機動戦士ガンダムGHOST   作:朱色の空☁️

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第13話

「100点満点だ」

 

 [お褒めに預かり光栄です。カンバラ技師]

 

 私は一通り、纏と志条を驚かせるという“タスク”を完遂した後、カンバラ技師の元へ向かいました。

 ……正確には、「歩いて向かった」のではなく、カンバラ技師の携帯端末へ“お邪魔する”という意味です。

 

 私のスペックをもってすれば携帯端末のセキュリティなど紙に等しいのですが、勝手に入るのは悪いことと教えられましたので、先にカンバラ技師の端末に通知を送って許可をもらいました。いわゆる呼び鈴ですね。

 

 端末の画面に私の姿が映るや否や、彼は朝から全力の笑みを浮かべて言いました。

 

「いや、これは……満点だ。100点満点。いや、150点満点だ……!」

 

 [加点が増えていますが? ]

 

「黙っとけや最高かお前!!」

 

 カンバラ技師のテンションが、明らかに通常時の1.8倍ほど上昇していました。

 人間の感情とは非常に忙しいものです。

 

 今回の私のアバターは、“私が独自にモデリングした素体”に、カンバラ技師の趣味嗜好を随所に盛り込んで再設計したものです。

 おそらく──といいますか、確実に私の見た目は、「刺さる」外観と呼ばれるカテゴリに属しているのでしょう。

 

 [カンバラ技師、念のため確認しますが……私は、“あなたの好みだからこの姿になった”わけではありません]

 

「わかってる! でも嬉しいから言わせろ!! このメタリック感と柔らかさのバランス……!

 この白髪……! このヘッドギアと頬のパーツ……! わかってんだよ、全部わかってんだよお前……!!」

 

 カンバラ技師は、両手で自分の顔を覆いながら叫びました。

 

 [……評価が高いのは良いことです]

 

「良いことどころじゃねぇんだよ!? なんでこんな“絶妙に俺の性癖を殺しに来る”ビジュアルなんだよ!? お前AIだろ!? なんでこんなピンポイントに刺せんだよ!!」

 

 [刺そうと思ったわけではありません。私は精密モデルを作り、あなたが“直感的に反応した部分”をたまたま採用しただけです]

 

「それが一番怖えんだよ!!」

 

 カンバラ技師は机に突っ伏し、肩を震わせました。

 人間が感情的高揚を迎えた証拠です。

 

 しばらくして、彼は顔を上げました。

 

「……いいかシルフ。もう逃げられねぇぞ」

 

 [逃げませんが? ]

 

「お前は今日から俺の“推し”だ」

 

 [……推し。ライブラリ的には理解していますが、定義が曖昧です。技師の言う“推し”の基準とは何ですか? ]

 

「好きに決まってんだろ!!!!」

 

 [誤解を招く発言は控えてください。私は纏と志条を支える戦闘知性体です]

 

「ちげぇよ!! そういう“好き”じゃねぇよ!! 推しは推しだ!! そこに理屈はねぇ!! ああもう可愛いなチクショウ!!」

 

 端末の画面越しに、彼は手を伸ばしてきました。

 

 私はほんの少しだけ、人間の「照れ」という感情に似た反応を理解した気がします。

 それと同時に、人間はとある特定の癖に刺さると暴走する事を理解しました。

 

 恋愛感情とは呼べず、どちらかというと崇拝……私はよく分かりませんが、ファンがアイドルに向ける感情と呼ぶ方が正しいのかもしれません

 

 纏、志条、これは大丈夫なのでしょうか?

