ARIA星人イアちゃんと出会った結月ゆかりの青春模様   作:へるしぃーぼでぃ

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作中想定曲、イアちゃんは『HIGHER』
楽曲コード:240-3898-9

ゆかりさんは『ヌケガライド』
楽曲コード:226-4578-1


イアとゆかり、路上ライブをする

 

ジャーン…とギターの弦が揺れて、その奏でられた音は路上の雑踏の中へと消えていった。

 

渾身の一曲を奏でた結月ゆかり。

だが道行く人々はチラリと横目で見てくるものの、立ち止まる人は終ぞ現れなかった。

 

「…はぁっ。まさかここまで聞いてくれる人が居ないとは……」

 

だいぶ気が落ちてその場に座り込んだゆかりは、チューニングを直す素振りをしながら項垂れた。

 

──休日の昼下がり。アパートから徒歩十分位の人通りの多い路上にて。

 

ゆかりはそこで独り、路上ライブを行っていた。

引きこもってゲームばかりしていた彼女が何故、急にこんな行動力を発揮したのか。それは先日、愛すべき後輩紲星あかりが遊びに来た事に要因する。

 

こんな自分を慕ってくれる後輩と会い、ゆかりの胸中に焦りが生まれたのだ。

 

来年からあかりがアパートに入居し音楽活動を始めるというのに、先輩たる自分がこんな体たらくでは失望されてしまう……──という、要するに見栄っぱりがゆかりに行動力(モチベーション)を与えていた。

 

そしてゆかりは、行動を起こすとなると早かった。

 

ホコリを被っていたギターをチューニングし、サボっていたボイトレをして錆び付いた喉を潤すと、三日後の今日には路上ライブの決行をキメたのだ。

 

「…とはいえ、ここまで手応えなしは堪えますねぇ…」

 

しかし現実は厳しかった。

如何にゆかりに歌の才能があったとしても、無名でサボり魔で後輩の目が気になるという不純な動機でようやく活動する程度の志では、人の心など揺さぶれるはずもない。

今までの皺寄せが目に見えた瞬間である。

 

「いやでも、今の私は本来の実力の七割……いや四割くらいしか発揮出来てないですから?このまま歌いながら調子を上げていけば、その内私の美声に酔いしれる人も続出するでしょうし?」

 

挙句にこの言い訳である。

ゆかりは完全に世間をナメ腐っていた。

そんな感じでその後も二曲、三曲と演奏を続けるが、時折足を止める人がいるものの、結局通しで聞いてくれる人は居なかった。

ゆかりはため息をついて、ギターをケースの中へとしまい始めた。

 

「……まあ初日ですからね。今日はこれくらいにしてやりましょう。明日も明明後日もやり続ければ、その内ファンなんて勝手についてくれるでしょう」

 

そう口で言う割は、コソコソとまるで逃げるようにその場を後にするゆかりだった。

そう、口では虚勢を張っているが、ゆかり自身も分かっているのだ。今の自分の演奏に魅力が無いことくらい。

 

一年だ。

 

丸々一年、ゆかりはアパートで自堕落に過ごしていた。

とりわけ若い人材が集まる『ふぁ〜すとぷれいす』は、入居者が仕事・練習に専念できるよう、あらゆる米塩の資を惜しまず支援してくれる手厚さがあった。食事に関しては朝昼晩、頼めばハクが作ってくれるオプション付き(日替わり一食ワンコイン)。

 

そんな至れり尽くせりな環境で、ゆかりは年相応に堕落していった。

 

子供の頃から歌に関して才能があったゆかり。

周りに持て囃され鼻の伸びきっていたゆかりは、上京して上手くいかずともこの待遇の良さに甘えて胡座をかいていた。

少し歌えば皆から褒められるという経験が、ゆかりの成長の機会を奪っていたのだ。

そして現在。そのしっぺ返しを真正面から喰らっていた。

 

 

──路上ライブをやり始めて、三日後。ゆかりは再び部屋に引き篭っていた。

 

 

「ちょっと調子が出ないだけです。まだ休みが足らなかったんですよ。大体なんで皆最後まで聞かずにどっか行っちゃうんですか。せめて最後まで見てって下さいよ。皆見る目がないんじゃないですか?」

 

