【魔法美容師(マジカルエステ)】を得た転生者は栄耀栄華の夢を見るか   作:好きな念能力は4次元マンション

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 プロローグの高評価ありがとうございます。
 日間ランキングに載ることができ、本当に嬉しいです。

 皆様の感想、大変励みになりました。少し時間がかかってしまいましたが続きとなります。
 ヒロアカアニメファイナルシーズン、とても面白いので是非ご覧ください。


第2話

 ここは東京セントラル病院。

 日本最先端・最高峰の医療が受けられるこの病院へ、俺は毎週末に足しげく通って個性訓練をしている。

 

「おあぁぁ……。念治くんの『個性』は効くなあ……」

「お力になれて何よりです。吉田先生」

 

 夜勤明け、11連勤、エトセトラ……日本一忙しいこの病院の医師達に、俺は魔法美容師(マジカルエステ)のクッキィちゃんで整体・美容マッサージと桃色吐息(ピアノマッサージ)での体力回復などを行っている。

 現在この仮眠室のベッドでマッサージを受けているのは『吉田竜』医師。デフォルメしたドラゴンのような異形型の男性で、日本の外科医では右に出る者はいないとされる凄腕名医だ。ここ最近はかなりの激務続きだそうで、身体のコリが尋常ではない。

 

 施術をしながら周りを見渡せば先程施術したマッシュヘアの男性や女医の姿もある。皆、椅子や横になれるソファなどで泥のように眠っている。彼らはあと10分もすれば目覚めてまた勤務に戻るのだろう。日本一の病院は忙しさも日本一なのだ。

 

 翻って、現在の施術でも使用しているオーラで変化させた美肌効果ローションなどだが、これについて衝撃の事実が明らかになった。

 

 なんとこの世界、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 クッキィちゃんが見えるのは具現化しているのだから当然だと思っていたが、クッキィちゃんが変化させているローションどころか俺と地下で戦闘訓練中*1の父の自在紐(ハンターズネット)やただの念弾を明らかに目で追っている様子の母に確認したところ発覚した。

 ついでに父には「何故見えないなんて思ってたんだ?」という怪訝な目で見られた。

 

 この現象について調査したところ、『念』を籠めたオーラ──基本的には”発”や”練”をしている状態──は誰でも視認可能で、『念』を籠めない無形のオーラ──生命力の状態──は『オーラ』を持っている者以外は視認不可能であることがわかった。

 微妙な差異はあれど、念自体はごく普通に視認可能なようだった。

 

 今にして思えば、父の個性『オーラ』も周りに誰も念能力者がいないのだから必殺技の自在紐(ハンターズネット)も含めて見えないはずなのだ。それが周りに当然のように『父はひも状のエネルギーで(ヴィラン)を拘束している』と認知されていたのだから、俺の認識がハンターハンターに染まってしまっていて、『念は念能力者にしか知覚できない』という基本ルールがこのヒロアカ世界でも適用されているものと思い込んでいただけだった。

 

 エネルギー操作の個性で分かりやすい代表的なところを言うと、主人公緑谷の『黒鞭』だろう。これは黒いひも状のエネルギーを操作する個性だ。そしてこの『黒鞭』以外にも、個性因子が何らかのエネルギーを生成してそれを放出・操作する個性は多岐にわたる。

 おそらく、このヒロアカ世界は個性由来のエネルギーの類いが可視化されている世界観であるが故に『オーラ』もそれに準じているのだろう。

 

 ……そもそも、最初俺は個性『オーラ』を”念能力のような性質を持った個性”という認識で訓練していたはずだったのだ。それが魔法美容師(マジカルエステ)桃色吐息(ピアノマッサージ)、”練”など四大行の修行を重ねていくうちにいつの間にか個性だという認識が薄れ、念能力そのものであるとして修行を続けてしまっていた。

 

 このヒロアカ世界で発現した特殊能力は強弱あるとはいえすべて『個性』なのだ。己の能力を何でもかんでもハンターハンターの念能力を基準に考えるのは危険であり、『個性』と『念能力』双方を踏まえた多角的な視点を持つべきだと改めて認識した。

