機動戦士ガンダムGHOST   作:朱色の空☁️

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第11話

 筋肉痛です……伸びてます……グッタリです……

 偵察機として動かすとしても最低限の筋肉くらい付けておけって事でトレーニングさせられた……。

 

 という事で、あてがわれた部屋で伸びています。

 

「学校の体育のあのパワーはどこ行ったんだ?」

 

「ノリとその場の勢いで動いてました……」

 

 ちなみに、今志条が腕とか足とかマッサージしてくれてる。

 最初は困惑してたけどなんか慣れたみたいで、強めにやったり弱めにやったりして物理的に癒してくれてます。

 

「医療軍団の人にやってもらった方がいいんじゃないのか?」

 

「私が心許してるのは志条だから。少なくとも泣きつくくらいには」

 

「知られてないみたいでよかったな」

 

「ティファニーさんとか松原さんにバレたら恥ずかしいよ、コレ」

 

 多分知ってて知らないふりしてるだけなんだろうな、松原さんとかティファニーさんとか。

 荒川さんとホールデンさんにはあれから会えていない。

 多分忙しいと思うけど、何か作戦の構築でもしてるんだと思う。

 

「……志条さ、相部屋になったりこうしてマッサージしてるけどさ、何もしてこないよね」

 

「何かして欲しいのか?」

 

「そ、そういうのじゃないけどさ……付き合いたての人とかはそういう欲求って言うのかな、そういう色が時々ちらって見えるんだけどさ、志条にはそういうのが無いから不思議だなって思ったの」

 

「付き合いたて?」

 

「あくまで例え。告白も何もしてないけど、福岡行った時よりそんなに動揺してないからさ」

 

 そう言いながら、自分でも不思議だった。

 傍にいることが当たり前になってきたのに、嫌じゃない。

 むしろ、それが安心だった。

 

「そりゃあまぁ……纏の無防備さには慣れてきたからな。頭と足の位置がひっくり返ったり2段ベットから転げ落ちそうになったり。一応僕男だよ?」

 

「男女とかそういう感覚じゃないんだよね、this is 志条って感じで」

 

 でも、それでも私の胸に灯ってる桜色は変わらないんだけどね。

 恋とか愛とか色で可視化してしまうから他人のそれにはドライになり切れてしまうけど、自分のそれにはまだ困っている。

 

 信頼、とかだったらいいな。

 恋だったら、もっと困ってしまうな。

 愛……絶対それはないな、うん。

 

「整備の方は?」

 

「カンバラさんが四苦八苦しながら。特に伝達系のあのメチャクチャ曲がる光ファイバーがダメらしい。ここでも作れないって」

 

「やっぱりエリア51に運び込むしかないのか……でも衛星通信は基本出来ない」

 

 そう、これがこの世界が恐ろしい点。

 衛星通信が使えないんだ、本当に。

 

 日本の場合は日本独自規格で上げ直した(と荒川さんが予想してる)けど、その他の国の規格は軒並みダメになっている。

 実働状態のマスドライバーは日本以外にはないし、海外のだと使えなくってから結構な時間が経っているから動かせない。

 だから、新しい規格の衛星を上げようと思っても今は無理なんだ。

 

 だから、ピースリキャプチャーは一考を講じた。

 成層圏飛行船を飛ばして何とか通信を確保してあるから、艦隊と飛行船の緯度にそこまでの差が出ていない限りは通信できる。

 逆に飛行船が地平線の向こう側に隠れてしまう時は通信が出来ない。

 

『総員に告ぐ。現時刻より艦隊は、成層圏飛行船通信圏外へ入る。手動操艦を開始せよ』

 

 今日もこの放送が響いた。

 衛星が使えない=GPSが使えないって事だから、この通信圏外に足を踏み込んだら、星の位置を頼りしはじめる。

 

 松原さん曰く他にも方法はあるっぽいけど、ホノルルが大目立ちしてしまうから出来ないって。

 

 昔の船乗りがやったみたいに北極星=北って感じで進んだりする事も出来るし、22世紀の空母らしからぬ海図と計算頼りの航海にシフトチェンジをする。

 

 北極星の位置をセンサーでひたすら追いかけ続けて、六分儀と同じ機能を持ったセンサーで距離を測ったりとか、兎に角工夫が絶えない。

 

 逆に曇った時とか雨降ってる時は足止めを食らったりもするので、崩壊前の世界よりも航海が大変で時間のかかるモノになったらしい。

 

「ごはん、行こうか」

 

