杖と呪文の組み合わせ! 〜呪文が400もあるんだってさ〜 作:クッミタス
集中呪文パークの隠し効果でダメージ増加があるせいで、回復量よりダメージ量の方が多くなってしまうのよね……。
二回目の死を迎えた俺は、洞窟の入り口で空を見上げて寝転んでいた。
「おそら……きれい」
クソゲーだよクソゲー、こんなゲームはクリアできっこない。HPが75%残っていたのに、一気に削り取られたんだぜ。信じられねえ。
こんなゲーム作ったやつはサドだし、プレイするやつはマゾに違いない。俺はノーマルだからもうやらない。心が折れた。
……頭の片隅ではわかってる。本当は一階層でギリギリまで探索して金塊を集め、杖を買わなければいけなかったのだろう。
そして新しい杖と呪文で火力を確保。そうすればあの目玉コウモリのレパッコもすぐに倒せて、囲まれるようなことはなかった。
いや例え杖や呪文が弱かったとしても、もっと距離をとって戦えば良かった。逃げながら撃てば、きっと勝てた。一度ダメージを受けて、ムキになってその場で戦ったのが良くなかった。
次はもっと上手くやれるだろう。
……ま、次なんてないけどな。
どうせただの夢の中。明日になれば忘れてしまうような世界だ。やめやめ、さっさと起きて忘れよ〜。
起きて……。
起きて?
俺は勢いよく体を起こした。
自分の頬をつねってみる。触っている感覚はあるが、痛みはない。痛くないから、これは夢……だよな? 夢なら痛くないもんな。痛くないからこれは夢。証明しゅうりょ……でも触った感覚はある。
土の匂いも感じるし、風の音も感じるし、空の光も感じている。これは夢……?
夢に決まっている。俺は魔法なんて使えない。空なんて飛べないし、杖から呪文が飛び出すはずもない。夢じゃなければなんだと言うのか。
「帰りたくばクリアせよ」
看板が見えた。
帰りたくば……。帰る。どこへ? 今までいたところへ。
俺がいた世界へ。
クリアしないと……。帰れない?
俺は混乱したまま、ここから逃げ出した。
洞窟から背を向け、走る。走る。走る。……なんでこんなに走り続けられる? いつもの俺ならもう息が切れて立ち止まっているはずだ。夢だから走れるのか? そうなら……早く夢から覚めてくれ……。
俯くように走っていた俺が目の前に立ち並ぶ壁に気づいたのは、残り数メートルという距離になってからだった。
今、俺の前にはビルのような高さの崖と、崖を割って生える、同じだけの高さの巨大な木が塞がっている。上を見ていると、自分の立ち位置がわからなくなるほどの高さ。まるでアニメや漫画に出てくる世界樹だ。
ゲームなら、マップの果てというところか。ここからはマップを作ってないから引き返せ、そういう場所だ。
今の俺にとっては、牢獄にしか思えないが。
空を飛んで上昇してみたが、最大まで飛んでもまだまだ頂上は遠いままだった。ここから先には進めそうにないな。
逃げられない。その事実が重くのしかかった。
世界樹(仮称)のふもとでうずくまり、何をする気力もなくただ時間が流れた。
世界は何も変わらず、敵に襲われることもなく、ただあるがままだ。
俺は目を閉じ、うずくまった。
何時間経っただろう。太陽が傾くこともなく、お腹がすくこともない。この世界は変わらない。
俺は杖を手に取った。
杖名:杖1
呪文:バブルスパーク
シャッフル:しない
同時詠唱数:1
詠唱遅延:0.20秒
再装填時間:0.35秒
マナ最大値:125
マナ回復速度:30
呪文スロット数:2
拡散:0度
そして杖を自分に向け、撃った。
バブルスパークは俺の体を素通りし、地面に当たって跳ねた。
なるほど。
2本目の杖に持ち替える。
杖名:杖2
呪文:TNT
シャッフル:あり
同時詠唱数:1
詠唱遅延:0.05秒
再装填時間:0.17秒
マナ最大値:89
マナ回復速度:9
呪文スロット数:1
拡散 :0度
地面にTNTを出現させて、俺はそのまま動かなかった。数秒でTNTは爆発し、HPが減った。更に爆風で吹き飛ばされる。
自分に作用する呪文と、そうではない呪文があるな。
俺はそのまま何度も爆弾を足元に出し、やがてHPは0になった。
気がつくと、俺は洞窟の前に立っていた。
腰には二本の杖と一本のポーション。
服はなぜかローブを羽織っている。
目の前には木の立て札がある。
「帰りたくばクリアせよ」
……フーーーー。
俺は、長い長い息を吐いた。
「クリアしてやるよ」
ついでに看板を蹴り飛ばすと思ったより遠くに飛んで、なんだか笑った。
