ARIA星人イアちゃんと出会った結月ゆかりの青春模様   作:へるしぃーぼでぃ

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作中想定曲『カピパラではなく、カピバラです』。217-8089-7


ゆかりとイア、カピバラと遭遇する

 

暗い闇が無限に拡がる宇宙空間。その中でポツリと浮かぶ青い惑星、地球。

数多の生命を抱えるその星に今、ひとつのオレンジ色の光が迫ろうとしていた。

そのオレンジ色の光には意思があり、明確な目的を持ってその地球へと迫っていた。

 

「待ってて、姉さん……!」

 

その光は日本という島国の、とあるアパートの下に降り立つこととなる。

 

 

 

☆☆☆

 

 

それはある日の昼下がり。暑い夏が終わり、秋の風を感じるようになった過ごしやすい日のことだった。

今日も今日とてゆかりの部屋にお邪魔していたイアは、本日はゆかりと共にミクのライブDVDを観て盛り上がっているところだった。

 

「いやーやっぱりミクちゃんのライブは圧巻ですねー。格が違いますよ、格が」

 

「ミクさん、あんなに大勢の人の前で堂々としててすごい……」

 

最後の演奏が終わり、二人して感嘆の声を漏らす。

2人は弱音ハクプロデュースの下『ふたりはゆかいあ!』(仮)というユニットを組むことになり、歌手として先輩である初音ミクのライブを観て勉強していたのだ。

今まではいちファンとして観ていたゆかりは、立場が変わって改めて観ると発見が多く。

イアは単純にパフォーマンスに感嘆し、2人は時間を忘れてミクの凄さに魅入っていた。

 

観賞すること1時間後──

 

観終わったDVDを取り出そうと立ち上がったゆかりだが、ふと背後から「くるるる」と可愛らしい音が聞こえた。

振り返ると、自分のお腹を見つめながらお腹をさするイアが。

ゆかりは時計を見ると、すでに正午を超えていた。丁度いいタイミングで観終わったようだ。

 

「お昼ごはんにしますか。イアちゃん、何が食べたいですか?」

 

ゆかりはテレビの電源を消し、昼餉のリクエストを尋ねる。するとイアは間髪入れず答えた。

 

「んーとね、ほたて!」

 

「ホントに大好きですねほたて……。じゃあお寿司屋さんに行きましょう」

 

イアが毎度の如く挙げる好物に呆れながら、ゆかりは外出の身支度をする。

イアは嬉しそうに玄関に向かいながら「ほたて~♪ほたて~♪」と愉快な歌を歌っていた。頭のてっぺんに生えるアホ毛もピコピコ動いていて、たいへん可愛い。

ゆかりは「アレはどういう仕組みなのかしらん?」と首を傾げたが、宇宙人説を思い出して考えるのをやめた。イアちゃんは不思議生物なのだ。

 

そうして2人して玄関を出て鍵を閉めようとしたゆかりは、ふと視界の端っこに何か妙なものを捉えた。

 

隣の部屋、つまりイアの玄関口の前に、タワシのような、しかしそれにしては巨大な物体が、異様な存在感を放ってそこに置いてあったのだ。

ゆかりが眉をひそめてそれを見やる。だがやはりタワシにしか見えない。

ゆかりは隣のイアに確認した。

 

「なんですかアレ?イアちゃん、通販で巨大なタワシでも買いました?」

 

「ううん。なんだろうね、あれ」

 

イアに覚えがないとすると、アレは一体何なのか。

ゆかりとイアが近づいて見ようと一歩踏み出すと、そのタワシがピクンと動いた。どうやら生物のようである。

 

「ゆかりさん。動いたよ、あれ」

 

「そうですね。どんな生物か分かりません、イアちゃん私の後ろに」

 

自分たちよりはるかに小さい生物だが、注意するに越したことはない。ゆかりは最大限の注意を払って、そのタワシ型生物の動きを注視した。

果たして、その生物が顔をこちらに向けた。

真っ先に反応したのはイアだった。

 

