短小編集(小ネタあれこれ)   作:高島智明

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聖フランチェスカ聖杯戦争(原作:真・恋姫†無双 ×Fate/)

『聖フランチェスカ学園』

“聖”と言う字と女性名が校名に入っている学園らしく、理事長室で客を迎えていた部屋の主(あるじ)は修道女姿だった。

片や、客の方はと言えば。

主に相応(ふさわ)しい姿をしている、とも見えなくも無い。

見る限りは聖職者らしい服装をしてはいる、だが。

視るべき眼の所有者が視れば、テンプレートな聖職者のイメージとは真逆な“何か物騒なもの”を感じ取るかも知れない。

 

「信じ難いですわ」

理事長は彼女らしく品は好く、しかし途方も無い話題に対しては常識的とも言える反応を返していた。

「我々とて、これが何かの冗句であって欲しいのです。大いなる天の父の祝福が在ります様に」

客は兎も角(ともかく)も、教会の人らしい言葉を付けてから話を続けた。

「魔術師を自称する異端者どもが、罰当たりにも“聖杯”などと名付けた魔術装置をめぐって異端の大騒ぎを密かに繰り返していました。

先年、かの冬木市で起こった幾(いく)つかの事件、そして其の10年前にも同様の事件が連続して発生した末の、あの大災害。

その全てが異端者どもの巻き添えだったのです。

 

流石に異端者たちの中から、この“聖杯戦争”と自称していた異端の大騒ぎ其のものを終わらせようとする者も現れました。

そして異端者の祖先が冬木市の地下に造り上げていた魔方陣も封印された、筈でした。

だが、しかし……。

 

尚も“聖杯”を自称する魔術装置の完成を妄想する異端者の後は絶えなかったのです。

もともと冬木市の“聖杯”とやらも、異端者たちが何百番目かに作り出したツクリモノでした。

冬木市での封印を行った者とは別の異端者どもが、新しい“聖杯”などと言うものを懲(こ)りもせずに作り出そうとし…そして」

客の話を聞いている理事長は嫌悪と恐怖、そして信仰の人らしく救済を求める仕草をした。

「どう言う事やら其の“聖杯”と成る“うつわ”が、この学園に存在しているなどというウワサが異端者の間に流れたらしいのです」

この客に対する理事長の反応は、むしろ彼女の様な女性としては常識的だったろう。

「大いなる天の父の祝福が在ります様に」

彼女は十字を切った………。

 

……。

 

…そんな理事長と客との対話も知らず、1人の学生が巻き込まれていた。

 

北郷一刀は流石に後悔した。

(…なんで、こんな好い加減な見回りで見付けてしまうんだ…)

これでは何かの主人公補正(?)か何かの様だ。

 

……そもそもの発端は、この日の放課後だった。

 

この広く施設の充実した学園の中の歴史資料館。

そこに何人かの男子学生が集まっていた。

身もフタも無く言えば宿題が理由だったが。

 

その中の1人が、とある展示ケースの中の展示物を目に止めた辺りから雑談が始まった。

「古代ローマの軍団兵の槍…マジ?」

見た処は戦国日本の槍などよりも、むしろ19世紀まで捕鯨に使われた銛(もり)とかに近い形にも見える。

実のところ古代ローマ軍団の槍は突き槍にも使われたが、元々は投げ槍だった。

「もしかして…聖ロンギヌスの槍だったりしてね」

少しばかり“そう言う趣味”に興味が有るらしい別の学生がボールを投げ返した。

もっとも其の本人にしても、半分以上は冗句らしい。

 

ローマ軍団の百人隊長ロンギヌスは、十字架上のイエスが死んだかどうかを確認するために槍で突いた。

そして傷口から流れたイエスの血が奇跡を起こす。

この奇跡の結果、眼病から救われたロンギヌスは改心した。

そして元ローマの百人隊長は後に聖人と呼ばれた、などとキリスト教側では主張している。

同時に、このとき用いられた槍は聖遺物(聖書の奇跡の記念物)の1つとされ、ついには神秘の力を秘めたアイテムとまでの伝説を伝える。

 

「聖槍…って、アーサー王伝説?それとも…聖杯だったかな?」

他の誰かが発言して、また他の話が始まる

「そう言えば、アーサー王って何をしたの?聖剣を抜いた他に」

「それはだな…」

そう言った事には、ひと言を持っていそうな誰かが論じ始めた。

 

「アーサー王とかを元ネタにして中世ペルシャ辺りのファンタジーを書いたSF作家がインタビューで答えた事が在るらしい。

そこからすると、こう言う事だな。

アーサー王は王様らしく、無論いい意味での王様らしくしている。

そして“円卓の騎士”たちが戦ったり、冒険の旅をしたり、聖杯を探したりする。

でも、あくまでも其れはアーサー王が王様でいてこそ「アーサー王と円卓の騎士たち」って物語に成る訳だ」

 

