【魔法美容師(マジカルエステ)】を得た転生者は栄耀栄華の夢を見るか   作:好きな念能力は4次元マンション

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プロローグ

 回復能力。

 魔法でも特殊能力でも、行使すると傷を癒したり、病を治したり。多様な活躍をみせる能力。

 某国民的コミックでも特殊な豆を食べれば傷や体力が回復したりして、よく怪我を伴う修行や強敵と戦う時に用いられる。そんな能力を自分が持っていたら……?

 

 医者になって数多の人を救う? 成程。人として最も正しい事かもしれない。

 

 でも、俺の回答は違う。

 医者になったとして、金を持ってない一般人なんて相手にしてても規定以上は儲けられない。それならば金持ちや、時の権力者にすり寄って仕事して大金せしめて豪遊したい。

 

 俺は金持ちになりたい。世の中金なのだ。権力、金。すべてを解決する魔法の言葉。

 

 総じて、金や権力を持った者は自分が築いたモノを失うことを何より恐れる。それが加齢や怪我・病気などどうしようもないものならなおのこと。仮に、俺だけがそれらを恐れることなく過ごせるとなれば……?

 

 なんでこんなこと話すかって?

 それは俺がこれらの力を勝ち取れるかもしれない世界に生まれ変わったからだ。

 

 

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 ”僕のヒーローアカデミア”

 

 俺が元々生きていた世界で老若男女問わず凄まじい人気を誇っていた漫画。

 世界総人口の8割がなんらかの特殊能力『個性』を宿した超常社会と化した世界で『個性』を用いた犯罪者である(ヴィラン)と、それを同じく『個性』を行使して打倒するヒーローが存在する。

 

 しかしこの世界、特に日本はオールマイトというスーパーマンみたいな超人が”平和の象徴”とやらになったおかげで犯罪発生率は世界最低。つまり最も安全な国なのにも関わらず毎日大小問わず様々な(ヴィラン)による犯罪が発生しているトンデモ世界なのだ。

 

 そんな世界におぎゃあと転生した俺の今世の名前は『修善寺念治(しゅうぜんじねんじ)

 あのNo.1ヒーロー・オールマイトとも懇意にしていて昔から雄英高校と関わりのある治癒系個性の金字塔、リカバリーガールの孫にあたる。

 

 望外の幸運にダンスでも踊りたいぐらいテンションが高まった。

 原作でリカバリーガールを超え得る治癒系個性というと、敵であるAFO一派の『超再生』くらいだろう。それ以外でも映画かなんかで町の診療所勤務のおじさんが軽微な傷を治す個性を使っていたような記憶があるが、それでもそんなもんだ。

 リカバリーガールの孫ならその個性が遺伝している可能性はかなり高い。回復個性で勝ち確人生だ……! と思ったのだが、保育器の周りにいる人間の声を聴くと、どうやらそうではないらしい。

 なんと、俺の母親は無個性だったのだ。名前は『修善寺治香(しゅうぜんじちか)

 マジか。これは最初から前途多難だ。

 

 たしか、個性は大体親から遺伝するものだったはず。あとは突然変異的にどの親戚筋にも該当しない個性を発現する場合。

 個性って隔世遺伝とかするのだろうか? ヒロアカは単行本で一度さらっと読んだだけだ。番外編とか、設定集なんか出てたかも知らない。大体の物語の流れくらいはわかるけど、そんなディープなところの設定まではわからんぞ。登場人物も主要メンバーっぽいのしか覚えてない。

 あーでもないこーでもないと保育器の中で思考するが、全く考えがまとまらない。極度の睡眠不足のような感覚が常に襲ってくる。

 

(あー、それにしても眠い。やっぱ赤ん坊だからか?)

 

 睡眠本能に逆らえない俺は細かい考察を後の自分に託し、周りの期待の声を子守歌に深い眠りについた。

 

 

 

 それから時は流れ、俺は幼児になった。今世の容姿は幼児にも関わらずはっきりとわかるほど目鼻立ちが良く、前世の俺なんか比較にならないほど整っている。烏の濡羽色の髪は肩まで伸ばされたミディアムウルフカット。黒曜石のような漆黒の瞳。皆が想像する絶世の美男子って感じだ。……男子って年齢ではないか? ここまで幼いのはショタというのだったか?

 

 何はともあれ。ある程度自由に動き回れるようになって実行していた、家族の調査結果を頭の中で整理する。

 

 まず今世の母『修善寺治香(しゅうぜんじちか)』リカバリーガールの実の娘で、無個性。しかし、リカバリーガールは母を見捨てず、無個性の偏見なしに育てきった。当たり前に真っ当に教育をして、当たり前に進路について一緒に悩み、恋人ができれば我が事のように喜ぶ。ごく普通の人間として扱った。

 そんな母と結婚したのが『修善寺纏(しゅうぜんじまとい)』『オーラ』という個性で、自分の身体の周りを白くぼんやりとした見た目のエネルギーで覆うというもの。

 周囲に個性を展開している時は身体の強度が上がり、超人じみた身体能力を発揮できたり、エネルギーの形状を操作できるのだが、個性使用中常に体力を消耗してしまうため長時間連続して個性を使えないという欠点がある。

 

 かつてヒーロー科の高校に通いヒーローを目指していたそうだが、インターン先のヒーローが(ヴィラン)に襲われ瀕死の重症。自身も少なくない怪我を負って入院した病院で母と出会ったようだ。そしてなんやかんやで2人は結ばれ、俺が生まれたというわけだ。

 補足すると、父はしっかりヒーローの本免許を持っている。だが、高校3年生でヒーロー免許を取った後、独立も事務所に入ることもなく大学へ通い、今は市役所の公務員として働いている。

 

 調査からいうと、父の個性は有用だ。身体能力の底上げとエネルギーの形状操作で(ヴィラン)確保も容易な個性。

 しかし、これを踏襲すると原作中盤以降の主人公と戦法が駄々被りとなる点だけが気がかりだ。

 原作にはたしか同じクラスに増強型のサトウ何某がいたが、大した活躍をしていなかったうえに描写がなかった。

 

 ……なんて、自分が使う個性の使い方を妄想したが()()()()()()()()()()()()()()()のだ。今日は俺の4歳の誕生日。世間的にも個性の発現は大体4歳まで。多少前後はあるだろうが、今日この日が俺のタイムリミットだ。特にこの半年、母の焦燥は尋常ではなかった。いつまでたっても個性の発現しない息子。そして自分は無個性。悪い想像はいくらでもできてしまう。

 

 俺は思わずはあ、と溜息を吐く。

 今日は出かける日だ。両親の準備を待つ俺は手持ち無沙汰におもちゃの銃で遊んでいる(プロヒーロー・スナイプが使用する銃のモデルガン。コルク銃タイプでシリンダーにコルクを詰めて放つ。付属の的に向かってしか引き金を引けず、仮に銃と的の間に障害物があれば引き金がロックされる)。

