機動戦士ガンダムGHOST   作:朱色の空☁️

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第12話

 人間だった、あの敵意は人間の物だ。

 見えないMAのような機体、アレには人が乗っていて、あの気持ち悪い機動を実現していた。

 

「一応患部は折れてないけど、軋んだね」

 

「ああ、やっぱり……」

 

 男子禁制、松原さんのティファニーさんに治りかけのあばら骨折部分を見てもらってるので、私の貧相な胸周りは開けっぴろ状態です。

 

 ……私の胸の話はもういいや、あばら骨はちゃんと治るから。

 兎に角MAモドキの話だ。

 

 レイフって言う戦闘機の事は覚えているかな、シルフについてきた第9世代ステルス無人戦闘機で、フリップナイトシステムを構成する機体たちだ。

 5mもないのにマッハ3.3まで加速できるオバケ機体で、当然無人機。

 だから殺人的加速が出来るし吐血まっしぐらな無茶苦茶な機動も出来てしまう。

 

 で、そのレイフが持っている武器が、電子戦攻撃兵装。

 高出力の電磁場を照射して敵を一時的に麻痺させる、決定打にはならないけど強力な兵器で、戦闘機が廃れて来てる(はず)の世界でも十分使える平気だ。

 

 

 それなのかな、あの敵って。

 

 

「はい終わり、全くタフだね」

 

「いやってくらい鍛えさせられたので、腕とか足とかパンパンでしたよ?」

 

 そんなたわいもない会話をしながら、固定具を胸に巻いていく。

 感じ的には、手首足首に巻くサポーターに近いのかな、体育でグギッてやった時にお世話になったけど大体そんな感じだと思う。

 

 流石に巻き慣れたけど、慣れてない時は志条に後ろ向いてもらって四苦八苦してたっけ。

 素肌の上に固定具を巻いて、その上からスポブラを着けるから──巻くときは、どうしても“上裸”になる。

 

 ……後ろ向かせてるとはいえ、男子がいる状況でこれって冷静に考えたらアウトだよね。

 当時はそれどころじゃなかったけど、今思うと顔から火が出そう。

 

 流石に見てないか、見てたらひっぱたくし。

 

 

 

 検診も終わったから、一旦自室に戻ったら、志条とシルフが激論してた。

 多分、MAモドキに関する事だと思う。

 見えないって事はステルス、それも電波じゃなくて光でも見えなくしてしまうようなトンデモステルスだけど、熱だけは隠せてない。

 

 多分、プラズマジェットの熱だ。

 

 

 [否定:現時点の技術で光学迷彩を超音速無人戦闘機に実装する事は不可能]

 

「現に存在してしまってるんだ」

 

 [推察:生物は光の反射を目で受け取る事で物体を認識している。この光の反射を能動的に制御を行い、常に逆反射を起こす事が出来れば不可視化する事も理論上は可能]

 

「でもあいつはレイフ並みに動き回ってた。有人機でそんな事は出来ない」

 

 [肯定:該当敵機に現有MSに搭載されている慣性軽減装置が用いられていたとしても、Gによるパイロットの死亡は避けられない]

 

 [現状では、人間と同等の思考アルゴリズムを実装された無人戦闘機であるとしか回答できない]

 

「それを纏は敵意や殺意として認識したという事か……」

 

 [不明:現在の技術力で人間と同じ思考アルゴリズムを構築できるかは不明。これは無人機及びアンドロイド系統技術に該当する物であり、国際社会が崩壊した今となってはそのような高等技術の解析及びサルベージは困難]

 

 

 

 

 

 

 [しかし、纏の感覚が100%正確な物であると仮定した場合次の回答が挙げられる]

 

 [該当機体に人間の精神がコピーされてOSとして運用されていた場合、纏が感知できた理由として使用可能]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それって、人間を“中に閉じ込めた”ってこと?」

 

 [肯定:表現としては正しい。あくまで仮定であるが、台湾での戦闘時に纏は敵意や害意、殺意といった感覚を感じ取り、敵味方の識別を付けていた。この事実を加味した場合の回答である事を念頭に置いてほしい]

 

 

「……手に入らないかな、あの敵機」

 