「そうだね……ミシミシ言ってる私の脚……」

 

 何とか立ち上がってご飯に行ってみました。

 ここのご飯、美味しいんだよね。

 病院食は味気なかったけど、普通のご飯はちゃんと美味しいんです。

 ……アメリカンだからか、味濃いけどね。

 なお、食べて鍛えて食べて鍛えての繰り返しの日だったので、私が食べた物の大体は腕とか足とかに投入されてます。

 

「で、これからどうしよっか」

 

「ホノルルに着くまでここにお世話になる。シルフの件もあるから、西太平洋艦隊に移乗してみようかと思う」

 

「今の艦隊って、元第7艦隊の領内を航行してるんだよね」

 

「だから行けたとしてもホノルルまでだ。荒川さんが言うには、旧第3艦隊が警戒してた海域をここと同規模の艦隊が周回しているらしい。旗艦名はデイブレイク・フロントライン」

 

「明るい名前が多いね」

 

「夜明けの最前線という意味だ。ん?」

 

 不意打ちでスプーンを突き出してみた。

 偶々子エビが料理に使われてたから山盛りにして突っ込んでやろうかと思ったけどバレてしまった。

 作戦会議もいいけど、冷める前に食べちゃいなさい。

 

 

 ぱくっ

 

 

「纏、エビ嫌いなのか?」

 

「只のいたずら、の積もりだったんだけどな」

 

 動揺も起こさずに一息に食べちゃうとか、このサブパイは鈍感度合いが進んできてる……ッ!

 もう全部かきこんじゃえ。

 

 

 

 ___________________

 

 

 

 

 日本 沖縄県

 戦略機動自衛隊 普天間基地

 

「回収したイーグルトルーパーの情報は?」

 

「それが……無人でした。OSも何も入っていない『空っぽの機体でした』」

 

「そんな馬鹿な事があるかよ、MSは生産国の技術の結晶だぞ?」

 

 第3次国外調査船団は普天間に一旦帰還する事となり、それと合わせて人員と機体の補充が行われた。

 さらに台湾で改修されたイーグルトルーパーと殲兵-5の解析が行われたのだが、イーグルトルーパーの異常性が加速度的に浮き上がってきた。

 

「殲兵-5の方は何の変哲もない有人機です。パイロットは意識不明の重症ですが、命は助かりました。現在基地の医療区画で隔離保護中ですが、話せるようになるまではまだ時間がかかります」

 

「で、ゴーストイーグルか」

 

「分かりやすく説明すると、骨を抜かれてガワだけ使われていたという感じなんです」

 

「そのガワをゴーストが使っていたって事か。痕跡か何か無かったか?」

 

「だからゴーストなんです。足跡一つありません」

 

 ガンダムと交戦したイーグルトルーパーを鹵獲出来たは良いが、何の成果もないとは。

 伊坂は舌打ちをして格納庫からさっさと立ち去るとトレーニングルームに足を運んだ。

 部下を失った自分への戒めなのか、憤りなのかは分からない。

 でも、手練れにやられたかと思ったら幽霊にやられたとは、これでは部下が浮かばれない。

 

「技廠で建造中のアイツならあるいは……だがガンダムのあの攻撃には耐えられない」

 

 GPMS-07B ムラサメ

 ムラクモの性能限界が見えた弐式開発計画を受けて始動した新世代機開発計画の1機であり、純粋な能力向上型として呉で試作1号機が建造されている。

 

 両腕に固定武装として搭載された腕部200ミリ液体装薬式固定砲の火力とマッシブとなった四肢で繰り出す近接戦能力は目を見張るものがある。

 

 

 しかし所詮はムラクモの発展強化版であり、ガンダムとの隔絶した技術差は埋められない。

 

 

(そしてあの艦隊……アレは空母機動艦隊だ。米軍だけじゃない、中国、ロシア、英国空母、日本の軽空母もいた。アレは、消息不明となった鳳翔(ほうしょう)だ)

 

 箝口令が敷かれた事で表立っては動けない。

 政府が外の世界を隠したがっている事はもう散々見ているし嫌というほど分かっている。

 だが、伊坂は考えていた。

 

 これは、好機なんじゃないかと。

 

 外の世界で、「融合炉空母を運用出来るレベルの軍隊」が活動している事は、無法な海外に差し込んだ一筋の光なのだ。

 旧米国は幾つもの空母機動艦隊を運用していたが、その運用には膨大なサポートが必要になる。

 つまり、空母機動艦隊レベルが動いているという事は、そのサポートが出来ていて、そのサポートをするためのインフラが残っているかもしれないという事だ。

 