「あ!カピパラ!」

 

「違いますイアちゃん。カビパラです」

 

ゆかりが訂正するが、しかし彼女も間違えていた。正しくは『カピバラ』である。

2人の間違いを抗議するかのように、カピバラ本人も「ゴッ、ンゴッ!」と鳴いた。

そう、そこに居たのは紛うことなきカピバラだった。タワシではなかった。遠目から見ると巨大なタワシのように見える珍しい生物が、何故かイアの玄関先に居たのだ。

謎の生物の正体が分かると、2人は一気に距離を縮めた。

 

「うわー可愛いですね。動物園から逃げ出してきちゃったんでしょうか?」

 

「わっ、毛が硬い。本当にタワシみたいだね」

 

「キュルキュル」

 

イアが無自覚にタワシ扱いするが、しかしカピバラ本人はイアに撫でられてご満悦なようでイアの手のひらに頬擦りしてきた。

それに気を良くしたイアがさらに撫でる。

 

「あ、イアちゃん、私も触りたいです」

 

速攻で仲良くなっている1人と1匹に、その隣でゆかりが手を出しあぐねてソワソワしていた。

イアが左に半歩ズレると、ゆかりは待ってましたとばかりに頭に手を伸ばした。

 

「ゴッ」

 

「あ」

 

しかしその手は空を切った。

カピバラは流れるような動作でゆかりの手を回避すると、イアの左手に頭を擦り付けたのだ。ゆかりはイアの右側に居るので、必然的に手が届かない。

ゆかりの口がヒクッと引き攣る。

 

「ちょ、ちょっとカビパラさん?私にも撫でさせてくださいよ〜」

 

ゆかりもイアの左側に回るが、カピバラは今度は右側に行ってしまう。

ゆかりは明らかに避けられていた。

ゆかりが絶望の表情を浮かべてイアに泣きついた。

 

「イ、イアちゃーーん!!」

 

「よしよし、ゆかりさん」

 

抱き着いてきたゆかりに、イアは優しくその頭を撫でた。

 

「ゴッ!ゴッ!」

 

その足下ではカピバラが抗議するような鳴き声を上げ、さっきとは打って変わってゆかりの足へタックルをかましていた。

このカピバラ、相当ゆかりの事が気に食わないらしい。

 

「あ!?ちょ、痛いです!っもう、なんで私嫌われてるんですか!?初対面ですよね私達!」

 

ゆかりがぷんすか怒り、頭突きしてくるカピバラをひょいと持ち上げた。そしてその顔面を睨みつける。

 

見つめ合うカピバラとゆかり。

 

だがそれも一瞬。

カピバラがその短い前足でシャッ、とゆかりの顔を引っ掻いた。

 

「ほぎゃぁぁああああ!!?!?目が!目がァァアア!?」

 

雲ひとつない晴天の空に、ゆかりの絶叫が響いた。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「…では、この子の処遇について検討したいと思います」

 

ランチを断念して冷凍ピラフで済ませた2人は、イアの部屋にてこのカピバラをどうするかを話し合っていた。

件のカピバラには野菜スティックを与え、今もイアの膝の上でポリポリと大人しく食べている。

その姿を見て、ゆかりは呆れるようにため息をこぼした。

 

「それにしても、なんでイアちゃんにそんなに懐いてるんですかね?」

 

「うーん、分かんない。…けど、私もなんだか、この子に見覚えがあるんだ」

 

「え、本当ですか?でもカビパラなんて珍しい生き物、一体どこで……」

 

「えっと、あのね、カピパラさん自体じゃなくて、雰囲気とか動きを見てて、なんだか懐かしい気持ちになるの」

 

「???」

 