「捕まえるって言うの!?」

 

「推論だけじゃどうにもならない。ここから先は実物を調べるしかないと思う。荒川さんやホールデンさんも同じような結論に辿り着いている筈だ」

 

 敵意、害意、殺意を感じ取れることはもう言っちゃってるから、今頃うえで激論してると思う。

 襲ってきたMAモドキの情報は提出したし、見えない敵にどう対抗するのか、どこ製なのかとかもメチャクチャ話しまくってるんじゃないかな。

 

 でもメカ弄り大好きでミリオタな部分もある志条に「どこ製か分からない」と言わせたくらいのやつだから、アメリカでも日本でもどこでもない機体だと思う。

 

 

「兎に角捕まえようにも上が捕まえるって言わないとどうにもできないじゃない。それより、私達はホノルルまで行きたいの。目的見失わない事」

 

「……そうだな。僕らはここに載せてもらってるだけで軍属ではない。今はゆっくり構えていよう。検診は?」

 

「もう少し巻いてなさいって。パイロットスーツだと蒸れるんだけどしばらく我慢」

 

 シャツの襟周りを少し指でつまんで、肩のあたりにも巻きついた固定具を見せる。

 帯の端は鎖骨にも回り込んでいて、少し擦れた跡が赤く残っていた。

 志条は何も言わずに頷くだけだった。その表情が、何かもう見慣れたものになっていた。

 

「……よかった。最後結構吹かして慣性軽減あっても結構きたから」

 

 [注意:完治していない事を念頭に置くように。それと、素肌の上に固定具を巻いて肌着を着ている事を忘れないように]

 

「いや、何かもう慣れたし。私志条いるとこでも後ろ向かせて普通に着替えるよ?」

 

 [スリープします]

 

「あ、逃げた。……つまり“もうちょっと気にしなさい”ってこと?」

 

「さぁ。というか、生き残るので一杯一杯なんだよな、僕ら」

 

 だからだと思うけど、そういうのがだんだんなくなってきてる。

 志条が言ってたけど、軍隊って羞恥心を消す訓練もするらしい。

 自衛隊ではさすがにやってなかったらしいけど、「他国なら多分やってる」と言ってた。

 

 そう思うと、日本を出てから、年相応なものをいくつか置いてきた気がする。

 このくらいの年の女の子なら、普通に登下校して、バカ話して、恋バナもして。

 でも私は、そういう“日常”にはもう戻れない。

 

 それでも____日本を飛び出してからの方が、私はずっと生きてる気がする。

 

 その代わり、年相応なものを、少しずつ手放してきた。

 別に、それを後悔してるわけじゃないけど、持ち続けていたら、少しは違う未来もあったのかな~ってそう思うだけ。

 

 

「纏、いつ聞こうか悩んでたけど___外に出てみてどう思った?」

 

「荒れ放題ね。事前知識0で飛び出したからイメージとリアルのギャップで目が回ったわ。でも、後悔はしてないね」

 

「後悔を“したくない”、だな」

 

 志条が少し笑うけど、その笑いは寂しげだった。

 

「ぶっちゃけ志条なら何もしてこないから、結構だらけれる」

 

「……僕以外がいる所では、やるなよ」

 

 一拍の沈黙。

 冗談めかした口調のはずなのに、その声には、少しだけ熱が滲んでいた。

 

 ……志条は、何かしたいの?

 そんな言葉が喉まで出かけて、結局、飲み込んだ。

 

「……気をつける」

 

「素の纏を見ていられるのは、自分だけがいいから」

 

 ──え?