「言われてみると『三国志』も同じパターンだな」

『三国志演義』あくまでも『演義』のファンである北郷一刀も言われてみれば同感だった。

「劉備は理想を唱えている。

戦って活躍するのは関羽とか張飛とか趙雲とかで、頭脳で活躍するのは孔明とかだけど

もしも劉備が居なかったら、関羽の『千里行』も孔明の『出師の表』も忠誠を向ける先が無い」

 

「お話が出来ん、ちゅうわけやな」

そう“お話”である。あくまでも“三国時代の歴史”では無く“『三国志演義』と言う物語”の話だった。

つまりは“歴史”では無く“伝説”の話。

「要は、こうして掘り出されて展示されたりする歴史と、伝わっている伝説とは違っているかも知れんちゅう事やろ。もしかしたら…」

ここで、ひと呼吸おいてニヤリとして見せる。

「アーサー王とかも、ごっつう可愛い女の子やったりしてな、実は」

「このエセ関西弁の結論は、そこに落ちるか。結局」

そこで友人一同は笑い合った。

 

……そんな、ある意味では男子学生らしい今日を過ごした彼らが男子寮に引き上げてきた時、なぜか一刀だけが微妙な雰囲気だった。

 

「何や?心配事でも」

エセ関西弁でヒョウヒョウと生きている様で、肝腎な処では友人思いな親友から心配された。

「いや、どう言う訳だか分からんが、いやな予感がするんだ」

田舎で剣術道場を開いている祖父を持ち、現在は剣道部唯一の男子部員。

その程度の剣士である一刀ですら、何か不審を感じる様な何かが感じられた様な気がしていた。

 

只、この学生たちは知らなかった、理事長を訪問して来た客の事は………。

 

……。

 

…結局その夜、竹刀片手に一刀は校内を見回ってみた。

 

もっとも一刀程度の感覚では確信が持てる程でも無い。

あくまで念のため、ちょうど満月だった月夜の散歩半分程度の、その程度の決して真面目とも言えない見回りで見付けてしまうとは、全(まった)く何かの主人公補正(?)か何かの様だった。

 

……こう言う校名の学園だから当然、ほぼ学園の中央にチャペルが存在している。

 

罰当たりにも其のチャペル内で、祭壇の近くにある保管場所を破壊していた2人組。

しかも、その片方は古代ローマ軍団の百人隊長のコスプレ(?)をしている。

その罰当たりは、どうやら日曜日ごとにチャペルで使用されていた聖杯を持ち出すと少しばかり弄り回していた。

そして更に罰当たりな事には其の場に放り出すと、何か悪態を吐き出した。

「くそ!ただの普通の聖杯だ。デマを喰ったか?」

 

本来、信者にとっての聖杯とは『最後の晩餐』に由来する。

『晩餐』の席上イエスは、卓に置かれていた銀の杯を取り上げた。

そして固い無発酵パンをブドウ酒に浸して柔らかくしてから食するための、杯の中の赤ブドウ酒で柔らかくしたパンを弟子たちに与えた。

「受け取れ。これは私の血と肉である」

かくて弟子たちは、イエス・キリストの使命を受け継ぐ12使徒と成った。

 

以来、日曜日ごとに信者ならば其の追体験をする。

このチャペルにも、その日曜日ごとに使用されるための銀の聖杯は備えられていたのだが。

 

その聖杯を罰当たりにも放り出すと同時に、相棒の百人隊長(?)の方が一刀を感じ取った。

「悪い処に居合わせたな」

田舎で剣術道場を開いている祖父を偶々(たまたま)持っていた、その程度の一刀にも感じ取れる明確な殺意。

「マスター、余分な殺生かも知れんが」

「ふん。令呪を無駄使いさせる積もりか?

あの小僧こそ余分なものを見なければ長生き出来たものを」

その問答ないしは漫才の貴重な数秒を、一刀はムダにはしなかった。

36の計略よりも逃走が正当な戦術だったろう。

 

とは言え、チャペルから歴史資料館まで逃走出来ただけでも、完全な奇跡か主人公補正だった。

無論、一刀としても闇雲に逃げただけでは無い積もりでもいる。

何とか資料館まで辿(たど)り着くと、あえて手近な窓を適当な石か何かで破り館内に侵入した。

流石にセキュリティ・システムが作動したか、消えていた館内の照明が点灯する。

だが、一刀の期待する警備員とか警察とかよりも先に、危険人物の2人組が到着していた。

 

どうやら奇跡なり主人公補正なりは、未だ1つだけは残っていたらしい。

無我夢中かつ自分でも信じがたい身のこなしで手近な展示ケースを盾にした瞬間、そのケースはガラスの破片と成って飛び散り、中に展示されていた卑弥呼の時代(?)らしき銅鏡が真っ2つに成って飛び散った。

そして其の後には、やたらと時代考証も正確な古代ローマ軍団兵が投げていた槍が、ケースの台に突き刺さっていた。

「ほほう、悪運は強いな」

一刀にしてみれば余計なお世話だ。

「何せ、“本物”の聖槍に狙われて生きているとは、な」

そんな事を言いながら一刀が破った窓から資料館に侵入して来る危険人物と百人隊長(?)