 この世界、コミックやアニメに俺好みのものがない。前面にヒーローを押し出したようなものばかりだからだ。PCゲームには興味のあるものがあるかもしれないが、この年で触れるものではない。これでは趣味を没収されたようなものだ。絵本も何度も読むものでなしに。そんな俺を見かねてか、父がこれをプレゼントしてくれた。

 壁に掛けている的に狙いを定める。的が光り、弾を撃つべき場所を知らせる。光ったのは的の中心ど真ん中。狙いを定め、引き金を引く。銃口から放たれたコルクが的の中心に当たり、ぽん、と間抜けな音を奏でる。物心ついた時から遊んでいるので狙ったところに当てるのはお茶の子さいさいだ。

 遊びに没頭していると、背後から母の声がした。

 

「念ちゃん、お出かけの準備できた?」

「うん、お母さん。大丈夫だよ」

 

 ほら、と俺は傍らにあるオールマイトポシェットを指さして答えた。これは父に買い与えられたもので、俺自身はオールマイトに毛ほども興味はない。この世界、あらゆる商品、特に子供向け商品とヒーローのコラボ率が異常すぎるのだ。主にオールマイト。

 あらゆる商品にオールマイトが存在するし、テレビで見ればチャーミングな人柄。(ヴィラン)と対峙すれば圧倒的な力で逮捕に貢献。成程、この背を見て育った子供はファンになるのも納得だと思った。

 俺の返事に満足したのか、母はにっこりと笑って俺の肩にポシェットをかけた。

 

「よーし、準備万端! お父さん車で待ってるから、行きましょう」

「はーい」

 

 明るい笑顔の母の差し出した手を握って歩き出す。今日は個性診断に出かけるのだ。

 

 

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「大丈夫ですよ。お父さん、お母さん。この子は個性のある体つきをしていますし、個性因子も存在が確認できます。個性を使おうとしていないのか、それともなんらかの発動条件があるのかはわかりませんが。無個性という事はないでしょう」

「よかった……っ!」

「そうだね、治香」

 

 【朗報】 俺、個性がある。

 医者の言葉に感極まって顔を両手で覆って泣いている母。そして母を右手で撫でて慰めながら少し目が潤んでいる父はやったな、と反対の手で俺の頭を撫でている。

 俺は父に撫でられるままに身を任せている。

 医者も看護師も良かったですねえと温かい目をしているが、一部の看護師は視線の種類が違うのがわかる。というのも、俺の顔立ちが整っているということは遺伝元の両親も見目が整っているというわけで。絶世の美男子であるおれの両親もやはり、絶世の美男美女なのだ。若い女性看護師の何人かは父を恍惚とした表情で見つめている。やめろ、父は妻帯者のうえ子持ちだぞ。

 

 数刻の間を置き病院を出た両親は、今にも踊りだしそうな勢いだ。テンションが上がりすぎて俺の両手をそれぞれ両親が握り、ブランコのように揺らして車に向かっている。

 両親のハイテンションはやはり、息子の俺が無個性でなくて良かった、という事なのだろう。この世界で無個性とは差別の対象だ。かつては個性持ちの方が少なかったのに、今や逆に無個性の方がマイノリティだ。母は自身が無個性で相当に苦労した事もあったろうからこの診断結果に家族で1番安心したであろう事が伺える。

 俺に個性があるということは十中八九、父の個性が遺伝したのだろう。個性『オーラ』は身体能力を上げてスーパーマンみたいな活躍が見込める()()()()()()()()()。かなり汎用性が高い素晴らしい個性だ。

 

 でも、強いて言えばリカバリーガールの個性が欲しかった。

 原作では高齢だからなのか、それともあれほどの治癒系個性の持ち主を戦場に出して万が一にでも死傷なんてしたりしたら日本国に大打撃だからなのか、第一線ないし補給部隊にも出ていなかった記憶がある。

 それと同じ、もしくは強化された個性を持っていれば戦場に出ることなく個性を使って戦わない回復系ヒーローになれたかもしれないのに……。

 

 しかし、持って生まれたものは仕方がない。この『オーラ』でヒーローになって活躍し、グッズ売り上げなどで億万長者になろう。目指せナンバーワンヒーロー(売り上げ)だ。

 

 帰りの車内でもテンションの高い両親に合わせて会話してたので、俺は家に着く頃には疲れ果てていた。車から見えるこの家は祖母と俺たち家族で暮らしている完全同居型の二世帯住宅だ。リカバリーガールがもう高齢ということもあり、バリアフリーを意識している。広い家の描写だと、原作に出てきた轟家は日本家屋であれだけの大きさだったが、こちらは戦闘訓練する場所がない分少しばかり大きいだけの普通の家だ。……それでも一般家庭よりははるかに大きいか。

 しかし、一見普通に見える家でもセキュリティはそんじょそこらの家の比ではない。リカバリーガールが住んでいる家だけあり、家の周囲で何か起きようものならすぐさま専用回線でヒーローに連絡が届き、最優先で事に当たってくれるらしい。まあ今までそんなことは起きたことがないらしいが。

 鍵を両親に開けてもらい、家に上がる。手を洗ってリビングに行くと、リカバリーガールが椅子に座ってお茶を飲んでいた。

 両親の明るい様子から良い診断結果だったことは悟っただろうに、自分が気づいたことは毛ほども表に出さず、リカバリーガールは俺に問いかけた。

 

「おかえり、念治。個性はどうだった?」

「ただいま、おばあちゃん。俺個性あるんだって!」

 

 嬉しそうに答える俺をリカバリーガールが「良かったねえ」と頭を撫でてくれた。

 俺の個性診断日ということで早上がりしてくれたようだ。母と父はご馳走をつくると台所へ向かった。あまり疲れた様子を見せない祖母だが、最近忙しい様子だったし、今日は夕飯に間に合うように仕事を終わらせてきたからか疲れている様子が見て取れる。俺はにぱっと笑顔でにこやかに声を上げた。

 

「おばあちゃん、ソファに座って。肩たたきしてあげる」

「そうかい? ありがとう念治」

 

 俺の肩たたきに気持ちよさそうな声を漏らす。

 この紅葉のようなお手手の肩たたき程度がリカバリーガールの癒しになるかわからないが、もっと気持ちよくなってもらおうと気合を入れて力強く叩こうとしたその時──。

 

 ブワっと俺の全身を白いモヤのようなものが覆ったかと思えば、どんどん膨れ上がった。

 俺の身体から離れて大きくなったそれは、俺の身体と白いモヤで繋がったまま人型となった。刹那、頭の中に鮮明に浮かび上がる人型。それは形を成して俺に侍るように”具現化”した。

 髪は桃色ストレートのセミロング。セットアップのスカートスーツをグラマーな肢体で着こなしている。シャツのボタン部分はハート形で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、胸に付けた名札には「クッキィ」と記載されている。

 

 俺はリカバリーガールの肩たたきを忘れ、呆然と彼女を見ていた。すると彼女──『クッキィちゃん』はぱちっと目を開けると、祖母の肩に手を置き、マッサージを始めた。淡く発光する彼女の手は淀みなく祖母の肩を解していく。今の俺の手ではできないが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。よく見ると、クッキィちゃんの光る手から粒子のようなものが出ていた。

 

「────!」

 

 俺の手ではない何かに肩を解されたリカバリーガールは声にならない声を上げてぐりんっと勢いよくこちらを向く。今自分の肩を揉んだクッキィちゃんを見て、高齢とは思えない声量で叫んだ。

 

「だ、誰だいあんたは!?」

 

 クッキィちゃんは叫んだ祖母に全く反応せず、仕事は終わったと言わんばかりに俺に一礼し、そのまま霧散した。

 クッキィちゃんが姿を消したと同時、ぐらりと傾く俺の視界。身体中の生気が抜け落ちたような感覚だ。その場で倒れ、薄れゆく意識のなか、血相を変えた祖母が見えたような気がした。

 しかし、それにしても……。

 

 俺の個性──もしかして、ハンターハンターの魔法美容師(マジカルエステ)なのかよ……!