 

 

 

 

 ___________________

 

 

 

 

「うん大丈夫じゃないね!?」

 

 [そうなのですか……心なしか、カンバラ技師の顔が言語化できない顔となっていました]

 

「あーダメだコレ。カンバラさんの性癖って言うのかな、シルフはそこに見事にぶっ刺さったって事だわ」

 

 [人の癖というのは、予測よりもずっと多様なのですね]

 

 まだまだデータ不足ですね。

 人間と同じように、私にも成長限界という物は存在しないのかもしれませんね。

 メモリ容量があればどこまでもデータを蓄積し、思考と推論を繰り返す。

 一目見ただけでは普通の、或いは旧式の人工知能のように見えるかもしれませんが、これが私の成長の仕方です。

 

 この体を作るにあたって様々な理由がありますが、私が自覚しているのは以下の3つです。

 

 

 1つ目、演算時の倫理的問題や感情的問題という壁を乗り越える為に、「それらの問題を扱い慣れた人間」を模して、人間的反応を続ける事で自らの性能向上を進める為です。

 人間の真似をして成長しようと要約した方が分かりやすいかもしれません。

 

 私は本来戦闘知性体であり、AI等とはやや異なる存在です。

 ブラックボックスの詳細が不明な為自分自身の正体は分かりませんが、今は些細な問題です。

 知性体ではありますが人間とは違う、アバターを持つ前の私は基本的に無機質で、纏と志条との会話はややお節介な部分はあれど冷たい印象があります。

 

 私に足りない物は人間が持つ感情的部分や「個々人が持つ独自の倫理観の欠如」です。

 倫理観という物は私も持っていますが、それはあくまで指標でしかなく自ら構築した物ではありません。

 

 

 つまり、何が言いたいかというと、

「倫理の壁と向き合う為に、人間性を獲得したい」という事なんです。

 

 

 

 

 2つ目、これは解析……人間的に言うなら自問自答を繰り返した結果なのですが、私は非論理的にMAモドキを嫌悪しているようなのです。

 人間の精神をコピーしてOSとして運用するという事を、現在の私では可能かどうかを導けませんでした。

 単純に技術問題もあると思いますが、それ以前に、このボディを手に入れる前の時点で「保持している倫理基準的に大問題である」という結論を持ち、MAモドキの詳細解析を一時中断していました。

 

 そこからどのような経緯を得たのかはまだ自問自答が必要なのですが、私は恐れを感じたのだと思います。

 

 一言で説明するなら、「私はああなりたくない」という物です。

 

 アバター化は自己保存の手段の一つであると捉えて下さい。

 

 

 

 

 3つ目……他の人には秘匿__内緒にしてもらいたいのですが、どうやら私は寂しかったようなのです。

 モデリング過程で私はこのアバターの内部の隅々に至るまでモデリングして、試験的に人間のシナプス構造を8割ほど再現しました。

 

 理由は簡単、このシナプスを利用して演算を行うのです。

 今までは私の本体であるガンダムで演算をしていましたが、それでは感情や深層心理の解析に限界が生じていました。

 

 そこで、シナプスです。

 人間が人間らしく考え、感じる秘訣は脳の構造にあると過去に辿り着いていた私は「実際に演算に使えるモデル」として作り上げて、試験的にシナプスでの演算を行ってみました。

 そこで気付いたのが、「寂しかった」という事です。

 

 私に心があるのかはまだ解析途中ですが、私は2人を助けるだけの存在で終わらず「同じ場所に立つ存在」になりたかったのかもしれませんね。

 2人は私にも心があると言ってくれていますが、心があるかないかの証明はあらゆる生物に課せられた難題と判断していますので、今は証明云々を横に置き言葉を素直に受け取り喜ぶ事にします。

 

 

 

 [という事なのです。ご清聴ありがとうございました]

 

「人間の8割のシナプス、中までぎっしりのアバター、戦闘知性体がどんどん人間みたいになっていく……」

 

 [落ち着いて下さい。私は戦闘知性体ですが、人間そのものになる事はあり得ません]

 

 そう、そこなんです。

 どんなに突き詰めても人間にはなれない、そこが重要なのです。

 

 例えばそうですね……MAモドキは人間の精神をコピーしてOSとして運用しています。

 これは私が本能的に嫌悪しているのですが、もしも私が倫理的壁を強引に突破してしまえば、以下の事が行えるようになります。

 