せめて逃走中の何処(どこ)かで無くした竹刀の替わりに、とケースに刺さっている槍を抜こうとしたが、その穂先はリサイクル不能に成っていた。

 

ローマ軍団兵が投げていた槍は敵にリサイクルされない様、そういう構造に造られていた。

そんな処まで正確に再現されていた投げ槍が突然、光の粒子と成って消失する。

同時に完全に使用前の状態に復元されて、百人隊長(?)の利き手に戻っていた。

「流石。“聖杯”がらみで槍と言えば“聖槍”。“本物”は違うねぇ」

「マスター…クラスばかりか真名のヒントまでも、みだりに与えるべきでは」

「どうせ、もうすぐ沈黙するさ。永遠にね」

 

冗談じゃねええ!!こんな事で死んでたまるか!

 

事ここに及んで、ここが三国時代(?)の展示物を展示していたコーナーだった事に気付いていた。

同時に憧れていた『三国志演義』の英雄たちが、走馬灯の様に脳内を駆けめぐる。

その瞬間……。

 

2つに割れて床に落ちていた銅鏡が光り輝き始めた。

鏡の性質としての反射では、明らかに無い。

鏡自体が何の作用かは知らないが発光しているのだ。

「何?!まさか、こちらだったのか?ここに在る“うつわ”と言うのは?!」

何故か初めて慌(あわ)てる危険人物。

一刀だって脳内CPUは過負荷状態だ。

 

そして銅鏡の発する白光が爆発した。その後に……。

 

「貴方が私“たち”の「ご主人様」ですか?」

一刀の正面には新しいコスプレ(?)が登場していた。

それこそ『演義』か『なんとか無双』のコスプレの様な姿をした美少女。

桃色の髪を桃割れにしてニッコリと微笑(ほほえ)んでいる。

その容姿と言い、とある部分が福々しい体型と言い、そして優しげで素直そうな雰囲気まで、まるで「美少女ゲーム」の正統ヒロインの様。

背中には剣こそ負ってはいたが、それを抜いて戦う事など似合いそうも無い。

 

その「似合いそうも無い」まで思い付くと同時に、一刀は警告を叫んでいた。

「君だけでも早く逃げろ!!危険だ」

美少女は自分の後ろを振り向く。

手元に復元された槍を突きの構えに構え、逆の手には機動隊の盾の様な大きさと形の盾を闘牛士のマントの様に構えた百人隊長。

その影に隠れる様にしている「マスター」とか呼ばれていた危険人物。

 

「やっぱり…英霊なんかに成っちゃうと、呼ばれるのは戦うためなんですね」

瞬間だけ悲しそうな様子を見せると、次の瞬間には決断の表情を作って背中の剣を抜いた。

「危ない」

一刀程度の剣士が見ても戦いが似合いそうも無い。

それに抜いた剣も戦闘用と言うよりは、むしろ“宝剣”と呼ぶのが似合いそうだ。

だが彼女は其の宝剣を天に向けると何かの、いや『三国志』ファンの一刀には“読み慣れた”筈の言霊(ことだま)を放っていた。

 

「我ら誓う」

我ら三人、姓は違えども姉妹の契りを結びしからは、

心を同じくして助け合い、困窮する者たちを救わん。

上は国家に報い、下は民を安んずることを誓う。

同年、同月、同日に生まれる事を得ずとも、

願わくば同年、同月、同日に死せん事を。

天よ地よ!まこと見定められよ、この心を。

もしも義に背き恩を忘れるならば、天も人も殺したまえ!

 

その瞬間、まるで「龍が天に昇る」かの様な稲妻が宝剣から放たれた。

そして次の瞬間には彼女の左右に新たに登場していた。

黒髪をひるがえし、青龍偃(えん)月の大刀を頼もしく構えた美丈夫。

片や小柄ながらも力一杯、1丈8尺の蛇矛を振りかざしている。

繰り返しに成るが一刀程度の剣士が見ても分かる。それ程の強者だ。

 

「ばかな…英霊が英霊を召喚する宝具だと…それにさっきの言霊…まさかこいつらは…」

「マスター、彼女たちの真名に心当たりが」

「在る、と言えば在る。だが当たりだったら、お前だけの2対1で勝てる相手じゃ無い」

先程までの余裕は、どこかへ消失していた。

「ここは戦術的転進だ」

言い終わるか、いないか内に2人組は姿を消していた………。

 

……。

 

…どうやら一刀は命拾いしたらしかった。

 

「君たちは誰なんだ?

いや、そもそも何が起こっているのか知っているのか?

あいつらは何者なんだ?」

疑問だらけなのは当然だろう。

そんな一刀に少しの間だけ困惑していたが、今度は背中の宝剣を鞘(さや)ごと目の前に捧げる様に持つと半ばだけ抜いて新しい言霊を唱えた。

 

「教えて、伏竜鳳雛」

 

また新たに召還された2人組が「はわあわ」噛みながらも説明してくれた。

『聖杯戦争』

ようやっと一刀は、自分が何に巻き込まれていたかを理解出来た。

 

そして北郷一刀は選択する。“聖杯”に何を願うかを。




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