開かずの扉に向き直った。

 

「どうしたんだろうね、ゆかりさん」

 

「私が来ることは昨日連絡したんですけど、もしかしたら寝てるのかもしれません。先輩、寝坊助さんですし」

 

そう言いながらドアノブに手を掛けたあかりだが、そのノブが動いてガチャリと扉が開いた。

二人はしばらく顔を見合わせると、そのまま部屋の中へと入った。あれだけ呼び鈴を鳴らしたのだ、戸締りをしていないゆかりが悪い。

果たして、ゆかりの姿はそこにあった。

ただしゆかりはベッドの上で寝ていたのではなく、起きて虚空に向かって叫び声を上げていた。

 

「この、ちょっおま!?ふざけんなですよこんちきしょー!この借りは千倍にして返してやります……ッ!!」

 

ガチャガチャと手元から激しい音を立てて、頭には大きいゴーグルを装着したゆかりが口悪い台詞を零していた。どうやらVRゲームに熱中していて、周りの音が聞こえていないようである。

 

「ゆ、ゆかりさん……?」

 

「ふ○ーーーーっく!!!」

 

ゆかりに話しかけようとしたイアだが、突如としてそんな叫び声を上げたゆかりにビクッ!と尻込みした。

いつもは凛々しく頼りになる彼女のこんな荒ぶる姿に、イアは完全に萎縮してしまったようだ。

そんな惨状を見たあかりが少しムッとした。イアとは会って間もないが、こんなに人柄の良さそうなイアを怖がらせるとは何事か。

というか、そもそも今日自分が来ると連絡していたのだ。それなのに自分よりゲームを優先している姿に軽く憤りを感じていた。

如何にゆかり先輩だとしても許せん。

 

「イアさん。ここは私に任せてください」

 

「あ、あかりさん」

 

オロオロするイアの前に出たあかりは、ゆかりの背後に立つと耳元に顔を近づけた。

そしてゴーグルを少しだけズラすと、ありったけの声を張り上げて叫んだ。

 

「っあかりがッ……やってきたぞーーーーーーっ!!!」

 

 

 

 

「うまーい!」

 

ゆかりの部屋に入ったあかりは勝手知ったる風に足を放り出して座り、お茶菓子として出されたずんだ餅をもぐもぐしていた。

そんな彼女の前では、ゆかりがむっすー、とこれみよがしに頬を膨らませてご満悦なあかりに苦言を呈した。

 

「気付かなかったのは謝りますけど、あかりちゃんが一時間も早く来たのも悪いです!ゲームが出来る貴重な時間だったのに……」

 

どうもあかりが訪問する時間が予定より早かったようで、確かにそれならゲームに没頭していたのも頷けた。

ゲーム類は昨日までハクに没シュートされていたので、恐らく夜通しやっていたのだろう。ゆかりの目の下には薄くクマが出来上がっていた。

そんなぷりぷりと怒るゆかりに、あかりはシュン、と下を向いた。

項垂れる犬耳と尻尾が幻視される。

 

「だって……、早く遊びたかったんだもん……」

 

これにはゆかりも「うっ」とたじろぐ。堪らず話題を逸らした。

 

「と、ところで!なんでイアちゃんと一緒なんですか?一体どこで知り合いに……」

 

「今さっき、だよ。ゆかりさんの部屋と間違えて、私の部屋に来ちゃったの」

 

「うへへへー。その節はごめんなさい」

 

ニコニコと微笑むイアに、あかりが一転してにへらー、と締まりのない笑顔で謝る。この二人、どうも波長が合うようで、すでに仲良しな雰囲気が漂っていた。

そんな二人の様子にゆかりの眉毛がむっ、と歪む。そしておもむろにイアの肩を掴むと、グイ、と抱き寄せた。

イアとあかりはきょとん、と呆け、ゆかりはきまりが悪そうにそっぽを向いた。

 

「あの、ゆかりさん……?」

 

「なんですかイアちゃん?」

 

「あの、その……、急に抱きしめられると、恥ずかしいです……っ」

 

頬を染めて言うイアに、「ご、ごめんなさい!」とこちらも耳を赤らめて手を離すゆかり。

そんな二人を見たあかりが「おや?」と目を鋭くした。

 

「先輩先輩。ゆかり先輩」

 

「な、なんですかあかりちゃん?」

 

「先輩はイアさんの事が好きなんですか?」

 

瞬間、「ブフォア!!?」と吹き出すゆかり。ゴホゴホと盛大にむせる。

 

「きゅ、急に何を言い出すんですかねぇこの子は!?」

 

「いやだって、あかりとイアさんが仲良くしてて嫉妬したんですよね?大丈夫ですよ、あかりは先輩一筋なんで!!」

 