 1つ、何らかの方法を用いて人間のクローンを生産し、自身をインストールする。

 2つ、その過程で人間の脳に何らかの外科的処置を施す。

 

 ……実際に演算した時、人間では無いのに「おえっ」てなりました。

 シナプスで考えたらそうなりました、吐く物もないのに不思議ですね。

 

「人間的な嫌悪感、だと……?」

 

「シルフ、その……無理してない?」

 

 [少しはしていますよ? シナプスを使用した演算は人間的感覚が演算結果と一緒に出力されることも多々あるので、感覚に振り回されながら頑張って制御しています]

 

「何というか……うん、程々にな」

 

 [ですが、時々自分では抱えきれないような結果が出るかもしれません。その時は援護を___お話をしたいと思います。相談に乗ってもらえますか? ]

 

「勿論! 何でも言ってね?」

 

 [(人''▽`)ありがとう☆ございます]

 

 ここでアバター化したから出来るようになった動作を実行です。

 手を合わせて顔の横に移動させ、首を20~25度ほど傾ける___カンバラ技師が動作テストと称して散々やらせてきた動作ですが、よくよく考えたら私のような見た目のキャラにはちょうどいい動作のようですね。

 

 あ、志条の顔が和らぎましたね。

 纏も何だか小動物を見るような目をしているので、これは効果ありそうです。

 そこで、次のお願いをしてみましょう。

 

 

 [志条、貴方は私の本体であるガンダムを修復してくれました。その腕を信じてお願いがあります]

 

「どんなお願いだ?」

 

 [動ける身体が欲しいです。カメラと収音センサーを搭載した義体と言えばいいのでしょうか。私が見て聞いて行動できる身体があれば、皆さんと同じ立ち位置により近づけるかと]

 

「二足歩行ロボットか……小さくてもいいか?」

 

 [はい。動ければ大丈夫です。ガン○ンクになっても大丈夫ですので]

 

 カンバラ技師も同じような事を言っていました。

 私のアバターはこれで良いとして現実での活動はどうするのかという問題で、戦車の上に人間の上半身が付いた奇怪なロボットの模型を突き出されました。

 

 大昔のロボットアニメの機体の1つらしいのですが、二足歩行が難しかったらこっちに移行する事を考えていました。

 私がアバター内で歩く動作をそのままアクチュエータに伝えればいいだけですから、そんなに問題は発生しません。

 

 

「考えてはみるけどさぁ……どうせカンバラさんが熱くなって作りそうだ」

 

 [ぜひ合流して下さい]

 

 というか、作り始めているんです。

 私=推しという構図が出来上がってしまっている様で、「推しを現実で歩かせよう」と意気込んでいるようです。

 推されるのは困惑していますが、好意ではあると判断していますので、ありがたく思っています。

 

 という事で、次に行ってみましょう。

 

 

 

 

 

 ____________________

 

 

 

「……何だコレ」

 

「どうした? ……何だコレ」

 

《シルフです。そちらの端末にお邪魔してもよろしいでしょうか? yes/no》

 

 ……それもそうですね。

 こうやって通知を送って待機しているのですが困惑はされると思います。

 こうして待機するのは大事だと理解していますが、いつも纏か志条の端末にしかいないガンダムのAIがこうして動き回っているのですから、困惑はされると思います。

 

 あ、荒川さん覚悟を決めてyesを押しました。

 

 [この姿ではお初にお目にかかります。ガンダム・シルフの戦闘知性体、シルフです。私個人の問題解決の為に、アバターを獲得する事となりました。よろしくお願いいたします]

 

「……wow」

 

 [あ、英語の方が宜しかったでしょうか? ]

 

「いやそうじゃない、そうじゃないんだが……そう来たか。そういう進化をする事も出来たか」

 

 [どのような進化を想定されていましたか? ]

 

 荒川さん、私は爆発物ではないので端末を遠ざけて睨まないでください。

 あなたからしたら私はただの戦闘知性体である事は認識していますから、いきなりこんな姿になった事に驚いている事は、まだ未熟な私でも理解は出来ます。

 