締め切ったカーテンの向こうから黄昏の光がボンヤリと差し込み、部屋は薄暗い。

しかも部屋の電気を点けず視界の悪い中、唯一の光源であるテレビ画面に向かってカチャカチャとコントローラーを操作してブツブツと呟くゆかりの姿があった。

頭から毛布を被って、机の上にはエナジードリンクの空き缶が数本転がり、画面のキャラはモンスターに果敢に斬りかかるが、回復も防御も一切していなかったキャラはモンスターの何でもない攻撃でHPが尽き、『GAMEOVER』の文字が画面いっぱいに映った。

それでもゆかりはしばらくコントローラーをカチャカチャと操作していたが、不意にコントローラーを放り投げて寝っ転がった。

その虚ろな視線は天井の一点を見つめていたが、その内モソモソと布団にくるまって丸まってしまった。

 

「はぁ…、何やってるんですかね。私は……」

 

布団の中で独り言つ。

三日、同じ場所同じ時間帯で路上ライブをしたが、結局最後まで聞いてくれる人は現れなかったのだ。

ここまでくるともう、如何にお高くとまったゆかりも認めざるを得ない。

 

そう、自分の歌声に魅力がないことを。

 

この現実を思い知ったゆかりのちっぽけなプライドは粉々に打ち砕かれ、再びの引きこもり生活に戻ってしまっていた。

もう全てがどうでもよかった。

歌が上手いことが取り柄だったゆかりは──、それだけしか取り柄のないゆかりは、もう立ち上がる力さえ出せなくなっていた。

 

「ふふ、これからどうしましょう。歌がこんなに下手じゃ、アパート(ここ)から追い出されてしまいますね。絶望です」

 

もう寝よう、疲れた。これからの事は明日の自分に任せよう。

そうして布団の中でさらに丸まって眠りに入ろうとしたゆかりに、不意に通話の着信音が鳴り響いた。

ゆかりは迷惑そうな目をして机の上にあるはずのスマホを手探りで掴むと、『弦巻マキ』と表示された画面が見えた。

 

 

 

 

 

 

「……マキさん」

 

タイミングの良さに少し目元が緩んだゆかりは、その目を拭うとスマホに齧り付くようにして両手で持った。

この頼れる先輩なら何かいいアドバイスをくれるかもしれない、と思い、ゆかりは縋るように画面をタップした。

すると、すぐに元気いっぱいな声が電話口に響いた。

 

「あ、ゆかりん!路上ライブ凄かったね!もちろん見たでしょ?」

 

その明るい声に涙腺が崩壊しかけるゆかり。

だが既のところで、その言葉の違和感に気付いた。

 

「ん?『もちろん見た』ってどういう事です?私自身が路上ライブをしてたんですから見れるワケないでしょう?」

 

「え?ゆかりちゃんも今日路上ライブしてたの?そっちも見たかったなー、でもあの子も凄かったよ、ギャラリーもいっぱい居てさー」

 

「え、だ、誰の話をしてるんですか?」

 

ゆかりが路上ライブをしていたのは昨日まで。

それでは一体誰が路上ライブをしていたのか。マキは一体誰の話をしているのか。

その答えは、すぐにマキの口から伝えられた。

 

「え?イアちゃんだよイアちゃん。いやー凄いねあの子。あの細い身体であんなに激しいダンス踊るんだもん。私もバンドにダンス要素入れようかな?」

 

マキの明るい声がやけに遠くから聞こえる。今、ゆかりの胸中には様々な疑問が溢れて渦を巻いていた。

 

──イアちゃんが路上ライブ?私よりも人気らしい、見たい、どうしてマキさんはそっちにっ。イアちゃんなら私よりも凄いに決まってる…──

 

ネガティブな感情と、素直なイアへの賞賛が入り乱れる。

だがどちらの感情にも含まれる圧倒的なある思いが、ゆかりの心の中を支配していた。

 

それは、『羨ましい』という感情。

 

自分が三日掛けても付かなかったギャラリーを、たった一度で掴んだイアへの羨望。

ゆかりは堪らずその場から駆け出した。

 

「もしもーし?ゆかりーん?おーい」

 

「教えてくれてありがとうございますマキさん!」

 