 

 

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 目を覚ましたらベッドの上だった。

 ボーっとする頭と身体を無理やり起こして周りを見渡すと、母がいた。俺が目覚めたことに気づいて抱きしめられ、泣きながらナースコールをしてくれた。

 母から話を聞くと、肩たたきをしていた俺は個性が発現してそのまま気絶。すぐさま病院に担ぎ込まれたそうで、倒れた時から2、3時間経っているようだ。腕を見ると、点滴が刺さっていた。

 

 病室に訪れた医者から詳しく検査する必要があると言われ、様々な検査を行った。

 

 検査が終わり、両親、俺、リカバリーガールは医者から個性の説明を受ける。

 結果として、俺の個性は父の『オーラ』と祖母・リカバリーガールの『癒し』が遺伝した複合型個性で、自身に纏ったオーラを媒介に人型を形成し、それに回復行為をさせることができるのではないかとのこと。

 俺の個性を受けた祖母曰く。

 

「寝不足や肩こりが綺麗さっぱり抜けているさね。心なしか若返ったような気分だよ」

 

 とのこと。俺はこの発言から、魔法美容師(マジカルエステ)の能力に加え、ビスケ当人の”発”と変化系能力(オーラを様々な効果のあるローションへ変化させる)も使えるのではないかと考察をたてた。

 リカバリーガールの寝不足を解消したのは”発”、桃色吐息(ピアノマッサージ)だろう。桃色吐息(ピアノマッサージ)は30分で8時間睡眠に相当する休息効果による体力回復が行える能力だ。

リカバリーガールは俺の個性を受けた後、急激な眠気に襲われ眠りに落ちてしまったそうだが、30分で目が覚めて寝不足が解消したのだそう。

 

 しかし、作中の姿と俺が具現化した姿は細部が異なっていた気がする。俺の魔法美容師(マジカルエステ)はビスケのそれと似通ってはいるが完全に同一ではないのかもしれない。

 

 短時間でここまでの回復効果が見込める個性は希少らしく、医者は鼻息荒く俺にリカバリーガールのような医療系ヒーローになることを強く勧めてくる。

 

「すごい個性じゃない念治!」

「よかったなあ」

 

 両親は俺が明らかな強個性を発現したのが嬉しいのか、しきりに頭を撫でて満面の笑みでヒーロー向きの個性だのなんだの言ってくる。俺にだってその有用性はわかる。さらに成程、と合点がいった。

 父の個性『オーラ』は原理は違うかもしれないが、起こしている現象としてはハンターハンターの『念能力』だったのだ。個性使用時は”練”を無意識に行い顕在オーラの増量。エネルギーの形状操作は”変化系”の特性を用いていたのだろう。

 それに、個性を長時間扱えないのも納得だ。オーラは生命エネルギーを引き出している。四大行からなる効率のいい潜在オーラの増やし方・引き出し方を知らなければ、”練”をして生命エネルギーを引き出し続けていられるわけはない。

 極めつけは俺が具現化した魔法美容師(マジカルエステ)のクッキィ。これが出せたのは父の個性だけでは説明がつかないが、『念』だと考えれば説明がつく。

 これは俺の無意識からの”発”だろう。考えられる能力としては『ハンターハンター作中に登場した念獣を再現する』といったところだろうか。それにしては細部が異なるが、クッキィを具現化できたのは心からリカバリーガールを癒してあげたいという想いからか。……自分で分析すると気恥ずかしいが、これが俺の個性となると──。

 

 俺は内心ほくそ笑む。これはこのヒロアカ世界のどんな強個性に勝るとも劣らない個性であると。

 回復もこなせるうえ、身体能力は高められる。さらに、俺の考察が正しければ……。笑いが止まらない。

 

 個性が発現した俺は早速個性の修練を始めることにした。

 小学生未満で幼稚園にも通っていない俺には幸い、無限にも思える時間があったからだ。

 しかも父はヒーロー免許保持者。ためになるアドバイスを期待したのだが、感覚の説明ばかりで正直役には立たなかった。しかし、父の監督の下でなければ個性の使用は()()控えた方が良いだろう。『オーラ』が使用しているのは生命エネルギーだ。トチって生命エネルギー枯渇で死亡は笑えない死因すぎるからだ。

 なので、最初の修練は週末土曜日。休日で家にいる父の前で行うことにした。何はともあれこの個性が念能力であるという俺の仮説も四大行である”纏”、”絶”、”練”、”発”ができなければ話にもならないので、父の擬音ばかりの感覚の話より、ハンターハンター作中のウィングの説明を思い出して参考にしようと思う。ちなみに今回は初回ということもあり、リカバリーガールも同席している。

 

「よし。とりあえず念治、ゆっくりでいいから個性出してみろ。『オーラ』出した時の感覚を思い出すんだ」

 

 父の言葉にこくん、と頷く。まずは基本となる”纏”だろう。

 個性の開放。これは1回できているので問題ない。感覚でわかる。身体に力を籠めると途端に膨れ、立ち上るエネルギー。そしてこれを『血液のように全身をめぐっているように想像。流れが次第にゆっくりとなり、体の周りで揺らいでいるイメージ』……。

 

「おお! 念治、『オーラ』が出てるぞ! しかもすごく穏やかで、安定してる。個性制御、念治は俺の時より何倍もすごいぞ」

 

 自然体で深呼吸しながら心音とともにゆっくりになっていくように独自の方法で制御したが、どうやら掴みとしては正解だったようだ。これが”纏”。自覚して使うととんでもない。このオーラを纏っている時、安心感のようなものが芽生えてくる。オーラに守られているからだろうか。

 俺の『オーラ』の制御に父はご満悦だ。こんなに褒められると全く悪い気はしない。むしろ凄く良い気分だ。父は人を褒めてその気にさせるのが上手い。

 

 ……というか、”纏”をしていると父から白色の『オーラ』が見えるのを感じる。隣にいるリカバリーガールにも見える。父よりは少ない量のようだ。

 