 ……この事実が発覚するまで俺は、念弾が視認できない回避困難で強力な飛び道具だと思っていた。そのため、放出系の”発”もそれを踏まえたモノにしてしまっている。少ない”容量(メモリ)”でどう高威力の”発”を作成できるか悩みに悩んでつくったものだったのだが、己の見通しの甘さが情けないことこの上ない。

 

 閑話休題。なぜヒーロー免許をもっていないどころか現在小学4年生の俺が他人に個性を行使できるのかというと、俺が個性訓練を望んだのと、それを叶えたリカバリーガールのおかげだ。

 6歳までは母に父、リカバリーガールと家族相手に度々魔法美容師(マジカルエステ)を行って修練していた訳だが、桃色吐息(ピアノマッサージ)を家族に使用しても1日数回程しかできない上、エステ・マッサージの方はまとまった時間がとれるのは皆週末で、平日は放課後俺自身にやるしかないという事で、他人に個性を行使する経験が思ったより多く積めなかった(治癒は言わずもがな。怪我人がいないと出来ないので無理だ)。

 

 そこで、疲れている人間が居る所で個性を使えば良いじゃないか、とセントラル病院の医師達へ個性でマッサージなどを行っているという訳だ。ここでは日夜最先端医療の研究も行われており、睡眠不足や慢性疲労を抱えた人間はごまんといる。

 ここで俺が個性を行使できるのはリカバリーガールがヒーロー公安委員会に個性使用申請をして、特別許可を得ているからだ。当然、これは誰でも申請出来るものではないようで、リカバリーガールや雄英の校長クラスの社会的信用がある方々しか認可されないようなものらしい。実質専用だ。

 公共の場では一般人の個性使用は禁じられているが、この申請のおかげで俺はリカバリーガールが共に居る時に限り、他人への個性行使が認められた。

 

 そうこうしている間に吉田医師へのマッサージが完了した。最後に桃色吐息(ピアノマッサージ)をかけて終了だ。施術の完了を彼に告げると、ゆっくりと口を開いた。

 

「ありがとう、念治くん……」

「はい。ごゆっくりお休みください」

 

 11連勤で体は凝り固まってボロボロ、睡眠時間も足りてないだろう中でよくクッキィちゃんのマッサージが終わるまで意識を保てたものだ。他の医師はマッサージ開始早々に意識を飛ばして、施術が完了しても幸せな夢の中だったのに。

 施術を受ける前と比較して、肌艶が圧倒的に増して幸せそうに眠っている吉田医師についているローションオイルの後始末をしてから仰向けにして毛布をかけた。

 こうして個性訓練と同時にセントラル病院の医師達とコネクションを作れた事は非常に僥倖だ。俺の将来に役立ってくれるだろう。

 これで依頼のあった人たちへの施術は全員完了だ。今までの修行のお陰でオーラも増え、十数人程度に桃色吐息(ピアノマッサージ)含めたマッサージをするくらいであれば訳もない。

 

「さ、念治。今度は『癒し』の訓練だよ。付いて来なさい」

「はい」

 

 俺の施術が完了するのを見計らっていたリカバリーガールに付いて行く。

 エレベーターに乗ってたどり着いたのは地下にある実験準備室だった。専用の機械による消毒などで体を清潔にし、防護服やマスクなどを着用する。リカバリーガールとお互いに着衣を確認し合い、目的の第二実験室へ入室する。

 見渡すと、ケージに入れられたネズミのような生き物──ラットが何十匹といる。しかもよく目を”凝”らすと、生命力が弱弱しい個体ばかりだ。中には手足が欠けている個体までいる。

 

「おばあちゃん、この子達は……」

「某大学で新薬や遺伝の研究なんかの色々な実験に使用されたラットだよ。体が欠けている子はストレスの自傷行動のせいだね。飼育がなっていない所で育てられるとこうなってしまうのさ。

