機動戦士ガンダムGHOST   作:朱色の空☁️

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ガンダム、起動!


第5話

 シミュレータ開始から3日。

 

 機体修復が完了してから、沖縄の動きが慌ただしくなってきたと思う。

 ムラクモも慌ただしく飛び、シルフが言うにはハンセンへの立ち入り調査が開始されたそうだ。

 

 私達は機体をコッソリと動かしてシュワブの奥深くの滑走路直通最深部ドックに隠して、基地の動力をコッソリ使ってシルフの電力を満タンにするために色々やった。

 でも……時間の問題だ。

 

 学校をずる休みした私と志条は大急ぎで航路を練る事にしたけど、まずはEEZを何とか超える必要があった。

 

 ムラクモの航続距離は850km、シルフは推定1000kmかそれ以上。

 排熱を気持ち悪い効率で熱電変換してるみたいだから、ムラクモ以上に飛べるとか何とか。

 

「シルフの表面装甲で無事な部分は一種の大電力太陽電池になっている。ただしこれも効率がおかしい。8割とかふざけてるだろ。民間普及品で5割だぞ」

 

「雲の上飛んでいたら無限に飛んでいられるじゃん」

 

「それに適当な場所で着陸して日の光浴びていたら充電できる」

 

「光合成かよ」

 

 シルフ=植物疑惑に吹き出しだけど、軍用太陽電池の特性を与えてMSの装甲に使っている時点でおかしいと思う。

 ムラクモとかはカーボンや軽量高強度合金でなるべく軽く強く作っているけど、これはまるで戦闘用としてではなくもっと別の目的で作られたようだね。

 

「高高度飛行を続けていけば飛びながら充電が出来るから、正距方位図法だと……台湾か」

 

「そこからどうするの?」

 

「ひとまず台湾に一時休息して充電いっぱいになったらホノルル方面に向かう。EEZを回避しながらになるからやや蛇行するけど、低空飛行で艦艇のレーダーやCIWS射角に引っかからないように飛ぶ」

 

「現地の言語は英語だと思うから大丈夫だけど、いざとなったらシルフ、翻訳お願い」

 

[Got it. I'll download(了解。中国語ライブラリ) the Chinese library.(をダウンロードします)]

 

 あとは、身支度をしないと。

 

 

 ____________

 

 

 

 小学校、中学校で私は東京と京都に行った。

 ひたすらにつまらなかったのを覚えているけど、今は無謀な旅にワクワクしている。

 だから、期待を裏切るような外だったとしても絶望しないでいよう。

 

 西宮教授でさえ知らないといった海外の状況は、思ったよりも安定していないかもしれない。

 割と波乱万丈かもしれない。

 

 でも、着いてきてくれる彼がいるなら、多分大丈夫だと思う。

 だって私、大丈夫な人に対してはチョロインだから。

 白黒の世界で、唯一、志条だけは色が付いて見えるようになったんだから。

 

 無機質な世界に現れた色を、手放したくない。

 

 それにシルフもいるし、シルフを国に渡せないからね。

 

 

 

 そしてもう一つ、身支度のついでに用意した物がある。

 シュワブに残っていたパイロットスーツ、対G性能を強化してゴテゴテした試作品だったけど、幸運な事に私にピッタリだった。

 ……女性用じゃないみたいだけど、貧乳が役に立った、ぐすん。

 

 母さんは、やっぱりだけどいない。

 やっぱり迷惑をかけてしまうになってしまうな……

 

 荷物からペンを取り出すと適当にノートのページを破いて手紙を残しておく事にした。

 

 

 

ここに、私がここにいたことを証明します。

私は、日本を離れることにします。

 

外がどうなっているかは想像もつかないけれど、頼もしくて愛らしい仲間がいるので、寂しくはないと思います。

私の情報は、一旦日本では捕らえられないようにします。母さんは私を生んでいなかったことに、情報として記録されると思います。

でも、私は母さんの子どもであることを決して忘れません。

私が帰ってきたら、きっとたくさん怒られたり泣かれたりするでしょう。でもそれができるように、いつか必ず帰ってきます。

反抗バカ娘より

 

「……行ってきます」

 

 

 ___________________

 

 

 