それだけ言うと通話を切って、ゆかりは玄関を出た。向かう先は隣の部屋、イアの住んでいる場所。

インターホンも鳴らさずにそのドアを開けると、ちょうど帰ってきたところなのか玄関で靴を脱いだ姿勢のイアと目が合った。

 

「…え、ゆかりさん?どうしたんですか?」

 

「っあ、あ、明日も!!路上ライブしますか!?」

 

ゆかりの唐突な質問にキョトンとしたイアだったが、すぐにニッコリと笑うとゆかりの手を取った。

 

「うん、やるよ。私、ゆかりさんが路上ライブしてるのを見て、真似してみたんだ。明日もやるから、良かったら見に来てほしいな」

 

「え、ちょ、私の見てたんですか?どこから?」

 

イアからの路上ライブの招待よりもそちらの方が気になった。ゆかりが演奏している間、イアの姿は一度も見ていない。一体どこから……

 

「その、邪魔になるかと思って、遠くから見てたの。あのね、ゆかりさんの演奏、すっごく良かったよ!」

 

「あっありがとう、ございます……」

 

無邪気な笑顔でそう言うイアに、ゆかりは嬉しいやら悲しいやら、最終的には微妙な顔ではにかんだ。

イアに褒めて貰えたことは素直に嬉しい。けど、自分より人気のあるイアに言われてもお世辞にしか聞こえないのだ。

いや、ゆかりは分かっていた。

イアにそんなお世辞など一切なく、心の底から褒めてくれていると。だからこそ、自分の惨めさがいっそう際立つ。

俯いたゆかりがやっとの思いで絞り出したその声は、少しだけ震えていた。

 

「明日のイアちゃんの路上ライブ、見に行っていいですか?」

 

「うん。是非、見てください。精一杯頑張ります!」

 

イアは花が咲くような笑顔で、ゆかりにそう言った。

 

 

 

 

 

 

そして次の日、正午になる手前の時間帯。

アパートから最寄りの駅構内にて、快晴の下、イアはその身ひとつで立っていた。

先日の路上ライブのお陰か、まだ歌ってすらいないのにそこには小さな人集り(ギャラリー)が出来始めている。昨日の今日で、もうファンが発生しているようだ。

 

その中には、ギターを担いだゆかりも加わっていた。

 

ふと、イアと目が合った。

ニコリと頬を綻ばせるイアに対して、心中複雑なゆかりは少し乾いた笑みを浮かべるに留まる。

 

「それじゃあ、始めます。聞いてください」

 

イアがペコリと頭を下げると、それだけでパチパチと拍手が鳴った。

それだけ楽しみにして来てる人がいるのだろう。もうゆかりとはレベルが段違いだ。

 

そんな中、イアは指輪をとん、と叩くと、それがカッ!と光った。

 

眩しさに目を瞑ったゆかりは次に目を開けると、そこには驚きの光景が目に映った。

 

なんと、イアの服装が変わっているのだ。

 

いつもの黒タンクトップとピンクのプリーツスカートは消え去り、代わりに真っ赤なアラビアンスタイルのズボンに上半身はサラシだけ、という非常にセクシーな格好で立っていた。

太陽の光を浴びてキラキラ光る虹のような頭髪の上にも、イアのロゴマークをあしらった赤いキャスケット型の帽子が被さっていた。

その(ひさし)から碧眼が覗き、まるでギャラリーを射抜かんばかりの鋭さでもって睨めつける。

いつもの可愛らしさがすっかり消え、凛とした荒々しさとも言うべき雰囲気が漂っていた。

 

ゴクリ、と誰かの生唾を飲み込む音が聞こえた。その瞬間、どこからともなく音楽が流れ出した。

 

そこからはイアの独壇場だった。

華奢な四肢からは想像もつかない激しい振り付け。

お手玉を使った軽やかなパフォーマンス。

なによりノリやすいポップな曲に、よく通る声で紡がれる歌声は圧巻の一言だ。

どれをとっても完璧だった。ギャラリーから少なからず歓声が上がり、確実に場が沸いているのが分かる。

 

そんな中、ゆかりは一人震えていた。

 

イアの勇姿に感動して。

イアの才能に嫉妬して。

様々な感情がゆかりの胸中に入り乱れる。だがその中でも一際強い思いは、自分への憤りだった。

イアに嫉妬できるほど努力したのか?

一体何様のつもりで彼女を評価しているのか?