「海外に法秩序が残された国があるのか……だが、それをどう探す?」

 

 海外にGPSは存在しない。

 何らかの原因で海外製のGPS衛星が全て使用不可能になってしまった事で国外調査艦隊は外洋航海に大きなハードルを抱えていた。

 

 それに、あの大艦隊は日本の領海には入ってこないと思う。

 台湾沖にいたのは確かだが、あれは正規の防衛戦力が飛んでくることはないと判断した上での行動だろう。

 

 無法地帯じゃないなら干渉しない、よく分からない艦隊だ。

 

 乗員の補充と機体の運び込みは明日で終わる。

 それまで、伊坂は考え続けた。

 

 

 

 ⎯⎯⎯⎯⎯

 

 

 

「深浦纏、入ります」

 

「志条惟人、入ります」

 

 荒川さんに呼び出しを食らって作戦室に入ったら、こんなものを渡された。

 

「ガンダム・シルフの修復作業が終了した。慣らし運転を兼ねた哨戒任務を言い渡す。コースは中身を見てくれ」

 

 命令書の入ったタブレットってこんななんだ。

 もっとお堅い感じの文章かと思ったけど、意外と色々書き込んである。

 余計なものは書き込まないすっきりした感じかと思ったけど、採点答案みたいな感じで赤文字で色々書き込んであって「哨戒慣れした地域」ってのがよく分かった。

 

 これだけ色々書き込めるほどデータが集まってるってことなんだ。

 

 タブレットを軽くスワイプすると、航路と天候データ、海流の分布まで出てきた。

 ……これ、先生に見せたら卒論書けるレベルだよ。

 

「この辺りは一通りデータが集まっていて、危険も少ない。いずれ空白地帯のある地域にも飛んでもらうが、今は普通の海域だからな。両名はパイロットスーツ着用の上格納庫105ハンガーに集合、発進後はレイフとの連結を行い任務に入ってもらう」

 

「「分かりました」」

 

「了解と言わせたいが軍人ではないからな。あと、パイロットスーツの下に私服は着るな」

 

「気を付けます……知らなかったとはいえ自分の身で体感しました」

 

「言うな、痛くなるぞ」

 

「まだ繋がりきってないんですよ、ここ。一応固定具巻いたままでもいいですか?」

 

「構わない。哨戒だからそこまでの加減速は起こらないはずだ。それと……コースの内側には決して入らないでほしい」

 

「どういう事ですか?」

 

 荒川さんは難しい顔をして言葉を詰まらせた。

 何か、言いにくい事があるのかな……

 溜息をついた荒川さんがゆっくりと事情を話し始めた。

 

「君のAIを怒らせて空母を乗っ取られたくないからな、正直に説明する。この空域の内側を、我々は不可侵空域と呼んでいる」

 

「不可侵?」

 

 私が思わず聞き返すと、荒川さんは一度だけ、深く呼吸した。

 すると、重たい空気が部屋を満たす。

 

 

 不可侵って言うと、チェルノブイリみたいな感じで入れないのかと思った。

 例えば、原子力事故とか生物兵器汚染、単純な空気の問題や武装勢力の配備など危険は沢山あると思うけど、荒川さんの感じ的に、そういうのじゃないみたい。

 

「過去に、この空域に侵入したMSや無人MAが乗っ取られる事故が起こっている。電子機器で構成された機体は入れないというのが現状での回答だが、真相は分かっていない」

 

「原因不明、ですか」

 

「だから、この空域には入るな。あくまで周回するに留めて欲しい。何かの異常が発生したら即時撤退。それを徹底してもらう」

 

 

 

 ____________

 

 

 羞恥心がマイナス方向に振り切ってしまったから、志条がいようがいまいが構わずさっさと着替えた。

 スーツを引き上げた瞬間、あの──ぎゅっと締め付けられる感覚が胸に走る。

 

 何回か言ったと思うけど、肋骨はまだ完全にはくっ付いていない。

 固定具(バストバンド)で締め付けているせいで、呼吸には少し力が要る。

 でも、笑って痛めることはもう無い。

 流石にもう前みたいに動けるようになってきた。

 

 格納庫に二人で降りると、そこにはピカピカになったシルフが待っていた。

 白銀の装甲が整備灯を反射して輝き、ツインアイがまるで呼吸するみたいに光を瞬かせる。

 

