私の名を聞いても、思い当たる人は私の身近な人たちだけだろう。
いわばモブだ。
そんな私には、前世の記憶が在る。別に特別な事が在った訳でも無い。
平凡に、それなりに満足した人生を送って、寿命が尽きた。
だから来世と言うものが在るなら、何事も無く行けると思いながら、意識を薄れさせた。
ところが………。
……。
…意識を取り戻すと、幼児だった。
最初は、単純な逆行かとも思った。
時代的に、前世の幼いころの記憶と参照して大して齟齬は無かったからだ。
だがしかし、単純な逆行でも無かった。
私の生まれ育った家庭は、日本人ながらヴァチカンの敬虔な信者だった。
そんな環境で成長した私は何の疑問も持たずにヴァチカンに留学して、そこで教会の裏側を知ることと成る。
”この”世界には魔術というものが秘匿されていて、教会は時には魔術師たちと対立し、時には妥協しながら、あるものを追い求めていた。
魔術師たちの本拠地が倫敦に在って「時計塔」と呼ばれていることを知ると、私は疑惑を持った。
更に、母国の地方都市に「冬木」という地名が在って、魔術師絡みで教会にも急目されていることを知ると、疑惑は大きく成った。
そして、その冬木の教会を預かる司祭が言峰璃正と言い、更には教会の裏情報として言峰司祭が魔術師たちの監督役を密かに努めていることを突き止めると、疑惑は確信と成った。
”それ”は「前世」での晩年、気持ちだけでも若作りしようと手を出した、若い人たちの間で人気のシリーズ作品に出て来る設定だった。
そう”その”題名は『Fate/シリーズ』
この確信を持った後の私は、自分が”この”知識を持って転生した意味を考えた末、言峰璃正司祭の部下に成れる様に積極的に動いた。
『原作』の登場人物たちが予(あらかじ)め知ってはいない為にBad Endという結果に成った其の知識を私は知っている。
ならば、あんなBad Endだらけの『原作』に、せいぜい干渉してやるのが、私の転生した意味だと思えたのだ………。
……。
…第4次聖杯戦争を『原作』『Fate/Zero』通りならば、数年後に控えた頃。
私は、言峰璃正司祭の信頼される部下に収まっていた。
その頃、私は聖杯戦争の監督役としての司祭に進言し、冬木の大聖杯の事前調査を行った。
私は知っていた。大聖杯の魔法陣に何が起こっているかを。
その私が調査した結果は、案の定だった。
私の報告は、直属の上司である司祭のみならず、教会の上層も驚愕させるものだった。
冬木の第726号聖杯は汚染されている。
もはや、あれは聖杯の名に相応しい万能の願望機などでは無い。
第726号聖杯に願望をかければ、それは最悪の形で実現されてしまう。
そんなシロモノを争う冬木の聖杯戦争は、もはや茶番ですらある、と。
この頃、司祭は第3次聖杯戦争の監督役を務めた時に縁の出来た、冬木を魔術的に管理するセカンドオーナーであり冬木の聖杯戦争を主導する御3家でもある遠坂家と接触していた。
場合によっては、遠坂家当主として参戦する予定の遠坂時臣と監督役の裏で結託することすら思惑に在ったが、目指す聖杯が”あの”様なシロモノに成り果てていては話が違う。
結局、言峰司祭と遠坂時臣の接触の目的は、遠坂を通じて御3家の他の2家、アインツベルンと間桐そして時計塔に聖杯戦争の延期と、大聖杯の解体を申し出ることと成った。
聖杯戦争を再開するとしても、あの第726号聖杯に替わる新しい聖杯を形成してのことに成るだろう。
とはいえ、あの不死の妖怪老人は兎も角(ともかく)アインツベルンは聖杯に固執するかも知れなった。
それでも、聖杯を汚染したのは、第3次聖杯戦争でのアインツベルンの所行の結果だという証拠を突き付ければ、言うことを聞かせられるかも知れない。
兎に角、その方針を、先ずは遠坂時臣には納得はさせた様だった。
どうやら、司祭が時臣を納得させた、と見たあたりで私は口を出した。
「遠坂家の悲願でしたか。「根源」を求める。次代に希望を託せるでしょう」
「次代かね」
時臣は何気なさそうに話題に乗った。
「才能に恵まれた御嬢さん”たち”がいらっしゃるそうじゃありませんか」
時臣は複雑そうな感情を見せた。
「そう、恵まれ過ぎている。2人も。魔術の世界は1子相伝なのだ」
「それでは?」
「最近の私は、1人を後継に恵まれない魔術師の家に養女に出そうか、と思っている」
私は、意外そうな態度と表情を作った。
「その必要が在るのでしょうか」
「何が分かる」
「ですが…」
実は、この介入の機会を待っていた。
「貴方たち、遠坂家の家系は「天秤」のエーデルフェルト家の血統も受け継がれているのでしょう」
「どうして、それを…いや、第3次聖杯戦争の記録は教会にも在るか」
そう『原作』の順番からは後付け設定かも知れないが、エーデルフェルトという姉妹で魔術師の当主を継承してきた家系の血脈も、遠坂家の姉妹は受け継いでいるのだ。
すっかり考え込んでしまった時臣を傍らに、今度は私は司祭に話しかけてみた。
「貴方の御孫娘は、息災ですか」
あのサドマゾ修道女も、実の父親と祖父から放置されなければ、あれ程には歪まなかったかも知れなかった。
何より、あの愉悦神父にも好い影響を与えるかも知れなかった………。
……。
…兎も角『原作』からは、物語はズレ始めた。
これから、私も知らない別な物語が始まる。
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