 白黒の世界というのは、僕には分からない。

 全色盲という感覚を知らないからどうにもならないけど、深浦は僕といる時につまんなそうにしている印象が無い。

 

 単純にからかいがいがあるとかそういうのかと最初は思ってたけど、いつからか態度が軟化した。

 心を開いてくれている、と思いたい。

 

 反抗的で、それでも内側には優しさが残っていて、無頓着で、バカで、天才な深浦は、フードの向こう側に綺麗な目を持っている。

 

 こう、なんか……見えない何かを見るための目だな。

 

 深浦の景色は分からないままで終わると思うけど、ブレーキ役は、必要だろう。

 

 

 一通りの工具とPCとケーブルと、シュワブに残っていたパイロットスーツを着る。

 少しサイズがあっていないな……深浦は、多分ピッタリだろう、体格合っていると思う。

 

 

 適当な紙の端に走り書きでメッセージを残しておく事にした。

 

 

バカ息子でごめんなさい

友達が、海外に向かうというので、僕はほっとけなくて付いてくことにします。

そいつが言うには、僕に関する情報は綺麗に日本から消えるようにしているそうなので、父さん母さんに調査の目が向く事は少なくなると思います。

あんまり時間が無いので、そんなに書けませんでした。

兎に角、ちゃんと帰ってきます。怒られてもいいから

 

 

 

 玄関を出てシュワブに向かって走り始める。

 工具箱が重くて何回も息が上がってしまうが、それでも走る。

 

 人嫌いで、冷めた目の深浦を支えられるのは、僕だけなんだ。

 

 星が光っている。

 雲もない空には天の川がかかっていて、夏の終わりが近づいているのに夏の大三角が優しく照らしている。

 月明りで街頭要らずの道を走り、草をかき分け、深浦とシルフの元へ向かう。

 

 

 その上空を、暴風が過ぎ去った。

 

 

「ムラクモ……! あの方角は!?」

 

 マズい……遂にシュワブの調査が始まったんだ。

 しかもこんな深夜に、自衛隊に見つかったらここまでの苦労が水の泡だ!? 

 

「深浦、シュワブにムラクモが向かった! 数6!」

 

『マジか……志条、そこにいて。シルフを動かす』

 

「実機試験は!?」

 

『ウォーミングアップはあいつらに潰された。ぶっつけ本番よ!』

 

 

 

 _____________

 

 

 

 志条とここで合流するはずだったのに、自衛隊に潰された。

 アイツら、ハンセンに何もなかったとみてシュワブに狙いを変えやがった……! 

 

 今度は私が手を差し伸べる番だよ……志条! 

 

「MOS起動、FCS、ジャイロセンサー、レーダー起動。プラズマジェットアイドリングに移行!」

 

 腹の辺りに僅かな振動が響き、機械の巨人であるシルフに生命が宿ったように感じる。

 機体制御用のOSが一気に立ち上がりシステムチェックに入り始めた。

 

「各部関節異常なし、腕部OBW遅延コンマ01、自衛兵装異常なし。超伝導蓄電池充電率100%。航続可能距離1100㎞」

 

[Emergency(緊急): MS reaction on Camp Schwab grounds. (キャンプシュワブ敷地内にMS反応)Numerous biological reactions within the base.(基地内部に生体反応多数)20 seconds to reach dock.(ドック到達まで20秒)]

 

「構うな! ドック管制システムをこっちに回して!」

 

 [Transfer completed(転送完了)]

 

 

 ここの直通ドックはもうバレている。

 既に複数の部隊がシルフを見ている、暗視スコープも盛大にクラッキングして誤魔化しているけど時間の問題だ。

 MSもすぐに入ってくる。

 

「志条、いまいく」

 

 そして、この名を叫ぶ。

 

 

「ガンダム・シルフ、深浦纏、出る!」

 

 

 MFMS-Y001ガンダム・シルフ、私の友達。

 シルフ、旅に行こう。

 

 


 

 

「ホテルリーダーより各機に通達。シュワブへの突入許可が下りた。各機武装の上、MSが通過可能な通路を封鎖しろ」

 

 ムラクモ二式のコックピットで伊坂はヘッドマウントディスプレイ越しに赤外線映像を睨んでいた。

 当たりだ、無人の筈のシュワブに微かに熱反応がある。

 それに人が出入りしていた痕跡がすでに確認されている。

 