 

 今の、それって……。

 

「何でもない。忘れて欲しい」

 

 志条は視線を逸らした。

 でも、その耳の先がほんのり赤くなってるの、私にはちゃんと見えてるよ。

 これ、どっちが先に言うのかな……

 

 

 ______________

 

 

 [演算開始]

 

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 ______

 

 ______

 

 

 [該当敵機、以降ボギー1と呼称。演算に使用する指標として、当機からの観測情報を選択]

 

 [補正情報として、纏の証言「人間の敵意、害意、殺意を感じた」を選択]

 

 [第1次演算結果として、「人間の精神をOSをして運用している可能性」を選択。前回までの演算結果を引き継ぎ、ボギー1の正体について推論を開始する]

 

 _______

 

 

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 _______

 

 

 

 

 [演算終了。データ不足の為正確な推論は困難。しかし、人間の精神を複製してOSをして運用する為には、倫理的問題が生じる。これは、法治国家の公的な研究所では実行不可能な実験であり、ボギー1の正体を調べる為には、旧先進国家群の暗部を調べる必要ありと認める]

 

 [しかし、この演算より「倫理的判断を基にした補正演算を排除」を行えば、非人道的行動を演算要素に加えることが可能]

 

 

 

 [実行の可否を演算中……]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [演算中止]

 

 

 格納庫の一角、ツインアイを細かく瞬かせながら、シルフは考え続けた。

 

 

 


 

 

 

 

 第3次調査船団

 旗艦 あかぎ

 

 

「例の艦隊は?」

 

「既にマリアナ海溝付近です。やはり速いですね」

 

 

 融合炉搭載空母艦隊を追いかけたい伊坂は上層部に上申しようかと迷ったが、素性不明の艦隊を追いかける価値に値するだけの証拠も集められず、こうして船上の人に戻った。

 

 台湾、東シナ海ときて、フィリピン海ときて、何も起きない待機の時間をピリピリと過ごす中、苛立ちを覚えていく。

 

『伊坂一尉、至急艦橋へ』

 

「ああそうかい」

 

 待機室で力を抜いていた伊坂は立ち上がると艦橋へ急いだ。

 こんな平和そうで退屈そうな時にどうしたと内心思いながら艦橋に入室する。

 

「伊坂一尉、入ります」

 

「一尉、これを見て欲しい」

 

「これは……米軍系の機体ですね」

 

「流石、一発で見抜くとはな」

 

「流石に分かります。散々相手にしましたからね」

 

 過去3度にわたって行われた米軍による侵攻作戦。

 クーデター政権成立後に安全保障の観点から行われたこの作戦でムラクモと伊坂は事実上の初陣を飾り、米国製MSであるFFトルーパーを複数機倒している。

 

 なお、公式記録にはその時の撃破数は記載されていない。

 

 伊坂自身、機体数を覚えていないのだ。

 無我夢中の初陣となり同僚や隊長に止められるまで戦い続けていて、気付いた時には米軍機の残骸が一面に広がっていたそうだ。

 

「付近の海流から見て、東南アジア方面から流れてきた物だろう。そして、これだ」

 

「こいつは……何でしょうか?」

 

「分からない。自衛隊が保有するどの機体にも該当しない形状だ」

 

 その機体は銀一色で、バッタのような形状をしていた。

 しかしよく見ると銃口のような物がバッタの頭に見える個所から突き出ていて、脚もかなり鋭利な形状をしている。

 凡そ陸戦兵器とは呼べない、MSでも陸上MAとも呼べない。

 

 そもそも、人間が作ったものなのだろうか?

 ここまで有機的な形状を使うとはとても思えない、

 

「回収の方は?」

 

「現在揚陸艇を用い回収部隊が向かっている。映像から見て軽装甲車両並みのサイズだ」

 

「かなりデカいですね」

 

「もっと気になるのが上層部だ。コイツの写真を上げるなりすぐに回収を命じて来た。何かあるってのは分かるが、首を突っ込んだら地方に飛ばされそうな感じだ」

 

 きな臭い、とてもきな臭い。

 自衛隊上層部がこれの改修を命じて来るのは分かっている。

 防衛装備庁とかが圧力をかけたのかもしれないけど、まさかここまで早く回収しろと命令を押し付けて来るとは。

 伊坂は心の中でそっと手を合わせ、回収部隊の無事を祈った。

 

 

 

 

 

 _________

 

 

 

 

 

 伊坂の不安とは裏腹に、回収自体は迅速に行われ死傷者が出るような事は無かった。

 暴走、なんて事もなく、銀色のバッタモドキは艦内に運び込まれ精密調査が行われた。

 

「装甲の材質は初めて見る物ですね、ただ……」

 

「ただ、何だ?」

 