 さあ、この子達を『癒し』で治癒してくれるかい? 私の個性だと、ここでこの子達にはできないからね」

 

 俺はリカバリーガールの言葉に頷き、クッキィちゃんを具現化する。

 

「お願いね、クッキィちゃん」

 

 具現化されたクッキィちゃんはケージの上部にあるステンレス製の網目状の蓋を外し、ラットを取り出して両手で包みこむ。数瞬の後、キスをする。『癒し』が発動し、外傷が治っていく。そしてラットの生命力を始め、臓器機能が強化されて体内の()()も治癒されていく。

 俺の『癒し』による治癒はリカバリーガールのそれとほぼ同じだ。違いとしては、能力対象者の体力を使用せずに負傷を自然治癒力の活性化──リカバリーガールの治癒と同じ効果──で治癒できることと、前述の自然治癒力の強化では及ばないような体内外の異常でも、”強化”したオーラを用いて治せることだ。無くなった・欠損した臓器などの再生はできないものの、今回は無理な実験などで疲弊した内臓機能が”強化”されて元通り以上に元気になったはずだ。

 想像力だけでなく、医学書で内臓機能などを勉強し、より効果的に身体機能の強化・治癒をするにはどうすれば良いかを試行錯誤した結果だ。リカバリーガールは専門書の解説からはじまり、自身の経験から様々な事を俺に教えてくれた。彼女自身、『癒し』が自然治癒力の強化だけでなかったらこのような試みで個性を鍛えただろう。

 このように、強化系の特性を用いた”機能の強化”は思っていた以上に幅広く、応用に富んだものだった。この治癒効果の強化や、内臓機能の強化もそうだ。強化系が最もバランスの取れた系統と言われるのもうなずける。

 

 この内臓機能の強化や負傷・異常箇所に適切に『癒し』を行い、体内機能を強化する治癒は通常の外傷の治癒より多くオーラを割いて行う丁寧な治癒で、治癒の精度・強度を上げる訓練だ。

 クッキィちゃんが部屋のラットを治癒して回る姿を視界に入れつつ、俺は彼女の後ろを付いていく。

 

 こうして動物の治癒をするのは初めてではない。何度かリカバリーガールの訓練で治癒を行っている。でも、まだ人相手の治癒はしたことがない。母が紙で指を切った時に治癒したくらいのもので、他人への治癒はリカバリーガールがまだ早いと止めているのだ。

 『癒し』や魔法美容師(マジカルエステ)の訓練場所を提供して貰っている身なので贅沢を言えない立場ではあるのだが、そろそろ対人で『癒し』の訓練をしてみたいと思っている。

 

 そもそも、リカバリーガールは俺を外部の人間にあまり会わせないように努めているような気さえする。学校の行き帰りは基本寄り道せず車で真っ直ぐ帰らされる上、休日はリカバリーガールや父と個性・戦闘訓練。その休日の個性訓練も今のように『癒し』の訓練は人目につかない部屋で行われている。

 過保護にも程があるが、守られている身で文句は言えないのだ。

 横目でリカバリーガールを見る。彼女は俺と一緒にラットを治癒して部屋を回るクッキィちゃんに付いて回り、何やら考え込む仕草をして治癒の様子をつぶさに観察している。

 

 ラットの治癒は大部分が完了した。

 先ほど吉田医師などに行ったような桃色吐息(ピアノマッサージ)は発動対象を選んでただ個性を発動させるだけだが、内臓機能などを治せる俺の”強化”した『癒し』の治癒は違う。

 俺が患者の状態を診断し、それを以って治癒をする。

 便宜上、”強化治癒”とでもするか。

 ”強化治癒”は、治癒の箇所を選択、能力の強弱からどのように治すかを脳内で行う。ゆっくり時間をかけて良いのであれば簡単だが、実際の救護などでは1分1秒を争う場合が多々あるだろうから、俺はできる限り瞬時の診断を心掛けている。