イアの言葉にますますワケが分からなくなるゆかり。しかしイア自身も確信がなく、もどかしさを募らせていた。

カピバラは2人の会話に「グゥ」と唸る。

しばらく頭の中で色々考えていたゆかりが、ふと何かに気付いた様子で鼻をヒクヒクと動かした。そして眉をしかめてズバリと言った。

 

「それにしても、ちょっとこの子クサくないですか?」

 

「ずっとお外に居たみたいだし、…よく見ると、結構ホコリだらけだね」

 

「グゥ」

 

イアが背中を撫でると少し砂埃が舞った。どれだけ外にいたのかは分からないが、汚れている事は確かである。

ゆかりが意気込んで立ち上がった。

 

「このまま考えててもしょうがないですし、まずはこの子をお風呂に入れてキレイにしましょう。イアちゃんの部屋が汚れる前に」

 

「私は気にしないよ」とイアは言うが、カピバラをキレイにする事には賛成らしく、抱えたカピバラを降ろしお風呂を汲みにバスルームへ向かった。

突然降ろされたカピバラは健気にその後を付いて行こうとするが、汚れた状態で部屋を動き回るのは良くない、ゆかりが背後から捕まえて抱えた。

カピバラは一瞬暴れようとしたが、自身の歩いた所に足跡がクッキリ残っているのを見ると大人しくなった。どうやら部屋を汚していることを理解したようである。

 

(へえ、賢い子ですね。……これで私にも懐けば言うことないんですがねぇ)

 

大人しくはなったが、ゆかりに抱えられている事は相当イヤらしく肩に爪が食い込んでいる。血こそ出ないものの、絶妙な痛さを与えてくれていた。

痛みに耐えながらゆかりはバスルームに着くと、イアがシャワーの温度を確かめているところだった。

それと同時、ゆかりとカピバラはその光景に「ブホッ!?」とむせた。

 

「あ、ゆかりさん。カピパラさんを浴槽の方にお願いします」

 

そうにこやかに言うイアは今、バスタオル1枚というとても扇情的な格好をしていた。胸からお尻にかけて巻き付けられたタオルの、なんと頼りないことか。

触れたら折れそうなほど華奢な肩に、慎ましくも確かにある2つの双丘。視線を下げれば、輝く太ももがたいへん目に眩しい。

ゆかりとカピバラはしばらく見惚れて呆然としていたが、カピバラがハッとなると「見るんじゃねぇ!」と言わんばかりにその短い手でゆかりの視界を遮った。

 

「わわ!?ちょ、前が見えなっ!?」

 

急に視界を塞がれて焦ったゆかりは、風呂場と通路の段差に躓きバランスを崩してしまう。

そして倒れた先にはイアが…

 

「わぁ!?」

 

「きゃあ!?」

 

「……ったた、ッ!?イアちゃん大丈夫ですか!?」

 

「う、うん。ゆかりさんこそ、大丈夫?」

 

イアを巻き込み転倒してしまい、まるで押し倒したような状況になってしまっていた。カピバラは2人の間に挟まれ「ぎゅぅ……」と苦しそうに呻いている。

幸いケガはなかったが、イアが持っていたシャワーヘッドが転がって水を撒き散らし、3人ともびしょ濡れになっていた。ゆかりのもみあげがイアの頬にへばりついている。

 

「うぅ、服が張り付いて重いです…」

 

「みんな濡れちゃったね。このままだと風邪引いちゃうし、お風呂に入ろっか」

 

ドドドド!と勢いよくお湯が溜まる中、イアの台詞にゆかりとカピバラがゴクリと喉を鳴らした。

 

「えっイアちゃん、それはつまり……一緒に沐浴……?」

 

「?、うん。待ってたら身体が冷えちゃうし、一緒に入ろう?」

 

イアの純真無垢な瞳が、欲に塗れたゆかりに向かって微笑んだ。

 

 

☆☆☆

 

 

 