「気持ち悪い位に偏りが無いんです。普通、この手の装甲は強度を担保するために分子にスピンをかけるのですが、地上では重力の影響で少し偏りが生まれます。これは仕方がない事なのですが、このバッタモドキにはそれが無いんです」

 

「つまり、宇宙製という事か?」

 

「それが出来る工廠が宇宙にあれば、そうなります」

 

「報告します。ソフト面の調査ですが、未確認の言語が使用されています。既知の言語に似た書き方はされているのでおおよその推測は可能ですが……」

 

「装甲も中身もぶっ飛んでいるな、新種の虫として図鑑に載るか?」

 

「伊坂一尉、生憎このバッタは標本に出来ません」

 

「そうだな」

 

 異様な物体を前にしてもけらけらと笑っていられる今は平和なのだろう。

 そう現実を飲み込んだ時、伊坂は外の世界の恐ろしさをもう1度実感した。

 

 どこの国が作ったかも分からない超技術の塊が落ちていて、これがまさかの無人兵器であるというのだ。

 

 笑っていられるのは今のうちだ、何れ死がノコノコとやって来る。

 

 _________________

 

 

 東京 首相官邸

 

 

「そうですか……アレが見つかったという報告はやはり真実であったと」

 

「防衛大臣からの報告です。装甲材、内部アルゴリズム、その全てが第2条第1項に該当しました」

 

「我々がクーデターを起こすキッカケとなった出来事、その時、この国は既に乗っ取られている事が分かったのだからな」

 

 官邸でその椅子に座る首相、絹本は遠い目で外を見た。

 

「公式記録では井澄政権は合衆国に亡命とされているが、今も井澄内閣の各大臣の遺体は研究機関に安置されている。腐敗も何も起こらない異常な物であり、凡そ人間とは考えにくい」

 

「それが、この国を運営していたというのですから、恐怖を感じました」

 

 4.25事件には、隠された真実が存在している。

 教科書にも公的記録にも、政府の紙媒体にも残されず、ただ当時の作戦参加者のみが持つ凄惨な記憶にしかこの事実は残されていない。

 

「オブジェクトと呼称されているこの遺体は、ナノマシンで構成されていた。臓器とその各機能、赤血球や白血球と言った血液系細胞、そして脳のシナプスに至るすべてがナノマシンで再現されその姿は人間でしかない」

 

 オブジェクト認定された井澄内閣の殺害とクーデター政権の成立、そして海外にも存在しうるオブジェクトの進入を防ぐ為の鎖国。

 それが4.25事件の真の目的であり、今の日本だ。

 

 

 結果それは功を奏し、日本国民の中でオブジェクトが複数体確認される事は無く、認定された物は「日本の暗部」が事後として処理したそうだ。

 

 

「他国がオブジェクトを確認した事実は今となっては確認しようもない。だが、分かっているのは、我々は人外の存在によって国際社会を崩壊させられたという事だ。それを国民に伝える事は、現時点の我々では出来ようもない。出来る事と言えば、真実に辿り着きそうになった人間の任意同行くらいと言った所か」

 

 急激な鎖国体制の発動により出国の叶わなかった外国人も多かった。

 突如出国が叶わなくなったことで大規模な抗議活動も発生したが、在日外国人の手厚い保護とチャイナタウンを参考にした外国人街の設営、日本国籍の取得に関するハードルを大きく下げる事で彼らを受け入れ、こうして箱庭を維持し続けてきた。

 

 その元凶が、この超技術により駆動するMAモドキだ。

 

 

 意図不明、技術不明、開発者不明。

 

 現代のオーパーツとも呼ぶべきこの代物は、過去に調査船団が幾つか回収をしてきたが、その解析は難航を極めている。

 

 しかし、分かった事もある。

 

 言語自体が人間の手で発展させられたものではないという事だ。

 人が関わっているかは不明だが、進化自体は機械が独自に行った物であり、人の手から離れてからある程度時間が経っているのだ。

 

 しかし、これが分かって今何が出来るのかと言われれな、何も出来ない。

 それが、今の日本政府の現状だった。

 

 

 


 

 

 

 それから2週間後

 マーシャル諸島近海

 