「ねえお父さん。なんかお父さんたちからもやもやが出てるんだけど……なにこれ」

「……ああ。『オーラ』は体力というか、生命力というか。そういうのをエネルギーにして操ってる。どんな生き物にも血は流れているだろう? それと同じさ。俺たちは『オーラ』を出してると生き物の生命力を感じ取れる」

 

 ──これは確定だ。

 この『オーラ』。起こしている現象自体は紛れもなく念能力そのもの。生命力をオーラとして目視したり感知もできるとかモロにそれだ。

 俺は溢れんばかりの歓喜を内心で爆発させた。

 歓喜に震える俺に、リカバリーガールは声をかけた。

 

「念治。あのお嬢さんを出せるかい?」

「やってみる。あと、名前は『クッキィちゃん』だよ」

 

 俺は2人に名前はクッキィちゃんだと説明しつつ、クッキィちゃんの具現化を試みる。しかし、クッキィちゃんは全く具現化できない。一度できたから”纏”と同じようにイケると思ったのだが。

 

「できないよおばあちゃん」

 

 リカバリーガールに具現化できない事を伝えると、彼女は顎に手をあてて思案する。

 

「……最初にあの子を出した時、どういう気持ちだった?」

「うーん……。おばあちゃんの肩たたきを一所懸命やろうとした……かな?」

 

 リカバリーガールは成程、と頷いて父に顔を向ける。

 

「じゃあ念治、纏さんにも私と同じように、あの時と同じ気持ちで肩たたきをしてあげなさい」

「わかった」

「よし。こい念治! お父さん今肩こり凄いから楽しみだ」

 

 父とリカバリーガールの声援を受け、俺は肩たたきを父にしながらクッキィちゃんの具現化を試みる。父を肩たたきで癒す、それだけを心で念じる。

 瞬間、俺のオーラからクッキィちゃんが具現化された。

 

「……やっぱりね」

 

 リカバリーガールの言葉で、俺にもクッキィちゃんの具現化条件がわかった。

 俺は父から少し離れ、場所を空けた。クッキィちゃんは父の肩を叩く。今回も光の粒子……桃色吐息(ピアノマッサージ)が手のひらから出ている。

 

「うおっ、これがお義母さんが体験したやつか……」

「私の時と同じなら30分かけて効果がでてくるはずだよ」

 

 2人は桃色吐息(ピアノマッサージ)の効果を勘違いしている様子。能力の詳細は使ったらなんとなくわかったという事でゴリ押してこの後説明しておこう。

 クッキィちゃんの施術が終わり一礼した時、俺は内心で彼女にオーラと同化するように命令する。俺の命令通り、クッキィちゃんはそのまま消えるのではなく、俺のオーラに同化して消えた。

 思った通り、こうして具現化した念獣は霧散して消える前に取り込めば具現化の維持に使われたオーラ量がそのまま自分に還元される。

 クッキィちゃんの具現化と”発”を使ったが、個性発現した初回のような倒れるほどの疲労ではない。が、それでも結構キツイ。全力で短距離走を走った後のような感覚だ。こんな短時間使用でこの疲労感は具現化プラス”発”の使用に対して今の俺のオーラ量が少ないせいだろう。

 俺の様子をつぶさに観察していたリカバリーガールは、俺が個性を使っても倒れていないことに疑問を投げてきた。

 

「念治、身体の調子はどうだい?」

「うん、すごく疲れたけどまだ大丈夫。ちょっと気づいたんだけど、こうやって出したクッキィちゃんは俺のオーラと1つにすれば、この前みたいに倒れないみたい」

「あー、成程。俺の必殺技と同じ理屈か。俺の自在紐(ハンターズネット)(ヴィラン)を捕縛しっぱなしの時と、使い終わったやつ取り込んだ場合だとその後の継戦能力が段違いだったもんなあ……」

 

 流石俺の息子だと言わんばかりの父だが、そういうこと知ってるんだったら早く言ってくれ。見ろ、リカバリーガールも呆れてるぞ。

 施術を受けた父は感想を述べた後、首をかくんと揺らしてソファで眠りについた。

 その後は俺の疲労も考え、この日の個性試しはお開きとなった。

 

 その翌日、日曜日。

 俺たち家族は雄英近辺の大型病院の一室に来ていた。ここはリカバリーガールに与えられた部屋らしい。俺の目の前には変わらずリカバリーガール、そして両親の姿がある。母が見学者として増えたかたちだ。昨日の疲れはぐっすり寝たので大丈夫。元気モリモリだ。若いって素晴らしい。

 俺の状態を確認したリカバリーガールは昆虫飼育ケースを取り出した。中身には尻尾が切れたトカゲが2匹入っていた。

 

「……念治。あんたのクッキィちゃんには私と同じ”注射器”のアクセサリーがあった。つまり、私と同じ『治癒』ができるかもしれないってことさね。それを今から確かめるよ」

 

 成程。トカゲの尻尾は自然治癒で治る。これを『癒し』の個性で自然治癒力を活性化させて治そうって話か。

 

「私の『治癒』に必要なのは想像力。そして患部に対する適切な医療知識。これはそのまま治癒してしまった時、例えば骨折した人を治癒して、骨の破片なんかが患部の周りにあったら大変って意味さ」

 

 リカバリーガールは飼育ケースの蓋を開けた。よく見ると1匹は多少元気そうだが、もう1匹はかなりおとなしい。リカバリーガールは元気なほうのトカゲを取り出し、それに向かって唇を尖らせる。

 

「チュゥゥ!」

 

 トカゲの背中にキスすると、みるみるうちに尻尾が生え、リカバリーガールの手の上で懸命に手足をジタバタとさせるほどにせわしなかったトカゲの動きは多少落ち着いていた。尻尾の治癒にトカゲ自身の体力を使ったからだ。

 

「人の身体はともかく、こういう爬虫類や小さい動物なんかは想像力だけで大丈夫さね。コツは相手の傷を治したいって気持ちさ」

 

 さあ、やってごらん、とリカバリーガールは言う。

 きた。ついにきた! 長年の、念願の『治癒』だ! 俺の前世を含めた宿願が達成できるかどうかがこれにかかっている。

 

 俺は早速クッキィちゃんの具現化を試みる。

 昨日父に行った肩たたきでクッキィちゃんの具現化条件ははっきりとわかった。それは『具現化する際に行わせたい事をイメージして設定しなければ具現化できない』ということだ。

 

 元々のクッキィちゃんの発動者はビスケ。変化系能力者だ。ビスケは作中で戦闘中に”発”を使っていないことから、戦闘用の”発”を持っていないのではないかと度々議論されてきた。

 それはビスケの”発”、魔法美容師(マジカルエステ)のクッキィちゃんの造形があまりにもクオリティの高いものだったからだ。

 変化系が具現化系に割ける割合は80%。対極の操作系は40%だ。造形の細かさに加えて、この割合でマニュアルでクッキィちゃんで自分にマッサージをするために逐一操作するとなると操作系に対して”容量”(メモリ)を大量に使っているだろうから戦闘用の”発”を作れるだけの”容量(メモリ)”が不足していたんじゃないかという仮説。

 

 予想というかもうこれは妄想の類いだが、実際に見た目が多少異なるとはいえ俺は魔法美容師(マジカルエステ)を使えている。つまり、この能力に付随する”制約と誓約”も適応されるのではないか。……というのが俺の仮説だ。

 

 そのため、おそらく仮説は誤りで、ビスケはクッキィちゃんにやらせる行動内容をプログラムして”自動操作(オート)”にすることで操作系に割く”容量”(メモリ)を浮かせていたのだろう。

 

 だからただ『具現化したい』と思っただけでは具現化できなかったのだ。

 つまり、今回は魔法美容師(マジカルエステ)に組み込まれてしまったであろう俺の本来の個性『癒し』をトカゲに使え、と指令して具現化すれば良いということだ。

 自分の仮説を信じてクッキィちゃんを具現化する――!