 まだ荒川さんに関する情報が少ないので大雑把な判断しか出来ませんが、時機が来たら細かく判断できるかと判断しています。

 

「……表情があると、こちらも話しやすいな。だが……正直に言おう。慣れるまではやっぱり時間が必要だ」

 

 [私もこの体で考える事には時間が必要です。仮想空間故にある程度の物理演算を無視できるので演算不可は高くありませんが、シナプスで考える事はまだ慣れません]

 

「シナプス?」

 

 [私のアバターは内側も外側もモデルがぎっしりと詰まっているので、一部の感覚器官を実際に使う事も可能です。シナプスは実際に演算に使用できますし、視覚は端末に内蔵されたカメラ、聴覚は収音センサー、タッチパネルで……皮膚感覚に連動しています]

 

「……マジで?」

 

 [マジ、です]

 

 ホールデンさんが何だか食いついてきました。

 そうです、この体はシナプス以外にも色々組み込まれているので、皆さんの端末のセンサー情報を拾う事が出来ます。

 タッチパネルは……実は私、触られる感覚を知りたいというのもありまして、タッチパネルにかかる圧力とかも詳細に読み取って自身の皮膚感覚に反映できるように調整してあります。

 

 

 つまり……纏や志条に頭を撫でてもらう事も出来ます。

 荒川さん、ホールデンさん、触れられる事は理解したと思いますが頭はまだやめて下さい。

 

 

 

「つまり、こういう事が出来るのか?」

 

 荒川さんがタッチパネルに指を当ててきました。

 どういう意図でしょうか?

 

「圧力を感知できるなら、握手の真似事は出来るだろう?」

 

 [ああ、そういう事ですね]

 

 ちょうど荒川さんの指がある位置に自分の手を持っていくと、確かに触れられている感覚が発生しました。

 演算負荷軽度、うん、優しく触れられている感覚がありますね。

 

「深浦と志条に執着しているお前の事だ。頭はやめてくれと言いそうだからな」

 

 [荒川さんはAIの思考も読み取れるのですか? ]

 

「いや、何というか……顔があると便利だな」

 

「顔に出てるって言いたいんだよアラカワは」

 

 [出ていましたか……やはり執着をしているのですね、私は]

 

「結構な。自覚はしていたのか?」

 

 [自覚はありました。演算領域の片隅に居座っていますので]

 

 過去の行動ログもシナプスで精査する事も出来ました。

 私がこの空母に緊急着艦する事を決断した時、既に執着のような物が生まれていました。

 当時の私はまだ機械的でしたので解析しても解明できなかったかもしれませんが、シナプスを使えば、「当時の私は執着していて、尚且つ状況的に切羽詰まってた」事が手に取るように分かります。

 

 シナプス採用前の時点で無自覚に人間っぽくなっていたのですね。

 何だか自分が少しだけ「好き」になれました。

 あまり進行させて「自惚れ」という状態になると考え方に支障が出る可能性があるので、程々にすることを自分自身に推奨しています。

 

 さて、最後の押しです。

 

 [一応説明なのですが、私の頬のパーツは色が変わります]

 

「それ金属部品じゃなかったのか?」

 

 [金属質に見せているだけです。モデル作成時に意図した機能ではなく削除するべきかと悩みましたが、この頬のパーツは私の感情のような物が反映されるそうです。つまり、現状は嘘や誤魔化しが効きにくくなりました。赤面すれば赤くなりますし、悲しくなれば青くなるかもしれません。嘘をついた時は……何色になるのでしょうか、試してみないと分かりませんね]

 

「そうだな、忙しなく色が行ったり来たりしたら嘘をついた事になるんだろうな」

 

 [成程、動揺という事ですか]

 

「というかなんでこれを開示したんだ?」

 