自分で自分を殴りたい思いだった。そんな醜い感情を抱くことしか出来ない自分が腹立たしかった。

 

気付いた時には演奏は終わり、イアの額には玉のような汗が滲んでいた。

 

拍手と歓声、それと若干の心配の声が上がるが、イアの視線はジッとゆかりを捉えていた。

そして何を思ったのか、イアはゆかりに向かって手のひらを向けるとこう言った。

 

「ありがとうございました。では、次は結月ゆかりさんの演奏をお聴きください」

 

イアの突然の第三者の指名に、ギャラリーがザワザワと騒ぎ立てる。

もちろんゆかりも狼狽えた。

確かに、イアの路上ライブを見終わった後、今度はゆかりの路上ライブにイアを連れていくつもりだった。けれど、まさか指名されてこの場で演奏するなんて考えてなかったのだ。

イアが差し示す先のゆかりに、次第に視線が集まってくる。もはや逃げ場はなかった。

 

ゆかりはひとつ、深呼吸をすると、意を決して前に出てギターを構えた。

 

眼前には期待の眼差しを向けてくる観衆。真横には目を輝かせて見てくるイア。

今までの人生の中で、ここまで注目を浴びたことはない。ゆかりの心の準備などお構い無しに、人生最大最初の魅せ場が訪れていた。

 

さあ、今こそヌケガラな自分を脱する時だ。

 

 

 

 

 

 

──これではまるで、イアちゃんの人気に便乗するセコイ奴だ。

 

前奏の最中、私のちっぽけな誇り(プライド)がそう叫んだ。

だけどその通りだ。イアちゃんが集めた観衆に、なんで私みたいなぽっと出が演奏する資格なんてあるのか。

イアが目的で来た人たちの白い目が目に浮かぶようで、私はギターを弾くのに集中する態で顔は下を向きっぱなしだった。

それでも手は止まらない。

お膳立てされた舞台だろうが構わない、歌え、聞け、私の魂を魅ろ!と心の中のもう一人の自分が叫ぶ。

 

息を吸って、吐く。

 

そして歌い出した瞬間、私のプライドは埃のようにどこかへ飛んでいった。

後はもうガムシャラだった。

一心不乱に叫ぶ。昂る。掻き鳴らす。

もう抜け殻な日々は勘弁だ。何もしない時間はもう終わり、やっちまったモンが勝ちの世の中に足を踏み入れろ。

何回ミスしてもいい。というか既に数え切れないほどコードはミスしてる。

でも私は止まらない、止められない。止まりたくない。

人生なんて恥晒しの連続だ。そんなものにいちいち足を止めてたらキリがない。

行け、突っ走れ。歌うように叫べ。

これは私の恥晒しな人生の、第一歩目だ。

 

 

 

 

 

 

「っはぁ、はぁ!…っあ、ありがとっ、ございました…!」

全てを出し切った演奏に、ゆかりは息を切らしてなんとかそれだけ言った。

かつてこれほど真剣に奏でた事があっただろうか。全身汗だくで呼吸は苦しくて、今までにない疲労感が全身を包んでいた。

ても、決してイヤじゃない。不思議な感覚だった。

 

「ゆかりさん。カッコよかったよ」

 

ふと頭の上から、優しい声が掛けられた。

見上げれば、そこには微笑みを浮かべた天使が手を差し伸べてくれていた。いつの間にかいつもの服装に戻ったイアだった。

そんな彼女を見ると、ゆかりは感極まって視界がじわりと滲んだ。

 

「イ、イアちゃん…!ありがとうございます!!」

 

ゆかりは縋るようにその手を取った。途端、周りから歓声が上がる。

ゆかりはハッとなって辺りを見渡せば、ギャラリーからの盛大な拍手がようやくその耳に届いた。

 

「こ、これは…」

 

「みんな、ゆかりさんの演奏に聞き入ってたんだよ。やっぱり、ゆかりさんは凄いミュージシャンだね!」

 

屈託のない笑顔でそう言われ、ゆかりは遅まきながら自分のやった事の成果を実感してきた。

再び零れ落ちそうになる雫をなんとか押し留めて、ゆかりは無い胸でふんぞり返った。

「…っふふん!そうでしょう?私が本気を出せば、このくらいトーゼンです!」

 