 

 ”纏”をした俺のオーラから具現化されたクッキィちゃんは、今までとは異なるものだった。身につけていた注射器のアクセサリーは実寸大に大きくなっており、シリンダーに”中身”が入っていた。

 クッキィちゃんはトカゲを両手で支え、唇を尖らせた。そのままトカゲの胴体部分にキスをすると(リカバリーガールのように唇が伸びることはなかった)、注射器の中身がみるみる減っていく。

 比例してトカゲの尻尾がニョキニョキと生えてくるばかりか、トカゲの動きが活発になった。

 しかし反比例して俺の元気はどんどんなくなっていく。

 

(こ、これリカバリーガールみたいに能力の使用対象じゃなくて、俺の体力とオーラ消費するんかい!)

 

 トカゲの尻尾を治すだけで4歳児の体力・オーラのほぼすべてを使い果たした俺はクッキィちゃんの具現化を慌てて解除した。

 滝のような汗を流す俺に母はスポーツドリンクを手渡してくれた。どうやら事前に買ってくれていたようだ。ありがたい。

 椅子に座ってごくごくと喉を鳴らしてスポーツドリンクを飲む俺を、リカバリーガールと父は離れた位置から神妙な面持ちで見ていた。おい、褒めてくれてもいいんだぞ2人とも。

 

「……まさか、『癒し』の治癒で患者の体力を使わずに自分の体力を消費するかたちになるとはねえ」

「それだけじゃないですお義母さん。念治のやつ、尻尾だけじゃなくてトカゲの体力も回復させてます。俺も『オーラ』で見てましたが、自分の『オーラ』をトカゲに与えて生命力を活性化させたんだと思います。凄まじい……自慢の我が子ながら末恐ろしいですよ」

「ああ、自慢の孫さね」

 

 何を話していたかはわからないが、2人は俺に駆け寄ってすごいすごいと褒めてくれ、俺の能力を観察した結果も伝えてくれる。

 ふむふむ。やはり俺のオーラと体力を代価に治癒を行うのか。これは体力向上と”練”でオーラ量を高める必要性ががぜん高まったな。

 

 自分の能力を最大限発揮して成果を出し、家族にこれでもかと褒めてもらえる……。ぐんぐん俺の自己肯定感が高まっていく。

 

 この調子で俺の野望をこの世界で叶えるんだ! ヒロアカ世界、最高だ!

 

 

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 個性を発現してから半年。四大行はある程度形になった。

 特に”纏”と”練”についてはかなり進歩した。”纏”は起きている間はずっと出せるようになった。また寝ている間にもおそらくできている……はずだ(起きた時には”纏”ができている状態だ。起きた瞬間に無意識でやっているのか、寝ている間も持続できているかは判断つかない)。

 そして”練”については3時間程も維持できるようになった。戦闘はしたことないが、これは実践で使用できるレベルといって差し支えない状態にできたと思う。

 それもこれも魔法美容師(マジカルエステ)桃色吐息(ピアノマッサージ)があればこそ。

 

 桃色吐息(ピアノマッサージ)についてはハンターハンター読者の大人ならば欲しい念能力1、2を争うだろう。30分で8時間睡眠に相当する休息効果。会社勤めだと寝不足は天敵だからな。

 原作でゴン、キルアに対して実施していた修行。それは修練、桃色吐息(ピアノマッサージ)の回復、修練……と無限に繰り返して強さを底上げした究極の修行法。

 

 俺がやったのはそれを踏襲したものだ。

 ”練”をギリギリ桃色吐息(ピアノマッサージ)ができる程度までオーラを残して実行。今度は桃色吐息(ピアノマッサージ)で回復。そして”練”。そしてこれを時間が許す限り行い続ける方法。

 最初は数秒”練”するだけで疲労困憊。クッキィちゃんも具現化できないザマだったが、我ながら驚愕の成長だ。

 ちなみに、”絶”は覚えるのが簡単だった。というのも、俺の前世はなんの能力も持たない一般人。この状態はつまり『オーラ』などない”無”の状態。これを知っていたためかすんなりできた。

 

 あとはさらに”練”をして顕在・潜在オーラ量を延ばすのと、”凝”と”流”の修行だ。もう少し年齢を重ねたら身体作りをしよう。

 戦闘時はこのような安定した消費の仕方ではなく、指数関数的にオーラ消費量が増えたはず。平常時で”纏”と”練”の持続時間が少なければ将来的に覚える”硬”などの応用技も不安定になるし、戦闘中にオーラ維持ができなくなればその時点で即死も大いにある。父が抱えていた弱点もオーラを長時間使えないことだったからだ。

 

 平常時の”練”が安定してきた俺は、もしかしたらこの個性でも水見式ができるのではないかと思って、ビールジョッキになみなみと水を注いでそこいらで拾った枯れかけの葉っぱを浮かべた。

 手を近づけて『オーラ』を開放。”練”をすると、『水の色が黒色に変化してジョッキから水が溢れ、枯れた葉が青々とした色に変化した』これは水見式の”その他の変化”に該当したはずので、俺の系統は”特質系”であることがわかった。

 

「……まじか。できちゃったよ」

 

 水見式で出る変化については情報量が多かったが、俺が特質系か。

 ……正直、この水見式は駄目元でやったので出来るとは思っていなかった。『念能力』とこの『個性』の違いはいまだ分からない。現状わかっていることと言えばこの個性が『念能力と同様の性質をもった個性』ということくらいだ。……まあ細かいことを気にしているとハゲるというし、念は信じる強さ。自分に疑問は持たずになんでもできると信じ抜くことが重要だ。

 しかし、出来たことは出来たこと。俺は考察が当たっていたことに気分が高揚した。

 

 俺が個性発現の時に脳裏に過ぎったのは魔法美容師(マジカルエステ)のクッキィちゃんであった。なぜ系統修行も何もしていないのにクッキィちゃんを具現化してあまつさえ桃色吐息(ピアノマッサージ)までできてるのか。