 ここだ、モビルスーツが隠匿されているのはこの廃基地だ。

 

 歩行機動で格納庫直通のカタパルトから進入する。

 真っ暗な通路の奥にプラズマジェットの水色の光がチラつき、前方で僚機が小銃を構えてゆっくりと歩行している。

 

 不意に、熱センサーの反応が消えた。

 赤外線、超音波でも捉えられず、ただ耳を塞ぐほどの暴風音が響いている。

 直接視野ならば、伊坂は思い切ってコックピットハッチを開けてオフラインの暗視スコープ越しに闇の向こうを除くと、たしかにそこに「幽霊」は立っていた。

 

 コックピットの通信機能を立ち上げて状況を伝えようとすると、異常なまでに電波が静まり返っていて誰も呼びかけに応じない。

 

 

「冗談だろう……!? 通信もダメなのか!?」

 

 緊急時用のハンドサインと近距離レーザー通信で何とか意図は通じたが、有視界でないと姿が見えない。

 これがMSの能力と言っていいのか______否、MSだけの能力ではない。

 

「監視ドローンをクラッキングしたのが……こいつだっていうのか!? 各機セーフティを解除してハッチを開けろ! 有視界戦闘!!」

 

 日本を転覆させられるAIは、MSでもあった。

 近距離レーザで通じた範囲の機体が狼狽えながら正面ハッチを開けていく。

 その瞬間、幽霊は動いた。

 

 レーダーに映らず幽霊と化した幽霊____ガンダム・シルフは物凄い加速でムラクモに肉薄し、持っていた何かを打ち付けた。

 それは短刀のような物で、ムラクモの物とは形状が異なるが恐らくは米軍系MSが装備していた物だ。

 

 短刀が空気を震わす高周波音を立てながらムラクモの腕を斬り落とし、先制攻撃を受けた機体はバランスを崩しかけるが何とか持ち直す。

 でも伊坂は見抜いていた。

 

(戦い慣れていない。ナイフを振り抜いた勢いでバランスを崩しかけたな)

 

 MS戦は武器が全てじゃない。

 伊坂はモニター越しでの操縦を諦め直接視界でムラクモに体術を取らせた。

 シルフの腕を鮮やかに取り関節を極める要領で左腕の動きを止めた。

 

 シルフの右腕がムラクモの腕を引きはがそうと凄まじいパワーを発揮するが、最大出量で固定し続けるムラクモの固定を剥がせない。

 伊坂はシルフに向かって全周波数帯で通信を試みた。

 中遠距離なら無理でも、これ程の近距離なら通じるかもしれない。

 

「MSのパイロットに告ぐ! こちらは戦略機動自衛隊第21モビルスーツ小隊だ! 直ちに動力を切り機体から出ろ!」

 

 回答はない。

 自衛隊としては、捜索していたAIが搭載されたこの機体を確保したい。

 もしかしたらガンダムかもしれないから、これを取り逃がすわけにはいかない。

 

 その刹那、シルフの動きが変わった。

 肩、腰、膝部のプラズマジェットが瞬時に豪炎を放ち、ムラクモごとシルフは一気に後退。

 ムラクモを壁に勢い良く打ち付けて、緩んだ隙にシルフは抜け出して小銃を奪った。

 

 そのまま射撃。

 コックピットを敢えて外した射撃は四肢と頭部を撃ち抜き2秒もかからずに無力化されてしまった。

 

「クッソォ何だよアイツは!?」

 

 開け放たれたコックピットからシルフの顔が見えた。

 ムラクモのバイザー式とは異なりツインアイで、空力を意識して頭部に沿うように取り付けられたV字アンテナ、額の複合センサーに小さく印字されたGUNDAMという文字がちらりと見えた。

 

 

「ガンダムだと……!?」

 

 

 ______________

 

 

「撃ってしまった……撃って、しまった……」

 

 手の汗が引かない。

 シルフの操縦支援があったとはいえMS同士の戦闘をしてしまった。

 自分の動きをそのまま体現するMS、ガンダム・シルフは現行機を大きく引き離す機体だと志条は言ってたけど、本当にそうだ。

 

 

 シルフは戦う為の機体じゃないのに、どうしてッ……! 