 ──生きてる。

 

 実は、シルフは「常時起動しっぱなし」なんだ。

 AIもだけど、機体そのものだね。

 普通の機体なら電源を落としてから整備するけど、シルフの場合はAIが常に活動を続けているから、完全に停止する事が出来ない。

 シュワブにいた時も基地の予備電力をちょっとずつ消費して生き延びていたんだけど、ここでもそうやっている。

 

 

 そのお礼──というか、恩返しみたいなものなのか。

 シルフは自分の演算能力を使って、他の機体の改修を手伝っていたらしい。

 MSごとに違うバランサーやプラズマジェットの出力特性を調整したり、志条も横でその作業を手伝っていたという。

 

「シルフ、用意は?」

 

 [機体コンディション良好。シュワブ出発時より10.3%のスペック向上を確認]

 

「甘い部分は出来るだけ直しておいた。だが本スペックではないことは頭に入れておけ」

 

「ありがとうございます、カンバラさん」

 

「ふん、壊すんじゃねぇぞ」

 

 カンバラさん、初めて見る機体に静かに興奮してたの知ってるよ、色で。

 独自規格部品で色々面倒な部分もあったと思いますが、ありがとうございます。

 

 

「室温超伝導蓄電池、電圧確認。起動電圧確保、電力供給を外部から電池に切り替え」

 

「レイフからシルフへの応答良好。鳳翔での無人機発艦シークエンス継続中」

 

「フォースフィードバックチェッキングプログラム始動」

 

 [FCS に携行武装のデータインストール完了。40mmケースレスマシンガン、プラズマブレード、空対空ミサイル。なお、ミサイル照準は当AIで行う]

 

「よろしく。使わずに終わって欲しいけど」

 

「全くだ」

 

 [同意]

 

『艦載機エレベーター上昇開始。電磁カタパルト用意始め』

 

 シルフのハンガーを乗せたエレベータがゆっくりと上昇していき、日の光が当たっていく。

 シュワブ発進時よりもシルフの状態が良いし、自分の状態もそこそこ良い。

 

 ガコンッという音でエレベータが止まった。

 慎重に歩行して電磁カタパルトに足を乗せて中腰になると、カタパルトから伸びたアームが下半身をがっちり固定した。

 

 何かもっと……足だけ固定ってのじゃないんだ。

 

『カタパルトと機体の接合を確認、全システムオンライン。超伝導キャパシタ1番から10番、臨界到達。誘導システム異常なし、進路クリア。ガンダム・シルフ、cleared for takeoff。射出タイミングを深浦纏に譲渡します』

 

 操縦桿に籠める力がスッと抜け、もう1回強く握る。

 大丈夫だ、また飛べるようになっているし、自分の状態も大体大丈夫だ。

 

「噴かして!」

 

 [了解]

 

 シルフのプラズマジェットエンジンがアイドリング状態から出力をどんどん上げていく。

 電磁カタパルトで打ち出された後は自分で飛ばないといけないから、発艦規定出力になるまで上げると、私は覚悟を決めた。

 

 

「深浦纏!」

 

「志条惟人!」

 

「「ガンダム・シルフ、行きます!」」

 

 電磁カタパルトに勢いよく押し出されシートに押し付けられた。

 固定具で締め付けていても少しズキズキするな……でも、いける!

 時速200kmで一気に押し出されてあとは……噴かす!

 

 空母の甲板から足先が離れ、浮遊感を覚える。

 

 

 超伝導場が真下に展開されていき、重力が薄くなっていくのを感じていく。

 

 

「飛べ! シルフ!!」

 

 

 その瞬間、私達は重力から解き放たれた。

 

 

 ____________

 

 

 

「ガンダム、発艦しました。続いてレイフ1から3まで射出」

 

 旧海上自衛隊所属軽空母の鳳翔からレイフ3機がものすごい勢いで射出された。

 有人機を縛るGの制約から解き放たれた無人機は瞬く間に音速に到達し、ソニックブームを発生させながらシルフにあっという間に追いついた。

 

 シルフは相対速度を調整して0に近づけると、両腰部と背部にレイフを連結すると哨戒地域に向かって飛び去って行った。

 

 

「速い物だな。データは取れたのか?」

 

「取れています。推力、反応性能、どれをとっても現在所有している米軍機を凌いでいます」

 

「そうか」

 

 荒川は艦橋を後にすると、ホールデンと合流して二人だけで話しを始めた。

 

「ホールデン……本当にこれでよかったんだな?」

 