 これは自然治癒力の超活性化の結果怪我が治るだけのリカバリーガールの『癒し』にはないようで、俺にとってこの情報の取捨選択は難しめのパズルゲームのような感覚だ。

 

 クッキィちゃんは最後に、右足が欠けているラットを持ち上げる。状態を診るに、このラットは特に体の状態が悪い個体のようだ。右足は半分ほどしかなく、衰弱している。

 今までの治癒訓練では、簡単な外傷の治癒や体の内部に多少の問題を抱えている動物ばかりだった。これらはリカバリーガール『癒し』による自然治癒力の超活性化でも治るような部類のものだ。

 しかし、この”欠けた足”は彼女の治癒では治せない。俺の『癒し』でも──。

 俺は振り向き、リカバリーガールを見つめる。

 

「大丈夫。念治なら、この子も治せるさね。私がずっと見てきたんだ。間違いないよ」

 

 俺の不安を拭い去るようなリカバリーガールの言葉に、俺の心が軽くなるのを感じる。

 俺は頷き、ラットに向き直る。再生治療のエビデンスは何個か読んだことがある。その中にラットの手足を再生し、難なく動けるまでになった研究があった。それを()()()()()()()()()だ。

 大きく深呼吸をする。緊張はある。けど、不安はない。

 

「いくよ。クッキィちゃん」

 

 クッキィちゃんへオーラを送り込み、注射器のシリンダーに充填する。俺が行使するのは『念能力』ではない。『個性』だ。限界を超えられる『個性』ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 まずはクッキィちゃんを介してオーラをラットに注ぎ、生命力の強化を行う。

 ラットがある程度元気になったところで更にオーラを流し込んでシリンダーに充填し、『癒し』を発動。そして欠けた足先を覆うようにオーラを多量に集め、さらに、能力効果を極限まで”強化”──!

 

「ん……、ぐっ」

 

 足の断面から先の治癒を試みるが、今までの治癒が児戯に思えるほどの難しさ。ここまでオーラを注ぎ込んでなお何も起きない。筋肉、神経、血管……。それらを新しく()()というのだから当たり前だが──。

 ()()──そうだ。確か、八百万に『創造』をする時の感覚を聞いたことがあった。

 

──────────────―

 

『創造をする時の感覚……ですか?』

『うん。ちょっと気になって』

『そうですね……例えば、消しゴムを創るとしましょう』

 

 八百万はそう言って、手のひらが上になるように何も持っていない右手を机に置いた。左手には八百万が元々持っていた消しゴムが置かれている。新品だ。

 

『消しゴムの主成分はポリ塩化ビニル、可塑剤(かそざい)、研磨剤などが含まれますわ。それらの分子構造を頭に浮かべて、生成時には消しゴムの形になるよう()()()()()()()致しますの』

 

 そう言って右手に創造されたのは左手に持っている消しゴムと全く同じ、何の変哲もない消しゴムだ。消しゴムをなんてことないように『創造』するのにもいくつか工程がいるのがわかった。

 

『ほうほう。大事なのはより正確なイメージってことだね』

『はい。イメージが足りないと、不格好なものが出来上がったり、最悪の場合脂質だけ消費して創造できないこともあります。ですので、写真や実物を見て外観を覚えたり、触ったりして感触を覚えることもしていますわ』

『成程……。ありがとう、百ちゃん。凄くためになったよ! お礼と言ってはあれだけど、良ければこの後エステはいかが?』

『お役に立てて光栄ですわ。エステは是非お願いいたします! 先日、お母様もまた受けたいと話しておりましたの』

『わ、それは嬉しいな。予定が合えば是非と伝えてくれる?』

『うふふ、はい!』

 

──────────────―

 

「い、イメージ……。ラットの、足の、正確なイメージ……!」

 

 俺は記憶からラットの断面解剖図を思い浮かべる。それを元に、筋肉、神経、血管──。あらゆる構成物を頭に浮かべ、正常な形に組み立てて脳内で3DCGのようにラットの足先を再現する。幸い、周りには何匹も同種のラットが居る。外観のお手本には事欠かない。

 ラットの欠けた足先に先ほど脳内で構築した構成物を当て嵌め、最初からそこにあったかのように治癒の結果として”具現化”する──!