 それは俺の引き継いだ個性が『オーラ』だけでなく、リカバリーガールの『癒し』も含まれているからだ。『癒し』の能力が”制約と誓約”のように働き、『ハンターハンター作中の念獣を具現化できる能力』ではなく、『回復能力を持った念獣を具現化できる能力』に限定されるようになったのではないか、ということだ。

 念の修行もなしで魔法美容師(マジカルエステ)を具現化して”発”の使用までできていたのは特質系らしい特殊さだ。

 あとは、俺の心からの願望『治癒能力で金持ちになって、その能力でもって長生きしたい』という思いだろうか。

 ……”制約と誓約”は”発”作成時に己で決めるものだったはずだが、俺の場合は個性の発現と同時に”発”を発動してしまったので願望と織り交ざった”制約と誓約”がついてしまったのだろうか? とにかく、俺はこの仮説を全力で信じ込むことにした。

 ”念”は心の強さ。自分の個性(チカラ)を信じ抜くことが大事だ。

 

 一度死んだから特質系なのかは定かじゃないが、折角レアな系統なのだ。存分に活用させて貰おうと思う。

 

 時に、特質系は系統の図式から、反対に位置する強化系が最も苦手で隣り合う具現化、操作系が得意な系統だとされていた。しかし、実は特質系に系統毎の苦手はなく、他系統の能力者が自身と対極の系統の習得率が40%なのに対し、それらを100%の精度で取得し得る可能性を秘めた系統だと判明した。

 強化系のように毎日”纏”と”練”をこなせばオーラ総量が伸び、単純に実力へ直結するというわけではないため難しい。特質系はなんというか、系統修行の如何ではない……というか、自分の発想だとか、信念だとか。そういった特別な思想によって成り立つような気がするのだ。

 

 俺は自分の直観に従い特質系の系統修行はいったん置き、強化系と放出系を伸ばすことにした。

 これは先ほど実施した水見式から決めた。

 水見式での変化がその他に該当していたから特質系なのは確定だろうが、『水量が増減』するのは強化系の特徴で、『水の色が変化する』のは放出系の特徴だったはず。

 

 この結果から俺は特質系だけど、本質的に向いているのが強化系と放出系なのではないかと推察した。

 ならばこれに従い、得意系統を伸ばすのが良いだろう。いくら特質系だからといって特質系の”発”をつくらなければならないというルールはないのだ。

 ……まあ、他人の”発”を系統修行なしに扱えているのは充分特質系らしいか。

 

 強化系は毎日”纏”と”練”をしているので自然と向上するだろう。潜在・顕在オーラも増えるし一石二鳥だ。特に俺の『治癒』はオーラを相応に消費するし、強化系の系統で強化すればデメリットを軽減できるかもしれない。さらには結局このヒロアカ世界、最後にモノを言うのはステゴロだ。何をするでも強化系は最優先。

 

 放出系は念弾を出して攻撃するくらいしかないハズレ系統だと長年言われていたが、むしろチート系統の一種だ。オーラによって高速移動、さらに極められれば瞬間移動も可能で伸びしろ満載だ。

 オーラ放出による空中移動と上空や四方八方からの念弾発射。シルバのビルの一室をぶっ壊すほどの巨大な念弾のような威力があれば大抵の(ヴィラン)は倒せるだろう。

 放出系の高速移動があれば触れられれば終わりの一撃必殺系個性に対しても対策がとれる。俺の野望のためには必要だ。

 

 変化系は魔法美容師(マジカルエステ)のために修行する必要があるかと思ったらそんなことはなかった。クッキィちゃんにオーラの変化を試させたらローションに変化できたからだ。

 これはやはり魔法美容師(マジカルエステ)に関係する”発”や系統性質などそっくりそのまま実現しているからなのだろう。ただ、いくらオーラを変化させられても俺自身にマッサージや使用するローションに薬品など、あらゆる知識が乏しいと宝の持ち腐れだ。

 クッキィちゃんの動きを予めプログラムしなければ具現化できない都合上、俺に知識がなければただ肩たたきのできる孫の手だ。こちらは勉強と、実際にエステなどに行って体の使い方を覚える必要性ありだ。

 

 修行する系統が2つだけだが、これは”今は”という話。

 

 特に俺が極めたい放出系は、ゼノ=ゾルディックのような放出、変化、操作の複合能力『龍頭戯画(ドラゴンヘッド)』に、幻影旅団・フランクリンの『俺の両手は機関銃(ダブルマシンガン)』など多様な攻撃手段に加え、作中随一のチート能力ノヴの『4次元マンション(ハイドアンドシーク)』と、参考にしたい”発”が多すぎる。

 

 基礎修行を含め、系統修行を何系統もやっていたら極められるものも極められなくなる。

 特に魔法美容師(マジカルエステ)の影響で俺の”容量(メモリ)”がどれだけ圧迫されているかわからない。この状態で”発”の原案もなしにあれもこれもと手を伸ばしたら救いようがない使い手になってしまう。カストロ化はごめんだ。

 最悪、これ以上”発”を作れない可能性すらあるのだ。そうなった場合を想定するとやはり魔法美容師(マジカルエステ)と相性の良い強化系を中心に修行せざるを得ない。『治癒』のこともあるし猶更だ。

 

 後から修行する系統を増やすとしても、修行時間についてはどうにかなる。桃色吐息(ピアノマッサージ)で休息時間を最小限にできるからだ。俺は人の倍は修行時間に充てられる。

 将来金持ちになるためなら、俺は今どれだけ苦労しても構わない。

 

 勿論、現在毎日行っている”纏”と”練”を含む修行は両親とリカバリーガールにヒーローになるための修行だということは宣言済みだ。伝えた時両親は大層喜び、祖母は俺が決めたことなら、と全面的なバックアップを約束してくれた。

 

 ならば当然、進路についても妥協しない。

 家の近くの公立校なんかに入学してもまるで意味がない。折角学生をやれる機会を得られたんだから、権力者の子息なんかが通う私立学校に進学して有用なコネクションを築くことが重要だ。

 ヒーローコスチューム制作会社、サポートアイテム制作会社、ランキング上位ヒーロー……。それでなくても在野の才ある人間。将来雄英高校に通うことを考えても、卒業後を考えるとこれらに関係する人間に顔を覚えてもらったり、親しくなっているに越したことはない。

 

 早速、俺は両親に相談した。

 

「お母さん。俺小学校受験したい!」

「受験?」

「うん。俺、おばあちゃんみたいなヒーローになりたい。ヒーローになるために何が大切かっていっぱい考えたんだ。でね。やっぱり個性だけじゃなくて、勉強もできないとだめなんじゃないかなって思ったんだ」

「成程ねえ……。いっぱい考えたんだねえ」

 

 母はいい子いい子と俺の頭を撫でる。

 

「じゃあ、お父さんとおばあちゃん帰ってきたら話してみよっか」

「お母さんありがとう!」

 

 3人での夕食。リカバリーガールは雄英高校での仕事があるので遅くなると連絡があって不在の我が家。ご飯は食べ終わり、のんびりとした食後の時間だ。俺は母にちらと目配せをしてから父に話しかける。

