時系列的には『原作』第8巻の時点に成ります。
『ラファエロ・マルケスの困惑』
時系列的には『原作』第7巻以降でしょうが、あえて特定はしていません。
ナバラ王国の将軍と騎士長:
カープァ王国ガジール辺境伯領と国境を接するナバラ王国では、マルティン・ナダル将軍と若き騎士長クリスティアーノ・ピントが対話していた。
この数日前、カープァ王国の王宮では1つの儀式が行われた。
ガジール辺境伯ミゲルの庶出の次女であるニルダ・ガジールの名が、王家側の不手際で貴族身分の者の名が登録される『名簿』に載っていなかったことが判明したのだ。
この儀式は、改めてニルダ・ガジールの名を『名簿』に書き記し、貴族身分であることを女王アウラによって承認される、というものだった。
この儀式は、王都に居合わせた貴族たちの面前で行われた。
居合わせた貴族の中には当然の様に、ナバラ王国の大使も居たのである。
当然ながら此の情報は、直ぐに本国に伝えられた。
ナバラ王国の軍に置ける重鎮であるマルティン将軍にも、当然ながら情報は伝えられた。
この情報に接して憤慨したのは、クリス騎士長である。
マルティン将軍とクリス騎士長は、先だってガジール辺境伯の長女ルシンダの結婚式に参列する為に辺境伯領を訪問していた。
その際、ニルダとクリス騎士長配下の若い騎士との間で「ちょっとした」イザコザが置きた。
そして結果として、これも結婚式に参列するため訪問していたカープァ王国の王配である善治郎・カープァにクリス騎士長がやり込められる、という顛末に至ったのだった。
その時には知らずとも、今回の儀式の情報に接すれば判明する。
善治郎が何の為に、しゃしゃり出て来たのかは。
「あの時点では、貴族でも無い小娘が我がナバラ王国の騎士に逆らっていたのですぞ」
ナバラ王国でも色濃く王家の血を引く名門の子であるクリス騎士長にしてみれば、憤慨する気持ちにも成る。
だがしかし、マルティン将軍は冷静に騎士長を諭した。
「そうして、ことを荒立てて置いて、今ニルダ嬢が貴族と認められた時には、もっとことがややこしく成っていただろう。
ゼンジロウ陛下は、その可能性を事前に摘んで下さったのだ。
お主は、むしろ感謝すべきだ」
敬愛する師でもある上官に諭されて、ようやっと騎士長も自分の憤慨が、如何に不味いものだったかを理解した。
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ラファエロ・マルケスの困惑:
マルケス伯爵家次期当主、ラファエロ・マルケスとキーシャ・マッセーナ男爵令嬢の結婚式は恒例に従ってマッセーナ男爵領で挙行された。
普通、嫁ぐ側が故郷に別れを告げる最後の花道、という理由で花嫁の故郷で行われるものだったのである。
けれども花嫁のキーシャは、いよいよ挙式の為に男爵領へ立つまで、王都の男爵邸で暮らした。
1つには、最近まで後宮侍女として、王宮に使えていた為でもある。
1方で、ラファエロも文官として王都で仕えており、しばしば男爵邸を訪れて対話する機会があった。
話題の中には当然に、後宮で主として仕えていた、王配である善治郎・カープァについての話題があった。
実の処、ラファエロは父であるマルケス伯爵にも、
「もう少しあの人の人となり、心の形を知るまでは、ゼンジロウ様とは距離を取るべきだと進言いたします」
と報告したことがあった。
とある任務で、善次郎を文官として補佐した経験から、そう結論付けた。
「首から上が飾りで、急所は足の甲にあって、背中に第3の腕を隠している『化け物』と剣を交える様なもの」
というのが、ラファエロの善治郎に対する評価だった。
だかしかしそれは、
「人となり、心の形を知るまで」
である。
王国の有力貴族の次期当主として、また王国に仕える文官として、直系王族から何時までも距離を取ることは出来ない。
そして、後宮で善治郎の傍近くに仕えたキーシャが、情報源として貴重なのも確かだった。
尤も、所謂(いわゆる)『問題児3人組』程この主に汚染されている訳では無いが、それでも善治郎の日常や振る舞いについての貴重な情報を得た。
『3人組』程で無くとも、善次郎という主は侍女たちに気安い。
そして、その人格を否定する様な扱いはしていなかった。
それは結局の処、女王アウラに召喚されて王配に迎えられるまで、男尊女卑の此の世界とは異なる男社会の崩れつつある現代日本での社会人だった為、とはラファエロも分からない。
所詮はラファエロも、この世界の貴族男性だった。
女でありながら、大国の最高権力者を務め上げる女王アウラが例外中の例外なのである。
その女王の伴侶を平然と務められる善治郎の心の形は、理解が難しかった。
父伯爵に進言した善治郎への評価を、改めて思い浮かべるラファエロ・マルケスだった。
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