ロウリア王国の元竜騎士ムーラは誠実な人物である。
日本国に敗れ、ほとんど国家の解体に等しい惨状を示したロウリアに於いて、何とか愛する妻と子を養っていられるのも、彼の人間性が信頼に値するものだったからと言えよう。
したがって、嘘をつくのは、正直に苦手だった。
まるで人工的に作られた様に外界から隔絶され、しかも文明の存在する島が発見された。
そこに存在する国家との国交を結ぶべく接触を試みた日本国は、飛行能力と垂直離着陸能力を併せ持つ元竜騎士ムーラと彼の相棒のワイバーンを起用した。
だがしかし此の任務は、思わぬ試練を元竜騎士に与えることに成るのである。
カルアミーク王国三大諸侯の1人、マウリ・ハンマン公爵は大いなる野望の元に反逆した。
だがその野望は、竜騎士ムーラ、パーパルディア皇国のワイバーンロードそして日本国自衛隊の介入によって、無残に覆った。
マウリと協力者の魔導師オルドは、最初に侵略し虐殺を行ったワイザーを領するイワン候爵に引き渡され、ワイザー城下を引き回された後に公開処刑された。
ちなみに日本側としては、古代遺跡の研究の為に魔導師は生かしてコキ使おうとも考えたが、カルミアーク側の怒りが其れでは収まらなかった。
日本国に捕らえられ、無期拘禁刑に処せられたハーク・ロウリアやレミール・パーパルディアと、どちらが重い罰だったかは解釈によるだろう。
国王の戦死によって王国の指導者を継承したウイスーク公爵は、日本国との国交を結んだ。
その祝いの席上、正装した公爵令嬢が勇敢な竜騎士に愛を捧げていた。
しかし捧げられる方は、もう限界だった。
誠実なる元竜騎士には、もう隠し事は出来なかった。
「エネシー様…私にはロウリアに大切な妻と子が居ます。
貴女が好意を向けて下さるのは承知していましたが、その想いに応えることは出来ません」
告白された令嬢の方は、1瞬、理解できないそぶりを見せ、次いで驚愕し、そして…
「私を騙していらっしゃったの!!」
「い、いえ、だからこそ正直に申し上げました…」
(じ……地雷女だったのか)
ちなみに、日本国が居た元の世界での中世LVの文明しか持たない筈のロウリアの騎士が、どうして地雷などという単語を知っていたか。
これも日本国の影響かも知れない。
泣き崩れる公爵令嬢を何とか振り切って、帰国したムーラだったが「災難」はまだ終わっていなかった。
カルアミークからの帰途、日本国に立ち寄っての事後報告やら事情聴取やらに予想外の日数を費やし、やっとのことでロウリアの懐かしい我が家に帰ってくると、何と、出迎えたのは妻子だけでは無かった。
「ムーラ様!私は何としてでも、貴女の妻に成って見せます」
あの王国は物理的に外の世界とは隔絶され、全く交流も行き来も出来ないのでは無かったのか。
だからこそ、飛行能力と垂直離着陸能力を併せ持つ、彼と彼の相棒が起用されたのではなかったのか。
実は、日本国との国交が結ばれて最初に、日本国からの技術輸出に依って建設されたインフラストラクチャーは「空港」だった。
先ずは、連絡手段を確保しなければならず、そして其れは空路しかなかったのだから当然と言えば当然だった。
そして、その就航第1便に、今や新国王の娘の権威に物を言わせて乗り込み、日本国経由でロウリアにやって来ていたのである。
今にも縋りつきそうなエネシーと疑わしげな視線を向ける愛妻を前に、ムーラは先ず、妻の誤解を解かなければ成らなかった。
全く1方的に想いを寄せられていることを愛妻に信じてもらうため、竜騎士は火喰い鳥の大群に挑んだとき以上の勇気を振り絞らなければ成らなかった。
この困難な戦いを何とか乗り切り、愛妻の信頼をどうやら取り戻したムーラだったが、その間に殺意とすらいえるオーラを増していたエネシーとの直接対決が待っていた。
果たして勇敢にして誠実なる竜騎士は、この絶望的な戦いに勝利出来るのだろうか。