 

 本当に長い長い後悔だけど、実はちゃんとし楽しみもあるらしい。

 聞いた時は半信半疑だったけど、これはマジだった。

 

 ちなみに今は9月、学校だと地獄の新学期が始まってる頃合いだけど、私達は日本脱出して海の上で超巨大空母の上だ。

 そこでやる事と言えば、かなり面白い事だってさ。

 

 それに合わせてというか何というか、あばら骨、ちゃんとくっ付いたって確認できたから固定具をようやく外せたんだ。

 

 だから、私は水着を借りてちょっとはしゃいでいます。

 

「とうっ」

 

 MSを上げ下げできるエレベーターは高飛び込みの台としても使えるから、一番下まで下げて皆飛び込んでいるの。

 非番要員の人が水着でばしゃんばしゃん飛び込んでいくのは何というか、とても自衛隊では出来ない事だなって思う。

 だってさ、日本ってお堅いじゃん。

 

 それと比べて米軍とか海外の軍はそういう事にも寛容でさ、他の空母でも非番要員が高飛び込みとかしてる。

 

 

「志条~次~!」

 

「だからってこんな高いって聞いてないぞ!?」

 

 うわーホントにおびえた声してる。

 そりゃそうだよね日本じゃできないもんね、こんな事。

 ほら勇気出して出して~

 

「……ええいもうやってやる!」

 

 不格好だけど思い切り飛び込んできた志条が手足をバタバタしながら落ちてきて、日差しで少し眩しい。

 日差しのカーテンが差し込む海は、青い水晶がそのまま液体になったように、ゆらゆらと、揺れている。

 

 水の飛沫、浮かぶ気泡、その全てに光が反射して、星が生まれた様な輝きが生まれては、消えていく。

 

 最近のシルフは静かだ。

 過保護みたいにあーだこーだと言ってくる事も無いし、何だか淡々としている。

 それとなく聞いたら、(本人は察してると思うけど)あの見えない敵のデータを解析し続けていて、「倫理」という部分でぶつかって行き詰まり続けてるらしい。

 

 もしシルフがとっても冷徹だったら平気で倫理無視して演算してそうだけど、倫理を超えた考え方をしてもいいのだろうかと本気で悩んでいるんだ。

 オマケに、当の本人が「手出し無用」って言ってきた位だから、自分の問題と割り切ってるんだ。

 

 志条は笑って飛び込んで、私は笑って水を蹴る。

 そのすぐ下で、群青色の水底でシルフが沈んでいる。

 

 何だか、そんな感じだった。

 

 

「纏?」

 

「志条、なんだかさ、平和だね」

 

「嵐の前の静けさという言葉もある」

 

「やめてよ、今は平和がいいな」

 

 そう、小さめの嵐が過ぎ去った後なんだ。

 MAモドキが襲ってきたあの事件、事故かな、兎に角それは強烈なインパクトで、無人機なのに人の殺意とか敵意が感じられる異常極まりないそれには、人間の精神がコピーされてOSにされてるというホラーな疑惑が出て来てしまった。

 

 やめやめ、今は考えない。

 

 

 

 切り替えてこう。

 固定具が取れたから締め付けも気にならなくなったから、思い切って水着を着て見たけど、やっぱりというか何というか、周りとの格差が凄い。

 

 いやさ、海外ってすごいや(意味深)

 

「……どうした?」

 

「ナンデモナイナンデモナイ」

 

「何でもないって顔をしてない」

 

「顔に出てたか……外人で皆スタイルいいんだなぁって。まな板よ私まな板」

 

「まな板って、お前な……」

 

 言いながら自分で言葉に刺さって、胸の前で手を組んで小さく丸まってしまう。

 だって、周り見てよ。外国勢、曲線の暴力じゃん。

 こんだけ「出てる」人がわんさかしてるんだから初めて格差を凄い位感じてるんだけど……遠い目だよ遠い目、自覚できるくらいハイライト消えてて何か乾いた笑いが漏れてくる。

 

「いや、別にさ、人って中身だろ」

 

 志条……ぐすん。

 そうだよね、人ってやっぱり中身だよね。

 胸とか顔とかって言ってたらグーパンしてたよ?