「いやそういう事じゃなくてですね……」

 

頭の痛いことを言う後輩にこめかみを抑えるゆかり。

チラリと横を見れば、ポカンとゆかりを見つめるイアと目が合った。

あ、可愛い、好き、と見蕩れていると、不意にその顔が破顔した。

 

「私も、ゆかりさんの事好きですよ」

 

「ア……ッ、アリガトウゴザイマス……」

 

恐らく種類の違う『好き』だろう返答に、ゆかりは歯切れ悪く答える。

そんな二人の間で、あかりは神妙な面持ちで腕を組んでしばらく何か考えると、「理解しました!」と叫んでゆかりに耳打ちした。

 

「あかりが先輩の恋のキューピッドになりますよ!あかりに出来ることがあったらなんでも言って下さい!!」

 

「ちょ、なんでそうなるんですか!アナタはおにぎりでも食べてなさい!!」

 

ゆかりがあかりのポケットに手を突っ込むと、そこから何故かおにぎりが何個も出てきて床に転がった。

そのうちの一個を引っつかむと、ラップを剥いてあかりの口に突っ込んだ。あかりは「もぐもぐもぐもぐ」とハムスターの如く咀嚼して黙る。

 

「ふぅ。……さてイアちゃん、今日はこのあかりちゃんと一緒に遊ぶ約束をしてたんですが、イアちゃんもどうです?」

 

平静を取り繕ったゆかりは流れるような動作でイアを遊びに誘った。

というかあかりを紹介するつもりで初めから誘う気満々だったので、紹介する前に仲良くなっている展開は予想外のゆかりだった。

果たして、イアはその誘いに頷いた。

 

「いいんですか?じゃあお言葉に甘えます。……ところで、どんな遊びをするんですか?」

 

「はい!シューティングゲームです!」

 

おにぎりを全て飲み込んだあかりが元気いっぱいに叫んだ。

セリフを取られたゆかりが説明を続ける。

 

「イアちゃんの星のテクノロジーには驚きましたが、地球のテクノロジーも捨てたもんじゃないということを知って欲しくて。というわけでイアちゃんには、このVRを体験してもらいます!」

 

今までゆかりの頭の上に乗っていた装置を持ち上げ、イアに手渡す。

イアはそれを珍しそうに色々な角度で覗き込むと、マネするように頭に被せた。

イアの頭に装着するのを手伝い、自分たちも被って準備すること数分。

 

「さて、では始めますよ!まずは初心者のイアちゃんの為に、一番簡単なステージから始めます」

 

そうしてイアの視界に広がったのは、荒野の世界。

現実と見分けがつかない、とまではいかないが、それでも臨場感溢れる映像に「わあ」と声が上擦る。

そんな感動するイアの前に、一体のゾンビが現れて襲いかかってきた。

 

「わっ、わ。ど、どうするの、この人」

 

「銃で撃っちゃって下さいイアちゃん!ソイツは敵です!」

 

この時、ゆかりは遅まきながらハッとなった。

心優しいイアの事だ。たとえゲームだろうが相手がゾンビだろうが、他人を傷つける行為には抵抗があるのではないか。

そう思い立ったゆかりはこのゲームを中断しようとした。

 

「イアさんごめんなさい、配慮が欠けてました。このゲームは中s」

 

その時、ドバン!と音が響いた。

画面の向こうではヘッドショットを喰らったゾンビが「うあぁ〜」と呻いて倒れていた。

 

「……え?」

 

「これでいいの?ゆかりさん?っあ!危ないゆかりさん!」

 

呆けるゆかりの前に新たなゾンビが出現し、襲いかかる寸前。

イアが見事なヘッドショットをキメて瞬く間に倒した。あかりが「すごーい!」と叫ぶ。

 

「こんな感じでいいんだね。私、頑張るよゆかりさん!」

 

「え……、え?イアちゃん、こういうのに抵抗ないんですか?」

 

「え?こういうゲームなんだよね?なにかダメ……だった?」

 

「イエ、ナンデモナイデス」

 

「イアさん上手ーい!全部ヘッドショットじゃないですかー!?」

 

あかりの言う通り、イアは次々にヘッドショットをキメていた。抵抗など微塵もなく、むしろ淡々と作業のようにこなしていくその姿はさながら歴戦の傭兵であった。ゆかりは戦慄した。

そしてあっという間にステージをクリアすると、イアは感嘆の声を上げた。

 

「凄いね、本当にこの場所に居るみたい」

 

「それがVRの醍醐味ですよイアさん!それにしてもゲーム上手いですね、あかりよりもう上手じゃないですか?ホントに初心者さんなんですか?」

 

「ふふ、ありがとう。でも一番簡単なステージみたいだし、この先もついていけるかな?」

 

