異世界カープァ王国に召喚され、女王アウラ・カープァの王配に迎えられて早くも数年、山井善治郎ことゼンジロウ・カープァは、遂に側室を迎える事と成った。
ルシンダ・ガジール。ガジール辺境伯家の長女である。
あれほど、アウラ以外の女性を拒絶してきた善治郎だったが、ルシンダだけはどうやら御眼鏡にかなったみたいだった。
だがしかし、女王アウラが第2子フアナ・善乃・カープァを妊娠、出産するに至り、再び善治郎が消極的に成るに至った。
そうでも無くても、当のルシンダがカープァ王国の常識としては「嫁き遅れ」とされる年齢である上に、妹の次女ニルダ・ガジールのプジョル・ギジェン将軍への嫁入り、弟で次期辺境伯チャビエル・ガジールのララ侯爵家からの嫁取りと続いて、善治郎とアウラが初めてルシンダに関心を示してからも何年も伸び伸びに成っていたのである。
そんなこんなで王国の貴族たちの認識では、すっかり「年増」に成ったルシンダが、ようやっと後宮に迎え入れられることに成ったのだった。
もっとも善治郎が生きてきた異世界の常識からすれば、ルシンダは未だ未だ結婚も出産も出来る年齢であり、むしろ”この”世界で適齢期とされる年齢の若い女性の方が、手を出すのに罪悪感すらある「少女」に思えていたのだが。
善治郎にすれば、善治郎だけの悩みも在った。
本来、善治郎の生きてきた現代日本では、1夫1妻が法で定められ、これを破ったものは「不倫」と呼ばれて糾弾されるのである。
その価値観に何の疑問も持たずに生きてきて、アウラに1目惚れして異世界で生きることを決意した善治郎にしてみれば、アウラ以外の側室など考えてもみなかったのだ。
現に第1子カルロス・善吉・カープァをアウラが妊娠した時にも
「嫁さんのお腹の中に自分の子供がいる状態で、他の女の人に目が向くような甲斐性ないんだけど」
と、言い切った善治郎だった。
それに、3人子供が居れば子だくさんだとされた現代日本から来たこともあった。
アウラに2人まで子供を産ませた以上は「種馬」の役割も果たした気にも成る。
この上、側室との子作りまで強要されるとは、思ってもいなかったのだ。
だかしかし、当の正妻であるアウラにも勧められ、ルシンダの為人にも好感を持てて、いわば妥協して納得した善治郎だった。
実の処、善治郎個人の思惑とすれば、2人以上の妻を相手に上手く立ち回れるくらいならば、自分には稀代のホストの才能がある、とまで思っていた。
そこはアウラもルシンダも、この時代の王族であり上級貴族の教育を受けた女性だった。
そこに、ルシンダ本人の女王アウラにも見込まれた資質もあって、どうやら後宮は上手く回っていた。
アマンダ侍女長以下の侍女たち、例えば「3人組」を含めた若い侍女たちとも、すっかり馴染んでいた。
問題は後宮の外から来そうだった。
ルシンダを迎え入れたことで「解禁」されたと思ったか、再び王国国内の貴族たちからの側室の売り込みが再開されそうだった。
さらには双王国の思惑もある。
善治郎はカープァ王家のみならず、双王国のシャロワ王家の血統も引いており、カープァ王家の血統魔法である「時空魔法」のみならずシャロワ王家の血統魔法である「付与魔法」も次代に受け継がせる可能性がある。
今の処は、カープァ王国と双王国の密約によって秘密になってはいるが、それを暴露してまでもシャロワ王家の「融合派」は自らの王女を善治郎に押し付けたがっている様だった。
善治郎にしてみれば、大きな御世話である。
アウラの上に、ルシンダまでで手1杯だ。
この上、他国の王女様まで。
勘弁してくれ、が本音だった。
片や、アウラには女王としての政略も在った。
ルシンダを側室に迎えたこと、彼女の弟に自らの乳姉妹を嫁がせたこと、そこには辺境伯家を王家の側に引き寄せる思惑も確かに在った。
次期辺境伯は未だ若く武人肌であり、大戦の英雄であるギジェン将軍に強い憧憬を抱いている。
その上、妹を望まれ”差し出して”いる。
これ以上、あの野心家の有力軍人であり大貴族でもあるギジョンに、これも有力な地方貴族である辺境伯を取り込まれる訳にはいかない。
野心家のかつての王配候補と女王との駆け引きは、まだまだ続きそうだった。
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