 

 瞬間、クッキィちゃんの注射器内のオーラが輝き、それが収まるとラットの欠損していた足先に白い繭のような物体が形成された。

 ──(わか)る。この白い繭はかさぶたのようなものだ。この繭の中でラットの手足が再生しているのが感覚として伝わってくる。

 

「これは──」

「やった……。おばあちゃん、できたよ……」

 

 体力を()()消費し、体勢を崩しかけた俺をリカバリーガールが支える。

 

「これ、この白い繭みたいなやつ……。かさぶたみたいな物で、この中でラットの足が再生しているのを感じるんだ……」

「──ああ。よく頑張ったね、凄いよ念治。自慢の孫さね」

 

 防護服越しではあるが、リカバリーガールは俺を抱きしめ、背中を撫でた。

 

 10分後、繭は(ほど)けて中から真新しい足が出現した。

 ラットはまるで、手足の欠損などなかったかのように懸命にクッキィちゃんの手の中で手足をバタつかせている。神経や筋肉にも問題はなさそうだ。この足は具現化した物ではなく、純粋な生身の足のようだ。

 ちなみに、繭がラットの足を覆っている間、クッキィちゃんの具現化を解除しようとしてもできなかった上、オーラを延々と消費していた。恐らくこの再生能力を使う時の”制約と誓約”になったのだろう。

 このラットは専門機関で精密検査の必要があるとリカバリーガールが言っていた。『個性』で生やした足だ。見えない不具合があっても困るため、二つ返事でお願いした。

 

 俺は防護服を脱いで、ロイヤルミルクティーを飲みながら一息ついていた。倦怠感が凄まじい。リカバリーガールはお手洗いに行っており少し席を外している。

 改めて考えてもこの再生能力、凄まじい”力”だ。

 今回は小動物の足の再生だったが、これが人間相手にもできるようになれれば。

 手足の再生、はたまた重要臓器の再生などができれば俺は再生医療の金字塔だ。このご時世、ヒーローや(ヴィラン)犯罪被害者など、四肢や体の一部を欠損するなどの事件・事故は後を絶たない。

 そこでこの()()()()があれば、人はどんなに高額だろうと藁にも縋る思いで俺に治療を頼むだろう。まあ、本当に途方もない高額にすればヒーローを都合のいい舞台装置にしか思わないような人間に叩く口実を与えかねないので程々にするが。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()──。

 

「ん……?」

 

 ぶるりと体が震える。──()()()()()()()()()()()()()()()()()

 拭いきれない違和感。何かおかしいのにその正体がわからない。

 

「念治、大丈夫かい?」

「はっ!」

 

 いつの間にか戻ってきていたリカバリーガールが俺の顔を覗き込んでいた。

 先ほどまでの違和感は何事もなかったかのように完全に消えていた。

 

「あ、うん。大丈夫。ちょっと個性の使いすぎで頭痛くなっちゃっただけだから」

「……本当かい? さっきの治癒──もうあれは再生と言うべきものだったけれど、あれだけの事をしたんだ。無理をしたかもしれない。念のため病院で詳しく診てもらおうね」

「わかった」

 

 俺が了承の返事をした瞬間、リカバリーガールの持つ緊急用の携帯電話が鳴った。

 

「はい。急患かい? ……なんだって!? ああ、ああ。わかった。すぐ行くよ」

 

 電話を切ったリカバリーガールは、先ほどまでの優しい祖母の顔ではなく、歴戦の”ヒーロー”の顔になっていた。

 ただならぬ気配に、おれは聴力を”強化”して内容を盗み聞きしていた。オールマイトが(ヴィラン)によって重傷を負ったようだ。

 

「念治。緊急事態だ。おばあちゃんはこれからここに搬送されてくる患者を診なけりゃならない。悪いけど、家に車で1人で帰って──」

「──僕も行くよ」

 