かぽーん、と、プラスチック製の桶から、なんとも気の抜ける音が響いた。

浴槽になみなみと注がれたお湯から沸き立つ湯気により、そこかしこに水滴が浮かんでタイルや壁を伝う。そこに浸かる2人の額にも、水滴の他に汗も混じり頬から水面へと落ちていった。

 

「ふふ、ちょっと狭いね、ゆかりさん」

 

「ェ、エエ、ソウデスネ、イアチャン」

 

ニコニコと嬉しそうにはにかむイアを前に、ゆかりはカタコトで返した。

2人は今、足も伸ばせない浴槽の中で向かい合ってお湯に浸かっていた。お互い体育座りの姿勢だが、少し動けばイロイロな場所に当たってしまいそうでゆかりは気が気でない。

当然、湯船に浸かっているためタオルも装備されていない。一糸まとわぬ姿、生まれたままの姿だ。ゆかりの緊張もひとしおというものである。

そんなゆかりの心境を知ってか知らずか、イアは暢気に頭に巻かれたタオルと格闘していた。

 

「あ、あ、解けてきちゃった。ゆ、ゆかりさんっ」

 

「ア、ハイ」

 

髪の毛が浸からないよう頭に巻いていたタオルが緩み始め、イアが助けを求める。ゆかりは理性を総動員して無心で腕を伸ばした。

と、その時。ゆかりの手に毛むくじゃらの物体が絡まった。2人の間でプカプカ浮かんでいたカピバラが、お湯から出そうとしたゆかりの手を掴んだのだ。

ゆかりはムッと眉をひそめた。

 

「ちょっとカビパラさん?離してください、イアちゃんの綺麗な御髪(おぐし)がお風呂に浸かっちゃいますよ?」

 

「グゥ!」

 

ゆかりの言い分に、しかしカピバラは激しく威嚇してイアに触らせようとしない。2人の間にバチバチと火花が散った。

そんな攻防をする1人と1匹を余所に、自力でタオルを巻き直したイアが間に入った。

 

「ゆかりさんとカピバラさん、そんなに見つめあって、仲がいいんだね」

 

「えっ!?いや、仲良くないですよ、むしろ嫌われてますって」

 

「フゴッ!ゴッ!」

 

2人して抗議の声を上げるが、しかしイアはどこ吹く風、ニコニコと笑顔を振りまく。

 

「あ、そういえば、昨日ハクさんから柚子を貰ったんだ。なんだか早く採れたんだって。私、持ってくるね」

 

そう言っておもむろに立ち上がるイア。反射的に視線を逸らすゆかりとカピバラ。

イアは水しぶきを立てずにゆっくりとした動作で湯船から出ると、タオルを羽織りバスルームの外へ出ていった。

残されたゆかりとカピバラはしばらくその後ろ姿に見惚れてポカンとしていたが、互いに顔を向けるとゆかりが毒気を抜かれたように苦笑した。

 

「イアちゃんに気を使われてしまいましたね。…カピバラさん、この際私の事は嫌いでいいですから、せめてイアちゃんの前では愛想よくしましょう?」

 

ゆかりの問いにカピバラは「……キュル」と頷いた……、ように見えた。冷静に考えれば、カピバラ相手に言葉が伝わるハズもない。ゆかりは自分に呆れて再び苦笑したが、目の前のカピバラには不思議と明確な意思が見て取れるのだ。

 

「それじゃあ、改めてよろしくお願いしますね、カピバラさん」

 

ゆかりは親しみを込めて手を差し出した。

カピバラもその短い手を、渋々といった様子で差し出す。

そして互いの指先がチョン、と触れた時、その現象は起こった。

 

カッ!!と、カピバラの全身が急にオレンジ色に発光しだしたのだ。

 

「な、なんですかァ!?」

 

ゆかりが腕で光を遮るが、ふと脳裏に似たような現象があった事を思い出した。

 

(この光はっ、イアちゃんが天から舞い降りてきた時とか、エナドリ飲んだ時と既視感がっ!)