 

 

「シルフ! 撃たずに無力化できる武器は無いの!?」

 

[Suggestion(提案):We recommend using the unit's(本機に内蔵された「アドミニス) built-in "Administrator."(トレータ」の使用を推奨)]

[Area of effect(効果範囲): 1km radius(半径1キロ)]

 

「対象をムラクモだけに限定! 他には一切触れないで!!」

 

 [Target Lock-on - Activates in 10 seconds(ターゲットロックオン。発動まで10秒)]

 

 アドミニストレータ__システム管理者とも呼ぶ意味に私は合点が付いた。

 シルフが持つ異常に高度な演算能力は、本来はこういう使い方をされるはずだったんだ。

 

 半径1kmに存在する特定の精密兵器、電子機器を一方的に停止させる領域の制圧者。

 シルフが持つ他に類を見ない兵器であり「戦いを終わらせるための兵器」だ。

 

 ムラクモの銃撃がやまない。

 シルフの操縦支援が無かったら何発も被弾しているが、被弾しそうな時にシルフが操縦を掠め取り緊急回避をしている。

 

 

 10──9──8

 

 銃撃、火花、装甲をかすめた弾丸が傷跡を生み出す。

 自分の呼吸すら重くて、肺の奥が冷たい。

 

 7──6

 

「やばいッ!」

 

 次の瞬間、シルフが勝手に操縦桿を奪い、身をひねって回避する。

 視界の端で弾丸が尾を引き、闇に溶けた。

 

 5──4

 

 耳の奥で、低い唸りが始まった。

 空気が振動し、皮膚に針のような痺れを感じる。

 まるで、この世界そのものが制御下に落ちていく予兆。

 

 3──2──1

 

「アドミニストレータ……発動!」

 

 シルフがムラクモに向かって掌を向けて一気に握ると、見えない大波のような何かが空間を飲み込んだ。

 その瞬間、ムラクモは膝から崩れ落ちた。

 まるで糸の切れた人形のようにうつ伏せに倒れ込むと、銃撃音が響いていたシュワブは静寂に包まれてしまった。

 

「これが……アドミニストレータ」

 

 最強の電子戦攻撃兵装……シルフの隠し玉。

 戦いを一方的に終わらせるための力。違う。

 身を守る為の力だから、倒す為に使ってるんじゃないんだ。

 

 取り敢えず志条と合流しないと……

 

『グッ……あぁ……』

 

 シルフの収音機が何か音を拾っている。

 人の声、ムラクモに乗っていた人の声だ。

 その方向に目を向けると、うつ伏せのムラクモから這い出した自衛隊員が拳銃を向けていた。

 

『幽霊め……!』

 

 銃撃、しかし拳銃の弾はシルフの装甲に阻まれかすり傷にもならない。

 私には傷1つも付かない、脅威にはなり得ないけど、怖い。

 放っておいていい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも、シルフは私の意思と反して、自衛隊員に小銃を向けた。

 

「ちょっと待って!!」

 

 シルフは止まらない。

 

「戦闘は終わった! もう攻撃しなくてもいい!」

 

 小銃の照準が勝手に絞られる。

 何時しかのようにstopと端末に打ち込んでも止まろうとしない。

 そうか、シルフは……私への害意を極端に嫌う幽霊なんだ。

 

「私は生きている!!!」

 

 生きている。

 そうだ、私は生きているんだ。

 まともに当たれば爆散するかもしれない"死と隣り合わせの戦場"を体験して、生きているんだ。

 それを、シルフはまだ認識し切れていなかったんだ。

 まだ戦場にいると、シルフは思い込んでいるんだ。

 

「怖くない、もう、害意は無いんだ。だから銃を収めて。お願い……」

 

 自分でも分かるくらいに声が震えている。

 害意は残っているが戦闘を止めるように言われて、シルフはどうするべきかを迷っている。

 小銃の銃口が震えている、撃つべきか銃を収めるべきか揺れているんだ。

 

「志条が待っている。迎えに行こう」

 

 短い英文が、コンソールに表示された。

 

 

 

 

 

 

 

 

[.Cancel combat readiness(戦闘態勢を解除)]