「ああ。俺達では触れられない空域にガンダムは触れられるかもしれない。だが、空域そのものへの進入は固く禁じている。不可侵空域の境目を飛ぶだけだ」

 

 過去に、無人MAやMSがが何者かに乗っ取られるという異常事態が発生していたが、その不可侵空域というのがシルフが向かった空域のすぐ傍なのだ。

 

 無人MAの乗っ取りという異常事態を受け、ピースリキャプチャーはこの宙域でのMSやMAを用いた哨戒活動を見合わせていて、シルフという「異常なMS」という存在の出現を好機と見て、この哨戒計画が実行された。

 

「シルフが提出したログから、人類製のAIではない事は確かだ。だが、ブラックボックス内部の解析は一切進んでいない。拒まれたのか、そもそも厳重過ぎたのか」

 

「……それでも、飛ばすしかない」

 

 荒川は短くそう言って、静かに背を向けた。

 

 

 _______

 

 

 

「綺麗ね……」

 

「沖縄でも見れるかどうか怪しい位だ。ここまで澄んだ色は初めてだ」

 

 東南アジアの海は、マリンブルーというべきくらいに澄んでいて、目を凝らすと海中の色まで見えそうなほどだ。

 空も晴れていて、雲も少ない。

 沖縄から飛んだ時、台湾のあの時とは比べ物にもならない程の青さで、不可侵空域があると言われてもとても信じられない。

 

 [まもなく、不可侵空域外縁]

 

 機体を左に傾けて、外周をなぞるように飛ぶ。

 電離した空気が空を紫に灼きながら、ゆっくりと周回を始める。

 

「何も……無いね」

 

「いや、あるな」

 

 いつの間にか志条が空域の海面をスキャンしてくれてた。

 それをチラリとみると、中々にえげつない結果が出てきた。

 

 海流とかで大体流されてるけど、ぽつぽつ点在している島には機体の破片が落ちている。

 腕とか、足とか、翼とか、MSとか無人機とかの破片がバラバラと落ちている。

 これ全部、撃墜された機体なんだ……今のところシルフが危険だって言ってこないって事は、外縁を飛ぶくらいなら大丈夫って事ね。

 

 普通のMSでは試せなかったけど、スーパーAI(もっと凄いかも)シルフがいるMSならいざという時は対抗できるかもって事ね。

 実験台みたいにされて嫌な感じ、でも誰かが試さないといけなかったんだよね、コレ。

 

「破片回収はしたいけど、正直降りない方がいいな。纏、このまま頼む」

 

「分かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [警告:不可侵空域中心部より、高速接近する機影を確認]

 

「ッ!?」

 

 不可侵空域から何かが飛んできて、咄嗟に躱した。

 目を凝らしても見えない、でも、何かいる。

 

 何かが飛んできている事だけは分かるけど、姿形が見えない。

 

「見えないんだけど!? 通信は!?」

 

「ジャミングされてる!」

 

 [ジャミングの解除まで1分]

 

 日本のデータベースを軽々破ったシルフで1分!?

 見えないしジャミングが硬すぎるし、この敵何なの!?

 

 あと増えてる!

 さっきから操縦桿がしがし動かして避けまくってるけど、レイフの合体で推力補強してなかったら確実にやられてるって!

 

「志条! 敵が見えない!」

 

「電波でも見えない、全周波数帯で徹底的に誤魔化されてる! そうだ赤外線!」

 

 スクリーンが一瞬だけ暗転して、緑色の物体がチラつく変な景色になった。

 覚えている、これは暗視スコープを使った時の視界で、熱だけで物体を見るやつだ。

 

 漸く見えたけど敵はMSじゃない。

 どちらかというと、MAみたいなものだ。

 巨大な昆虫か、あるいは鳥のような不安定なシルエット。

 脚部がない。代わりに、無数のアンカーのようなパーツが、空間に漂っている。

 

「記録している! プレデターでもリーパーでもない。米国製無人MAのどれにもヒットしない!」

 

「どこ製!?」

 

「だから分からないんだ!」

 

 [警告:……当機へのクラッキングを感知。ジャミング解析を一時中断、防壁を最大展開]

 

 [推奨:全速力で帰還]

 

「シルフ! ミサイル飛ばして! 熱なら追えるから照準固定!」

 

 [要請:志条、照準および発射を委ねる]

 

 [理由:現在、電子防衛および操縦補助に演算リソースの89%を使用中。ミサイル管制の余裕なし]

 

「了解、こっちでやる!」

 