 

果たして、ゆかりの想像は当たった。

 

「わあ!?」

 

「ぎゅあ!?」

 

初めて聞く声音の悲鳴のあと、ゆかりの体に急に重い物体がのしかかってきた。お腹を押し潰されて変な声が出る。

 

それもそのはず。1人の少女が急に現れ、ただでさえ狭い浴槽を圧迫したからだ。

 

ゆかりは痛みに耐えながらその少女を見やる。

イアと同じ髪色をした短髪の少女だ。顔立ちや雰囲気もイアに似ている。しかしその碧眼の瞳はこちらをキツく睨んでいて、鼻の頭が当たりそうなほどの至近距離からガンを飛ばしてきていた。オレンジ色の服が水に浸り、水面を揺蕩う。

 

「……え、えーと、どちら様?」

 

状況を整理できないゆかりがなんとかそれだけ言う。

初対面の少女に睨まれる覚えがまったくないので、ただただ困惑するばかりだ。

それに対して、目の前の少女が綺麗な、しかしドスの効いた声で返した。

 

「それはこっちのセリフ。アナタこそ一体どこの馬の骨?私の姉さんにあんなに気安く…っ」

 

「えっ、姉さんって……」

 

少女のセリフにきょとんとしていると、バスルームの外から丁度イアが帰ってきた。その手にはビニール袋が握られ、中には柚子が溢れんばかりに入っている。

 

「ゆかりさん大丈夫!?なんだか大きな音が聞こえた……っ、けど……」

 

イアの声が段々尻すぼんでいき、ビニール袋から柚子がポトポト落ちた。

ゆかりに迫る少女を見て、目を見開いて驚いている。

 

「オネちゃん……?」

 

「姉さん!」

 

オネ、と呼ばれた少女が浴槽から飛び出すと、イアに抱き着いた。

そして未だに状況を理解出来ていないゆかりをオネはキッ!と睨みつけると、犬歯をむき出して言った。

 

「さっきはカピバラ状態だったから仕方なく停戦しようとしたけど、元に戻ったからにはもう、姉さんに指1本触れさせないからね!」

 

指をびしぃっ!と突き立てそう宣言するオネ。突然の展開に、イアはぽけっとしている。

そしてイア接触禁止を言い渡されたゆかりは、何やらわなわなと震えていた。

その口から絞り出すような声で質問する。

 

「おふたりは……、姉妹、なんですか?」

 

「え、うん。ゆかりさん、紹介するね。この子は妹のオネだよ。オネちゃん、この人は結月ゆかりさん。私が地球に来てから、たくさんお世話になってる優しい人だよ」

 

イアが簡潔に双方の紹介をする。

その紹介された2人はというと、正反対のリアクションを取った。

 

「オネ、ちゃん……ですとっ!?ショートヘアつり目版イアちゃんじゃないですか!?!?」

 

「姉さん、私にはコイツが優しい人には見えない。下心丸出しのアブないやつだよ」

 

興奮した様子で湯船からザバリと立ち上がったゆかりに、オネはイアを庇いながら辛辣な言葉を投げた。裸で迫ってくるゆかりをゴミを見る目で見る。

 

「ぁあ…!まるでイアちゃんに蔑まれてるよう…!」

 

「……救いようのない変態で間違いないよ、コイツ」

 

ハァハァと興奮するゆかりに、ドン引きするオネが戦闘態勢に移った、その時。

 

「くちゅんっ」

 

と、可愛らしい音がバスルームに響いた。

ゆかりとオネが音のした方を見やると、イアが両手で鼻を抑えていた。イアがくしゃみをしたのだ。

2人は直ぐにハッとなって慌てた。

 

「ね、姉さん!ごめんなさい……、そんな格好で放置してッ」

 

「イアちゃん!早くお風呂に浸かって!!身体あっためて!!!」

 