 リカバリーガールの話を遮り、静かに声を張り上げた。

 

「……念治」

「声聞こえちゃったけど、患者さん──オールマイトが重傷なんでしょ? なら、おばあちゃんの『個性』じゃなくて僕の『個性』なら治せるかも」

()()()()()()()んじゃなく、聞いたんだろう……」

 

 リカバリーガールは嘆息するが、俺を見据えて厳格な声で言う。

 

「ここからは訓練じゃあない。人の命がかかっているんだ。……わかってるね」

「おばあちゃん──リカバリーガールの背中をずっと見てきた。わかってるよ」

 

 リカバリーガールの目をしっかりと見て答える。彼女はさらに深くため息を吐いた。

 

「……行くよ、念治」

「はい!」

 

 

────────────────────────

 

 

「お待ちしていましたリカバリーガール! お孫さんもご一緒でしたか。君はこっちに……」

「いや、この子も連れて行く。個性使用の許可はあるからね」

「……わかりました! さあ、こちらです」

 

 俺たちはセントラル病院の隔離病棟前に待機していた職員に先導され、機密性の高いICU*2へと歩を進めた。

 セントラル病院でさらに機密性の高い部屋ということもあり、道中には誰もいない。

 手術準備室で着替えや消毒をしつつ、俺に対してリカバリーガールが口を開いた。

 

「今から言う事と、これから見ることになるもの。その両方誰にも言っちゃあいけないよ念治」

「”守秘義務”ってやつだよね」

「……まあ、そうさね。改めて説明するよ。この先の手術室にはオールマイトがいる。念治はクッキィちゃんで”生命力の強化”と”体力回復”を継続して実施するんだ。ただし、『癒し』は駄目だ。今は内臓の位置や骨……。あらゆる状態がぐちゃぐちゃで、このまま治癒したら二次障害が発生する危険性があるからね」

「……わかった」

 

 リカバリーガールと一緒に手術室へと入る。

 目の前には手術台に横たわるオールマイト。その周りには手術準備を終えた医師達。執刀医は吉田医師だ。

 

「念治くん」

「はい。役目は果たします」

「……もう、君は立派なヒーローだよ」

 

 吉田医師の開始の号令によって手術が始まった。俺は少し離れたところに用意された椅子に座り、魔法美容師(マジカルエステ)のクッキィちゃんを具現化する。オールマイトの頭側にクッキィちゃんを立たせ、おでこにキスして”生命力の強化”と桃色吐息(ピアノマッサージ)を同時に行う。先の治癒訓練から連続しての個性使用の反動か、僅かに頭が痛む。

 

(弱音なんて吐いていられない) 

 

 吉田医師に全てを託し、俺は俺の仕事を完遂する。

 

 

────────────────────────

 

「術式、完了……!」

 

 吉田医師の声と共に歓声の沸く手術室。

 手術は10時間にも及ぶ大手術だった。オールマイトの臓腑は欠損が激しく、胃や肺を切除しなくてはならなかったようだ。

 

「お疲れ様、念治くん。よく頑張ってくれた」

「ああ。本当にお疲れ様、念治」

「ありがとうございます……」

 

 吉田医師とリカバリーガールが労いの言葉をかけてくれた。

 これほど長時間クッキィちゃんを具現化し続けた事はなかったので、本当に疲れた。オールマイトは既に手術室から運び出されていた。

 

 これで仕事は終わりだと席を立った瞬間、平衡感覚を失い、激しい吐き気に襲われ、鼻血も垂れてきた。音を立てて倒れこむ。

 

「念治! どうしたんだい!?」

「念治くん!」

 

 2人の声が遠くなり、俺は意識を失った────。

*1
リカバリーガールが念治のためにと地下に新設してくれた訓練所。防音、耐衝撃性能に加え、様々なオプションもある高性能な施設

*2
集中治療室。重篤な患者に対し、医師や看護師が 24 時間体制で高度な医療・看護を行う施設。

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