今回はスパークボルトの杖、爆弾(3)の杖、アクセラチウムポーションが選ばれた。
スパークボルトを自分に向けて発射。ダメージなし。
次に爆弾呪文を使ってみる。TNTを使った時のようなダイナマイトといった形ではなく、黒く丸い物体に導火線が生えたパターンの爆弾が現れた。
爆弾が爆発すると、TNTの時より遠くに飛ばされるし、ダメージも大きい。
今のところ、撃ち出す攻撃呪文は自傷ダメージにならず、爆弾とTNTは自傷ダメージとなっている。他にも自分を傷つける呪文があるかも知れない。新しい呪文を見つけたら調べよう。
アクセラチウムポーションも自分に振りかけて効果を試してみた。
すると横移動の速度が倍以上になった。縦移動、つまり空を上昇する速度には変わりないようだ。
正直、速すぎて使いづらい。まあ効果を知っておけば何か使えることもあるだろう。
実験を終えた俺は、今回のゲームを開始した。
いつも通りに斜め下に伸びる道を進み、終点の縦穴を飛び降りる。
今回は初めて会う敵、ハイッコリマヌルヤスカがすぐに現れた。
空を飛んで毒の弾を撃ち出してくる敵だ。見た目は緑の空飛ぶ人間大のスライム。
毒の弾は避けても辺りに少量だが毒液を撒き散らすし、リマヌルヤスカにダメージを与えても体から毒液を撒き散らす。すげー鬱陶しい。
毒液を避けようと意識し過ぎて、逆に自分から当たりにいってしまった。くそう。
そして苦労して倒しても、結局金塊が一つ転がるだけ。これなら地上で体当たりしてくるだけのハミスの方が楽だったのに。あの三本足の蜘蛛なら遠距離攻撃もないし。
まあ少し減ったが、まだHPは80以上ある。今回は底の転移ポイントを中心に敵を倒して、ギリギリまで金を稼いでみよう。
うろうろと動くと、結構な頻度で敵と会う。ハミスもいたし、三発の散弾を撃ってくるヘイッコハウリッコヒーシもいた。
俺が最初に会った敵のヘイッコフルッタ。相変わらず化け物顔の犬の姿だ。
たまにダメージを受けてしまうが、十体、二十体と順調に倒して金が集まってきた。
杖のように何かの気配があると思ったら、水ポーションだったこともあった。杖の時より気配が何となく弱かったので、何かなと思いながら見に行ったらポーションだったのだ。アイテムと杖の時では気配が違うらしい。
探索を続けていると、今度は踊る松明、あるいは溶岩魔神ことステンダリがいた。杖の狙いをつけて打ち倒そうとしたのだが、ふと水のポーションを持っている事を思い出した。
ダメージを与えると溶岩の血液が流れるようなやつだ。水がかかったら倒せないかな? そう思って少し離れて、床に水をまく。
水たまりと言うには広い範囲、数メートルの広さがビチョビチョになった。後はステンダリをここにおびき寄せればオッケー。
改めてステンダリの前に姿を現すと、こちらに気づいたようで奴は体の向きを変えた。よしよし。
道を戻って、水たまりの向こうでステンダリを待ち構えると、ステンダリは水たまりの前で立ち止まる。
あー……やっぱり水があると来なくなるのか? それなら反対側から回り込んで水攻めにしようかな?
そう考えていると、ステンダリの頭が俺の顔を見た気がした。
次の瞬間、ステンダリは水たまりを飛び越えて俺の目の前に来た。
おいおいおい?! 何メートルジャンプしてるんだよ! 立ち幅跳びのギネス記録でも狙ってる?!
驚く隙にステンダリは火の玉を撃ち出してきた。
ボンッ!
火の玉は爆発し、ダメージとともに俺は爆風で飛ばされた。まるでTNTが爆発した時みたいだ。だがそれだけではなく、俺の体に引火し、火だるまになった。
熱……くはないけど、HPが減る! ていうか怖い!! 火だるまになった人は皆こんな感じなの?!
あああ、もう!
俺は水のポーションをめちゃくちゃに振り回し、水をかぶった。
幸いなことに、火だるまになっても水をかぶればすぐに消えるらしい。HPの減少は止まった。
後はステンダリだけ。この借りを返してやる!
と、落ち着いて見ると、ステンダリがいたところには水たまりと、金塊が六つ落ちていた。
……どうやら水をまいた時にステンダリにかかっていたらしい。しかも前回倒した時は金塊三つだったから、水で倒すと金塊が増える仕様なんだろうな。
なんだかやり返す先を失って消化不良だが、まあ勉強にはなったしな。俺は無理やり納得して、探索を続けた。
最終的に俺は金300$、杖を2本、水のポーションを見つけたところで転移ポイントに飛び込んだ。
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