※主人公のキャラが崩壊し始めます
─────夕暮れの交差点。
部活終わりの侑と並んで歩くこの道は、いつもと変わらないはずだった。
俺─────桐生誠也は、ツンと澄ました態度を崩さず、侑の他愛ないおしゃべりを聞き流していた。
侑「ねぇ誠也君、今度のライブ、ちゃんと見に来てね?」
誠也「……だから言ったろ。興味ねえって」
侑「もう! 素直じゃないんだから」
侑は笑って俺の腕を軽く叩いた。
その瞬間─────耳をつんざくようなブレーキ音が響いた。
視線を向けると、一台の車が制御を失って歩道へ突っ込んでくる。
誠也「侑─────!!!」
反射的に声を張り上げた。
だが間に合わなかった。
─────衝撃音。
侑の身体が宙に浮かび、スローモーションのように空を舞う。
俺の伸ばした手は虚空を切り、次の瞬間─────地面に叩きつけられる音が耳に突き刺さった。
血の気が引く。
俺は駆け寄り、倒れた侑の名を叫んでいた。
誠也「嫌………嫌だ……嫌だ………侑……!おい、返事しろよ………!」
必死にその手を握りしめる。
温もりがまだそこにあるのに、瞼は重く閉ざされたまま。
誠也「頼む……目を開けてくれ………!」
涙が勝手にあふれ、視界を歪ませた。
強がりも、ツンとした態度も、この時ばかりは跡形もなく消えていた。
誠也「うわァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
声にならない絶叫が、交差点に響き渡った。
─────病院。
白い壁、消毒液の匂い、無機質なモニター音。
処置室の前で待たされる時間は永遠のように長かった。
やがて医師が出てきて、俺の前で言った。
医師「命は取り留めました─────ただし、しばらくは安静が必要です」
その言葉に膝から崩れ落ちる。
安堵と同時に、胸の奥の何かが大きく軋んだ。
─────もし、もう二度と目を開けなかったら?
その恐怖が、俺の心を壊しかけていた。
─────数日後。
侑は病室のベッドで静かに眠っていた。
包帯が巻かれた腕、弱々しい呼吸、けれど確かに生きている。
俺は椅子に腰を下ろし、彼女の手を握った。
誠也「置いていかないでくれよ……侑………頼むよ……」
言葉が震え、喉が詰まる。
ツンツンとした俺の面影はもうなかった。
ただ、失う恐怖に押し潰され、涙をこらえきれず泣きじゃくる自分がいた。
誠也「俺にはお前しかいないんだ………だから……」
誰にも聞かせたことのない、弱く、必死で、醜い声。
愛情と執着が絡み合い、心は狂気に近づいていく。
俺はそこで初めて気づいた。
俺は─────狂気になる程、侑を愛していたんだと。
周りから恐らく今の俺は《ヤンデレ》。
束縛したい程、愛していたんだ。
侑が小さく呻き、瞼を震わせた。
その瞬間、俺の胸は歓喜で、爆発しそうになる。
誠也「侑……!目を覚ましてくれ!」
彼女の手をさらに強く握りしめる。
離さない─────二度と離さない。
そう誓うように─────
─────けれど、その瞳が再び開かれた時、俺はもう以前の俺じゃなかった。