短小編集(小ネタあれこれ)   作:高島智明

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この短編の投稿に際しては「残酷な描写」タグをクリックさせて頂きました。
主人公の人間性や行動について異議があるかも知れませんが、あくまでも彼は「中世世界の戦争に巻き込まれた現代日本人」という視点で描きました。

主人公は現代人です。
彼の知識にある戦争とは「近代戦」であり、中世世界の「名誉ある戦争」ではありません。
そして「戦争とはこんなもの」と認識している彼が、それでも戦争に成ることを受け入れ決意したとき、この中世世界の戦争認識とどう乖離することに成るか、そこまで考えた時『原作』の続刊が中々発表されない理由が分かった様な気もしました。


戦争とはこんなもの(原作:理想のヒモ生活)

「勝とう。少しでも次の戦乱が遠くなるように徹底的に」

夫でもある王配の其の言葉と態度に、女王は小さな違和感こそ感じたものの、その正体には未だ気付いていなかった。

『教会』の主導下に北大陸諸国は”南大陸委に流刑と成った罪人ども”の子孫を討伐するべく、4本マストの大型船数10隻からなる大船団を送り出した。

 

航海を続け南大陸を前にした船団の前に、別な船団が出現した。

やはり4本マストの大型船から成るが、自分たちよりもずっと小規模な船団。

そこから、どういう技術なのか、声が飛んできた。

 

「私は、南大陸がカープァ王国の女王が伴侶、ゼンジロウ・カープァである。

北大陸の船団に警告する。

南大陸への侵略を停止し、直ちに引き返せ。

さもなくば攻撃する」

 

この声に対して船団では、王配という大きな獲物が自分から出てきたとしか、解釈しなかった。

 

「繰り返す。南大陸への侵略を停止し、直ちに引き返せ。

さもなくば攻撃する。これは最終警告である」

 

この最終警告にも反応が無い、とみると善治郎は、声を届かせるための魔道具を持ち直し、自分の船団の甲板に待機させていた兵士たちに命令した。

「攻撃せよ」

この命令に従い、兵士たちは渡されていた魔道具を構えた。

 

「攻撃せよ。命令するのは私だ。お前たちは実行するだけだ」

兵士たちは、あらかじめ教えらていた、魔法を発動する為の魔法語を唱えた。

 

北大陸の船団の上空に幾つもの火球が発生し、船団の上から落ちかかって、遂には1つの大火球とと成ってキノコ状の爆煙を吹き上げた。

その下では、地獄絵図が展開されていた。

 

兵士たちに渡されていたのは「爆炎」の魔道具だった。

ようやっと量産に成功した魔道具の媒体と成る宝玉(ビー玉)を、付与魔法の使い手である双王国のフランチェスコ王子たちに渡し、

「『教会』が侵略して来たら、危険なのは双王国だろう」

と、半ば脅す様にして生産させていたのだ。

 

こう成ると、所詮は木造船であり、しかも4本マスト1杯に帆を張っていた。

殆どの船が炎上し、搭乗していた騎士たちや馬たちは戦うことすら出来ずに、あるいは焼け死に、あるいは炎上する船から海に追い立てられて溺れていった。

この段階に至って、善治郎は「救助」を命令した………。

 

……。

 

…北大陸の船団の生き残り、というよりも死に損ないたちのうち『騎士団』の主だったものたちが、善治郎の前に引き出されていた。

「言いたいことがあるか」

「こんなのは戦争では無い。虐殺では無いか」

 

善治郎は答えた。

「戦争とは、本来こういうものだ。

それに侵略してきたのは、お前たちではないか。

侵略に成功したならば、お前たちは南大陸で何をする積もりだった」

答えは無かった。

 

「北大陸に送還してやるから、お前たちの指導者に報告するが好い。

侵略と戦争を続けるならば、ここまでのことに成る。

戦争とはこんなものだ。

そして南大陸の王配は、こうした戦争を命令し、実行出来るとな」

更に善治郎は宣告する。

「北大陸の都市や指導者たちに、こうした攻撃を加えても好いのだぞ。

お前たちの指導者が、侵略を止めない限り」

北大陸の騎士は恐怖した………。

 

……。

 

…善治郎は言葉通り「瞬回移動」の魔法で、騎士たちの主だったものを送還した。

直接に送られたのは、かつて善治郎が訪れたことのあるウップサーラ王国だったが、事前に根回しが出来ていたウップサーラ王国では、実に丁重に彼らを『教会』領へと送還した。

 

送還された騎士たちの報告は『教会』の指導者層である司教たちを驚愕させた。

船団と搭乗していた『騎士団』の壊滅。

「侵略と戦争を続けるならば、ここまでのことに成る」

「北大陸の都市や指導者たちに、こうした攻撃を加えても好いのだぞ」

という、南大陸の王配の宣告。

何れも、彼らが想定していた戦争と栄光からは、想像外の事態だった。

 

元来、王が陣頭に立ち戦死することがあっても、宗教指導者である彼らが戦場に出る事は無い。

戦争などは『騎士団』に任せて、自分たちは安全な場所から、宗教的な栄光を享受してきた。

それが俄(にわか)に危険に成った、という。

 