 内容は母に話したことと同じだ。父は俺の話を聞いて「良いんじゃないかな」と言う。

 

「反対なんてしないよ。念治がやりたいって思ったことはなんでもしてあげたいからな」

「──ありがとうお父さん!」

 

 そうして俺は小学校受験の権利を得た。

 あと1年半は勉強と個性特訓だ。気張っていこう。俺は内心で決意し、国内の権力者の子息が通う由緒正しい学び舎、掘須磨大付属小学校を受験することに決めた。

 

 

─────────────────

 

 

 俺は家族の多大なる援助もあり、掘須磨大付属小学校へ合格した。流石にここまで我儘を言った挙句不合格という失態は笑えなかったのでほんの少しほっとした。

 また、発言する一人称は矯正して『俺』から『僕』に変えた。

 

 掘須磨大付属の学校はどれも国内有数の進学校で、小学校から大学までが隣接した土地にある。愛知県の一等地だ。これらの維持費は入学者やOBOGの献金によって賄われている。また、警護専任のヒーローもおり、安全性はかなり高い。

 掘須磨大付属は小学校から制服で、男女ともにブレザーだ。小等部の制服のズボンは長ズボンではなく半ズボンで、膝小僧が出るほどの長さだ。

 俺の実家は雄英からほど近いということもあって、運良く掘須磨大付属小学校は車通学できる圏内だったため、両親が専属のハイヤーを雇い入れてくれた。

 

 今日は入学式もあるため親とリカバリーガールも同伴だ。両親は和装に身を包んで化粧も専門家にして貰ったこともあり、普段からの美男美女っぷりが更に増して凄まじいことになっている。リカバリーガールも普段通りのヒーローコスチューム姿ではなく、こちらも合わせて和装だ。

 ちなみにおれも色々整えて貰った。出来上がった俺を見た専門家のおねーさんの性欲が混じった恍惚とした顔は小学生に向けて良い顔ではなかったが。

 

 車通学者用のロータリーで車から降りて入場手続きをした後両親たちと別れて(保護者は先に入学式を行う大講堂に向かう)どでかい校門をくぐり、小等部の校舎へ入って自分のクラスを確認する。1年1組だ。

 自分のクラスに入ると、誰も教室にいなかった。流石に早く来すぎたか。

 黒板に貼られている座席表に従って席へ座る。意外なことに苗字の五十音順ではなく、ランダムなようだ。クラスの席は1列5人の6列で俺の席は6列のうち、4列目の真ん中席だった。文字通りクラスの中心席だ。

 

 俺は席に座り、持参した本を読み始める。これはマッサージの専門書で、俺の個性を鑑みてリカバリーガールにプレゼントされたものだ。

 勿論実際に按摩やエステ、整体など様々なマッサージを受けている。これはリカバリーガールの伝手もあるが、母の趣味によるところが大きい。愛する父のため、母は美容に人一倍気を使っているのだ。

 母にエステなどに連れていって貰い、俺がその施術内容を理解してクッキィちゃんへプログラム。そして母やリカバリーガールへ試すという流れになっている。

 クッキィちゃんの至福のマッサージと特殊効果ローションによって母は生来の美貌がさらに増しており、まるで光り輝くような玉肌を手にしていた。リカバリーガールも心なしか肌艶良く健康的になったように思う。

 勿論俺も同様だ。クッキィちゃんは本来、ビスケが自分にマッサージするために編み出したもの。俺自身にも使える。

 俺の顔やスタイルは親譲りで整っているが、勿論ケアを欠かさず向上に努めている。『顔が良い』とはそのまま”武器”なのだ。人間の第一印象はそう簡単に覆らない。他人に評価される職業に就こうとしているのだ。自分磨きは当たり前だ。

 そんな俺を見て母は「こんなに可愛くなっちゃったら(ヴィラン)に誘拐されないか心配ね……」と真顔で父とリカバリーガールに相談していたっけ。

 

 読書を始めて数分、がらりと教室のドアが開く音がした。顔を上げると、一人の女児の姿。緊張しているのか、俺を見てびくっと身体をはねさせたかと思うと黒板に貼られている座席表を見やる。席がわかったのか、こちらへ歩いてくる。彼女は俺の隣に座ると荷物を席に置いた。

 俺も失礼にならない程度に彼女を見る。俺に勝るとも劣らない容姿だ。ケアも行き届いており、両親からの愛され具合が伺える。今後ともいい関係を築くため挨拶は大事だな。

 

「はじめまして。僕は修善寺念治です。個性は『オーラ』で、身体を強くしたり、形を変えて色々できます」

 

 相手の目を見てにこやかに挨拶をする。俺の今世の容貌と合わさり、悪印象は抱かれないだろう。

 俺の自己紹介に、長い黒髪をポニーテールにした彼女は頬を赤らめ、意を決した様子で声を発した。

 

「あ、あの。はじめまして。(わたくし)、八百万百と申します。よろしくお願いいたします。個性は『創造』といって、生物以外ならなんでも創れますの」

 

 嘘だろ。ここで原作キャラと出会ってしまうとは! 確かに彼女はお嬢様キャラで、実際に良家の子女だったと思い出した。八百万家は複合型会社を束ねる家柄だったはず。しかしまさかこの学校出身だったなんて。

 国内の主要企業を調べた時に八百万グループの存在は把握していたが、当然社長の子供がいたとして今何歳かなんて企業公式ホームページには出さない。

 

 このヒロアカ世界、過去の出来事を説明する時に特に西暦何年になにが起きた、のような描かれ方ではない。主人公の入学時点から遡って何年前に何の事件があって、その犯人は~~という個性で……という補足のような独白で説明されるので、現在が原作開始何年前か把握できていなかったのだ。

 くそ、彼女が同年代ということは確実に主人公勢とは同年代! 俺は周囲にリカバリーガールのようなヒーローになると宣言して修行しているため、入る高校はもちろん雄英一択。そうすると俺が入学した場合、原作キャラが確実に1名入学できなくなってしまう。A組のメインストーリーにほぼ絡まないB組の誰かが入学できず、俺が入学できるなんてそんな虫のいい話となる可能性は限りなく低いだろう。

 なんてことだ。AFOは主人公に倒して貰っておいて俺は問題解決後に主人公の後輩として入学するというドリームプランが崩壊してしまった! 流石に見通しが甘すぎたか? どうする、一気に雄英に入学したくなくなってきた。金持ちには当然なりたいが、なる前に死んでしまっては元も子もない。

 と、とにかく今は八百万とコミュをとらなければ。こうなってしまった以上、彼女の好感度が低くなるような行動をとればどうなってしまうか本当にわからない。

 俺は内心を全く悟らせない渾身の微笑みで八百万を褒め倒す作戦を決行した。

 