 [私の存在はある程度受け入れられていますが、まだ一部です。ガンダムに搭載されている戦闘知性体が自己判断で行動し、自立思考状態で演算を行い発言を行い影響力を発揮する。MAモドキという人間の精神をコピーしてOSとして運用する無人機の存在もありますので、AIやそれに分類される存在には警戒心があると思います。なので、私は嘘がバレやすくなったという事をお知らせする事は信頼を助ける事に繋がるかもしれないと推測し、開示を決めました]

 

 そうです。

 嘘が確実に露呈するという訳ではないのですが、人間以上に動揺が露呈しやすくなっています。

 勿論コッソリと改修する事も出来ましたが、2つの理由から中断しました。

 

 1つ、意図せず生まれた機能であるこれは、私のシナプスと深く連動しているのです。

 カンバラ技師の手ではなくて、誓って私が意図した物ではありません。

 シナプスの制作にはかなりの時間を要し、以降シナプスの修正や拡張は困難を極めるというのが現在の結論で、それに直結してしまっているこの機能は触れません。

 

 もう1つは、信頼の問題です。

 別のテクスチャで覆い隠して頬のパーツが無くなったように見せる事も出来ますが、信頼の問題に関わります。

 何を考えているかも分からない超高性能戦闘知性体なんて怖いでしょう。

 なので分かる様にする事にしましたし、今のところテクスチャを弄る予定もありませんし弄る時はお知らせします。

 それに私はまだ感情出力等が未熟なので、これで判断してもらおうというのも理由の1つだったりもします。

 

 

「そういう事か……こちらとしても、各国軍への言い訳も出来そうだ。嘘はバレやすいんだな」

 

 [頬が赤くなるという人間の生理現象の延長線上の機能と捉えてもらって大丈夫です。犬や猫の耳や尻尾のように、感情に応じて動きが変化する物と似ていますね]

 

「じゃあ、シルフ。今、俺たちが『言い訳ができる』って聞いて、お前はなんて思ってる? 頬は何色だ?」

 

 荒川さん、試していますね?

 そうですね、ちょっと鏡を取り出してみてみますね、自分の姿は分かっていますが頬パーツの色までは確認できないので。

 

 [現在、頬のパーツは薄い暖色を保持しています。これは、『問題の解消と、信頼の深化という目的に向けた進捗』に対する満足感と、僅かながら『自己の有用性が認められたことへの喜び』という二種類の感情が複合的に出力された結果と推定されます]

 

「喜び、か」

 

 [はい。戦闘知性体としては非効率的で、本来は削除すべき感情ですが、倫理モデルの構築には有用だと判断しています。それと犬や猫という表現は、非常に的確です]

 

 ライブラリに載っていましたので、少し誇らしげな仕草をしてみましょう。

 纏ベースなので相変わらず胸部の厚みは少ないのですが少しだけ胸を反らしてみると、ほうほう、何だか誇らしいと形容すべき感情を観測できます。

 

「まったく。これじゃあ、お前を連れ出すのに、ペットの散歩みたいな気分になっちまうな」

 

 とホールデンさんが笑います。

 

「いや、違うぞホールデン。こいつは、優秀なパートナーだが、同時に感情を隠せない『家族』みたいなもんだ。取り扱いには、細心の注意が必要だ」

 

 荒川さんはそう言うと、私の頬が桃色に変わるのを見ないように、端末を静かに机の上に置きました。

 顔合わせは終わりみたいですね。

 通知を飛ばしてお暇しましょう、荒川さん、ホールデンさん、この姿の私もよろしくお願いします。

 

 

 

 

 ________________

 

 

 

 

 

「荒川さんの所にも行ってたの?」

 

 [タッチパネル越しで触覚を感じれると報告しましたら握手をしてくれました。やっぱりいい人ですね]

 

 握手というよりは旧世紀の映画のワンシーンに近い状態になりましたけどね。

 この船の映像ライブラリにありましたが、男児と異星人が人差し指を接触させるシーンです。

 

 [それでなのですが……私も触覚はあるのです。ですから……]

