俺には前世の記憶がある。
別に若くして死んだとか、特別な事があった訳でも無い。
平凡に、それなりに満足した人生を送って、寿命が尽きた。
だから来世と言うものが在るなら、何事もなく行けると思いながら、意識を薄れさせた。
ところが………。
……。
…意識を取り戻すと、幼児だった。
そして「今世」の家族らしい人たちが話す会話の中に、聞き捨て出来ない固有名詞を聞き取った。
「クーラタル」
”それ”は「前世」での晩年、気持ちだけでも若作りしようと手を出した、若い人たちの間で人気のライトノベルの1つに出て来る地名だった。
そう”その”題名は『異世界迷宮でハーレムを』
本当に”あの”小説の世界なのか?
それならば何故、こんな世界に来てしまった?
別に「自殺の決意をする前に」などというアヤしいサイトにアクセスした覚えもない。
したがって”あの”小説の主人公の様に、様々な転移者特権のスキルも無ければ、99ポイントカンストのボーナスポイントも、ついでにボーナス武器の聖剣も無い。
それなのに迷宮あり、魔物あり、盗賊ありの”この”世界を生きていかなければならない。
しかも「現在」は、無力な幼児だ。
先ずは、俺を”この”世界に送り込んだ何者かを罵(ののし)ったのも無理は無いだろう。
そして、人知れず内心で罵るだけ罵った後に、決意を決めた。
絶対「今世」も寿命で死んでやると………。
……。
…それから俺は、必死に教育の機会を得ようとした。
幸い、貴族でこそ無かったが、それなりに生活の余裕がある自由民の両親だった。
目指したのは、何処かのギルドでの書記なり何なりだった。
その為、ブラヒム語の読み書き其の他を、懸命に学習していった。
そうして、それなりにスクスクと成長した俺は、クーラタル冒険者ギルド職員の職を手に入れた。
これで迷宮に挑まなくても、生活出来る基盤は手に入った。
まあ、場所がクーラタルである以上、街中にも魔物は出現する。
もっともコボルトLV1なのだが。
非力な子供の間は、逃げて大人に助けを求めていたが、成長した今は此の程度の危険には自力で対処できる様に成っていた。
それにクーラタルは探索者の街だ。そこら中に探索者がウロウロしている。
存外、危険は少なかった………。
……。
…そうして、生活が安定すると、1人密かに思う事が在った。
「彼」が来るかも知れない。
何と無く、そんな気もした………。
……。
…そんなある年の春先。
北にあるハルツ公領で雨が続き、大きな水害が発生した。
さあ、出番だ。
おそらく、こんなモブキャラクターには唯一の。
俺は”ある”期待を込めて「彼」を探した。
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