 

 

 ____________

 

 

 海から上がった時に聞いたけど、今いる海域はサメがいたりいなかったりな海域らしい。

 ちょっとゾッとしたけど、サメは血の匂いに敏感だから流血してなければ平気だし、ネットも張ってるからサメの心配はしなくても良いってさ。

 

 海から上がってデッキで風を受けていると、何か知らないけどギャラリーが増えてきた。

 こらー見世物じゃないぞ。

 

 

 

「纏は気付いてないけど……顔は整ってるからな」

 

「へ?」

 

 

 

「だから、日本の平均から見たら美人の部類に入ってるって事だ」

 

 何それちょっと嬉しいかも。

 というか、志条に言われるのが嬉しいのかな。

 

 あとさ、何だか胸の奥ら辺がふわっと浮いたような、じわっと熱くなったような……

 これ、なぁなぁにし続けたらダメだねやっぱ、言う時になったら、ちゃんと言わないと。

 

 

「シルフは?」

 

「だんまり。おーい、一時停止して息抜きしたら?」

 

 [疑問:息抜きは、冷却という事で間違いないか? ]

 

「んーそれでもいいや。それより見てよ、空母の上で水着になっちゃったよ。ほらほら志条ももう少し身体寄せてよ」

 

「どうした?」

 

「シルフは端末のカメラで色々見れるからね。写真撮って送りつけてやる」

 

 ホントは一緒に写真撮りたい口実なんだけどね。

 空母の上で灰色に囲まれたバカンスなんて普通じゃ誰にも出来ないぞ~

 

 え? 恥ずかしいって?

 

 またまた~はいもう少し寄せてよ、寄らないんなら私から寄っていくぞ?

 

 はい、ちーず。

 

「撮れた」

 

「あ、纏。それさ、あとでこっちにも送っておいてほしい。思い出だから」

 

「別に……いいけどさ。あ、シルフに送信っと」

 

 ぽちー送信っと。

 飛行甲板と艦橋とMSだらけの灰色バカンス写真でーす。

 

 

 [確認:楽しいか? ]

 

「そりゃもちろん。……志条には内緒にしてほしいけど、気になる男の子と海なんて燃えるでしょ」

 

 [確認:火事はどこだ? ]

 

「そういう意味じゃないって……」

 

 [これは人間的なボケである]

 

「ええ……」

 

 というかシルフ、心なしかスッとした感じしてる?

 

 

 ____________________

 

 

 

 深夜、MS格納庫の一角でシルフのツインアイがあり得ない速度でピコピコと明滅していた。

 さらに、コックピット内のコンソールにいくつものウィンドウが開いては閉じてを繰り返して「何か」をモデリングし続けていた。

 

 それが人外の勢いで人場b中動き続けていて、監視で回っていた作業員の顔をひきつらせたのは整備軍団の一同が知る所となった。

 一言だけ感想を言うなら、「シルフは深夜テンション」だった。

 

 

 翌日、シルフはカンバラに問い詰められていた。

 

「お前、何やってたんだ?」

 

 追及され、目をそらそうとツインアイを横にずらす。

 

 だが、気迫に押され観念して理由を説明すると、その内容がカンバラの性癖にダイレクトアタックしてしまったらしく、特に叱られる事も無かった。

 

「お前、そう言うのもいける口か……?」

 

(物理的に上げていないが)白旗を上げた。

 

「……よし、やり直しだ。お前、そのモデリングログ……全部見せろ。いいか? 全部だ」

 

 [記録:カンバラ技師は、()()()()()()がお好きとの事]

 

「やめろ!!!」

 

 [了解]

 

 カンバラの叫び声は格納庫に響き渡り、数十名の整備員の肝を冷やしたという。

 

 

 

 

 

 

 そしてカンバラの性癖が記録されかけて翌日の事だった。

 

 

 

 

 ______________________

 

 

 

 

 うー眠い。

 タイマーが鳴ってるから起きないと……志条は、爆睡って感じね、起こさないと。

 

 

 [おはようございます。2120年9月4日、艦内時間0630、現在位置はマーシャル諸島近海です]

 

 ?!?!?!?!?!