 志条の声が一段低くなった。

 その瞬間、機体の右腕がわずかに角度を変え、マウントされたミサイルポッドがロック音を鳴らす。

 AIの支援がほとんど効かない──つまり、完全なマニュアル操作。

 この状況で当てるのは、人間の“勘”しかない。

 

「くるぞ!」

 空間が歪んだ。

 レーダーには何も映らないのに、圧力波だけが空気を押しのける。

 敵の機影が見えたかと思った瞬間、衝撃波が機体を揺らした。

 

「ッぐ……!」

 固定具が軋み、痛みが肋骨に走るけど、それでも今は操縦桿を離せない。

 超伝導場が明滅し、機体がバランスを取り戻す。

 

「志条っ!」

 

「捉えた──今だ!」

 プラズマ照準装置が一瞬だけ敵の熱源を捕らえた。

 ミサイル2発、発射。白い軌跡が青空を切り裂く。

 

 

 

 着弾までが凄く長く感じる。

 その間にも敵は生き物のように舞い、まるで空間そのものを滑っているようだった。

 

「シルフ! 回避ルート生成して!」

 [推奨ルート送信完了。不可侵空域外縁より撤退を開始]

 

「了解、全速後退!」

 

 プラズマジェットがアフタースパークを使って光を放つ。

 青と白の炎が混じり合い、機体が一気に反転した背後で、ミサイルが閃光を放ち、轟音が空を裂いた。

 

 [爆発確認……しかし、敵影の消失を確認できず]

 [警告:敵機、依然として後方に熱源反応を維持]

 

「追ってくる!? どうなってるのよこれ!」

 

「まだジャミング解除されないのか!?」

 

 [解除まで——10秒]

 

 長い。長すぎる。

 汗が首筋を伝う。シルフのHUDが赤く染まる。

 外縁を抜けるまであと少し──。

 

「……シルフ、ECM逆流。こっちから仕掛け返して!」

 

 [了解。全指向妨害波、逆位相展開開始]

 

 一瞬、世界が静まった。

 次の瞬間、空が“裏返る”。

 電離層が閃光を走らせ、全ての通信が一時的に途切れた。

 

 敵の熱源が、霧のように掻き消えた。

 

「……消えた?」

 

「いや……逃がしてもらえた、のかもしれない」

 

 志条の声が、どこか沈んでいた。

 シルフのツインアイが微かに点滅して、静かに言った。

 

 [不可侵空域より、未知の信号断片を受信。解析不能]

 [内容推測——“観測、完了”]

 

「……観測?」

 

 海の青が、急に冷たく感じた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ほうぼうのていで何とか着艦して、機体を格納庫に仕舞ったとこで、カンバラさんに何か心配された。

 何言われたのかは正直覚えてないけど、取り敢えず「エンジン限界まで吹かしたので診てあげて下さい」とだけ伝えて、クタクタの状態で荒川さんの所に報告に行った。

 

「まさか……不可侵空域の外側でもダメとはな」

 

「実験台の積もりで送り出したんですか? だったら正直キレそうです」

 

「誓ってそんなつもりは無い。だが、空域に入らない外縁部で異常が起こるとは……」

 

 荒川さんの声は、低くて、重い。

 でも、色が濁っていない。

 嘘は無い――それが逆に怖かった。

 

 つまりこれは、本当に“想定外”。

 誰も、上層部の誰でさえも、予測できなかったということだ。

 

「嘘、ついて無いんですね」

 

「逆に付けないだろう。嘘で送り出す軍隊なんか俺もいたくない。空域が広がっていたのか、シルフに興味を示したのか……或いは」

 

「……荒川さん。私、人の心を色で見ることが出来るって話、しましたよね」

 

「ああ、聞いている。それがどうした――まさか」

 

「敵意も感じて避ける事も出来るんですけど、その……」

 

 言いたくなかった。

 言葉にした瞬間、あの冷たい感覚が蘇ってくる気がして。

 

 けど、黙っているわけにもいかなかった。

 

「あの時、感じたんです。台湾で戦った時と、同じ“突き刺さる感じ”を」

 

 荒川さんの眉が、静かに動いた。

 私の喉が勝手に震えて、最後の一言がこぼれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ、人間かもしれません」

 

 空気が凍り付いた。

 音が全部、どこか遠くに吸い込まれたみたいに消えた。

 

 そして気づいた――

 あの見えない敵から流れ込んできた“殺意”の温度は、間違いなく人間のものだった。

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