和気あいあいと話す二人を余所に、ゆかりは一人押し黙っていた。

かと思えば、肩をぐるぐる回して居住まいを正すと、コントローラーを握り直して目の前(VR画面上)に向き直った。

 

「…これは、負けてられませんね!」

 

どうやらゲーマー魂に火がついたようだ。ゆかりは先までのイア(初心者)への配慮を忘れて、完全にヤル気だった。

そして選択画面で一番難しいキルモードを選択する。

 

「あ!ちょっとゆかり先輩?イキナリそれは厳しいですよ!?イアさんだって居るのに」

 

「大丈夫ですよあかりちゃん。今のプレイは完全にプロの動きです。きっとついてこれるでしょう。ですよねイアちゃん!!」

 

「よく分からないけど、頑張るよ」

 

荒ぶるゆかりとは裏腹に、のほほんと返事をするイア。あかりがアワアワする中、VR画面は暗転した。

 

「さあ、行きますよ!!」

 

 

 

 

「イアちゃんがあんなに上手いなんて驚きましたー!でもやっぱりキルモードは無理がありましたよー、ゆかり先輩」

 

「あはは、ごめんなさい。イアちゃんの上手さにちょっと刺激されちゃって。それにしてもイアちゃん、本当に操作が上手かったですね」

 

VRゲームをやり始めて一時間後。

全員がキルされた為、一旦休憩となってお茶会を開催していた。

あかりがクッキーをむしゃむしゃと頬張りながらゆかりの愚行を責め立てる。

ゆかりは苦笑いして謝りながら、イアのプレイを改めて賞賛していた。

 

「そんなに褒められると、照れます。狙いを定めるのが得意、なのかな?」

 

イアは自分でも不思議なのか、疑問形で受け答える。

スナイプが抜群に上手く、イアは狙撃手向けだとゆかりは感じた。ゆかりとしては躊躇なく発砲すること自体にも驚いたが、イアの意外な一面を見た思いだ。

 

「他にはどんなゲームがあるの?他のもやってみたいな」

 

「そうですね〜。ゆかりさん、次はどれやります?」

 

「うーん。じゃあ次はほのぼの系でコレを…」

 

そんな思いはさておき、三人は姦しくゲームに熱中した。

 

 

 

 

「はぁ〜楽しかった〜!久しぶりに遊べて楽しかったですゆかり先輩!イアちゃんも!!」

 

「私も楽しかったよ。また遊ぼうね」

 

「気を付けて帰って下さい。まだ夕方ですけど、暗くなるのはすぐですからね」

 

空がオレンジ色一色に染まる中。

アパートの前でゆかりとイアは、あかりを見送るために門の前に来ていた。

あかりは『ふぁ〜すとぷれいす』の住人ではない。近所に彼女の実家があり、そこからこうして時たま遊びに来ているのだ。

予定では来年から入居して音楽活動を始めるらしい。曰く、『ゆかり先輩の歌う姿に感銘を受けました!』という。

 

「…私の音楽活動って、専ら路上ライブなんですけどね」

 

何度も手を振り返すあかりに、ゆかりは自嘲気味にそう話し始めた。

 

「たっま〜にちゃんとした所でライブもするんですけど、ホントに小さいハコだったり、マキさんの所に便乗したりで、まあ売れない典型なんですよね。そんな情けない私を、あかりちゃんはずっと応援してくれてるんですよ」

 

曲がり角に消えていったあかりにまだ手を振りながら、ゆかりは苦笑いした。

そんな哀愁漂わせるゆかりに、イアはおもむろにその頭を撫でた。

 

「頑張ってゆかりさん。私も応援してるよ」

 

不意に発揮されたその包容力に、ゆかりは思わず目頭に熱いものが込み上げた。

それが零れないようすんでのところで耐えていると、次第に心地良さが去来した。

イアの撫で方が非常に手慣れており、とても気持ちが良かったのだ。このままずっと撫でられていたいまである。

 

「ふ、ふおぉ…ッ!」

 

変な声が漏れたゆかりの頭をなでなで、と撫で続けるイア。

しばらくそんな状態が続いていたが、ハッと正気に戻ったゆかりが急に赤面して離れた。

流石にこの年齢で、しかも同い年の女の子に頭を撫でられてトリップするのは良くないと思ったようである。

 

「が、頑張りますイアちゃん!私は頑張りますよ!!」

 

「うん。頑張ってゆかりさん」

 

ニッコリと笑い、それだけ言うとイアは「戻ろっか」とアパートに踵を返した。

ゆかりは撫でられた頭に手を置くと「…ありがとうございます、イアちゃん」と呟き、あとを追いかけた。

 





きずゆかぁ……
あかりちゃんとイアちゃんの天然コンビもアリだと思うんだ。
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