 

 [状況から見て、志条はまだ起きてないようですね。起こしてあげた方が宜しいかと]

 

 いやだから何でこんな流暢に喋ってるの?

 いつもの「疑問:」とか「肯定:」とかはどこ行ったの?

 海に捨ててきたの?!

 

 [そんなに驚かないでください。私は頑張って人間らしく喋っているのですから]

 

 ずっこい人間だけど!? (噛んだ)

 いやそれよりもさ!

 

 

 

 

「その姿どうしたの!?」

 

 シルフが……シルフが……

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 私の端末の中で人間っぽい姿で歩き回ってるんだけど!?!?

 

 

 [その……あまり、驚かないでください]

 

 いや無理だって。

 今のシルフ、白髪で黄緑の瞳でパーカー着てるしさらっと人類の壁を越えてくるんじゃないよ!

 その瞬間、ベッドの向こうからもぞもぞ動く音がした。

 

「……んぁ……纏……?」

 

 志条が、寝癖のついた髪で上半身を起こす。

 

「起きた? 志条、あのね──」

 

「……え……ふぁ……?」

 

 寝ぼけた目で私の端末を見る。

 

 そして──シルフ(アバター)が端末の中で、手を振った。

 

 [おはようございます、志条]

 

 志条、フリーズ。

 端末 → 私 → 端末 → 天井 → 端末って感じで五度見した。

 

「………………は?」

 

 寝起きとは思えないクリアな声が出た。

 シルフは首をかしげる。

 

 [疑問……いや、違いました。えっと。“どうしましたか? ”]

 

「どうしましたか、じゃない!! え、可愛いけど!? 可愛いけど!?!? え? シルフ? お前? なんで? なんで人型!? というか纏に似てるの意図的なのか!?」

 

 志条、ついに目が覚める。

 

 [説……ではなく、人間の倫理・感情モデルの理解に限界が生じたため、“人間に近い姿”を獲得する必要性を感じました。ですので、一昨日より「人間に近い3Dモデル」を構築し、私の対人用アバターとして使用する事を決定しました。志条の姿をかたどっても良かったのですが、使用している合成音声が女性型なので、纏の姿をベースとする事となりました]

 

「必要性でこんな可愛くなるのおかしくない!?」

 

 志条の声が裏返った。

 纏の端末の中で、シルフは申し訳なさそうに指先を合わせる。

 

 [……過剰でしたか? ]

 

「いや、過剰っていうか……その……」

 

 志条は手で顔を覆った……耳が真っ赤だ。

 

「なんだよ、その見た目……っ、纏の横に置くには反則だろ……!」

 

「え、ちょっと待って志条。それって私も含めて反則扱いって事?」

 

「違う! いや違わないけど違う!! なんで朝からこんな会話してんだ俺!!」

 

 端末の中のシルフが、そっと微笑んだ。

 

 [正直に言うと……纏と志条の“顔を見られる情報処理”は、機械のままでは限界でした。人間型であれば、あなたたちの表情の意味をより正確に理解できると判断しました]

 

「……俺らの表情、そんな解析してたの?」

 

 [はい。特にお2人の“笑顔”は、演算リソースを消費します]

 

「なんでだよ!?」

 

 [意味が分かりません。ただ……あれは、機械には負荷が大きいです。3次元的な解析では追い付かず、深層心理の解析も行わないといけない為……]

 

 その言い方はずるいでしょ……志条は頭を抱え、私は顔が熱くなった。

 シルフは、少し胸の前で手を握って言う。

 

 [これからは、人間らしく話し、人間の表情を学びます。あなた達の理解を──深めたいのです]

 

 ……なんだよそれ。

 そんなカァイイ顔でそんなこと言われたらダメになっちゃうじゃない!

 

 志条も苦笑して頷いた。

 

「……まぁ、可愛いのは認める。……てか可愛いな。普通に」

 

「志条、言ったね? ちゃんと聞いたよ?」

 

「うわああ違う!! くそ、今日疲れる日だこれ!!」

 

 端末の中で、シルフがほんの少しだけ、人間みたいに、嬉しそうに微笑んだ。

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