あわあわと慌てふためくゆかりとオネだが、イアは「大丈夫だよ」とはにかんだ。

 

「それよりも、オネもびしょ濡れだね。じゃあ、みんなで入ろっか」

 

「え?」

 

「え?」

 

柚子を拾いながらそう言うイアに、ゆかりとオネは呆けた声をあげた。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

ゴゥンゴウン……と、洗面所の方から洗濯機の稼働する音が聞こえてくる。脱いだついでに入れたイアの服と、濡れてしまったゆかりの服にオネの服と、すべて纏めて洗っているのだ。

そんな服の持ち主たちはというと、彼女たちは1人用バスタブの中に3人、ぎゅうぎゅうになってお湯に浸かっていた。反面、柚子たちは悠々と気ままに水面を漂っていて気持ちよさそうだ。

イアに背を預けるオネと、その姉妹にゆかりが独り向かい合っている形だ。

 

「……で、貴女はなんでカピバラに変身してたんですか?」

 

全員が湯船に入って身体が温まった頃、ゆかりが早速とばかりに今回の最大の疑問をぶつけた。

それに対してオネはギロリと睨みつけると、つっけんどんに答えた。

 

「は?なんでアナタにそんな事言わなきゃなの?」

 

オネのそんな態度にゆかりは苦笑するが、イアの表情を見てギクリとした。

彼女の顔が、とても哀しそうに歪んでいたからだ。

 

「オネ、何でそんな言い方するの?ゆかりさん、何か悪いことしたの?」

 

「え……、いや、だって、コイツは……」

 

イアの問いにオネはしどろもどろになる。

焦りからおろおろするオネを、イアは戒めるようにぎゅっと抱きしめた。

 

「コイツ、なんて言っちゃダメだよ。結月ゆかりさん、だよ。……それで、なんでオネはゆかりさんにそんな物腰をとっちゃうの?」

 

「そ、それは……っ」

 

オネは水面を見つめるようにしばらく俯いていたが、やがて意を決したのか顔を上げると、真っ赤になって叫んだ。

 

「コイツ……ッゆ、ゆかりが!!私のお姉ちゃん(・・・・・)に四六時中まとわりついてるからだよ!!!」

 

だよ──……だよ──……、とオネの叫びがバスルームに反響する。

イアとゆかりはポカンとするが、興奮したオネはそんな2人に気付く様子もなく堰を切ったように喋り始めた。

 

「地球に行っちゃったイアが心配でアリアからずっと見てたけど、なんなんだお前は!?ずっとお姉ちゃんにベタベタして羨ましッ、ストーカーかよ!!いっつもお姉ちゃんのこと変な目で見てるし!変なもみあげしてるし!!お前なんか、お前なんかッ!!」

 

すーっ、と空気をたっぷり吸い込み、叫んだ。

 

「タンスの角に小指ぶつけ続けちゃえーーーッ!!!!」

 

ふーッ!ふーッ!と息を荒立てるオネ。

そんな彼女に対し、イアとゆかりは互いに視線を合わせると、ふっ、と綻んだ。

荒ぶるオネの頭にイアが手のひらを乗せると、愛おしそうに撫でた。

 

「オネちゃん、私もね、地球に来てから……、ううん、実は地球に来る前から、ホントは不安だったの。近くにオネやアリアの皆も居なくて、独りだったから。でもね、地球に降りて初めて会ったゆかりさんが優しく丁寧に接してくれて、私は凄く安心できたんだ」

 

イアはそこでひと区切りすると、ゆかりを見つめて言った。

 

「ありがとう、ゆかりさん。ゆかりさんに出会えて、私は今、すごく幸せだよ」

 

「イアちゃん……っ」

 

その言葉にゆかりが恥ずかしそうにもじもじニヤニヤする。イアはニコニコと嬉しそうだ。

そんな惚気空間に挟まれたオネは、ひとり寂しそうに身を縮こませた。自分が蚊帳の外に居るようで息が詰まりそうだったのだ。

 