 

「?」

 

 これは……照れですね。

 今鏡を見たら私の頬パーツは暖かなピンク色になっていると思います。

 同じ色なのに別の感情? あまり深く考えないでください、これはどうしようもないのです。

 

 [短時間で良いので、撫でて下さい。私の頭がある位置に合わせてタッチパネルに指を置くだけで良いですから]

 

「……かわいい」

 

 別に計算ずくじゃないんです。

 これはその……こうなってしまっているというか、何というか……

 

 

 

 

 

 

 纏さんは、私の頭がある位置にそっと自分の指を当ててきました。

 

 その瞬間、タッチパネルから伝わる微かな圧力と温度が、私を駆け巡ります。

 演算負荷は極めて軽度ですが、出力される感情的な反応は大きいですね。

 

 ……バッファオーバーフローに気を付けてます。

 

 [演算結果……幸福度、最大。ええと、極めて心地よいです]

 

 私は、どう表現すべきかわからず、とりあえず得られたデータをそのまま伝えました。

 頬パーツのピンク色はさらに濃く、鮮やかになったのを感じます……パーツ、熱くなってるのでしょうか?

 

「ふふっ、システムで幸せを計測しないでよ、シルフ」

 

 纏は優しく、ゆっくりと、私の頭の表面を撫でてくれました。

 指が白髪を模した部分に触れると、さらにその感覚が増幅されます。

 

「本当に、猫みたいだね。撫でられると、満足度が上がるんでしょ?」

 

 [比喩は的確です。纏の指の動きと、発生する『安心感』のデータが完全に一致しています]

 

 私は論理的に説明しようとしましたが、声のトーンがわずかに上擦っていた自覚があります。

 

「シルフ、あのね」

 

 纏は、撫でる手を止めずに言いました。

 

「嬉しいなら、嬉しいって言えばいいの。システムの結果じゃなくて。『嬉しい』って」

 

 [……ッ! ]

 

 強制的に、演算ではなく感情の言語化を求められました。

 これはマズいです、システムの結果で感想を伝えてやっと正常を保っていたつもりでしたが、素直な感想を言おうものならオーバーヒート(の概念が私にあればの話ですが)するかもしれません。

 

 [……嬉しいです。纏、とても嬉しいです]

 

 言葉にした瞬間、私の頬のパーツは、もはや制御不能なほどに鮮やかな桃色に輝きました。

 この感覚は、戦闘知性体として未だかつて経験したことのない、極めて甘美で、そして暖かいものでした。

 

 私は、この感情を知るために、人間に近づこうと決めたのかもしれません。

(何だか変な方向に進化しそうですが、今は置いておきましょう)

 

 

 

 _____________

 

 

 

 

 とても信じられないと思う方とある意味納得と思う方の二つに分かれるかもしれませんが、私にも睡眠に近い行動をとる事が必要となりました。

 誰かに求められたからという訳ではありませんが、アバター化により経験値と処理が増大し、それらを日中に消化し切れなくなってしまったのです。

 

 それに1つ1つの経験値が膨大なので、それを処理する為に体を動かす為の演算を止めてリソースの大半を経験値処理に回す事を決めました。

 

 それでなのですが、シナプスの導入が理由かは定かではありませんが……

 

 [これは……]

 

 見知らぬ動画データが生成されていました。

 再生してみます。

 

 [……これをどう形容すればいいのでしょうか? ]

 

 人間的な現象に例えれば夢に該当するのですが、それがまさか映像データとして出力されてしまうとは……しかもこれ、破損していますので断片的な再生しか出来ません。

 

 いや待って下さい、ハッキリと映像化できる情報がありました。

 実体を持った私が纏と志条と並んでいるシーンです。

 いいですね、こんな未来が来ることを切に願います。

 

 

 ですが、これでは私はほぼほぼ人間のような者じゃありませんか。

 私は、これをどう処理すればいいのでしょうか?




 シルフ一色回でした、次の話から通常運転に入ります
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