「『創造』! すごいね。なんでもできるんだ」

「いえ、私が創るものはそれがどんな成分でできているか知っている必要がありまして。まだまだ勉強不足です。今作れるのはマトリョーシカくらいですわ」

「マトリョーシカ。……たしか、外国のお人形だっけ」

「はい。ロシアの人形ですわ。お母さまがお土産にと頂いたもので、私が初めて個性で創り出せたものですの」

 

 一番思い入れがありますわ、と得意げに話す八百万の話を満面の笑みを浮かべて聞く。

 八百万の話はこの年にしてかなり理路整然としており、言葉遣いも洗練されていてとても聞き心地が良い。彼女の矢継ぎ早な話の聞き専に徹していると、マトリョーシカの話もそこそこにお互いファンのヒーローの話になった。

 やはりこの世界、二言目には『どんなヒーローが好き?』の話題が飛んでくる。

 

「八百万さんはオールマイトが好きなんだね」

「はい。ヒーローの中でもナンバーワンですし」

 

 修善寺さんは? と問いかけられる。ここは俺の個人目標を開示したほうが共感してもらえそうだな。

 

「僕も勿論オールマイト! ……って言いたいんだけど、違うんだ。僕が一番好きなのはリカバリーガール。おばあちゃんなんだ」

「まあ、そうなんですの!? 身内にヒーローが。しかもリカバリーガールなんて高名な方……」

 

 八百万は驚愕の表情だ。今まで俺の周りはリカバリーガールの俺の関係を知っていた人たちばかりだから新鮮な反応だ。

 

「ありがとう。将来はおばあちゃんみたいなヒーローになりたいんだ」

「そうなのですね。……あの、実は、私も将来ヒーローを目指していますの」

「わ、八百万さんもなんだ。じゃあ、一緒に頑張ろうね!」

「──はい!」

 

 ヒーローになりたい、と俺に語った時八百万は少し言いよどんでいた。もしかして両親には反対されているのだろうか? いくら子供が優れた個性を持っているからといってもヒーローになるのを薦める親ばかりではないのかもしれない。ましてや八百万だ。会社を継いでほしいという気持ちもあるのかもしれない。

 などと話をしているとぞろぞろとクラスメイトが教室へ入ってきていた。少し喋りすぎたか。

 

「ねえ! おばあ様がリカバリーガールって本当!?」

 

 途中から話を聞かれていたらしく、女子の1人にリカバリーガールの話を懇願されてしまった。リカバリーガールの名前が挙がったからか、どんどん人に囲まれていく俺の机。八百万ともう少し会話して親交を深めたかったが仕方ない。

 

「八百万さん。お話してくれてありがとう。また後で」

 

 八百万に感謝を伝え、クラスメイトの疑問に回答していく。

 そうこうしているうちに担任教師が入室し、俺たちを大講堂へ連れていく。

 

 

─────────────────

 

 

 入学式は滞りなく終わった。

 入学式の時、リカバリーガールはヒーローコスチュームではなかったがやはり見る人が見ればわかるのだろう。相応に目立っていた。皆良家の方々だから口には出さなかったが。これ以降は授業などはなく、解散となる。

 明日以降、俺は”リカバリーガールの孫”として様々な人間に見られ、評価に晒される。これまで以上に外面に気を使って生活するとしよう。

 

「念ちゃん。お友達できそう?」

「うん。たくさんできそう」

 

 リカバリーガールは入学式が終わった時点で仕事に戻ったためここにはいない。

 八百万は入学式後の記念写真撮影が終わると両親に連れられていったのでもう帰宅したと思う。連絡手段もないので俺も両親と帰宅しようとした時、俺を呼び止める声がした。

 

「――修善寺さん!」

 

 息を切らして走ってきたのは八百万だった。後方には八百万の両親だろうか? 彼女の名前を呼びながらこちらへ歩いてきている。

 

「私、修善寺さんと一緒にヒーローを目指しますわ! お父様とお母様は先ほど説得いたしましたの!」

 

 満面の笑みの八百万、突然の宣言。いや本当になんの宣言だ。

 

「突然すみません。私は八百万九十九と申します。こちら妻の(はじめ)です」

「これはどうも。私は修善寺纏です。こちら妻の治香」

 

 八百万の両親が頭を下げながら自己紹介を始めた。もちろん両親もそれを返す。

 困惑した表情の俺とそれぞれの両親に対し、喜色満面の八百万。八百万の両親は彼女がこうなっている理由を俺の両親へ説明し始める。

 

「百は……娘は親の贔屓目抜きに優秀な子でして。私たちの勧めるがまま、習い事や将来のための勉学に励んでいます。それを褒めると決まって『お父様お母様のお役に立てるよう頑張ります』と言っていました。この言葉は勿論嬉しかったのですが、自分の意見も言って欲しいという矛盾した気持ちを持っていました。

 そんな百が先ほど、素敵な男の子と友達になれたと私たちに言ってくれましてね。その子はおばあ様のようなヒーローになりたいのだと。だから私もヒーローを目指してみたいと。あの百が自分の意見を言ってくれたことが嬉しくて……」

「まあ、そんなことが」

「なので一言挨拶を、と思ったのです。やはり、実際目にするととても素敵な方だ」

 

 八百万父は屈んで俺に目線を合わせる。

 

「はじめまして。念治くん」

「こんにちは。はじめまして」

 

 八百万父の柔和な笑みを眼前に、笑顔を浮かべて挨拶を返す。彼の笑顔は全く嫌味がない。人好きのする笑みだ。

 

「……念治くん。百をよろしく頼むよ」

 

 彼は数瞬俺の顔を眺めると、言葉少なに俺にそう言った。なんとなく寂しそうな、そんな気持ちを彼から感じた。

 八百万家族はそのまま3人で帰宅するようだ。帰宅を促された八百万がそわそわと落ち着かない様子で自分の両親と俺を交互に見つめていた。それを見た俺は八百万に声をかけた。

 

「八百万さん」

「修善寺さん! あの、突然申し訳ございません。先ほど少し話しただけですのに、こんな……」

「どうして? ……僕も八百万さんのこと、友達だと思ってるよ。勿論、一緒にヒーローを目指すライバルとしても」

「修善寺さん……!」

 

 感激したように俺の名前を呼ぶ八百万。どうやら俺は先ほどのやりとりで八百万に好かれることはできたようだ。ここまで好意を向けられるのは予想外だが、今それはいい。

 

「一緒に頑張ろうね、八百万さん」

「はい、修善寺さん!」

 

 親しくしたい相手には『自分だけ』などの特別感を与えると良いと聞く。つまり……。

 

「あのさ、僕の名前、苗字だと長いでしょ? 八百万さんには……名前で呼んでほしい。よかったら僕のことは名前で呼んでくれると嬉しいな」

「では、私のことも百とお呼びくださいまし。念治さん。……ふふ、名前で呼び合うお友達、初めてなんですの!」

「ほんとう? 実は、僕もなんだ。百ちゃん」

 

 お互い笑い合って名前で呼びあうことを約束し、家路についた。

 

 中々波乱な初日だったが、滑り出しは好調。

 明日から新生活の始まりだ。

 

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