だがそんな妹を、姉が放っておくハズがない。

 

妹を抱き抱えるようにして座るイアは、オネのつむじに顎を乗せて抱擁に力を込めた。

 

「でもね、オネが来てくれて、私はもっと嬉しいんだ。心強い、って言ってもいいかな。私たちはいつも2人だったもんね」

 

それを聞いたオネの目尻に雫が溜まる。

 

「お姉ちゃん……、ごめんなさい。私、寂しかったんだ。お姉ちゃんが地球に行っちゃって、お姉ちゃんが知らない人と仲良くしてるのを見て、お姉ちゃんは私やアリアの事を忘れちゃうんじゃないかって、怖かったんだ」

 

「大丈夫だよ。私は絶対、オネやアリアのことを忘れたりなんかしない。いつも想ってるよ」

 

涙目な瞳を瞑り、イアに身体を預けるオネ。

そんな2人の様子を暖かい目で見守っていたゆかりだが、ふと何かに気付くとニヤニヤしだした。

 

「そういえばオネさん、アナタ最初はイアちゃんの事『姉さん』って言ってたのに、いつの間にか『お姉ちゃん』呼びになってますよ。普段はそっちが素なんですね」

 

「んなっ!?」

 

ゆかりの指摘に、オネの顔は真っ赤になり両サイドの跳ねた髪としっぽ髪がピコピコ動く。

それを見たゆかりは「あ、アナタはそこが動くんですね」と冷静に観察した。

焦りと恥ずかしさからぐるぐる目になるオネを宥めながら、イアは質問を戻した。

 

「それでオネは、なんでカピパラさんになってたの?」

 

「イアちゃん、カビパラですよ」

 

「違います!カピバラです!」

 

バスルームに三者三様の声が響いた。

オネの話を聞くと、地球に降り立ったら既にカピバラ状態だったという。

 

それを聞いたイアが仮説を立てた(テキトーなARIAパゥワーの説明なので読まなくても可)。

 

それはアリアの七色のエネルギーを持つイアに対し、オネはオレンジのエネルギーしか持っていない。

一色だけでも強力なエネルギーではあるが、なにせ降り立つ先は惑星そのものの地球だ。その結果、衝突した際エネルギーが混じり合い、オネの姿が変化してしまったのだろうと考えられた。ただし、何故カピバラなのかは一切合切謎である。

 

「いや、当たり前のように言ってますけど、そもそも七色のエネルギーとかオレンジとか、何なんですか?」

 

姉の言葉にオネがうんうんと傾聴する傍ら、ゆかりはワケが分からないと疑問符を浮べた。

だがしかし、この場に詳しく説明できる者は居なかった。アリアは謎に満ちているのだ。

 

「まあ過ぎた話はもういいよ。それより、私もここに住むからね。当然、姉妹なので姉さんと同室です」

 

気を取り直したオネがふんすっ、とゆかりを睨みながら言う。これ以上イアには触れさせないという意気込みがダダ漏れだ。

しかし、その想いはイアによって打ち砕かれた。

 

「あ、オネちゃん。ここに住むなら、まずはハクさんに申請して許可を貰ってね。それと同部屋は出来なくって、1人ひと部屋なんだって」

 

その瞬間、オネの表情が絶望に染まったのは言うまでもない。

 

 

 

『声』を扱う職業を生業とした人たちが集まる、コーポ『ふぁ〜すとぷれいす』。

今日、宙から舞い降りたこのカピバラが新たに入居し、後日、ゲーム実況や姉妹ライブで人気を博すことになるとは、この時はまだ誰にも想像がつかなかった。

 

「いやもうカピバラじゃないしっ」

 

 

 

 




カピパラ!
カビバラ
カピバラ
カビパラ
鬼天竺鼠
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