「被告人を無期拘禁刑に処す」
死刑では無いのか?
「貴女の罪は、貴女1人の命で償(つぐな)えるほど軽いものでは無い。
貴女は此れからの後半生を自らの罪に向き合い、後悔と反省の中に送りなさい」
そうか、そうなのだ。これは死刑よりも残酷な仕打ちなのだ。
これが、自分は世界の支配者の妃・世界の女王と成ると信じてきた、パーパルディア皇国の皇女レミールの末路だった………。
……。
…それから、どれ程の年月が過ぎ去ったか。
彼女は此の歳月を只の囚人として送り、老いさらばえ、そして寿命が尽きようとしていた。
「……私の人生は、何だったのか……」
現在かつての故国では、自分は「亡国の奸婦」と教育されていると言う。
彼女を罰しようとする者たちは、そうした情報を隠そうともしない。
彼女の夫そして世界の支配者と成るとはずだった皇帝は結局は退位し、かつての列強は、今や全ての属領を失った惨めな小国に成り果てている。
自分は何処で誤った?
そうだ。日本国を侮り、日本人の処刑を命じた”あの”時だったのか?
あの後、フェン王国で皇国軍を全滅させた日本国自衛隊の指揮官は、裁判で証言していた。
「自分の姪夫婦も、あの時ニシノミヤコに居ました。妹は泣いていました」
自分の所行が、幾万の皇国兵士の犠牲と成って帰って来たのだ。
そして、祖国は破滅した。
自分は、どうすればよかったのか?
彼女は只、後悔の中で意識を薄れさせていった………。
……。
…彼女は目覚めた。
「……ここは?」
遠い記憶にある筈の豪華な部屋の豪華なベッド。
「夢か。最後の最後に未練がましい」
その時、部屋の扉が開き、懐かしいメイドが現れた。
「お目覚めですか」
当然に混乱する。
(…夢だったのか。それにしては余りにも長く、そして鮮明な夢では無かったか…)
「?」
困惑気味に見つめる忠実なメイドに気付くと、ようやく言葉を発した。
「今日は何年の何日だ?」
困惑しながらも、年月日を伝える。
それは「後に」判明したところでは、日本国が転移して来たまさに其の日だった。
「そ、そうか」
それから、気を取り直した様に告げる。
「直ぐに支度をしろ。
それから……それから……そうだ、カイオスを呼べ。
カイオスと其れからエルトをだ」
やがて第3外務局と第1外務局の局長は、外務局監査室の所属であり将来の皇妃とされる人物の、また何かの叱責かと戦々恐々としてやって来た。
だが彼らの想像は、間違っていた。
「ロデニウス大陸の北東……そうだ、1,000km程の辺りに何か異変は無かったか?」
「は?」
流石に最初の反応は、こうだった。
「あの辺りは我がフィルアデス大陸より遠く、直ちに正確なことは分かりかねます。
それに確か、あの辺りの海域は近寄ることも難しく、帰って来た者も居ないと聞いています」
「そうだったな。良い。情報収集を怠るな。
それから……そういえばロデニウス大陸と言えば、ロウリアに干渉していたな」
「はい。ロウリアが勝利した暁には、我が皇国にも利益が齎(もたら)されるでしょう」
「やめさせろ」
「は?」
「ロデニウス大陸には干渉するな。
皇国がロウリアを援助していた証拠も残すな。
いや、観戦武官の派遣だけは行なえ。
そして其の報告は、どれほど荒唐無稽(こうとうむけい)に思えるものであっても私の処まで持ってこい」
疑問に思いながらも、命令は実行された………。
……。
…ロウリア王国は「日本国」と名乗る突如として現れた国家に敗れ、滅びた。
レミールは、再びカイオスとエルトを呼び出していた。
「日本国には油断するな。そして付け込まれるな。
そういえば、第5位とはいえ列強の端くれだったレイフォルが、グラ・バルカス帝国とか名乗る突如として現れた国家に無礼を働いた挙句(あげく)滅ぼされたそうだな。
皇国は、ロウリアやレイフォルの愚かさに学ばなければならぬ」
「「御意」」
「皇国の隣国に対する方針も、再検討が必要だ。
フェンやアルタラスに対しても、慎重に対しなければな。
余りにも傲慢に振舞えば、クワ・トイネの様に日本を頼りかねない。
そう成ったら、ロウリアを笑えんぞ」
「そうかも知れません」
「フェンの軍際に乱入するような真似は、日本の情報を確認してからにしろ。
アルタラスは……そうだな。
皇国の威を借りて、己の卑しい劣情から王女の奴隷化を要求する様な、腐った大使は皇国の恥だ。
アルタラスに引き渡しても構わん」
局長たちは、思わず顔を見渡せた。
これまで、この皇女こそ誰よりも、隣国や属領に容赦無かったのでは無かったのか?
「引き渡すと言えば、ロウリアから亡命して来たアデムとかいう奴が居たな。
ギムの虐殺の直接の命令者として追われているとか。
日本なりクワ・トイネなりに引き渡しても構わん。
兎に角(とにかく)日本には付け込まれるな」
(もう2度と「あの」愚行は繰り返さない、皇国は滅ぼさん)