 

 銃口を降ろしたシルフは小銃を腰にマウントして跪いた。

 

 緊張がどっと体から抜けて喘ぐように息を吸い込む。

 良かった……届いた……ありがとう……

 

 この子は人殺しの機体じゃない。

 軍用機のシルフにとっては押し付けになってしまうと思うけど、私も人殺しを望んでシルフに乗ったんじゃない。

 外を見たいから、シルフに乗ったんだ。

 

 プラズマ炎が咆哮し、夜空を裂くようにシルフは舞い上がった。

 

 大気依存式のプラズマ炎が夜の大地を照らして、草木をなぎ倒すほどの暴風が吹き荒れ、志条の端末信号がある位置まで一気に飛んで、ゆっくりと膝立ちで着陸した。

 

 

『深浦! 無事か!?』

 

「無事。でも……怖かった」

 

 私はシルフの手で志条を救い上げて胸部コックピットブロックまで持ち上げた。

 ハッチを開いて手を伸ばすと、志条はその手をがっちりと掴んで飛び込むように入ってきて、頭のてっぺんから足先まで見て怪我が無いかを確認してきた。

 

 そんなジロジロ見るな……心配はちゃんと受け取るから。

 

 そうだ……ヘルメット、遮光仕様で被ったままだった。

 泣きそうな顔、見えてないと良いんだけど。

 

「ごめん……操縦、代わって」

 

「……休んで欲しい。台湾までは何とか飛んでみる。戦闘をしていたのか」

 

「撃ってしまって、命を奪いそうになった。何だか、寒いんだ」

 

「……そうか。シルフ、航路を台湾に設定。速度管理を一任する。片手が開くようにしてほしい」

 

[Roger that(了解)]

 

 そう言うと、志条はパイロットスーツのジッパーを少し下げて腕を出した。

 そしてその手を私に差し出してきた。

 

「今は、こうするべきだと思った」

 

「……不器用なんだよ、志条は」

 

 ヘルメットを外して、私もパイロットスーツを少し脱いで彼の手に触れた。

 

 指先が触れた瞬間、冷え切った掌がじんわりと温まっていく。

 震えはまだ残っているけれど、志条の手がそれを吸い取っていくみたいで、少しずつ呼吸が楽になる。

 

 外のスクリーンには、夜の海が墨のように広がり、その上に散る星が針のように光っていた。

 台湾まではまだ遠い。

 けれど──この手を離さなければ、行ける気がした。

 

 

 ___________________

 

 

 

 

「全滅!? 6機のムラクモが全滅だと!?」

 

「MSのOSの複数のファイルが暗号化されて起動すら出来ません。恐らく、外部からのクラッキングです」

 

「どのポートが使われた」

 

「部隊間の音声通信を行う為のポートです。通信用じゃないはずのポートでこんな事が……」

 

 シュワブに現地入りした普天間基地の将補は伊坂からの報告を受けて驚愕に染まった。

 無線通信を少しでも行っているならドローンだろうがムラクモだろうが全部手中に収める事が出来てしまう。

 捜索指示が出ていたAIはガンダムでもあった事も判明してしまい、さらに眉間を押さえた。

 

「ガンダムはどこへ向かった」

 

「南西、台湾方面へ向かっています」

 

「台湾だと?」

 

「航続距離の問題でしょう。MSだって無限に飛べるわけではないんです」

 

「統幕長に報告を上げる。ガンダムタイプMSの回収に失敗。目標は台湾へ向かったと」

 

 

「与那国防衛ラインに第1種警戒体制を取らせろッ! なんだ!?」

 

 シルフが飛び立った後にシュワブから何かが射出された。

 何かのカプセルだろうか、分からない。

 MS用の大気圏再突入カプセルのようなそれは爆発的な加速をその()()に与え、一気に外装を解放した。

 

「戦闘機……だと!?」

 

 旧式も甚だしい戦闘機、それがシルフと同じ方向を向いて飛び去って行った。

 

「レーダー! 映っていたか!?」

 

「何も映っていません。恐らくは第9世代ステルス戦闘機かと……!」

 

「最後の戦闘機……」

 

 三機の戦闘機は、そのまま夜の闇に消えていった。

 主を追いかける猟犬のように

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