「旧姓」山井善治郎が異世界「カープァ王国」に召喚されて、数年が過ぎていた。
その間、魔法の存在する世界の王配という立ち位置を活用して”この”世界の魔法、特にカープァ王家に伝わる『時空魔法』の研究を続けていた。
王家に伝わる、王配だからこそ接することの出来る秘密情報、例えば先王であり『時空魔法』の研究者であったカルロス2世の残した研究成果などを活用して。
そうした探求の結果、1つの結論に達した。
カープァ王族すなわち『時空魔法』の使い手が対象の場合に限り、30年に1度の星の並びを待たなくとも異世界との往復が可能という結論だった。
ただし、対象の王族が訪れた事が在る世界に限られるが。
無論、最初は猛反対に逢った。
現在の善治郎はカープァ王国の未だ数少ない王族、次世代の王族を生ませることの出来る貴重な存在なのだ。
散々(さんざん)議論と説得とシミュレーションを重ねた末、同意が得られた。
ただし、絶対の条件が付けられた。
万が一、約束の日時までに帰還できなかった場合
「女王アウラには次世代に『時空魔法』を継承出来る男性との再婚を認める」
というものだった。
これでも既に、カルロス・善吉という王位継承者を生ませていたから認められたのだが………。
……。
…身に覚えのある感覚の後、懐かしい都会の喧騒が聞こえてきた。
とりあえず、何処かの路地裏に出現して其の瞬間を誰かにいぶしがられなかったことに安堵すると、さて自転車に跨って出発した。
時間は限られていた。
先ず探したのは、貴金属を換金できる店だった。
背負ったリュックの底にはカープァ王国『ポトシ銀山』産出の銀砂が収まっている。
先ずは、これを”この”世界の現金に換えて軍資金を作る予定だった。
何せ、前回の召喚前に”この”世界での貯金は使い切っていたのだから。
「不審がられないと好いけどな」
そんな心配もしながら見付けた買取店で、無事に相当の現金を手に入れると、次は拠点とするネットカフェに目を付けた。
重要なのは情報だった。
買い物もする積もりだったが時間も限られているし、どうせ持って帰れる物は絨毯1枚分なのだ。
それよりも情報だ。
カープァ王国で過ごした数年の間に、あんな事やこんな事もハードディスクに落としておけば、と後悔した情報が余りにも多く成っていた。
やはり、インターネットから簡単に知りたい情報を入手できる環境に慣れ過ぎていたのだった。
その情報環境を久し振りに手に入れて、善治郎は貪欲に情報を貪っていた………。
……。
…時にはネットカフェで情報を集め、時には街に出て商業施設などで買い物をし、たちまち日々は過ぎて行った。
故郷の叔父1家や此方(こちら)での知己に連絡を取ろうかとも思うこともあったが、何年も帰れないと弁明して、言わば半ば行方不明みたいに成った身だ。
それにまた、すぐに連絡も取れなくなる。
「諦めた方がいいな」
そう結論付けるしか無かった………。
……。
…そして、約束の日が来た。
再び”あの”感覚が襲ってきて、そして其処(そこ)は今や懐かしい王城の地下室だった。
「ただいま。アウラ」
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