また、実際問題としても、再度の侵略と戦争は実行困難だった。

何年もかけて準備してきた船団と、搭乗していた『騎士団』を失ってしまったのだ。

また、何年もの時間と莫大な費用をかけて準備しなければ成らないことを意味していた。

司教たちは、喧々諤々の議論を続けた。

その最中に、投げ込まれてきたものがあった。

 

奇跡的に復活したとはいえ、敬愛するヤン司祭の火刑の件で『教会』への恨みを持ち続けている傭兵隊長ヤンと、善治郎は密かに契約し魔道具を渡していた。

依頼通りにヤン隊長は『教会』領に潜入し、司教たちが議論している建物の近くで、教えられていた魔法語を唱えた。

 

結果、司教たちの中の少なくない人数が焼き殺され、また多くが火傷を負った。

異端者と断じたヤン司祭を火刑に処した様に、北大陸の『竜信仰』では火葬は死者への最大の侮辱である。

それが、聖職者の頂点に立つ指導者たちが焼き殺されたのだ。

生き残った司教たちは、南大陸の王配が宣告したセリフが、単なる脅しでは無いことを思い知らされた。

 

「これが戦争か」

『教会』には恨みこそあれ、ヤン隊長とて、この時代の戦人(いくさびと)である。

彼の経験してきた戦争とは、全く異なる”戦争の現実”が其処にはあった………。

 

……。

 

…カープァ王国の王都。

凱旋して来た軍を迎える群衆に対し、軍のトップであるプジョル・ギジェン元帥は、手を振り微笑んでは見せたが、内心は忸怩たる思いを隠していた。

妻であり、今では元帥の陰の軍師と言って好いルシンダ・ギジェン夫人と2人切りに成った時には、愚痴らしきものも漏らしてみたが。

 

「私がやったことといえば、ゼンジロウ様たちを運んだことと、溺れかけた敵兵を助けたことだけだ。

私には、戦う機会も無かった」

夫人は、少しだけ考慮して答えた。

「ゼンジロウ様は、

「戦争とはこんなものだ」

と、おっしゃったのですね」

 

文官として善治郎を補佐していたラファエロ・マルケスも、父マルケス伯爵に報告していた。

「以前に私は、あの方のことを、

「首から上が飾りで、急所は足の甲にあって、背中に第3の腕を隠している『化け物』と剣を交える様なもの」

と評しましたが、これ程の『怪物』だとは、想像していませんでした。

あの方の認識している戦争とは、私たちとは全く異なるものです」

 

北大陸でも、戦争の詳細についての情報を得るとともに、驚愕していた。

 

元ウップサーラ王国の第1王子で、現在はオフス王国の王位を継承しているエリク・エストリゼンは、かつてウップサーラ王国を訪れて妹フレアを側室に望んだ善治郎を、

「武人にあらず」

と、見下していたが、その”軟弱者”の筈の王配が実行した「戦争」には、この世界の武人だけに恐怖すら感じた。

そのエリク王を、今は第2王子だった現王にウップサーラ王国の王位を譲り、身軽に成ってオフス王国を訪れていたグスタフ前王が諫めていた。

「武人であることだけが、王族の価値では無い。

お前も今は王ならば、もっと視野を広く持たねばな」

そう諫める父前王も、また弟の現王も、驚愕していない訳では無かった。

 

尤も、最も直接に恐怖していたのは『教会』の指導者たち、というより其の生き残りたちだろう。

南大陸の王配の、次の攻撃が何処に向けられるかも分からない。

再度の侵攻も、直ぐには困難だ。

もはや、和解を考慮すべきだという声さえで出始めていた………。

 

……。

 

…王都に戻った善治郎は、妻でもある女王アウラと、後宮で対面していた。

「ゼンジロウ。好くやってくれた、というしか無いのだろうが」

何時もの果断なアウラにしては、歯切れが悪い。

 

元々、1度は女王アウラ1人を残して王家が死に絶えたカープァ王家では、王家の血統を繋ぐ役目を持っている王配である善治郎の身は重い。

実戦はプジョル元帥などに任せて、善次郎は戦場に出ない選択も真剣に考えられたのだ。

だがしかし善次郎は、今回は頑(かたく)なだった。

そして戦場に出た善治郎は、女王アウラですら想像もしていなかった「戦争」を命令し実行してみせた。

その結果、確かに北大陸からの侵略の脅威は遠ざかった。

だがしかし此の結果は、この時代の王として生まれたアウラの戦争認識を大きく揺さぶるものでもあった。

 

「戦争とはこんなものだよ」

「そなた…」

「少なくとも、俺が教育されてきた戦争と言うものは」

「何と…」

 

「戦争とはこんなものだ。

そして、善吉や善乃を守る為には、こうするしか無かった。

それに、アウラには、手を汚してほしくなかった」

 

女王アウラは絶句した。

初めて女王は、

「勝とう。少しでも次の戦乱が遠くなるように徹底的に」

と夫である王配が決意したときに感じた違和感の1端を知った。




この短編を推敲しながら、アンパンマンのマーチ、を聴きたく成りました。お腹のすいた人にパンを届けるという、戦争の結果で正義の変わる現実にも変わらない正義を求めた此の漫画のことが、救いに成れば幸いです。
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