そんな虚勢を張るゆかりに、イア以外から声を掛けられた。

 

「まったく。やる気を出すのに時間かかり過ぎだよ、ゆかりちゃん」

 

「……本当ですよ。……貴女は才能あるんですから、もっと頑張ってください」

 

「マキさん!?それにハクさんも…」

 

ギャラリーの中から突然見知った顔が出てきて、ゆかりはぎょっとした。イアはそんな二人へ手を振っていて、まるで二人が来ていることを知っていたようだ。

 

「昨日ぶりー、イアちゃん」

 

「昨日ぶり、です。マキさん」

 

「ちょちょっ!?なんでマキさん、もうイアちゃんと仲良くなってるんですか!?」

 

二人が仲良く手を振りあっている光景にゆかりが目を剥く。

そんな慌てふためくゆかりに、マキは勝ち誇ったような表情で説明した。

 

「昨日の路上ライブの後にちょっとね。ゆかりちゃんから特徴聞いてたから、直ぐにこの子がイアちゃんだって分かったよ」

 

「私も、ゆかりさんからマキさんのお話を聞いてたから…」

 

確かに、いつぞやか頼れる先輩としてマキの話をイアにしていたが、自分の知らない内に二人が仲良くなっていたと思うとゆかりはなんだか面白くなかった。

あからさまに頬を膨らませるゆかりにマキは苦笑していると、ハクが間に割って入ってきてイアとゆかりの手を取り、鼻息荒くこう言った。

 

「……私の見立ては間違ってなかった。……そんな訳でゆかりさん、イアさん。貴女たち、ユニットを組んで活動しませんか?」

 

「え、え?急になんですかハクさん!?」

 

「ゆにっ……と?」

 

目を白黒させるゆかりを他所に、可愛らしく首を傾げたイアの質問にハクが答えた。

 

「……ゆかりさんと組んで、本格的に音楽活動を始めませんか?もちろん無理強いはしません。……まぁ、ゲームオタクで引きこもりで出不精なゆかりと組むのが嫌であれば、ソロという線でも良いのですが……」

 

「ちょっとハクさん?余計な情報は入れなくていいんですよ?」

 

ゆかりの抗議の声をガン無視してイアにだけ視線を向けるハク。

だがユニットの説明をされたイアは、ふとゆかりに向き直った。

 

「ゆかりさんと一緒……」

 

「……あ。……イ、イアちゃんが嫌なら、無理しなくても……」

 

思案顔のイアに、一抹の不安が過ぎったゆかりが分かりやすくオロオロと狼狽えた。

それを見てイアもあわあわと慌てて言葉を紡いだ。

 

「う、ううん、違うの。嬉しいの。是非、やらせてください!」

 

「イアちゃん……!」

 

イアの返事にあからさまにホッとしたゆかりは、衝動的にイアに抱き着いた。

突然の抱擁にイアは一瞬驚いた様子だったが、すぐにその手を背中に回してギュッ、と返した。

 

「うんうん。青春だねぇ」

 

ゆかりの目の前でマキが感慨深く頷いていて、「ちゃ、茶化さないでください!」と抗議の声を上げる。しかし抱擁は頑なに離さなかった。

 

「……、そうですね。ユニット名は『ふたりはゆかいあ!』でいきましょう!」

 

そんな仲睦まじい少女たちに、ハクがプロデュースに燃えた目で力強くそう言った。ハクは某少女アニメの大ファンだった。大きいお友達とも言う。

ゆかりは「いやそれはちょっと……」と引き気味に否定して、イアは首を傾げた。よく分かっていないようだ。

ゆかりは改めてイアに向き直る。

 

「ハクさんは置いといて、イアちゃん。本当に私と組んでくれるんですか?」

 

「はい!正直、何をするのかよく分からないけど、ゆかりさんと一緒ならなんでも出来る気がします!」

 

そんなことを言われては、ゆかりはもう感激が頂点に達して悶える思いだ。

堪らずもう一度力強く抱き締めた後、満面の笑みで手を差し出した。

 

「それじゃあイアちゃん、これからよろしくお願いします!」

 

「うん。こちらこそ、よろしくね。ゆかりさん」

 

二人は手を繋いで、青空に照らされて光る道の上を同時に歩き出した。

 

 

 

 





ゆかいあぁ……

第一部的なの、完。
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